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編集室より

 ◎詩人ウォーズウォースは「子供は大人の父なり」と言っている。聖書には「幼児の如くならずは天国に入ることを能わず」と書いてある。最近の大人の世界の有様を見ていると子供そこのけの事件が続発している。自分さえ良ければ他人はどうでもと言う心は,特に最近強くなって来たようである。他人の迷惑など気にも掛けないし,第一礼節が無くなって来てしまった。自由競争の時代だから強い者勝ちであると言ってしまったのでは世の中の秩序は無くなるし,社会生活は出来なくなってしまう。国会がそうだから国民もそうあっても良いと言う結論は出ない。国民全体がもっと礼儀を重んじ,社会道徳を身につけて,子供心の様な純心さを持ってほしいものである。

 ◎針小棒大と言うことがある。他人の喧嘩と対岸の火事は大きい程見物人は喜ぶし,他人の事は何事につけても過大に吹聴し易い。泰山鳴動鼠一匹とはこの心理を穿って余りあるものである。一犬虚に吠え万犬実を伝うとか,世人は正しい批判を下すものである。世人を信頼して正しい生活をしたいものである。

 ◎待望の酪農振興法がやっと通過した。峠を越した様な頃になって振興法が通ったが,最初政府の計画した案より大分形が変ったが,曲がりなりにも通ったことは酪農の一歩前進を物語るものであって,何にしても喜ばしいことである。後は運営の如何である。日本人は物を産む迄は熱心にやるが一度出来上ると後は人がやってくれると熱意が低下する。酪農振興法は酪農人のための法律である。酪農人が育て,活用してほしいものである。

 ◎22年度から始めた草生改良事業もこの頃になってやっと眼につくようになって来た。赤クローバーの花の咲いた畦畔を眺めて岡山の畜産が一歩前進したことを感じた。草生改良の仕事は20年,30年,50年の歳月と人間のたゆまない努力がなければ成功するものではない。将来の畜産のために縁の下の力もちの努力をしたいものである。