ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和29年7月号 > 去勢牛の短期肥育

去勢牛の短期肥育

 最近和牛去勢牛の肥育について畜産人の間で話題となり,共進会には肉牛の中に去勢牛の部と雌牛の部を分けて設けるべきであると提唱されている。そして和牛生産地においては雄子牛は4−6ヵ月位の時に去勢して,雄子牛の経済効果を高めるべく生産農家の協力が望まれている。
 去勢牛の肉は一般大衆向であって今後前途は有望である。
 肥育経営は従来技術的にむつかしいようであるが一面又容易であるとも言える。技術と体験とこつが分れば案外やさしく成功するものである。学理のみで肥育は出来ないと同様に口先上手の天狗気取りでも禁物である。研究と努力をしてこそ成功すると反省しなければならない。
 肥育経営は利潤を求めなければならないが,只利にのみ走った考えで出発してはほんとうのこつは会得出来ない。好きであると言うことも一つの要素である。


 上道郡財田町四御神の安井義尚君(21才)は昭和27年朝日高校を卒業後龍之口四Hクラブの一員として「去勢牛の短期肥育」について熱心に研究されている若き篤学の青年である。同君が昭和27年12月から28年にかけて実地に体験された,去勢牛の短期肥育の結果は次のとおりである。

目的

 有畜経営の基礎飼料問題を中心に肥育の経済的効果を測定する。

計画の概要

 1年間を3期に分け,1回,1回で肥育を終るようにする。
 第1回 1月から3月までを肥育期間とし3月に販売する。乾草,稲藁を主体に濃厚飼料は小麦を主体にする。3月の肉価及び需要量は冬季に比し,あまり変動がないので早めに肥育を終るようにする。
 第2回 7月から9月までを肥育期間とし10月に販売する。豊富な青草を多給して濃厚飼料の節減を図る。野上げの安い素牛を利用して肉価の比較的高い祭月に販売する。
 第3回 9月から12月までを肥育期間とし,12月から正月前後の最需要期に販売するようにする。飼料としては甘藷と甘藷薯の高度利用を図ると共に,農繁期における使役との関係を調査する。
 以上3回とも素牛としては3−4才の去勢牛を供用し,肉付は6−7合ものを選定する。期間は大体90日とし,8−9合肉を目標とし,素牛及び肉牛の購販売は直接取引とする。
 以下第1回の1月から3月までの肥育結果について示せば次のとおりである。

一.素牛の選定

 素牛は肉牛として大衆性の去勢牛を出来るだけ安価に仕入れることが経済上有利である。このため,27年12月24日和気市場において,4才の去勢牛,体重80貫,肉付6合ものを3万8,000円で購入した。
 参考のためこの肉付の程度の呼び方を示すと次のとおりである。

枝肉歩合 4割5分内外 5割内外 5割−5割5分 5割5分−6割 6割以上 6割5分以上
肉付の呼称 5合 6合 7合 8合 9合 1升

 しかしこの表は何も統計的な基礎によったものがなく大まかな判断によるものである。

二.飼養について

 肥育経営の大部分を支配するものは飼料費であるから如何に有利に飼料を利用するかが重要な点である。そこで基本的な飼料は自給するという目安がなければならない。又それと同時に肥育期間に応じた飼料量や種類,それらの配合割合等を予め計画して始めなくてはならない。
 栄養価に比して価格が割安で,栄養分が多く消化し易い,地方的に手に入りやすい,肉質を良くする飼料に重点をおいて「第1表」のように飼料を給与した。

(第1表)飼料給与量

第 1 期 (30日) 第 2 期 (40日) 第 3 期 (15日) 合 計
(85日)
日  量 総  量 日  量 総  量 日  量 総  量
 
大豆粕 300 9 200 8 200 3 20
屑小麦 200 6 300 12 500 7.5 25.5
米糠 150 4.5 100 4 100 1.5 10
醤油粕 100 3 100 4 100 1.5 8.5
乾草(ワラ) 1,800 54 1,500 60 1,200 1.8 132

 備考 ワラの使用量は50貫で,これはワラスベを除いた部分である。

 肥育期間を85日として,第1期を30日,第2期を40日,第3期を15日にした。第1期は蛋白質分の多い大豆粕を多く与え,又澱粉質も与えた。第2期は肥育期中最も大切な時期なので,飼料の量質共に良い体内に,肉,脂肪共に十分集積するように大豆粕,屑小麦を日量500匁与えた。

三.体重の測定

 体重の増加を調べるため,一定日に調査した処,「第2表」のような結果が出,1日平均376匁増加したことになる。

(第2表)体重の測定表

  1日当平均増加量
(匁)
12 月 24 日 0
   30 日 300
1 月 5 日 330
   15 日 450
   25 日 480
2 月 5 日 490
   15 日 500
   25 日 360
3 月 7 日 350
   17 日 330
   21 日 300
平  均 376

四.経済効果

 支出としては素牛購入費3万8,000円,飼料費7,528円,雑費450円で合計4万5,978円となる。肉牛売却代金として5万5,000円入手したので,差引収入は9,022円となる。
 肥育期間は85日であるので1日当り所得は117.9円となり,所要労力を170時間(1日2時間として)とすると1日当り労働報酬は430円となる。
 肥育期間中に体重が増加したため着肉量に比して肉質は稍おとっていると思われた。売却は肥育完了前であり肉質及び時間の関係で格安であった。