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岡山種畜場講座

農家自家用向き山羊乳の加工(二)

佐藤技師

 前号で,山羊肉と内臓の加工に就て記載しておりますので,引続き,山羊乳の加工法に就て簡単に説明しましょう。尤も山羊乳は飲用又は調理用として大部分利用されており,加工する程の必要も無いかとも考えられますが,一応余剰乳の処理法として,こういう方法も有ると言う観点で記述してみたいと考えます。

一.山羊乳の一般性質

 成分は大体牛乳と大差は有りませんが,季節的に組成分の差が可成り有るのと,灰分中に牛乳の場合よりもカルシウムの含量大で栄養上特に,カルシウムも多く,要求する場合には山羊乳を用いた方が効果的であります。
 其の外,山羊乳と牛乳の異る点を上げて見ますと
 一.特有の臭気がある。
 二.脂肪球が小さいのでクリームの分離が悪いが,飲料とした場合は消化吸収が早い。
 三.カロチン色素が少いので,バターの色が白い。然しヴィタミンAは牛乳に較べて少くない。
 四.山羊乳の蛋白質は牛乳よりも軟性カードを造る性質を持っている。それで山羊乳は脂肪球の細かいのと相俟って消化が良い。
以上のような特性を持っております。

二.山羊乳のバターのつくり方

 普通山羊乳からバターは,造り難いのと,製品が余りうまくない等々の理由で,殆んど造られていないようですが,後述の脱脂乳の利用と関係もありますので,一応簡略に造り方のあらましを記述致します。

(一)クリームの分離

 山羊乳からバターをつくるには,先ずクリームを分離します。クリームの分離にはクリーム分離機を用いるのが普通です。国産の手廻しのもので,1時間5斗位の小さな能力のものがあるので個々の農家では持ち兼ねるかも知れませんが共同で持つなら可能でしょう。
 クリームを分離するには原料乳を40℃に温めて行います。山羊乳は牛乳に較べて分離し難いから,1回分離機にかけて出来た脱脂乳を更に40℃に温めて分離した方がよろしい。牛乳の場合ですと分離機が無ければ,静置法でクリームを浮上させて採取出来ますが,山羊乳の場合はクリームの採取量が少くて損失が大です。分離機が無くてどうしても静置法で行う場合は次のようにして行います。
 山羊乳を洗浄,殺菌,冷却した平たい容器に入れて,冬ならば凍らぬように夏ならば冷涼な処に蓋をして出来るだけ長時間静かに放置します。凡そ夏ならば10−15時間,冬ならば丸1日位放置すればよろしい。成可く浅く(3寸位)表面積を広くすればクリームの収量は多くなります。変質のおそれさえなければ長時間放置してクリームの浮上をはかる方がよろしいが,その間動揺をさせないようにします。上の様にしておきますとクリームが浮上しますから,そのまま別の水を入れた容器に浮かせ二重釜式の方法で加熱します。温度は80℃で加熱は30分を越えないようにします。
 このようにしますとクリームの表面に皺が表われますからクリームもその儘静かにおろして冷水に浸して急冷します。
 この場合も撹拌しない様にします。翌日クリームを掬い取り瓶等に入れて冷い処において時々撹拌します。若しクリームの量が少い時は2,3日分を集めてもよいでしょう。この時はよく撹拌しておき井戸等で冷却します。
 然し前述の通り山羊乳はクリームが分離し難いため静置法では完全に分離せず,実験では20℃で24時間に分離するクリーム層は牛乳12,3に対し山羊乳では僅かに2,3で脱脂乳の方へ脂肪の逃げる量が大きいので分離機で行わないと損失が大きい訳です。

(二)クリームの撹拌

 クリームを撹拌してバターを分離するにはチャーンと言う器械を用います。先ずクリームをチャーンの量の3分の1位入れます。その時のクリームの温度が大切であって,これによってバターの収量やバターになる時間が関係して来ます。
 その温度は夏ならば8℃,冬ならば12℃位に冷却しておきます。撹拌の最初5分間位は瓦斯が発生しますので1−2回瓦斯抜きを行います。チャーンにはその為瓦斯抜きがついています。約30分間位撹拌を行いますと,クリームが透明になって来て遂に粟粒大のバター粒が出来て来ます。このためチャーンには小さな硝子窓がついています。バターが小豆粒大になったならば撹拌を止めてバターミルク(クリーム中からバターを除いた脱脂乳の様なもの)を器に流し出して,バターの方には4−8℃位の清水を加えて洗います。これを2−3回行ってバター中のバターミルクを完全に洗い去ります。バターミルクは殆んど脱脂乳と同様の成分を持っており種々利用方法があります。
 尚チャーンが無ければ広口壜で代用出来ます。クリームを壜の量の3分の1を入れてコルク栓をして振とうします。つくり方は同様ですが,チャーンの場合のような良い製品は出来難い。

(三)練圧及び仕上げ

 水洗の終ったバターは取出して水切りを行い同時に加塩を行います。ウォーカー(練圧器)を用いて行うのが普通であって,この器械は扇型の木製の台の上に矢張り木製の角型の捏棒のついたもので食塩を加えながら練り上げます。食塩の量はバター量の2−3%です。食塩を加えて練り上げると,バター中に食塩が浸透して,反対にバター中の水分が出ます。これもウォーカーの無い場合は傾斜した板の上で篦を用いて塩を加えながら練り上げてもよろしい。
 加塩練上げたバターは予め冷水に浸しておいた型に詰めて型詰めを行います。終れば硫酸紙で包み,出来れば経木の箱とか,カルトン(蝋引厚紙の箱)に入れます。
 山羊乳バターは充分にクリームが採取出来ますと,一ポンド作るのに凡そ7升の山羊乳が必要ですから,1頭平均6−7合の乳量と見れば,10〜11頭分で1ポンドの山羊乳のバターが出来ることになります。

三.山羊脱脂乳の簡易利用法

 クリームを分離して出来る脱脂乳は量においては,クリームの9倍も生ずるので,此を適当に利用する途をはからなければ非常に無駄が出来る結果となります。脱脂乳は其の儘で養豚飼料,育芻飼料等に利用出来ますが,更に酸乳,カゼイン等がこれから造れます。酸乳やカゼインをつくる場合はすべて脱脂乳は新鮮なものを用いることが必要なので,静置法によるものは不適で,どうしても脱脂乳の完全利用には新鮮な山羊乳を成るべく早く分離機にかけて脱脂乳を得てから,それを用いる様にしなければなりません。

(一)酸乳飲料のつくり方

 酸乳飲料とは通常牛乳の脱脂乳でつくり,カルピスとかレッキスとか言う商標で販売されているものと同じ様なものです。ここでは山羊の脱脂乳を以ってつくる場合を述べることと致します。
 先ず利用する原料を上げておきますと

 脱脂山羊乳1sにつき
  白砂糖         1.2s
  乳酸(市販50%のもの) 22g
  香料          約5g

を準備します。砂糖の代りに水飴や人工甘味料で代用してもよろしい。人工甘味料を用いる場合には粘りが出ないため製造後カードが沈澱して透明な部分と白色の沈澱とに分かれますから,これを防ぐ為に,水飴や更にゼラチンを用います。砂糖と人工甘味料と両方を用いてもよろしい。この場合は例えば,サッカリンなら砂糖の400倍,ズルチンならば200倍の効果が有りますから,これによって計算すれば使用量が出ます。この場合も砂糖の割合が多い程沈澱が出来難いものです。水飴は砂糖の1/3の効果が有りますからやはり計算すれば使用量が出ます。尚乳酸類は割合に高価なものですから,(市販の500g入りのもので300円位)乳酸菌(この場合はブルガリヤ菌)を純粋培養して用い,乳酸は酸味の補足程度に用いるとよいのです。乳酸菌培養貯蔵には手数と設備を要するので簡単に入手出来ないようであれば止むを得ませんので,初めから乳酸類で酸味を出します。(乳酸菌の純粋培養したものの販売先,20cc入20−30円位。岡山市北方大和町1536・日本微生物研究協同組合)
 次につくり方を述べますと,先ず新鮮な脱脂乳を80−85℃位で30分間殺菌します。この時砂糖又はゼラチンを加えます。砂糖だけを甘味料として用いるならばゼラチンは用いませんが,砂糖を用いない場合ならば,この時ゼラチン丈を充分に溶解します。
 ゼラチンは固形のままで加えないで予め少量の湯にといてから加えるようにしなければなりません。
 殺菌が済めば冷水で冷却し,10℃以下に冷却したならば強烈に撹拌しながら人口甘味料(4倍位の温水にて溶解しておく)水飴を用いる場合ならば先ずこれらを加えて,次に酸と香料を加えます。この際特に酸を加える場合に強烈に撹拌することが肝心です。(香料にはバナナエッセンス,ヴァニラエッセンス,レモンエッセンス等色々ありますが,数種類加えると一層風味がよい)
 この冷却して強烈に撹拌するのが酸乳飲料をつくる時のこつとも言えましょう。これが不充分ですと目の荒いものが出来たり,甚だしい場合には固形分と液体が分かれたりするのです。酸を加える量は前述しましたが,各人各様好みにより,少量宛拌撹しながら加え時々味をみて最も良い処で止めるようにした方がよいのです。
 普通pHで酸度をはかって大体3.0−4.0で3.3位が一般に好まれる処です。
 若し乳酸菌が入手出来ますならば乳酸醗酵によって,酸味を出した方が風味も良いし,費用も少くて済みます。此の場合脱脂乳を80−85℃で30分殺菌して直ちに35−40℃に冷却して純粋培養をした乳酸菌(ブルガリヤ菌)を加えて一昼夜その温度で放置しておきますと,乳酸醗酵をして適度の酸味が出て来ます。適度の酸味になったならば,それ以上醗酵しないようにするため,80−85℃で加熱殺菌しますが,この時砂糖又はゼラチンを加えては撹拌して充分に溶解しておきます。殺菌が終ったならば冷水を以て充分冷却し10℃以下に致します。砂糖を用いない場合は,この時水飴,人工甘味料及び香料を加え(この時強烈に撹拌する)若し酸味を試験して不足している様ならば乳酸を最後に加えて酸味をおぎないます。
 これで酸乳飲料が出来上るのでありますが,貯蔵するならば壜詰にして80−85℃位で30分間位殺菌して冷却しておけば永く貯蔵出来ます。未完