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岡山種畜場講座

乳牛の飼い方(二)

今本技師

二.乳牛の選び方

 本県の農業経営の規模は御承知の通り狭小であるから良質の粗飼料並びに濃厚飼料の自給生産は大変困難であり,其の上乳牛は一部農耕にも利用しなければならない。このような経営状態にあるところに取り入れられる実利的乳牛は都市近郊の搾乳専業者のものとおのずから相違があることは言うまでもない。
 然し乳牛の最大の目的は何と言っても乳を経済的に生産することが最大の生命であるので従ってこれに必要な条件即ち飼料の利用性に富むこと,充分経済的能力を発揮せしむるために健康長命なること毎年良い仔牛を生産する繁殖能力が旺盛であること,泌乳能力が大であることが必要である。
 又乳牛は複雑な繁殖上の生理現象と結びついた生産性を利用するのであり尚必ず次の時代を担う優良な仔牛を多数分娩させねばならないから各々の能力を確実に遺伝することを望むわけである。
 ところが一般の現状は一応名門と言われる系統牛と称せられるものでも子孫に必ず優良な仔牛をのこす確信はもてない単なる何々系と言う概念論に過ぎないのではなかろうか。
 厳密に系統牛と言えば遺伝学的に優良な特色のある形質を或る程度純系化されて居りこの血続関係にある個体は同じ特色をもって居なければならない。このような因子の純系化には先ずその前提として好ましい大きさ,能力を系統繁殖により選択淘汰して其の中より改良の基礎となる検定済の純系化された種雄牛をつくることが必要となる。そしてこれによる改良はどこまでも系統としての特色をもって其の地方の乳牛の欠点を改良し特徴のある乳牛系統群を作ることが望ましい。
 ところが其のもととなる登録については一般にこれに対する観念が乏しいように思われ又一方では能力検査が「スポーツ」的感があったり,商略的の場合があり高等登録さえあれば其の仔牛は雑種に劣るようなものでも大手を振って通って居る。
 これでは改良にはならないわけで酪農家は登録制度を理解して雑種に至るまで全牛登録を行い高等登録検定以外でも何かの方法で互に信用のもてる良心的な能力の記録をのこし登録をお互の改良の上に有意義なものにしなければならない。
 と言っても現在の改良は進んで居らないと言うのではない。優良な種雄牛により年々進歩はして居ることは確である,特に能力の低いもの程劣悪因子に対する優良因子は優性であると言う原則から其の効果が大きいわけである。然し優秀なもの程効果があがらない。或は逆に低下する場合さえもある。それは固体の内部にもつ特色が明らかでないため配合が間違って居ったことを証明して居ることになる。
 従ってこの漠然として良いものに悪いものを交配して良いものを期待すると言うやり方は優良雌牛になればなる程加速度的に優秀な種雄牛を必要とすることになると思われる。又かりにその仔牛は良くても,3代目は保証されないわけである。
 この様な方法は折角の優良と言われる高価な種雄牛も系統牛としての利用は一代で終り,又新しく導入の必要を生じて来る。
 又其の子孫を其の地方の酪農に適した泌乳能力,体形等特色のあるものにしようとしても仲々困難である。
 現在の改良の方法としては現在の乳牛の平均能力が低いから累進的に優良種雄牛で広範囲に繁殖して平均乳量の増加を計ることが急務であるとの考え方もあるようであるが,現在の平均能力が外国に比較してそれ程低いとし考えないので合わせて早急に系統的繁殖の方向に進む必要があるのではなかろうか。
 ともあれ将来このような理想に進む前提として先ず酪農家は好ましい特色が遺伝的になるべく明らかなものを選ぶ必要を生ずるわけであるが,幸い遺伝学的に乳量,乳質,乳期等改良上優性の面が多いと言われて居るので乳牛の選定には其の固体の泌乳能力,外貌,等を其の地方の経営に適した,好ましい特色が祖先からの遺伝であるか,又血続関係にもあらわれて居るかを調査し,少しでも好ましい特色を明らかなものを選び改良の基礎を打ち立て其の子孫の能力も良心的に検定を行い折角改良の基礎をくずさぬよう努力する必要がある。
 このような遺伝因子まで探究した選定は実際問題として厄介に思われるが其の反面非常にやり甲斐のある重要なことがらである。
 以上のような考えから乳牛の選定を行う場合結局血統,能力,外貌,とこれの遺伝を含めて総合的に検討しなければならない。次にその各々について述べることにする。(以下次号)