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〔岡山種畜場講座〕

乳牛の飼い方(三)

岡技師

乳牛の選び方

 酪農経営を有利に導くためには色々な条件がありますが,どんな場合でも能率のよい乳牛を飼うことが一番大切です。
 それではどうすれば能率のよい牛を選ぶことが出来るかと言いますと,系統(血統),能力及び資質,体型の3点をよく考え合わせて判断することです。この3条件は乳牛選択の基本をなすもので,どれが特に大切であると指摘する訳にはゆきません。これ等はよく別々に考えられ易いのですが,実は非常に密接な関連のある一つのものであります。従って遺伝的に特に純粋であれば,その一つだけ判定すれば他の点も推定できるわけでありますが,現今まだそこまでは改良が進んでいない状況です。そこで現在のところはどうしてもこの3点を基礎にして判断する必要があります。
 今までに乳牛を選ぶ際,系統だけに重きを置いたり,資質と体型だとか,能力だけを重く見て判定したために失敗した例は沢山あります。それで,これから乳牛の選択の基本をなす系統,能力及び資質,体型の3点に就て説明し,乳牛選択の指針にしたいと思います。

1.乳牛の系統(血統)

 諺にも「瓜の蔓に茄子はならぬ」と言うことがありますが,これは乳牛を選ぶときにもあてはまります。
 泌乳能力のすぐれた牛からは,その子にまたすぐれた牛が生まれる場合が多いし,脂肪率の高い牛からは,やはり脂肪率の高い乳を生産する仔が多く生れています。従って牛を買入するときには,先ず第一にその牛がどんな系統(血統)の牛であるかと言うことをよく調査しなければなりません。
 現在,ホルスタイン種の基礎になっている系統は大体次の諸系統で,我国に輸入されているものは殆んどこれ等であります。

1.デコール系  2.ピーターチェ系
3.ジョハナ系  4.オームスビー系
5.セジス系   6.ネザーランド系
7.アーギー系  8.コロンダイク系
9.メーエコー系 10.ベッスバーク系
11.インカ系   12.ベッシー系
13.ロメオ系   14.プリリー系
15.ホームステッド系

 ホルスタイン種の牛の名前は,父牛と母牛の名前から幾分づつ字を貰って命名するのが普通になっています。それで牛の名前を聞いただけでも大体系統の見当がつくわけであり,更に血統登録証明書によって一層判然とするわけです。
 例えば岡山種畜場繋養の優秀基礎雌牛スノー・メリー・バター・クイーン号は,名前だけ聞いてバターキング系と言うことがわかるし,更に父母の系統を調べると,この牛はプリリー系とベッシー系及びヘンドリック系の合作であると言うことを知ることが出来ます。
 なお,ホルスタイン系種の場合でも,2−3回は純粋種の血統が入っておりますからどんな雑種でも大体の系統はわかります。
 以上の様に乳牛を選ぶときには,牛の血統を調べてその遺伝による能力を判定し,これを選択のポイントの一つにすることが大切であります。

2.乳牛の能力

 乳牛を飼う目的は乳を得ることですから,何と言っても泌乳量の多い牛を選択しなければならないのですが,それでは泌乳能力はどうして判定したらよいでしょうか。
 これは中々難しい問題ですが,次に掲げる「乳牛能力基準表」に照し合わせて判定しますと大体誤りはないものと思います。
 この表は,農林省畜産試験場で調査した材料を基礎にして,乳量の多少で等級分けをしたものでありますが,然しこれは6才−8才の成牛の能力であるので,成牛を買入しようとする場合にはすぐ利用出来ますが,其の他の年令の牛,例えば初産の2才牛の場合には本表で判定するわけには行きません。即ち一乳期4,000sの乳量の2才牛と,同一乳量の8才牛とをそのまま同一視したのでは牛の本当の能力は判定出来ないわけです。
 この様な場合には,どうしても年令(産次)の違った牛を同じ基準において比べなければなりません。
 そこで,この要求に応じるために長い間調査された多数の実例をもとにして「換算係数」というのが作られています。日本でも農林省畜産試験場でこの係数を計算していますが,ここでは2,586例の調査材料からつくられたゴーエン氏の係数を示します。
 この係数は8才を基準として他の年令の能力を8才に換算するときの割合を示しています。ですから2才で一乳期の乳量が4,000sの乳牛は,8才(成牛)ではどの位の乳量に相当するかと言いますと,次の様な計算です。
 4,000s(2才の1乳期の乳量)×1.480(2才牛の換算係数)=5,920s
 従ってこの推定量を,前の乳牛能力基準表に照し合わせると,この牛は「甲の下」の級に入ることになります。
 このようにして買入しようとする牛は,一般の標準からみて,甲の部に入るか,或は乙又は丙の部に入るか大体見当をつけて見ることが大切であります。
 またそれと同時に,その乳牛の母牛,伯母牛,姉牛,妹牛,祖母牛の能力を調べることが必要です。これ等の血縁関係の牛の能力が判れば判定が一層確実になります。殊に買入しようとする牛が未経産牛或は種牡候補牛の場合には,その能力を知ることが出来ませんから,血縁関係の牛の能力を調べて判定しなければなりません。なお,祖母牛の能力は母方よりも父方の祖母牛の能力を重く見る必要があります。
 こうして,血縁関係に当る乳牛の能力や体型を調査することは,大変面倒なことでありますが,大切なことでありますから,少し許りの日数や費用を惜しまずに,是非調べましょう。

乳牛能力基準表(畜試)

等級区別 1乳期(10ヵ月)の乳量 1 日 最 高 乳 量 1 日 平 均 乳 量
9,000s以上
(約49.5石)
40s以上 29.5s以上
7,000s以上
(約38.5石)
36s以上 21s以上
5,000s以上
(約27.5石)
30s以上 16s以上
4,000s以上
(約22石)
26s以上 13s以上
3,000s以上
(約16石)
22s以上 10s以上
2,000s以上
(約11石)
18s以上 7s以上
2,000s未満 18s未満 7s未満
 備 考 1.この年表は成牛(6−8才)の基準表です。
     2.この表は農林省畜産試験場の調査材料を基礎にして作ったものです。
     3.表の石数は牛乳1sを5石5勺として換算したものであります

(表)乳牛能力換算係数表(ゴーエン氏)

年 令 2才 3才 4才 5才 6才 7才 8才 9才 10才 11才 12才
係 数 1,480 1,282 1,166 1,091 1,043 1,014 1,000 1,002 1,018 1,050 1,101