ホーム>岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和29年3月号 > 津山地区を高度集約酪農地域に指定 |
岡山県の津山地区が29年度の高度集約酪農地区に指定されるかどうか注目されていたが,農林省では去る1月22日,29年度の新規指定地区として,申請9地区のうちから岡山をはじめ,北海道,青森,静岡の4地区を内定した。
この指定で岡山県下には29年度,30年度の2年間にそれぞれジャージー種300頭,計600頭が国から貸与されるばかりでなく,これに附随して,牧野改良にたいする国庫補助,サイロ建設,集乳製酪施設にたいする融資などの助成が重点的に行われるわけであるが,ジャージー種乳牛の貸与による導入を呼び水にして,将来は6,000頭以上の乳牛の一大密集地域が作北の1市5郡に実現する。
集約酪農地区の農家は80%までが乳牛を飼育することになり,1戸3頭以上をけい養することになるが,1頭当の採草地は8反で300頭の貸与には240町以上の採草地が必要である。この度のジャージー種は,豪州,ニュージーランド,米国から8月頃1,800頭輸入され,その内300頭が岡山県に入るわけである。1頭当の価格は豪州産,ニュージーランド産,米国産でそれぞれ異るが大体平均14−15万円位で,1頭当の個人負担は4万円位である。初年度には種雄牛として2頭が県内へ配置される予定である。
この度指定された津山地区は北部と南部とに分け,北部をジャージー地区,南部をホルスタイン地区として,去る2月中旬次の様な計画を立て農林省に提出した。
中国酪農講習所寄宿舎の全景
本地区は岡山県の最北部に位し,津山市を含む1市5郡の地域であり,北部に中国山脈の背梁を控え,南部地区亦中部の山地であり,津山市を中心とした姫新線,因美線及津山線の沿線に平坦地がある他,北部蒜山地区及び東部日本原地区等は天恵的な高原地帯を形成し,気候は,年間降水量は北部蒜山地区は1,900oであるが,津山市附近は1,400o前後であり,年間気温は蒜山地区で最低0.6度,最高24.0度,平均12度,津山市附近で最低2.2度,最高27度,平均13度であり稍寒冷であるが,山林原野に富み,草生よく天与の草資源は古くより畜産業の発展に寄与して来たのである。
地区内の地質は中央以北は大部分花崗岩地帯であり,真庭南部,久米郡西部は秩父古生層,津山市東部は第三紀層であり蒜山地区は大部分火山岩層である。
本地区の面積は79,343町歩であって,内訳は山林36,628町歩,耕地32,463町歩,草地7,863町歩,その他2,387町歩であり,耕地の割合に山林,草地が多く,将来開墾及び牧野改良を実施し得る処が多いわけである。
本地区に於ける乳牛導入の歴史は古く,明治初年既に和牛改良の手段としてホルスタイン種を導入したことがあり,その後津山市に後藤秋平市を中心に乳牛の導入熱が起り,県の奨励施策に応じて乳用牛の改良繁殖が盛んに行われたが間もなく日露戦争後の経済界の不振に依り乳牛界も大打撃を蒙ったのである。殊に生乳加工の途が無く乳牛は主として都市の市乳用に限られていたので消費量も少なく自然淘汰され,所謂市乳専業者の形で点々に残存したのである。今時戦時中農業会が組織されたがその事業資金に余裕を生じたので将来性のある事業に投資することになり,作州地区の乳牛の将来性に着目して遂に昭和23年津山市に製酪工場を建設し乳牛の導入に努めたが,県農業会の解体後は,津山市外5郡の地区に北部酪農業協同組合が組織されて農業会の事業を継承し,乳牛の導入を図ると共に市乳及乳製品の販売等経営に努力した結果乳牛の頭数は年々増加し28年2月1日現在の統計によると,1,200頭に達し集乳量も30石を突破するに至った。
津山酪農工場
終戦後酪農事業の重要性が朝野を挙げて鼓吹せられ県も乳幼児,病弱者の食糧関係から保護奨励を加えたので本地区の酪農は急速に発展して来た。本地区は終戦後に本格的活動を開始した地区であり,従来は和牛の生産と育成を主体として来たが,地勢的条件から来る農業経営の不利を酪農を取り入れることにより解消することを目標として来たのである。即ち,この地方は各種の立地条件により特別取り上げるべき副業もなく,従って山と畜産に依存する部面が大きく特に最近山の資源の欠乏と共に新らたな現金収入を獲得する新産業の導入に対して検討が加えられた結果,豊富な草資源を活用した酪農に対する関心が高まり,農協組織による工場経営と相俟ってその将来性が期待されるに至ったのである。従って従来の和牛飼育地帯も交通の便よく,集乳に便利な地区は漸次乳牛に切り換える者が多くなりつつある現状である。更に注目すべきことは日本原を中心とした開拓地の酪農があって都市近郊の開拓地の一つの行き方を示すものとしてその将来が期待されている。
更に考慮を要する点は真庭郡北部の蒜山原一体を区域とする地帯であって,まだ乳牛の導入はないが将来出雲大山特定地域総合開発と関連し酪農に依る農村振興が強く要請せられているので今般のジャージー種を導入することによりその発展が期待されている。
本地区の乳牛の分布は以上の如き経営形態と立地条件によりその分布範囲も限定されているが,都市別,分布状況は次の通りである。
津山 140 真庭 120
苫田 180 勝田 390
英田 80 久米 200
計 1,200頭
以上の表より見れば現在の分布は姫新線,因美線,津山線を中心にした一部交通の便のよい地区に多く,作州地区としては比較的平坦部の耕地の多い地区に多い様であり,将来はこの地区の密度を高めると共に採草地の多い地区に向って発展する見込である。
現在飼育されている種類は大部分ホルスタイン種系であるが,血統登録牛も次第に増加しつつある。
(昭和28年2月1日現在調査)
工 場 名 | 1日の処理能力 | 28年度における実績 | 乳用牛 頭 数 |
搾乳牛 頭 数 |
飼 育 地 帯 | |||||
練粉乳 | バター | 市 乳 乳飲料 其の他 |
計 | 1 日 最 高 集乳量 |
1 日 平 均 集乳量 |
1ヶ年間 集 乳 量 |
||||
石 | 石 | 石 | 石 | 石 | 石 | |||||
北部酪農 | 50 | 30 | 20 | 100 | 30 | 22.9 | 8,365 | 1,050 | 480 | 作州地区一帯 |
東洋乳業 | 20 | 5 | 5 | 30 | 5 | 2.9 | 1,050 | 90 | 57 | 津山市の一部,久 米郡三保村の一部 |
市乳処理所 | ― | ― | 12ヶ所 | 20 | 3 | 2.8 | 1,040 | 60 | 55 | |
計 | 70 | 35 | 45 | 150 | 38 | 28.6 | 10,455 | 1,200 | 592 |
備考 1 原料乳は工場に集乳し,乳製品原料として使用されるが,一部は市乳として直接消費されている。
2 県外へ市乳として生乳のまま移出される先は大阪府である。
農村経済の自立計画を樹立するに当り副業となるべきものなく特用作物,果樹等に於ても適作なく,米麦作と山林資源と畜産に対する依存度が高いのであるが,最近これ等の問題に対して真剣に検討が加えられ農村振興の根本施策として酪農が取り上げられ名実共に明るい農村を現出することに努力が向けられている。更に加えて作州地区全体の酪農の現況を再検討する時幾多の欠陥を発見するものである。その主なるものは次の様な点である。
一.導入乳牛が広範囲に分散しているので集乳路線が9本,延長280qに及び最長距離は工場より35qの地点にあるので1升当集乳費は3円50銭についている。
二.酪農技術が幼稚であり,飼養管理から来る欠陥が多い。
三.立地的に見ても必ずしも全てが適地に導入されていない。
四.所謂酪農としての立場のみを固執し完全に農業経営に溶け込んで居らず専業搾乳業者の経営様式をそのまま取り入れておるものが多く自給飼料の計画生産がなく濃厚飼料に依存しすぎたため経営が飼料価格に大きく左右されている。
五.乳牛の導入,その他施設に対する資金対策が行われなかった。
六.農家の認識不足のために家畜商により絶えず牛が移動させられていた。
従ってこれらの欠陥を是正し,適地に密度を高め,技術の改善と資料の自給度を高めることにより生産費と集乳費の軽減を図り安価なる牛乳を大量に生産し,安価なる乳製品を供給して国民の健康保持に寄与する方針である。
前述の如く乳用牛の導入されている地区は主として鉄道沿線の交通便利な所であるが,津山市の北部,苫田郡の北部及び蒜山地区は他の産業にも恵まれず,集乳関係その他より,今日迄乳用牛の導入も行われていなかったが,岡山大学を始め各種の機関を動員して美作地区の農業経営の再検討を行った結果,ジャージー種の導入により,酪農経営も可能であるとの結論に到達したので,津山地区を南北に二分して北部をジャージー地区とし,南部をホルスタイン地区として集約化を図ることになり本計画を樹立した次第である。
この振興計画は昭和29年度を第一年度とし,昭和33年に至る5ヶ年間を計画の年限とし,その実現を図るものとする。
この計画に基く集約酪農地域の建設対象となる地区は,自然的経済的並に立地条件等を考慮して,下の如くジャージー地区と,ホルスタイン地区の2つに分けて乳用牛を導入して酪農の振興を図るものとする。
(イ)ジャージー地区の範囲
津山市の北部から蒜山地区に至る津山市,苫田郡,真庭郡の1市11ヶ町村程度を3月末頃までに農林省と協議の上,決定する。
(ロ)ホルスタイン地区の範囲(1市60ヶ町村程度)
津山市,真庭郡,苫田郡,勝田郡,英田郡,久米郡
(イ)地区に酪農を振興する主なる理由
本地区の大部分は所謂積雪寒冷単作地帯であり,裏作の利用が出来ないばかりでなく,特用作物として取り上げるものが殆んど無い。従って米麦が主体であり,米作と山林収入と畜産収入以外には見るべきものが無いので,経営を合理化し,現金収入の増加を図り,山林との結合を考えるときには,酪農以外の適当な産業は無く,又県が岡山大学農学部に依頼して行った経営調査に於ても,結論として酪農経営が最適であるとの結論に到達したので,全面的に酪農計画を樹立した次第である。特に本地区は山林原野多く,草資源に恵まれ,将来これを改良することにより牛乳の生産費を著しく切り下げることが可能であり,将来乳業界に不況時代が出現しても相当これに耐え得る可能性があり,又地区農民の民情よろしく所謂投機的機運が少なく,永続性が考えられ,特に工場の経営並びに一般的指導部面を協同組合の力で行っているので,酪農資本に左右されることが少なく,加えるに阪神地区への市乳原料としての販売も可能であり,各種の条件が有利に考えられるので特にこの地区を選定したわけである。
(ロ)畜産以外の農林業との関連
本地区の主なる農産物は米,麦であるが,大部は単作地帯であり,裏作には可成紫雲英の作付が行われている。
果樹は一部青リンゴの栽培と,宅地利用の柿がある他,特に記すべきものは認められない。穀果樹では栗の植栽が行われたが,クリタマバチのため殆んど絶滅に近い被害を受け,産業としての地位は失われている。
特用作物として一部にミツマタ,コウゾ,コンニャク,煙草,茶等があるが,部分的な作付であって,地方の産業を大きく左右する程の産額は無い。
その他の主要産業は林業であるが,優良なる山林は中国山脈の背梁地帯でありむしろ和牛の生産地帯に属し,鉄道沿線地帯の山林はすでに殆んど伐採されて見るべきものなく,酪農との関連性はむしろ牧野としての結合が強くなって来ている状態である。
従って本地区の将来を考えるとき,これ等の農林業と酪農とを立体的に結合させ,肥料面,労力面等より考え,適地の産業はこれを助長する必要があるが,鉄道沿線を中心とした平坦地,及びこれに続く丘陵地帯は農業と林業とを結合させその間に酪農をとり入れて綜合的生産力を増大させることが本地区の発展を助長するものであり,将来の山間部農業の在り方を示すものであるとも考えられるので,特に本地区を選定して酪農を奨励するゆえんである。
(ハ)乳牛以外の家畜との関連性
本地区は古来より和牛の生産育成地帯として知られているところであるが,和牛の持つ経済的価値と,生産性は低く,更に加えて商人の仲介による利潤の減少とは自然農家経済にも影響し,立地条件の適地に和牛地帯を形成し,集団的飼育の形がとられて来ているが,平坦部に於ては和牛そのものに再検討が加えられ,特に乳牛の役利用が可能となるに至り,和牛に対する依頼度が著しく低下し,乳用牛に転換する機運が濃厚である。然し乍ら,数百年に亘り培養された和牛の地盤は決して一日にして変化するものではなく,依然として和牛地区は和牛地区であるが,そこに判然と一線を画して適地には乳用牛を導入することが本県北部地帯の産業を開発し,農村を豊かにする途であると考えられるので,本地区に対して特に乳用牛を導入するものである。然し和牛の適地はあくまで和牛地区としてこれを助長することに変りはないのであって,特に和牛適地として認定された処は一応本計画より除外したのである。尚地区内に存在する和牛も勿論乳用種と対立するものでは無く,両者互に比較検討して,その長所を助長し相俟って農業経営を豊かにすることが望ましいのである。
更に中小家畜に於ては,飼料経済とにらみ合せ,これを織りまぜた農業経営が最も有利であることは論を俟たないので将来とも乳用牛と併せて奨励を行う方針であって,従来の単独の経営よりむしろ有利な経営に移行出来るものと確信しているものである。従って中小家畜に関しては乳用牛の導入に当っても何等摩擦を生ずる恐れは無いと思われる。
本地区内で主として酪農によって名実共に明るい農村が現出し得る適地を選定し,酪農振興上必要なる各般の施策を重点的に施行し,本地区産業の振興に資すると共に,県民の福祉の増進に寄与することを根本方針とする。その要領としては
一.本地区内の乳牛増殖目標を6,300頭として内1,800頭をジャージー地区にし,4,500頭をホルスタイン地区に収容する。農家一戸当りの目標は1.1頭とし,産乳量を年66,880石(日量183石)に増産する。
二.導入町村を再検討し現在の集乳路線を中心に乳牛の密度を高める。
三.蒜山地帯に分工場を設置し,この地帯の開発に努める。
四.酪農技術の向上を図るため岡山県立中国酪農講習所を活用し指導者の養成に努める。
五.牛乳及び生産物の利用を増進せしめる方途を講ずる。
六.酪農経営の合理化を図るため地区内生産飼料の増産に努める。
七.高度集約牧野を中心として牧野の改良と草地の草生改良を実施し,粗飼料の自給度を高める。
八.乳牛の保健衛生の向上に関する施設の充実を図る。
九.営農形態を改善し,裏作可能地帯は極力紫雲英その他の飼料作物を栽培して飼料の自給化を図ると共に,畑作の合理的利用を考え,更に養蚕との結合を考え,桑葉の活用と併せて蚕糞,蚕沙の飼料化に努め,宅地を利用して殻果植物の植栽を行い,真の立体農業を行う。
(イ)乳牛増殖計画(其の一)
年 次 | 第1年度 | 第2年度 | 第3年度 | 第4年度 | 第5年度 |
区 分 | |||||
増殖頭数 | 2,150 | 3,220 | 4,280 | 5,220 | 6,300 |
繁殖可能牝牛頭数 | 1,500 | 2,260 | 3,000 | 3,650 | 4,410 |
生 産 頭 数(牝) | 570 | 855 | 1,140 | 1,390 | 1,670 |
斃死廃用頭数 | 95 | 140 | 190 | 230 | 280 |
移入頭数 | 610 | 650 | 100 | 50 | ― |
移出頭数 | 15 | 5 | 110 | 130 | 390 |
搾乳牛頭数 | 1,200 | 1,800 | 2,400 | 2,920 | 3,520 |
石 | 石 | 石 | 石 | 石 | |
1頭当り年間搾乳量 | 17 | 17.5 | 18 | 18 | 19 |
1日牛乳生産量 | 56 | 86 | 118 | 144 | 183 |
年間牛乳生産量 | 20,400 | 31,500 | 43,200 | 52,560 | 66,880 |
備考 一.生産頭数の内3割は自己保有としその他は融資導入の対象又は政府の再貸付数とする。
二.移入頭数は政府の貸付(29及び30年度)及び融資導入である。
(ロ)乳牛増殖計画(其の二)
郡 市 別 | 現在頭数 | 第1年度 | 第2年度 | 第3年度 | 第4年度 | 第5年度 |
津山市 | 140 | 230 | 310 | 360 | 400 | 460 |
真庭郡 | 210 | 420 | 690 | 910 | 1,145 | 1,560 |
苫田郡 | 180 | 395 | 690 | 930 | 1,255 | 1,500 |
勝田郡 | 390 | 580 | 850 | 1,200 | 1,400 | 1,600 |
英田郡 | 80 | 125 | 210 | 280 | 320 | 380 |
久米郡 | 200 | 400 | 500 | 600 | 700 | 800 |
計 | 1,200 | 2,150 | 3,220 | 4,280 | 5,220 | 6,300 |
第1年度 300頭,第2年度 665頭,第3年度 965頭,第4年度 1,325頭,第5年度 1,800頭
郡 市 別 | 現在頭数 | 第1年度 | 第2年度 | 第3年度 | 第4年度 | 第5年度 |
津山市 | 140 | 180 | 210 | 240 | 250 | 280 |
真庭郡 | 210 | 300 | 385 | 420 | 475 | 540 |
苫田郡 | 180 | 265 | 400 | 580 | 750 | 900 |
勝田郡 | 390 | 580 | 850 | 1,200 | 1,400 | 1,600 |
英田郡 | 80 | 125 | 210 | 280 | 320 | 380 |
久米郡 | 200 | 400 | 500 | 600 | 700 | 800 |
計 | 1,200 | 1,850 | 2,555 | 3,320 | 3,895 | 4,500 |
地区内の雄牛の改良を図るため優良なる種牡牛を導入し中国酪農講習所と中福田家畜保健衛生所に繋養しその精液を広範囲に配布して改良増殖を図る。
種雄牛及び人工授精計画としては,津山市の中国酪農講習所へ,ホルスタイン4頭,ジャージー2頭を,八束村の中福田家畜保健衛生所にジャージー1頭,計7頭をそれぞれけい養し,1市5郡の各家畜保健衛生所において,第1年度1,500頭,第2年度2,260頭,第3年度3,000頭,第4年度3,650頭,第5年度4,410頭の雌牛に対して人工授精を実施する。
生産率向上を図るため酪農講習所を中心として酪農地帯の家畜保健衛生所を高度に活用して人工授精の徹底的普及を図り,受胎率80%以上に向上させる。
尚家畜衛生保健所をして繁殖障害の除去に重点を指向させて,之が検診治療を実施させると共に,飼養失宜に基く繁殖障害の面をも是正させる他人工授精に関する知識の普及をも行はしめる。
乳牛の登録事業(雑種登録を含む)の普及徹底を図り,優良系統の保持利用に資する。
乳牛共進会を開催して酪農家をして優劣に対する批判力,個体に対する鑑識眼を向上せしめて選択淘汰に依る優良牛の造成に努めさせる。
雑種を含む優良種牡牛の能力検定を実施し,格付を行うと共に優良牛の保留に努める。
乳牛の増殖に伴い生産飼料の主体を占める濃厚飼料の需要量は相当増加するが,これの確保については県の酪農振興計画並びに畜産増殖計画等各般の増殖計画とにらみ合せて検討し不足量については次の措置を講ずる。
(1)自家生産飼料の増加利用を積極的に行わしめる。
(2)優良なる粗飼料の増産を図って濃厚飼料の節減に努める。
(3)水田裏作を高度に活用し飼料用穀類の増産に努める。
(4)畑作の改善により飼料用作物,雑穀の増産に努める。
(5)糟糠類の増産を図り,県内自給に活用する。
生産費の軽減を図るため,特に粗飼料の増産並びに品質の向上を図ることを目的とし,就中飼料作物の作付面積の増加,畦畔,堤塘,道路その他草地の草生改良,荒廃せる牧野1,584町歩の改良,サイロ5,100基の増設によるエンシレージの増産を行う。
必要なる地区に集乳所を設置し,集乳に便ならしめる。
(1)牛乳及乳製品の消費宣伝を積極的に行うと共にミルクプラント,ミルクホール等を設置し,市乳の消費を行う。
(2)学校給食を援助し,全乳又は脱脂粉乳を給与すると共に学校を通じて家庭の消費を促進する。
(3)必要に応じて大都市にミルクホール等を設置し積極的に消費を促進させる。
(4)牛乳を単に生乳として利用するのみならず,加工して利用させるために婦人会,4Hクラブ等利用して簡易加工,菓子料理等の講習会を行わせる。
第1年度 20,400石
第2年度 31,500石
第3年度 43,200石
第4年度 52,560石
第5年度 66,880石
ジャージー種は第1年度300頭,第2年度365頭,第3年度295頭,第4年度365頭,第5年度475頭,計1,800頭を導入し,ホルスタイン地区は5年間に2,443頭を導入し,合計32,229万円を必要とする。
ジャージー地区に17ヵ所,ホルスタイン地区に28ヵ所,計45ヵ所を270万円で設置する。
2,550戸の畜舎改造2,550万円,堆肥舎3,150棟,11,025万円で設置する。
5,100基を630万円で設置する。
津山工場拡充のため9,220万円,ジャージー地区の分工場設置費2,205万円,計11,425万円を必要とする。
牧野1,584町歩を7,603万円で改良する。
以上について融資38,172万円,国費2,534万円,県費2,624万円,町村費2,534万円,農協負担6,025万円,個人負担19,518万円,その他の借入3,225万円,合計71,732万円の資金を必要とする。
一.地区内の12ヶ所の家畜保健衛生所並びに中国酪農講習所を中心として乳牛の健康検査を特に強化し,生産率の向上,伝染病の予防等に依り,各種の障害防止の徹底を期する。
二.飼養管理技術の改善を行い,飼養失宜による各種の障害防止を行う。
三.畜舎並びに厩肥舎の改造を行い,保健衛生の向上に努める。
四.増殖計画の実施に伴い,毎年無畜家の有畜化が期待されるので,これらの経験の浅い酪農家に対して特に家畜衛生に関する積極的な指導を行う。
五.最近の繁殖障害牛の増加に鑑み,各種の対策を樹立し防除に努める。
この事業計画を円滑に,然も強力に推進するためには独り畜産のみの力を以って行う事は困難であり,又,農業,林業,土木,開拓,観光,総合開発等多方面に関連を持ち,これ等の連絡調査を図ると共に,綜合能力を終結し,適切な計画と細密な技術指導を行うことが必要であるので,左記の事項に関して所要の措置を講ずるものとする。
一.連絡会議の設置
庁内関係部課長をもって組織する連絡会議を設置し,事業の連絡調整を図ると共に,指導の円滑化を促進する。
二.技術指導連絡会の設置
牧野改良,飼料作物の栽培及び乳牛の飼養管理,生理,衛生等に関しては,農業,林業,畜産,衛生等に関する科学技術を動員することが肝要であるから農地経済部長の下に関係部課,試験場,種畜場,講習所等の技術員連絡会議を設置して指導の徹底を図る。尚必要に応じて専門部会を設置する。
三.技術指導並びに試験研究の強化促進
(イ)技術指導の強化
(1)中国酪農講習所の活用
中国酪農講習所の内部充実を図り酪農経営並びに乳牛飼育,乳製品加工,その他に関する技術指導施設を充実せしめ,主として中心指導者の養成を行うと共に,随時講習,講話会,研究会等を開催して一般酪農関係者の知識の向上に努める。
(2)農業改良普及員及び畜産技術員等の酪農に関する再教育を実施し,指導の徹底を期する。
(3)主として青壮年,4Hクラブ等を中心として酪農グループ活動を興し,酪農技術の普及に努める。
(4)家畜保健衛生所の職員の充実を行う。
(5)人工授精師の養成と再教育の実施
(ロ)試験研究の強化
(1)蒜山地区に中国酪農講習所の分場を設置し,特にジャージー種の飼養管理及牧野改良,飼料作物の栽培等の研究を行う。
(2)林業試験場,農業試験場,蚕業試験場等地区内の各種試験場に於て酪農に関連した各種の試験研究を実施する。
(3)農業改良普及所を活用し,飼料作物の栽培並びに採種に関する調査,試験の実施
四.津山畜集約酪農建設推進協議会の設置
本地区に於ける集約酪農を強力に推進するために関係の市町村長,農業協同組合長,農業委員会長等をもって推進協議会を設立する。
集約酪農地区の建設が捗り,乳用種牝牛が6,300頭に達すると,牛乳の生産は年間約66,880石となり,牝犢の生産は1,670頭,厩肥の生産は1,890万貫及びその粗収入は4億8,943万円と推定される。この厩肥を施肥することにより火山灰土壌並花崗岩地帯の痩薄な耕地の地力を向上することは顕著なるものがあると考えられ,農産物の収量増加も期待ができる。したがってこの計画達成の暁にはこの恵まれない積雪及び急傾斜地帯の農業経営の改善,農業生産力の増強は勿論のこと,生活文化改善等により模範的集約酪農地域として充分に目的を達成されるものと思考せられる。
経済効果
項 目 | 数 量 | 単 価 (千円) | 金 額 (千円) |
乳牛雌仔牛 | 1,670頭 | 50 | 83,500 |
〃 雄仔牛 | 1,670頭 | 3 | 5,010 |
牛乳 | 66,880石 | 5 | 334,400 |
厩肥 | 18,900,000貫 | 1,000貫当 3.52 |
66,528 |
合計 | 489,438 |