ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和29年9月号 > 岡山種畜場講座 乳牛の飼い方(四)乳牛の選び方

岡山種畜場講座

乳牛の飼い方(四)
乳牛の選び方

岡技師

3.乳牛の資質と体型

 乳牛選択の今一つの重大な要素は,系統,能力の調査の他に資質と体型をよく調べることであります。乳牛の実際の能力は外貌だけで直接判断することは難しいのですが,然し牛の体は牛乳の製造工場でありますから,資質と体型をよく調べること,即ち審査が乳牛選択の一手段として重要なわけであります。
 そして乳牛の資質と体型は,成雌牛(経産雌牛),未経産牛及び種雄牛によってその見方も違うのですが,ここでは成雌牛に就いて説明いたします。

(1)乳牛の資質

 先ず第一に資質のすぐれた牛,即ち乳牛らしい乳牛を選ぶようにしなければなりません。乳牛らしい乳牛と言いますのは,食べた飼料中の栄養分を体の脂肪や肉にしないで,乳の生産の方に持って行く力強い牛と言うことであります。
 これを言葉で完全に言い表わすのは難しいのですが,体が強健で,深さと幅と伸び十分で後躯が発達して体積があり,しかも体の均称(つりあい)がよくとれており,又体積は豊かでありますが牛全体の体は骨ばっており,肩,背,腿,臀などはほっそりとしていて肉牛のように肉がついて円味をおびたものでなく,腰骨も円味を持たず角張っておりますが,それだからと言ってやせ細った感じはなく,しっかりした骨組みと無駄のない筋肉がついていてのびのびした「ゆとり」のある感じがなければなりません。
 又いかにも乳牛らしいおとなしさはあるが,その反面活気があって溌溂とした健康状態である上に,眼がいきいきとしていて顔に品位があり,きりっとしてしかも温和な相をたたえていることが必要であります。
 皮膚,被毛については,皮膚には細いやわらかい毛が密に生えていて艶があって,さわると柔かく「ねっとり」とした感じをうけ,皮膚はつまみ上げると中位の厚さで弾力があり,又耳には粗い毛が少なく,さわると柔かで内側は脂っこい感じがし,なお蹄はなるべく黒色で硬いものがよろしい。
 一般的には乳牛は,盛んな食欲と大量の粗飼料を食べるしるしとして強大な口と大きな腹を持ち,特に乳静脈,乳房,乳頭がよく発達していて,体全体がゆるやかな「くさび型」をしているものが望ましい。

(2)乳牛の体型

A 乳牛の大きさ(体積と体重)

 乳を沢山出すためには,乳をつくる乳房内の乳腺にたくさんの栄養分を送らねばなりません。之れには強大な消化器(胃・腸)と循環(心臓)その他の内臓(肺・肝臓・脾臓・腎臓など)をいれる大きな体積が必要であります。然し必ずしも大きければ大きい程良いというわけではなく,飼養管理がしやすく飼料などの関係も考えなければなりません。
 それではどの位の大きさの牛が良いかということになりますと,これはなかなか難しい問題であります。それだけに色々議論もありますが,体の大きさと乳量の関係について農林省畜産試験場では,ホルスタイン種につき各体重群の体重100s当りの10ヵ月乳量を調査しており,其の成績は別表の通りであります。
 即ちあまり大きい牛も,又あまり小さな牛も共に能率が悪く,中くらいの,体重500−650s,平均600s(133貫−173貫,平均160貫)くらいの乳牛が一番能率がよろしい。

(表)体重100s当りの10ヵ月乳量(畜試)

体  重  群 一産次に於ける
平 均 乳 量
二産次に於ける
平 均 乳 量
三産次に於ける
平 均 乳 量
四産次に於ける
平 均 乳 量
450−499s 986.0s 1,056.2s −   s −   s
500−549 1,009.2 970.1 1,054.1
550−599 918.1 1,058.4 1,086.2 1,044.0
600−649 902.4 969.2 997.0 1,037.1
650−699 858.0 936.1 1,063.2
700−749 803.0 902.4
750−799 637.1

 このことは,本邦の気候風土,土地の面積及び農業経営の規模,之れに牛を管理する日本人の体格などから考えて飼養管理に便利でしかも相当の能力を望むには,ホルスタイン種については中型牛(体高135p,体重600s前後)が最も適しているのではないかと思われます。
 ここで乳牛の大きさ(体積)を体重で示しましたが,これは牛の体積を計るのは容易ではないので一般に牛の体積の大小を体重で表わす習慣になっているからです。
 乳牛の体重は牛をはかる台秤があれば正確にわかりますが,それがない時には目測で判断します。この場合牛を高い所から見ると実際より小さく見えるし,低い所から見ると大きく見えます。また小さな牛舎では大きく見え,大きな建物のそばでは小さく見えますから,目測ではかる時には判断を誤らないように注意しなければなりません。

B 各部の体型(外貌)

 頭 あまり重い感じでなく,顔の輪郭が明瞭で,眼は活気があって丸く多少出目ぎみで,口及び鼻の孔は強く大きいのがよろしい。
 頸 くびは肉牛のように厚くなく,長くて皮膚に縦皺の多いものがよい。
 肩 肩の高さは十字部よりもやや低めで,よく緊っており,肩の傾斜は大体45度位がよろしい。なお肩が緊っていないものや,三枚肩のものはさける方がよい。
 背 背線は強くてまっすぐなのがよく凹んだ背や中高の背は不良です。
 胸 胸は深くて適当な幅があり,肋骨が張っているのが理想的です。
 腹 腹は大きいのがよく競争馬のような巻腹では駄目で,強大な消化器を容れ得るように,大きくて緊りがあり,けん部があまり凹んでいない方がよい。ひばらが大きく凹んでいるのは肋骨の張りがよくない証拠であります。
 腰及び腰角 腰は背や十字部と滑かにつづいているのがよい。腰が背との移行が悪くて接ぎ背になっていたり,或は十字部の前で落ち込んでいるのは骨組みが弱い証拠で,牛が早く弱ることが多いから,此のような牛はさける方がよろしい。
 腿 弱くない程度で内ももには肉がない方がよく,小股の切れ上っていることが特に望ましい。
 泌乳器 泌乳器とは(イ)乳静脈,乳窩(ロ)乳房(ハ)乳頭にわかれます。殊に泌乳器は乳牛の生命で,この良し悪しは泌乳能力に直接非常な影響を及ぼしますから詳細に調べなければなりません。
(イ)乳静脈 乳静脈は,乳房で乳を分泌する役目を果した血液が心臓に帰って行くとき通る管であります。それですから,乳静脈が太いことは乳房に血液が多く送られている証拠であり,最も好ましいことです。
 一般にくねくねと曲っていて長く,腋の下あたりで大きな乳窩に入るものがすぐれた乳牛の記しとされています。ちなみに牛が1合の乳を生産するためには,その400倍の血液即ち約4斗の血液が乳腺細胞間を流れなければならないことを銘記する必要があります。
 乳静脈の太さはお産の回数が多くなるにつれて太くなり,また乳の出ている時と乳の上っている時とで違うから,牛を鑑定するときにはこのことを頭に入れておかなければないません。
 乳窩 乳窩もお産の回数が多くなるにつれて若干大きくなりますが,乳静脈ほどには変化がないので,初産前の若雌牛の泌乳器を判断する一つのポイントになります。
 乳窩は下腹部から胸底部までの間に2個以上10数個あって,大きさも色々で親指が入るぐらいのものから小指も入らない程度のものまでありますが,要するに大きいのが沢山ある程すぐれています。
(ロ)乳房 乳房の審査は容積,乳区の均称,附着,及び質の4点を重点に見ますが,乳房は巨大で容積にとんで広大な観を与え,4つの前後左右の乳区は,その形が均等の大きさに発育して区間は滑かに接合していることを要します。そして乳房の附着は,前乳区は十字部よりおろす垂直線よりも前方に張り出し,後乳区は後方にふっくらとして飛節の上方に張り出して,而も乳房下縁の輪郭線と尻線の関係が平行,水平で,しっかりと体に密着しているものが良ろしい。所謂「垂れぢち」や「きんちゃく乳房」は不要な乳房です。
 乳房の質については,乳房表面の被毛は絹糸のような柔かい短毛が生えており,又静脈が乳房表面に網の目のように表われていて,乳房に触ると丁度羽二重にさわるように甚だ柔かで弾力にとみ伸縮自在で,乳房の内容が柔かい海面のようになっているのが良ろしい。
 そして,乳汁の充満したときは極めて大きく充実し,乳汁を搾り切ったときは小さくしぼむような性質のものが望ましく,このように虚実のある乳房を充盈性があると言って,虚実の差が大きく明確であることは,乳牛の優秀性を察知する上に甚だ重要なポイントであります。
 なお,乳房全体がかたくて弾力性のないものは,俗にいう「肉ぢち」で,乳房の形がいくら大きくても乳量は少ないものです。このような肉質乳房は大きな形をしていて見た目には立派に見えることが多いので注意しなければなりません。
(ハ)乳頭 乳頭の見方については,大きさ,形,配列,方向の4点について精細に調べることが肝要です。
 先ず大きさは,乳のしぼり易い大きさ即ち大体握れる程度の長さがよく,余り短いのは乳がしぼりにくい,また長すぎると傷つきやすい。しかし一般には,短小なものよりは長太な牛の方が能力の優れた個体にともない易いことを知っておく必要があります。
 次ぎに乳頭の形は円筒状のものがよく,漏斗状のものの先き太のもの等は不良乳頭の形態であり,その配列については,本来前後左右の乳頭は水平に等しく位置すべきであって,4箇の乳頭の間隔が広いと共に平面に描く線は長方形のものが望ましい。乳頭の垂下の方向は垂直を以って最良とします。
 副乳頭の有無については,副乳頭を有する牛の方が,これを有しないものよりも多乳性の傾向があると言う説もありますが,これは確然と証明されてはおりません。
 又乳頭に関する問題で,乳のしぼり易い牛としぼりにくい牛がありますが,これは乳頭の括約筋の強弱によるもので,括約筋が非常にゆるい乳頭は何時も乳がもれるし,また乳房になり易いわけです。反対に括約筋がかたすぎるものは乳がしぼりにくくて搾乳に長時間を要し,熟練した者でないと充分しぼり切れない欠点があります。それですから乳牛を選ぶ場合には,乳を出している牛ならば必ず搾って見て,乳頭の具合や乳房の質などを見定める必要があります。搾って見て,乳牛の性質例えば悪い癖などを発見することも屡々あります。
 四肢(肢蹄歩様)乳牛の肢や蹄は役牛や肉牛ほどには重く見なくても良いと言った観念がありますが,これは間違いで,乳牛もやはり体重を支えるためにも全能力を発揮するためにも,しっかりした関節や筋骨とかたい黒い蹄を持っていて,歩き方も確実なことが必要であります。
 体積に富む重大な乳牛は四肢が低い観を呈します。反対に,四肢が高過ぎる牛は体積に乏しいものが多く,四肢が左右接近して踏み方の狭い牛は胸も狭く,中躯も後躯も狭いものです。殊に後肢の踏み方が狭くて飛節の間隔の近いものの或は後肢の形がX状のものは,内褪の間に乳房の占める場所を狭くして圧迫するから不良であります。
 乳牛を歩かせて見る時に,前肢を内側に踏んで歩き或は後肢をX状に運ぶものは歩称不確実なものです。又前肢を外廻しに歩く牛も不良な個体であります。
 以上乳牛の選び方に就いて,系統,能力,及び資質と体型の3要素につき大要をお話したわけであります。