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レプトスピラ病について

 昨年8月小田郡の某氏から牛が悪いという禀告があり,診断した処,次のような病状であり,これの病名診断について家畜衛生試験場中国支場へ依頼していた処,第2報までレプトスピラ病疑似病であったが,去る3月末,レプトスピラ病陽性である旨通知があった。因に本病が本県に確認された最初のものである。
 そこでレプトスピラ病とはどんな病気か記してみる。

一.禀告と診断

@7月25日,日中に畑約7畝を耕起した処,その後疲労激しく,8月7日昼飼時は食欲が振わず。
A8月7日畜連獣医師の診断を受けた。その時の体温40.1度,呼吸45,脈膊90で,尿は血色素を多量に含んだ黒赤色(血色素尿症)であった。
B8月8日は中川家畜保健衛生所の診断によれば体温39.5度,呼吸53,脈膊90で,結膜蒼白,軽度の黄疸色,呼吸困難,食欲全然たく皮温は正常であった。
C8月9日は,前日と症状は大同小異である。赤血球数1t中165万であった。
D8月10日は体温39.1度,呼吸56,脈膊100で,尿中の血色素はなくなっており,反芻,食欲は快復した。
Eこの地方には毎年牛に2−3頭の高熱をだし,食欲減退,血色素尿の患畜が発生し,死亡したり又は快復したりしているが,この例は本年(28年)においては初めてである。

二.家畜のレプトスピラ病の感染と経過の概要

 レプトスピラは原生物スピロヘータ科中の一属レプトスピラ属の微生体で,我が国の野口英世博士の命名にかかる属名である。
 この病原体は主に,かかった動物の尿に排出されて,その中で短い時間生存しその尿が特に水中に混入すると条件が良ければ相当に長時間生存し得るので,これらが径口,径皮等の経路から動物体に迷入する。動物体に侵入してから大体3−5日の間に血中に病原体を証明する時期があり,この時期に動物は体温の上昇を見る。病原体が血中に出てくることにともない,次の時期には血清内に抗体が産生される。この抗体が或る程度以上に増量すると,当然病原体は血中から消失して体内で血中抗体の作用不可能の場所,肝,腎,脳脊髄液内等に逃避し,好適な場所に残存し得たものは,そこで更に増殖する。腎臓細尿管はこの好適な場所に当るので腎臓では相当長時間病原体が細尿管内に証明される。このようになった動物が保菌獣(犬,猫,狐,牛,豚等)である。犬や鼠にこのようなことが多い。病原体が肝臓に逃避し之を侵害すると黄疸が起り,腎臓の侵襲が強く起ると尿毒症等の腎障害が起る。

三.牛の症状及び療法

 牛がこの病気にかかると,血色素尿症となり,更に重症型と軽症型に区別することができる。
 1.重症型 元気喪失,食欲廃絶,呼吸困難等の一般症状以外に黄疸を認める。回復する場合にも発熱が継続し,衰弱,貧血,腎臓炎が長く残る。
 2.軽症型 一般症状は重症型のものに比して弱く,乳牛では乳汁に血液を混ぜている。尿は常に暗褐色で血色素が混入する。貧血あり。
 3.療法 ペニシリンが有効である。