ホーム>岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和29年8月号 > 〔岡山種畜場講座〕飼料作物の話(三) |
この飼料作物の話は前執筆者三秋技師がその恵まれた文才と博学で綴った流麗なしかも一抹の素朴さを含んだ名文「飼料作物族はかく語りき」の後塵を拝するものである。同氏の意志を尊重することと読者の期待に副うべく一人称的にしかもあの文体で書き得るものならば書きたいと思うもののあれは同氏独得の筆致,余人には到底真似の出来ない仕業で生兵法は怪我の元!鵜の真似する鴉水に溺れる!の例えさえもあるから自分の能力に相応しい表わし方で筆を進ませて頂くことにする。と言う訳で今後の話の進め方は系統的組織的な行き方は一応棚上げとして来月中に播種せねばならない主要作物を話題に取り上げそれを当場の栽培調査を基礎とし且つ出来るだけ博く文献を漁って詳細に御伝えする方針で進ませて頂きたいと思うから御了承願いたい。さて本月は秋冬作の根菜類を話題の中心としたい。
秋冬作根菜類としては御承知の通り十字科植物に属する蕪菁と大根であるがその品種は誠に多い。飼料作物として取り上げられる一般的なものは次の通りであるが,何にしろこの作物は環境要素による影響力が割合に大きい作物で実際自分で栽培するには土壌,気象等相当品種を決定せねばならない。
一.瑞典蕪菁(ルタバカ)に属するもの
仙台蕪菁,ウィルヘルム・バーカー,マゼスチック
二.普通蕪菁に属するもの
小岩井蕪菁,村田蕪菁,聖護院蕪菁,紫蕪菁
三.大根
聖護院大根,美濃早生大根,桜島大根,宮重(白首)
瑞典蕪菁は特に冷涼の地方に好適する作物で北欧に於ては最も普遍的に作られるもので我国では北海道で栽培が盛んである。本県に於て考えられるとすれば蒜山原等の高冷地帯に於てのみ他地方では余りその栽培は奨められない。一方普通蕪菁(以下蕪菁と呼ぶ)は全国的に亘って栽培容易でしかも多収,乳牛関係に取っては相当高く評価し得る作物である。
一般に秋冬作の根菜類としての大根は反当生産量の問題即ち耕地生産力の点から考えて取り入れられる種類としては桜島大根のみと考えて差支えないが飼料の補完関係からして煙草の跡作として美濃早生大根も考えられる。が一応普通蕪菁について輪作上その重要性を述べて見たい。飼料作物を集約的に輪作栽培することの重要性,意義は今更記するまでもないことであるが牛乳生産費の低減と言う一面と耕地の生産力の向上と言う一面と常に二つのことを吾々は期待せねばならない。若し経営条件が許せば一般的な耕種作物を包含した輪作栽培まで発展することが望ましい。現在東北,中部,北海道地方に多く見受ける様になった水田の転換栽培は外ならぬこの方式である。
従ってこの輪作栽培で考えねばならないことは
(一)作付する栽培種類は地方の維持増進を図り得る様なものを組合わせること。
(二)単位面積当飼料養分生産量が極めて高くあることと同時に可及的に年を通じて均衡的生産を挙げ得る様に考慮すること。
(三)労力の配分が適当になる様に各作物の組合わせと同時にその品種を決定せねばならないこと。
斯様な種々の条件を考慮すると採用せられる作物は
(イ)深根性で窒素と有機質を多量に残し耕地を肥沃にすると同時にそれ自体に於て多量の飼料成分特に粗蛋白に富む荳科作物
(ロ)浅根性で吸肥性が強く地方を消耗するが単位面積の養分生産量が高く特に栽培の容易である禾本科作物
(ハ)広葉で雑草を抑制し土壌を膨軟にすると共に冬期の給与は泌乳に好影響を及ぼししかも補完的生産上及び生育期間の短い,換言すれば集約化の可能性の高いところの根菜作物
等が当然考えられると同時に出来るだけ生育条件に対する要求を異にし相互にその要求において補合し合う様な組合わせも当然考えねばならないことである。
斯様な観察から見て私は岡山県中南部地帯に於ては秋冬作飼料作物として蕪菁は極めて重要な作物として取上げている。
蕪菁は前述の通り播種期の巾が狭いことと肥培の影響が特に大きいから播種期と肥培管理法如何によって収量は自ら大きな差を示す。特に本県中南部地帯の様な耕地に飼料作物を栽培する場合は耕地の利用度を昂めその生産力を極力増加せねばならないから栽培については特に留意せねばならない。
一.収穫量
(イ)農業技術研究所家畜部(反当収量)
種 類 | 8 月 26 日 播 | 9 月 5 日 播 | ||
地 下 部 | 地 上 部 | 地 下 部 | 地 上 部 | |
s | s | s | s | |
聖護院カブ | 3,977 | 1,915 | 4,214 | 1,623 |
畜試丸カブ | 4,974 | 3,196 | 4,394 | 1,614 |
パーブルトップ・ ホワイトグローブ |
2,921 | 788 | 3,496 | 868 |
(ロ)岡山県農業試験場(昭和27年)
種類名 | 区 分 | 播種月日 | 収穫月日 | 反当収量 | 葉 と 根 の 割 合 | |
葉 部 | 根 部 | |||||
s | % | % | ||||
紫 大 丸 カ ブ |
A | 9.13 | 12.25 | 6,570 | 20.4 | 79.6 |
B | 9.13 | 1.14 | 5,817 | 2.8 | 88.2 | |
C | 9.13 | 1.28 | 4,860 | 9.7 | 90.3 | |
A | 9.25 | 12.25 | 4,440 | 28.4 | 71.6 | |
B | 9.25 | 1.14 | 4,725 | 18.8 | 81.2 | |
C | 9.25 | 1.28 | 4,766 | 19.3 | 80.7 | |
A | 10.4 | 12.25 | 2,088 | 45 | 55 | |
B | 10.4 | 1.14 | 2,768 | 32.4 | 67.6 | |
C | 10.4 | 1.28 | 2,586 | 30.4 | 69.6 | |
畜 試 丸 カ ブ |
A | 9.13 | 12.25 | 5,794 | 42.1 | 57.9 |
B | 9.13 | 1.14 | 6,818 | 32.9 | 67.1 | |
C | 9.13 | 1.28 | 5,846 | 38.8 | 61.2 | |
A | 9.25 | 12.25 | 3,979 | 56.4 | 43.6 | |
B | 9.25 | 1.14 | 4,800 | 50.3 | 49.7 | |
C | 9.25 | 1.28 | 4,433 | 50.6 | 49.4 | |
A | 10.4 | 12.25 | 1,946 | 72.1 | 27.9 | |
B | 10.4 | 1.14 | 2,745 | 62.8 | 37.2 | |
C | 10.4 | 1.28 | 2,374 | 59.1 | 40.9 |
(ハ)岡山県岡山種畜場(昭和28年)
種 類 | 播 種 期 | 収 穫 期 | 反 当 収 量 | ||
葉 部 | 根 部 | 計 | |||
s | s | ||||
小岩井カブ | 9月5日 | 1月18日 | 1,778 | 6,491 | 8,269 |
聖護院カブ | 9月5日 | 1月18日 | 1,688 | 4,796 | 6,484 |
紫大丸カブ | 9月5日 | 1月18日 | 563 | 4,568 | 5,131 |
桜島大根 | 9月5日 | 1月18日 | 2,419 | 4,011 | 6,430 |
以上の諸調査から検討すると本県中南部地帯に於ては反当飼料養分(全栄養分)の最高収量を期待するには畜試丸カブ(小岩井カブは畜試丸カブと同一系統に属することと思われる)と小岩井カブを9月上中旬播種,1月中旬頃収穫することが最も望ましいものと思う。
播種の適期は一応9月上中旬となるが若干早目に蒔く場合は特に「サルハムシ」の被害を相当蒙りやすいから注意せねばならない。播種量は害虫の被害,発芽の事を考え稍厚目に反当約3合5勺から5合程度として発芽後適宜間引きをなし株間を略一尺程度とする。幼苗期における間引の励行と害虫駆除の徹底は栽培上最も重要な作業となる。基肥としては特に根部の発達を必要とするから他の作物に比較してカリが特に必要になってくる。また根部を発達させるには地上の葉茎も相当発達させねばならないから窒素も次に考慮せねばならない。排水良好な砂壌土は最もこの作物の好む所である。反当施肥量は概ね窒素5.6貫,燐酸2.6貫,加里4.4貫程度と考えて頂きたい。
尚畦巾の点であるが飼料作物集約栽培の場合は2尺5寸として11月中下旬燕麦,ザートを間作として播種する。若し1月上中旬に相当まとまった蕪菁の生産量を望む場合は2尺から2尺5寸程度にする。この場合は収穫直後燕麦を単播し播種後腐熱堆肥を以って被覆してやると発芽発育に良好な成績を示す。
次に収穫のことであるが茎葉は耐寒性に乏しい,特に聖護院カブはこの傾向がある。しかし地下部は圃場でも1月中は殆んど凍結しないだけでなく尚若干ながら地下部は肥大増量するから必要な数量だけを2−3日分とりまとめてその都度圃場から収穫してもよい。特に寒気のきびしい所では土寄せをしてやると好結果が得られる。