ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和29年7月号 > 8月の飼養管理と飼料作物の栽培

8月の飼養管理と飼料作物の栽培

乳牛

 8月中の飼養管理はその力の入れ方が正直に9月の気候のかわりめにあらわれてくる。比較的に乳牛の事故が9月に多いのも8月中の疲労の蓄積が気候の変調と朝夕大分涼しくなったと言う心のゆるみから生ずる場合が多いようである。繁殖障害も8月の延長からが非常に多いようであり,又季節的にも流感は牙を磨いてまちうけている。

牛の夕涼

 一日の暑気による疲労も夕涼みで忘れてしまうのは人間ばかりではない。乳牛も夕方風通しのよい涼しい場所に出してやれば明日への活動の原動力となる。

台風季節到来

 今年は台風も早くからくると言われ豪雨が多いそうである。畜舎の貧弱な個所排水の良否等充分に点検しておくこと。
 特に夏期の乳量曲線は乳牛の健康状態の「バロメーター」である。
 毎日の乳量を厳重に記録しておき乳量が増したり減ったりした原因を毎日研究すること。

発情予定日に注意

 夏期は牛体すべての気管が衰弱して微発情となったり予定日が狂ったりしてうっかり見逃してしまうことが多い。発情予定日は目のつきやすい場所に記録しておき家族全員が気をつけておること。うっかり見逃していると知らぬ間に卵巣膿腫のような不妊の原因となる。
分娩後の手当
 夏期の分娩は極度に衰弱して回復がおくれてそのためいろいろの障害を起す。牛は出来るだけ放し飼いにしてやり分娩後は水を牛が欲しがるだけ与えること。牛体は「マッサージ」して血行をよくしてやること。「ビール」1本又は酒2合位を与えれば強壮剤となり効果的である。牛舎は安静にたもち通風をよくし,蚊,蝿の防除,敷藁の清潔等充分に悪い条件を除いてやること。飼料を多く与えて回復を行うことは消化器が衰弱して居るので返って負担が過ぎて結果がよくない。
 「シラミ」の発生しやすい頭,項,頸部の不要の毛は刈取り手入のゆきとどくようにすること。

二等乳の防止

 夏期は乳房の故障が多く,時々搾乳時に最初の乳汁を小さな濾過器を作って濾過して凝固物等異状の早期発見に努めること。
 搾乳前乳房を充分清拭すると同時に必ず下腹部,腿部等搾乳のとき「バケツ」の中に細菌の浸入する範囲を充分に湿し細菌の落下を防ぐこと。
 搾乳場の空気の清潔に工夫をすること敷藁を搾乳前に入れ換えたり塵埃の飛散するものを舎内で扱ったり給与したりしないこと。
 牛体の手入,特に後躯を充分に行い「フケ」や塵埃が少しでも乳汁中に落下するのを防ぐこと,然し搾乳直前に毛櫛を使用することは「フケ」を浮かせて返ってよくない。汚れて居るものは「ブラシ」のみを使用し水洗の出来るものはその方がよい。
 乳房は毛を刈り取り清潔にすること。
 搾乳の最初の2,3握りは細菌が非常に多くこれを必ず搾り棄てないと全体の牛乳を早く腐らせる。

養鶏

 前月に引続いて8月も高温でありますから前月の飼育管理の項を参照され周到な飼育管理を行い卵価高の8月に愛鶏に全能力を発揮させましょう。
 3,4月の盛産期,続いて梅雨の高温多湿,7月の高温期を経て鶏は相当疲労して居るのであります。8月に飼養管理に手落があるとその影響は大きく,産卵は停止するか低減し経済的な損失は甚大であります。
 飼料の面に於て食欲が減退する為に殻類等嗜好性の大なるものを与え,又飼料を摂取量に合して酸敗残餌による胃腸障害を予防する等は大切な事でありますが食塩は特に高温時は必要であります。食塩は食欲増進,消化吸収並びに生理的に必要であり魚粉に含まれて居る塩の量にもよりますが飼料の0.2−0.3%(重量)を給与する事が必要であります。
 特別飼育管理に障害が無くして8月に換羽にかかるものは寡産鶏が多いものでありますから個体検査その他により駄鶏淘汰を思い切って行い産卵率を高めると同時にその余力を若雌の育成に向ける事が大切であります。
 早春の雛は産卵を開始しますが若雌時代の管理は重要でありまして次の様な注意が必要であります。
一.発育に差がある場合は優劣により区分して飼育する事が必要であって発育の劣ったものを別飼により発育を促進させます。
二.密飼は鶏の発育を遅らし又種々疾病の誘因となりますから坪当りの収容羽数を出来るだけ少くして行きます。出来れば放飼して充実しのびのびとした抵抗力の強い体躯を作りましょう。
三.発情状態即ち冠の状態等により飼料の含有動物蛋白質の量を加減し体の充実しない内に産卵しない様に,大体孵化後約5月半,体重400匁以上で産卵さす様にしましょう。
四.食欲はあるが体重が軽く発育が不十分なものは内寄生虫に原因する事が多いから躯虫を実施してない方は是非実施しましょう。

養豚

 暦の上では早くも立秋ですが,8月もなお炎暑の毎日が続いて房内に幽閉されている豚は暑熱のために閉口の状態ですから,前月同様豚舎の通風と冷涼清潔につとめて食欲の増進をはかり,豚の健康維持に専念することが最も肝要です。

1.飼料給与

(イ)盛夏の野草は粗硬となって豚は好食しないので,甘藷蔓や西瓜の屑物などの随時投与につとめましょう。又たえず新鮮な冷水を充分給与することが大切です。
(ロ)多くの繁殖豚は妊娠末期に当りますから,蛋白質飼料として魚粉,脱脂乳,大豆粕,アマニ粕,棉実粕等を増給しなければなりません。

2.管理

(イ)盛夏に於ける豚の管理の要訳は豚舎の冷涼時に通風,清潔につとめると共に,たびたび水浴をほどこしてやることです。
(ロ)水浴他の施設がある場合は随時水浴させ,そして水浴池の水は時々更新することを忘れてはなりません。水浴池のない場合は,豚体に水をかけて洗ってやるとよろしい。
(ハ)今月も蝿,蚊などの吸血昆虫が螺集して豚の安静をさまたげるから,適宜D・D・TまたはB・H・C粉末を散布してやり,これらの発生場にはD・D・T乳剤を散布して害虫の殺滅につとめましょう。

飼料作物

 この月は農事の方も多少暇がみつかり体をやすめて頭をつかう頃かと思います。
 秋冬作としての飼料作物は蕪菁や早播燕麦の9月播種を皮切りに忙しくなります。慎重に作付設計を作り冬期間の備えをしなければなりません。

玉蜀黍の利用

 8月の畑には玉蜀黍が青々と生育していることと思いますが日照りが続き旱害のおそれのある畑では前月で申しましたように灌漑の要があります。
 播種して70日にもなると茎が硬くなり家畜が食いのこし不経済となりますから注意して下さい。この頃余り中耕しますとかえって旱害にかかりやすいものです。
 此の月始めに少し播種量を多くして(8升以上)播きますと10月頃に利用出来ます。

甘藷ヅルの青刈利用

 盛夏期の青草欠乏時に甘藷ヅルを青刈して利用することは有意義なことと思います。生育途中で蔓の一部を刈取るため甘藷そのものの収量は多少低下しますが8月中に1株5−7株残して刈取った場合の藷の収量は刈取しない場合の80−90%程度です。1株5−7本残して刈取るということは実際には出来ませんからその位残すつもりで刈取って下さい。

稗の利用

「こんなことは知ってらぁー」とおっしゃる方がおありと存じますが稲の中で刈り取った稗は立派な肥料になります……老婆心までに……

乾草作り,サイロ詰込は前月に引続いて

 草刈りをしたあとに少しでも畜尿なり金肥を与えてやりますと草立がよいものです。

種子の準備

 前にも一寸ふれましたが秋冬作用の飼料作物種子はこの頃から準備しておかなくてはなりません。ドロナワ式は何事にもあてはまる苦言です。
 特に蕪菁は9月に入ると早速播種する要がありますから反当り5合程度の種子を入手のこと。
 燕麦を9月上旬に播種しますと年内に300−400貫の刈取りが出来青草欠乏時の11月頃にたすかります。播種量は早播では反当り5−6升10月から11月にかけて播く場合は一概に申されませんが3升−4升位用意して下さい。なお燕麦にベッチ類を混ぜ播きしますと蛋白含量の多い青刈が得られますからベッチの種子を反当り2−3升入手して下さい。
 イタリアンライグラスを早播しますと翌年5月末から6月初めにかけて5回位刈取り出来ます。冬期の青刈に好適ですが反当り1斗位用意して下さい。
 草生改良地用の牧草種子として赤クローバー,ラジノクローバー,或はアルサイククローバーの種子を用意して下さい。
 これら牧草の播種期の早晩はその後の生育に大きく影響しますから9月中旬頃に蒔く予定で前もって準備して下さい。必要量は何れも反当り3−5合位です。
 余談になりますがこの改良に肥料も一役買うわけで石灰窒素とか溶性燐肥を準備して下さい。
 最後に今月から愈々乾草作りのシーズンに這入りますからこの機会に野草の持つ重要な意義を改めて御認識し良質な乾草を出来るだけ豊富に調製して頂く意味で野草の飼料的特長を簡単に御説明します。

1.草は蛋白質に富む

 草は風乾物中10%から25%までの蛋白を含んでいる。草から繊維だけを取り出す技術を応用しその中味だけにするとその物質を蛋白質含量は40−50%になる。
 赤クローバーに例を取れば蛋白質含量は乾燥したものの中で約20%あるが茎の部分を入れると15%におちる。
 葉ぱだけなら20%以上になるがこれから繊維を除くとその固形物中に蛋白が40%から50%含まれることになる。
 葉の蛋白質は無繊維物中に換算すると量からいって魚粉や大豆粕に近いものである。だが葉には繊維の量が30%もあり藁などになると40%もある。ともかくどの様な草でも無繊維物中に換算して20%以上の蛋白質があるから草はこの点では米,麦よりも蛋白質の含量において遥かにすぐれている。

(表)草の蛋白質含量表

  水  分 粗 蛋 白 粗 脂 肪 不溶無窒素物 粗 繊 維 粗 灰 分
ヤハズソウ 8.96 18.47 2.18 44.42 18.7 7.27
クサフジ 9.11 16.37 2.3 35.6 30.17 6.45
シナガワハギ 11.39 14.29 1.34 37.74 29.98 5.26

2.草の蛋白質は良質である

 草の蛋白質は穀物や米糠や麩に含まるる蛋白質よりも動物の栄養に対し価値が高い。
 西洋の畜産は日本の様に魚粉をあまり使わないし油粕も多く使わないが草を沢山食べさせて家畜の骨,肉,肝臓を作るものである。
 発育中の牛や豚はことごとくこの草を主な原料にし,之に少量の濃厚飼料を加えて骨格を作っている。日本では藁を食わせ,良い草を作らず価値の少い麩等の蛋白によって幼い家畜を飼うから出来た家畜の能力の低いものになる。

牛乳生産に対する飼料蛋白の価値(ライト氏による)

  春の草 75−80%
  血粉 75−80%
  秋の草 60−65%
  豆類 60−65%
  肉粉 50−55%
  落花生粉 50−55%
  アマニ粕 45−50%

3.草はビタミンに富む

 家畜に特に必要なビタミンはビタミンAであるが,これが欠乏すると色々の繁殖障害というか発情しない病気がおこる。種付しても種が付かないのは一因には精液が病的な場合がある。又折角受胎しても死産,流産がおこる事があるが此の大部分はビタミンAの不足から来ている。
 又仔が胎内にあるときビタミンAが欠乏すると生まれた後の仔が非常に弱いものになる。処で草よりもビタミンAの多い飼料は肝油以外に見付からないのである。

(表)草のビタミン含量

ビタミンA 生草 5,000−30,000単位 草のビタミンAはバターの数倍である
バター 2,000−8,000
人蔘 2,000−20,000
黄色玉蜀黍  200−600
ビタミンB1 生草  200−300ガンマ 草のビタミンB1は胚芽の1/10であるが大豆と同じ位である
米胚芽 3,000−10,000
米糠 1,000−2,000
大豆  200−400
ビタミンB2 生草  100−300ガンマ 草のB2は卵白の半分であるが牛乳より多い
牛の肝臓 1,500−1,700
卵白 450
牛乳 100
ビタミンC 生草 20−200ミリグラム 草のビタミンCは馬鈴薯より多く番茶に近い
番茶 150−250  〃
トマト    15  〃
馬鈴薯    25  〃

 妊畜のビタミンAの必要量をみると体重120貫の牛では普通15万単位である。少くとも10万単位のビタミンAが必要である。
 発育中の動物に対しては5万単位が必要である。
 我々が日常バターを食べるのはカロリーを取る外にビタミンAがバターに多いからでこれが不要であるなら人造バターを食べた方がましである。人造バターではビタミンAがとれない。然し天然バターでも日本製のバターはビタミンAが少い。冬季悪い乾草や藁を与えるとバター中のビタミンAは100g中1,000単位以下となるが夏季良い草を食わしたバターは100g中4,000単位以上になる。なお卵もビタミンAが多い。ビタミンAの少い卵は孵化力がない。

(表)飼料100g中のビタミンA含有量

種  類 単  位
米糠 0
稲ワラ,麦稈類 0
小     麦(実) 20
フスマ 30
大     豆(実) 300
黄色玉蜀黍 600
ダイコン葉 5,000
赤クローバー 5,120
カンショ蔓 5,620
レンゲ 6,000
ル ー サ ン(茎葉) 7,000
野   草(イネ科) 8,000
オーチャード 9,800
青刈大豆 10,000
ヨモギ 10,000
カンショ葉 10,000
野   草(マメ科) 10,000
ハ ギ, ク ズ(葉) 15,000

4.草はカルシウムに富む

 水田地帯で藁を中心として家畜を飼っておるとカルシウムと燐の両方が不足するがこの場合藁の外に草を摂っておればカルシウムの不足は無くなる。

(表)草の無機成分

  荳 科 乾 草 ワ     ラ 大     麦
水分 16 14 14
粗灰分 7.8 4 2.15
加里 2.55 1 0.65
曹達 0.19 0.1 0.07
石灰 2.23 0.31 0.03
苦土 0.76 0.1 0.02
燐酸 1 0.28 0.66
硫酸 0.18 0.18 0.05
硅酸 0.25 1.88 0.49
塩素 0.33 0.15 0.08
燐酸石灰比率 1:2.2 1:1 1:0.05