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岡山種畜場講座

飼料作物族はかく語りき(二)

三秋技師

 我々飼料作物族の喜びは,人間の手によって土地を通じて家畜の口に運ばれることである。
 しかしながら,この単純にして明快な我々の一生も人間共の手に托されるとき我々に与えられなければならない土地と労働力を取り巻いて,血族である食糧作物との激しい軋轢が生まれ,我々自身にとって迷惑である以上に人間共は苦慮している。
 概観するに,畜産物の生産費を安くするためには,その生産費を構成する大きな要素としての飼料費の低減,このためには購入する濃厚飼料に対する依存度を個々の経営内部で極力飼料を自給することによって小さくしなければならないという公式を,ごくあっさりとはじき出したがっているけれども,従来から栽培する作物とりわけ食糧作物は更に一層増産しなければならないという公式をいや応なしに使用しなければならないためにこの連立方程式の解明は厄介な結末で人間の苦悩もその極に達している。
 前月から引続き会談する我々の会合の議題も此の点に集中し,とりわけ青刈玉蜀黍,青刈大豆,青刈麦類等のスタッフを擁する青刈作物家の面々は我等が生存権の確保の為にと意気まき,続いて根菜家の親方カブラは蒼白な顔面を些か紅潮し短躯よくテーブルを前について起立し,人間の苦悩捨ておくべからずと両腕を振って力説し次いで持前の冷厳な理性走った姿に立ちかえり難解のこの連立方程式をたくみに解明していった。
 我々はここに人間が代表する動物性智脳によって容易に解け難かった問題をカブラが代表する植物性智脳が解決したという誇りをもって,人間共にその1章をここに捧げたいと思う。
 幸福なるかな苦悩の人,我が種族はあなた自身のものなり。
 カブラ親方は此の難題の解決に先ず3つの糸口を取り出した。即ち
 如何なる土地が我々のために恵与されるか,如何なる方法で我々はその土地と結ばれるか,そこには如何なる我々の同僚が適当しているか。である。
 此の3つの糸口をたよりに個々の農業経営の内部構造を探究するならば,瞬時にして解決すること言うに及ばずである。
 人間共が希求する飼料作物栽培の安定化のためにこの糸口を頼ってみよう。
 「顧照脚下」とは杜陵胖氏のよく口にする処であるがその言を拝借し人間共が命の綱と頼む耕地を眺めてみよう。
 稲という神がかった食糧作物族の一員が我が世の春を謳歌している水田は一先ず見ないことにして我々の最もなやましい畑地の表作を顧照しようではないか。甘藷畑の魅惑は最たるものだ。
 これとの間混作の一例は永田厚作さんが3−4尺巾の畦の一側にソバ他側に大豆を播きその後中央に甘藷苗を挿しソバは1ヵ月後,大豆は1ヵ月半の後に青刈して豚に与え甘藷ツルを夏の間2−3回に亘って全長の5分の1位を随時切りとり更に秋の収穫時には反当500−600貫のツルをサイロに詰めこんでいる。
 それから亦,人間の夏の冷味をそそる水瓜,カロチンの塊り南瓜は畦巾株間の広いのが傷でこれを利用してその株の傍にソバ,次いで大豆,さらに外側に玉蜀黍を播き水瓜,南瓜の成長につれて青刈している。
 この位のヒントで人間同族の永田さんがやっている限り他の人間様も考えられそうなものだ。
 畑地をねらう我々の愛欲は異常なものがある。彼等をなびかす手段も亦我等は豊富に持ち合わせている。次号でゆっくりその秘中の秘を人間各位に伝授したいと思っている。
 処で水田,畑地の裏作はどうだろうか。特にとりあげたいのは水田休閑田だ。休閑にするということは,色々の事情があるからにちがいあるまい。
 労働力の面とか湿地であるとか等々
 しかしながら飼料の自給化を図るためには,とにかく積極的にこれを利用すべきであると我々は思う。従来この裏作にはレンゲが栽培されているがベッチが仲々もてている。同族の悪口は余り言いたくはないがレンゲに比べると収量は多少おちるが水分含量が少く栄養的にはすぐれている。
 これを稲の立毛中に9月末から10月始め落水後2−3日頃播種するが反当り大体6升位播けばよい。燕麦と混播する場合はベッチ3升,燕麦5升位がよかろう。
 稲を刈取って過石を反当6貫位与えると成育がよい。湿地ではアルサイククローバーがよいがこれは後日に譲ることにする。