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巻頭言

初秋2題

惣津律士

 パラチオン製剤の散布に伴う家畜家禽の被害が本年は特に多かった。昨年は散布した面積が少なかった事とその取扱いに意を用いたためか,被害は少なかったように記憶しているが本年は相当広範囲に薬剤が使用せられ,ために散布水田に隣接した鶏舎内の鶏や畦畔の雑草を採食した牛の被害の実例が数多く見受けられた事は甚だ遺憾である。
 かような薬剤の取扱いについては農林省はもとより県の農業改良課に於てかねてから厳重なる指示を行ってはいるものの,それが末端にまで徹底していないきらいがある事は見逃せない。岡山県養鶏連では保証の問題を取り上げているが,私は人畜に相当程度の被害を及ぼす薬剤の措置について農林省当局に於ては更につっこんで研鑚をかさねられ,慎重にして厳然たる態度を取って戴き度い事を念願するものである。畜産課では岡大農学部其他と緊密なる提携の下に研究を進めて居るが,農薬の取扱いが政令及び規則のみでは割り切れない現状を見るとき,そぞろ身心の寒さを覚ゆるものである。
 乳価が全国的に下がり所謂酪農ブームに乗じた景気は夏風と共に去りぬと言った感じである。この現状を見て前途に暗澹たる想いを来す人がないでもないが,私はこの事態は決して悲観すべきでなく,寧ろ健全なる酪農経営の確立に向って関係者に奮起をもたらす絶好のチャンスであるとさえ考えている。
 輝かしい希望をもって出発した酪農─農業経営の革命児とまで嘱望されている酪農は今後の日本に取っては色々の角度から見て絶対に進展せしめねばならないが,時に依り関係者を憂慮せしめるのは,げに施策の不充分と消費の底の浅さであろう。
 東京都下及び栃木県那須地区の酪農青年が当面している酪農の事態を憂慮し,酪農民の自主的体制を整える必要を痛感し「日本酪農青年連盟」の結成のために奮起した事が報道されている。要は酪農生産物の取引の安定化が酪農振興の鍵である。これについては過般の酪農振興法を成立せしめる際に衆議院に於て附滞決議がなされ,強く政府に要望して居るのを見ても明瞭である。
 今こそ政府に於て強力なる措置が講じられる事が必要であるのは申すまでもないが,それにも増して酪農民の自覚と団結の強化が肝要である事を痛感する次第である。