ホーム>岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和29年3月号 > ジャージー種の特長と特性 「バター牛」の別名 |
ホルスタイン種万能といわれたわが国の乳牛界に新しくジャージー種が登場し,世間の注目を浴びようとしている。これはこのほど農林省から津山地区を高度集約酪農地区として指定され,ジャージー種が29年度に300頭,30年度に300頭,計600頭が導入されることにきまったためである。そこで次にジャージー種の特長と特性について記してみる。
英国海峡諸島のジャージー島が原産地であり,約100年前より改良に着手して品種の固定を行った。今日では英本国,米国,豪州,ニュージーランド等に多数飼養されている。
ジャージー種のオス
体型 一般的体型は明らかに楔形であって乳用牛の特徴をよく表わしている。前駆は稍短く細い。之に反して中躯は長く,後躯は長さ幅共に中等以上である。骨は細く概して痩せ形で外見甚だ愛しい乳牛である。
毛色 毛色は非常に変化が多く一般的には鹿色である濃淡種々あり,最も多いのは淡褐色一様のものである。黄色,赤色,褐色,銀灰色,黒色に近いものもあるが,純鹿毛又は銀灰色のものが特に喜ばれる。舌,尾房,鼻鏡,蹄及び角端は暗黒色であり,口部は灰白色の環で縁取られ所謂糊口を持っている。四肢の内面は淡色を呈し,顔面,肩,臀部及び脚前面は暗黒色彩を呈していますが,その程度は濃淡常に一様ではない。皮膚の地色が深黄色を帯びているものを貴び,此の色の濃い程乳質の濃厚さを示すと言われている。
体高体重 乳牛中では小型種で生れた時の体重はホルスタイン種の37.5sに対してジャージー種は22.5sで約6割である。神津牧場の成績では成牡牛の体高は平均119pで大体和牛の成牡と同じ位である。体重は330s−350sである。
ジャージー種のメス
ホルスタイン種に比べて早熟である。初発情は1年未満で来る。普通は16−18ヶ月位で繁殖に用う。ホルスタイン種に比べて受胎,分娩等は一層確実であって,老年になってもよく繁殖し得られる点で優れている。普通繁殖は12−15才(10−12産)までと言われているが,神津牧場では17才(13産)で尚成績の良いものもある。
泌乳量は1乳期で約2,600s(14石)〜3,600s(20石)で濃厚飼料の給与を考えるとかなりな乳量にはなるようである。
乳期は約10ヶ月ホルスタイン種と殆んど変らない。
脂肪率は40%−50%で平均5.2%である。従ってバター1ポンドの製造に要する乳量は年間7.8s(4升2合)であるが,冬期の脂肪率の高い頃は7s(3升8合)で出来る(ホルスタイン種は7升−7.5升が必要である)。
ホルスタイン種とジャージー種乳の成分の比較
成 分 | 水 分 | 固形分 | 脂 肪 | 蛋白質 | 乳 糖 | 灰 分 | 摘 要 |
ホルスタイン種 | 89.27 | 11.76 | 3.54 | 3.1 | 4.38 | 0.74 | |
ジャージー種 | 85.27 | 14.73 | 5.14 | 3.8 | 5.04 | 0.75 | 脂肪球がホルスタインの1.3倍である。 |
原産地のジャージー島は非常に気候のよい処であるが,本種は非常に適応範囲が広く種々の異った立地条件(緯度,経度高低)によく飼われている。例えば米国の寒い北地,暑い南地,テキサスの低い平原でも,西ロッキー山の高地でも立派に飼育されている。所謂境遇の適応性が大きいと言うことが出来る。粗飼料の利用性が高く,夏期は良質の牧草であれば濃厚飼料を要しない。
牝牛は温和で人に馴れ易く,放牧,合飼何れにも適している。牡は2−3才に達すると性質が悪変すると言われているが,神津牧場の成績では調教と運動が充分であれば扱い難いことはないと言われている。
項 目 | 牛 の 大 き さ | 能 力 | 特 徴 | |||
品 種 | 型 | 体 高 | 体 重 | 乳 期 | 脂 肪 | 牛 乳 |
ホルスタイン種 | 大 型 | 牡 148〜158p | 牡 900〜1,200s | 1乳期 5,000s〜10,000s |
3.2〜3.6% 平均3.38% |
脂肪球比較的小 2.58μ前後 蛋白質3.5%前後 |
牝 130〜140p | 牝 500〜650s | 風味中等で飲用,製造に適す。 | ||||
ジャージー種 | 小 型 | 牡 130〜145p | 牡 450〜500s | 1乳期 2,600s〜4,800s |
4.0〜5.6% 平均5.2% |
脂肪球中等大3.5〜4.0μ 蛋白質4.0%前後 風味佳良特に飲用牛乳として 高級,バター製品に適す |
牝 110〜125p | 牝 300〜350s | |||||
そ の 他 | ||||||
ホルスタイン種 | 体格雄大鋭角的楔形,飼料の摂取量大,従って乳量も多く年間60〜80石の牛も稀ではない。 比較的平地で粗飼料多くむしろ関東,東北,北海道に適す。 |
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ジャージー種 | 痩型,優美,脂肪生産量大であるから乳量はホルスタインに及ばないが能率はよい。 比較的暖かい園芸集約農業地帯に適す。 |
(桝田精一博士 乳牛ポケットブックより)
日本での試験成績が無いので判然とはしないが調教次第で使役出来る見込みである。ホルスタイン種との比較をしてみると前の表の様になる。
ジャージー種は小型乳牛である。その顔は洵に可愛らしいもので,乳牛としての品位を示している。人なつこい牛で馴れれば綱なしで人について運動もし,畑にもついて来るそうである。大きさは大体和牛位を考えればよいが,9ヶ月発情し,4尺未満で分娩しているのを見ると何んだか一寸変な気になって来る。吾が国に集団的に大量輸入されたのは昨年が始めてで,今年は1,800頭入る予定であるが合計しても2,400頭位である。今迄日本に於ける記録は少ないので,昨年入れた県は指導に苦心しているようである。然し米国でも,豪州でもニュージーランドでも乳牛中の大部分がジャージー種であることを考えると,今後の日本の乳牛として深く考えてみたい。