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青刈玉蜀黍について

岡山種畜場 三秋技師

 そろそろ春夏作の作付準備にとりかかる頃となった。貴重な耕地に飼料作物を付けることは従来からの稲麦等主要食糧作物を作付するのと同等或は,ある意味ではそれ以上に重要であり前後作の関連を考えて上手な輪作方式を持ちうることは勿論,作付する一作物についても品種とか播種期とか播種量等すべてが生産収量に影響するものであるから慎重に考えて行わなければならない。
 本稿では此の様な点から色々の試験成績を用いて青刈玉蜀黍の栽培における基礎的な問題を取り上げることにした。
 不幸なことに,引用した試験成績は当種畜場でなされたものでなく従って利用価値が幾分減少するであろうことを断っておく。

1.品種

 風媒花であるため多種多様な品種系統があり又人為的に能力の高い一代雑種が作出されている。
 飼料用としての種類品種は次のとおりである。

一.フリントコーン(硬粒種)

 イ.阿蘇種 早生,草丈245p
 ロ.甲州種 晩生,草丈235p
 ハ.ロングフェロー 極早生草丈240p

二.デントコーン(馬歯種)

 イ.黄色種 早熟,草丈324p
 ロ.白色種 晩熟,草丈355p

三.雑種玉蜀黍

 長野県農試の桔梗が原試験地で一代雑種の組合せ例を発表している。
 イ.長交161号
  香川在来とライズアーリーエローの交配で中生で草丈323p
 ロ.長交202号
  ウイスコンシン690号と愛媛玉蜀黍1号の交配で中生草丈293p
 何れも黄色デントコーン系と白色デントコーン系の交配である。
 ハ.二重雑種の作成
  一代雑種同志の交配である。
 これらの品種を成熟の早晩によって分類すると
  早生……黄色デントコーン,阿蘇種,ロングフェロー
  中生……長交系,二重交雑
  晩生……白色デントコーン
の如くで各品種の発芽後50日目の生育状態を表示すると第1表のとおりである。
 又第2表も品種の比較を示す。

(第1表) 青刈玉蜀黍の発芽後50日目の各部の生育状態(高井氏)

  播種期 5月23日

区 別 草 丈 茎 重 葉 重 葉 数 茎重比 葉重比 反当生
草収量
品 種
p s
ホワイトデントコーン 135.4 133.5 78.9 8.5 62.87 37.15 3,644
長 交 202 号 131.9 79.7 58.4 8.2 57.69 42.31 2,628
長 交 161 号 139.7 111.5 67 8.7 62.49 37.55 3,238
エローデントコーン 157.8 146 85.3 8.9 62.84 37.17 4,228
ロングフェロー 146.7 110.7 69.8 8.6 61.28 38.78 3,728
ウィスコンシン12号 134.8 117.6 76 9.1 60.66 39.36 3,420

(第2表) 青刈玉蜀黍の品種比較

 (鶴田氏 牧草と飼料作物から)

区 別 平 均 草 丈
(p)
反 当 収 量
(kg)
備     考
品 種
ホワイトデントコーン 333.4 10,683 播種期5月14日
収穫期8月21日
エローデントコーン 295.3 9,015  
アソ在来種 313.3 9,945  

2.播種期

 播種期の決定は降霜と密接な関連がありこれとにらみ合わせて決定すべきである。
 本県南部地帯の播種期の巾は3月下旬から8月一杯である。播種期の点については何れ機会を得て調査したいと思っている。
 播種期と収量の関係を第3表及び第4表に掲示する。
 これによると播種期が遅れるほど収量と収量適期までの生育日数が減少するけれど1日当りの平均生長量は7月下旬までに播種したものは特に増減の傾向がみられない。
 なお播種期の遅延によりもたらされる収量の減少は播種量を増加することによってある程度相殺されるものである。

(第3表) 青刈玉蜀黍の播種期と収量の関係(畜試年報昭和22年度)

播種月日 出穂期前後の
最多収刈取月日
同 期 の
平均草丈
同期の反当
生草収量
生育日数 反当旧平均
生 長 量
備    考
  月 日   月 日 p s   日 s  
4 25 7 25 242 6,138 91 67.45 阿蘇在来種
5 5 7 25 221 5,890 81 72.71 反当播種量8s(約6升)
5 15 7 25 221 5,778 71 81.38  
5 24 8 5 214 5,165 73 70.75  
6 5 8 5 206 4,210 61 69.01  
6 14 8 15 234 3,577 52 68.79  
6 25 8 25 198 4,284 61 70.23  
7 5 9 4 204 3,695 60 61.58  
7 15 9 24 160 2,170 61 35.59  

(第4表) 青刈玉蜀黍の播種期と収量との関係

  広島県農業試験場
  (飼肥料作物試験成績集録農林省畜産局,昭和28年6月)

播  種  期 収  穫  期 収    量 摘        要
  月 日   月 日  
4 5 6 5 450 エローデントコーン
4 20 6 25 550 普通に栽培せる圃場から5畝宛刈取る
5 5 7 19 590  
5 20 8 1 590  
6 5 8 10 590  
6 20 8 15 575  
7 5 9 9 550  
7 20 9 20 152 (発芽不良)
8 5 9 30 320  
8 20 10 10 213  

3.播種量

 この決定については,利用目的(青刈用,サイロ用)により異なり,又播種期,生育日数の如何によりその量を増減すべきである。ここに播種量と収量,及び生育日数と採食率との関係を示すと第5表のとおりである。
 此の表によると生育日数の増加が採食率を低下せしめ逆に生育日数を短かくすると採食率は向上するが収量は減少することがうかがえる。此の関係を調節する方法として播種量の問題がある。
 一般に播種量の増加は収量の増加となるが経済的播種量は反当8升位であろうと神崎氏はのべている。
 播種量を種々に変えた場合も生育日数の増加につれ収量は増加するが生育日数75日目になると採食率は低下する。この採食率の低下は薄播にした場合特に著しくなるがフリントコーンの場合この傾向があるにしてもデントコーンの場合ほど著しくない。

(第5表) 青刈玉蜀黍の播種量と収量及び生育日数と採食率との関係(神崎氏)

収穫期 生育 反当6升播 反当8升播 反当1斗播 摘   要
日数
(日)
収 量
(kg)
採食率
(%)
収 量
(kg)
採食率
(%)
収 量
(kg)
採食率
(%)
デントコーン
ホワイト
6 29 45 20,550 100 25,740 100 29,250 100 播種期 5月15日
畦 巾 3尺
1区面積 3坪
7 14 60 48,600 95.7 57,300 98 59,250 99.2
7 29 75 63,250 85.7 64,150 88.1 67,200 89.9
コーンフリント 6 29 45 21,000 100 24,600 100 25,750 100
7 14 60 54,450 99.6 57,450 100 58,640 100
7 29 75 55,810 88.1 58,200 90.6 61,800 92.2

 早播で十分生育させる場合には反当4−5升,晩播或は早刈の際は7−8升に増量しなければならない。
 なお飼料圃が少ない場合に一斗程度の厚播とすれば収量早く上り採食率の低下も少なく従って給与可能期間を長く保つことができる。
 播種量に関する試験を今一つ引用すれば第6表のとおりで播種量の多いほど茎葉収量が増加しているが一株の占有面積が狭いため発育不充分で倒伏の徴候がみとめられたと報じている。

(第6表) 青刈玉蜀黍播種量試験

  愛知県種畜場 昭和16年

播  種  量
(升)
反 当 収 量
(s)
摘          要
5  3,780 播種期 4月19日
収 穫 雄花の開花始め地上5寸を残して刈取る
6 4,218
7    4,061(鳥害)
8 4,522
9 4,792

4.肥料

 肥料の効能が顕著である。
 基肥として堆厩肥,燐酸質肥料を施用し追肥として下肥,畜尿等窒素質肥料を分施する。
 施肥料は色々とあるがその2,3を記載する。
 1.厩肥400貫 過石8貫 硫安4貫
 2.厩肥300貫 過石6貫 硫安3貫 加里1貫
 青刈用として利用する場合,茎葉の十分な生育繁茂を得るためには特に窒素質肥料の施用が必要である。
 次に硫安の施用量及びその分施回数に関する試験を第7表に掲げる。

(第7表) サイレージ用玉蜀黍の栽培における硫安の施用量及びその分施回数に関する試験

  中国四国農試資料第3号 昭和27年7月

施用法 全 量
基肥区
(反当)
追 肥
1回区
(反当)
追 肥
2回区
(反当)
追 肥
3回区
(反当)
摘              要
硫安全量(反当)
s s s s 品種 阿蘇在来種,反当 6升
5月20日播種,8月13日収穫各区とも硫安の他に炭酸石灰100s,
過石30s,硫加10s(何れも反当で基肥とす)追肥は,第1回区は
播種後1ヶ月,第2回区は播種後20日・40日,第3回区は播種後15日
・30日・45日
施用量は,等量
  15s 5,340 5,190
45 5,375 5,550 5,787 6,459
60 5,325 5,555 6,915 7,077
100 6,540 7,143

 これによると硫安の用量よりも分施回数の方が影響が大きいがこれは速効性の窒素質肥料は多量に基肥として施用するよりも分施する方が窒素の損失流亡を防いで有効に利用されることに原因するわけである。
 即ち硫安の全量を基肥に用いた場合は各区の収量の間に大差がみとめられないが同一量については分施回数の多い程多収を示している。
 結局肥料価格を考慮すれば硫安45−60sを3−4回に分施するのが最も経済的であると報じている。

5.刈取時間

 刈取時期の決定に際しては茎葉生草量の多収のみを考えることなく含有栄養分収量を同時に考慮に入れなければならない。
 第8表は刈取期の試験であるがこれによるとホワイトデントコーン,エローフリントコーン何れの品種にあっても青草収量は出穂期頃に最大に達し爾後漸次減少する。
 一方含有栄養分については粗蛋白質の収得量は成育と共に漸増の傾向を示しているが粗繊維は出穂期をすぎると多くなるからおそくとも雄花(絹糸)出抽出期頃までに利用するようにした方がよい。
 別に刈取期の相違による収量の関係を第9表に参考までに表示する。
 サイレージ用としての刈取期については,糊熟期頃(子実をツブしてみて内容物が糊状のとき)が適期であり,この頃は収量も多く子実を含めての養分総量が多く而も含水量が75%前後でサイレージとして最も適している。

(第8表) 青刈玉蜀黍の刈取試験(畜試年報bT)

刈取期 青草反
当収量
養   分   反   当   収   得   量 摘  要
水 分 粗蛋白 粗脂肪 粗繊維 可溶無
窒素物
粗灰分
月 日 s s s s s s s  
ホワイト
デントコーン
7 19 2,178 2,008 25 10 50 63 26 6月4日 播種



8月上旬 出穂  
24 3,440 3,108 40 14 82 162 34
29 4,808 4,411 51 13 143 148 41
8 3 7,114 6,513 63 26 181 263 68
8 7,364 6,470 88 38 270 272 79
13 7,350 5,961 125 59 479 603 122
18 6,896 5,815 82 34 319 585 61
23 6,970 5,647 78 25 391 765 64
28 6,672 5,218 94 30 426 837 66
9 2 6,482 5,351 87 21 408 654 61
フリントコーン 7 19 4,450 4,152 50 19 88 91 48
29 7,714 7,078 82 21 230 237 66
8 8 9,154 8,107 88 31 319 521 88
13 8,180 6,621 124 52 429 852 103

(第9表) 青刈玉蜀黍の刈取期と反当収量(鶴田)

刈取期 出穂前20日 出穂前10日 出 穂 期 満 花 期 終 花 期 乳 熟 期 摘  要
播種期
(  月 日)
4 25 3,577 5,332 6,138 5,685 5,016 阿蘇在来種
5 5 3,236 4,638 5,890 5,921 4,495 4,042
5 15 1,451 3,726 5,778 5,171 4,396 4,377
5 24 2,300 4,985 5,165 4,619 4,538