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岡山種畜場講座

飼料作物講座(四)

渡辺技師

青刈燕麦の話

 昨年配付せられた農業改良局研究部の各府県農業試験場に於ける飼肥料作物栽培試験成績集録を見ても,亦例年中国農業試験場畜産部で発表せられる中四国畜産研究発表会でも,この青刈燕麦についての試験が最も多く実施され,且つ発表せられていることは内地に於ける秋冬作青刈飼料作物としてこの燕麦が高く評価されている一つの証左である。本県に於ても農業試験場並びに当場でこの青刈燕麦について可成り多くの項目について試験を実施しているのは,本県酪農経営の立場から見てこの青刈燕麦を重要視している結果に外ならない。この意味に於て本月の本講座では特に青刈燕麦を取りあげ,出来るだけ詳細に御知らせすることにした。
 燕麦とは御承知の通り小麦,大麦,裸麦等と比較して耐寒性が弱いことが僅かな欠点であるが,西南暖地に賊している本県内では特に問題とすべき程の欠点ではない。この作物は適地が広く且つ酸性に対しても割合に強く畑作でも亦水田裏作にも適した作物であるが,その特徴の主なるものとしては,

(一)単位面積当栄養生産量が多いこと
(二)栽培が容易であり且つ種子の自家生産も亦容易であること。
(三)乳牛の嗜好に適しエンシレージとしても良好な材料となり得ること。
(四)播種適期の巾が可成り広いので輪作栽培に取り入れやすいこと。

 等が挙げ得るが,最も大切なことは単位面積当の栄養生産量が多いことである。私達が青刈飼料作物を栽培する前提としてまず第一にその栄養生産が如何程あるかと言うことで,第二にはその生産費が如何程かかるかと言うことである。次に考慮せねばならないことは前作後作の関係と耕地の利用度等種々の点が挙げられる。事実本県の乳牛の飼養管理の実態を観察すると,勿論1−2の例外はあるが青刈飼料作物の重要性に対する認識が乏しいことを指摘し得る。具体的に述べて見ると自給飼料として麦類(穀実)が相当数量飼料として利用されることは結構な話であるが,冬期における粗飼料は10年1日の如く生理価の極めて乏しい稲藁を主用している。冬期だけならばまだまだ了承し得るとしても夏期生草期に於てもこの稲藁にビール粕,或はビートパルプを併用し青草は僅に申訳的な量だけしかを与えていないことを屡々見受ける。裏作として麦が青々として生育しているが,青刈燕麦は1坪すらも作っていない多くの酪農家を見るたびに,地に着いた酪農の実現は未だ途尚遠しの感がする。今少しこの事実を掘り下げ観測すると,青刈燕麦の如き草を耕地に作ることは祖先に対し申訳もないと言う耕地に対する誤った偏農から出たものとするなれば話の仕方もあるが,濃厚飼料としての麦を高く評価して,不経済な草を作ってまでやる必要はないと言うことからこの事実が生れたとするなれば次表について御研究を願い,この青刈燕麦の乳牛飼料としての反当生産価値が如何に高いかを御認識して頂きたい。

岡山県における麦類の平均反当栄養生産量

種 類 小   麦 大   麦 裸   麦 青刈燕麦
項 目
 
子実収量 53.4 61.3 58 1,000.00
(生草量)
可消化粗蛋白質含有量 4.65 5.39 4.23 14
(8.70%) (8.80%) (7.30%) (1.40%)
澱粉価含有量 39.78 41.62 43.56 101
(74.50%) (67.90%) (75.10%) (10.10%)

 備 考
 (1)麦類の子実収量は第28次農林統計(昭和26年)による,尚1升の重量は小麦356匁,大麦289匁,裸麦372匁として重量換算をした。
 (2)下側括弧内数字は飼料成分含有量を示す。
 (3)青刈燕麦反当生草量は昭和28年当場栽培成績による。
 (4)麦類においては収実量以外に麦稈の生産(小麦166貫,大麦234貫,裸麦184貫の平均反当生産)があるがこれらは敷藁として利用されているので栄養量を算出しない。

 この表で青刈燕麦は麦類に比して反当栄養生産量は可消化粗蛋白質に於て略3倍,澱粉価において略2.5倍を示していることが判ると同時に,冬期に於ける粗飼料の補完関係に於ても亦後作としての水稲栽培も相当時間的に余裕を持ち得る,即ち労力の配分が是正される等の有利な点を忘れてはいけない。

一.種類

 青刈燕麦は出穂期の早晩によって早生種と晩生種に区分される。晩生種は早生種に比較して茎も太く葉面積も広く,従って反当生産量は早生種に比して多い。早生種で代表的なるのは日向早生,兵庫早生であり,後者の代表的なものは前進,バンバークラップ,ビクトリー,福島大型燕麦を挙げ得る。本県においては当場に於て各種類の適性調査並びに収量調査をした結果,栽培を御勧めし得るものは次の種類である。

(一)福島大型燕麦

 これは昭和27年農林省福島種畜牧場から栽培試験を委託されたもので,当場で便宜上福島大型燕麦と名称づけたもので一般的な名称ではない。比較的に耐寒性が強く葉身の幅は他品種に比較して広く厚く,収量に於ても11月下旬播種1回刈で,反当1,000貫以上を期待し得る。

(二)前進

 これは北海道で広く栽培されているもので,当場に於ては毎年引続いて栽培している。
 出穂期は前者に比較して1週間前後早く収量に於ても10%程度少いが,比較的柔軟であることが有利な点であろう。11月上旬播種1回刈で反収1,000貫前後である。

(三)バンバークラップ

 出穂期は福島大型燕麦と略同一であるが茎高稍々低く,株張り強く従って倒伏の恐れが少い様である。
 反当収量は前進と大差はない。

(四)其の他

 各府県農業試験場で各種類の反当収量を調査しているが,11月中下旬播種で反当4,000s以上を期待し得るものは次の通りである。
 (イ)バージニアグレイ
 (ロ)カータースラクスター
 (ハ)ビクトリー
 (ニ)ホワイトターター
 (ホ)ターターリアン

二.播種期と播種量

 播種の適期は裏作の場合(年1回刈)と畑作(年2−3回刈)の場合とにあって異ってくる。1回刈の場合は播種適期の幅が非常に広いことが,この作物の有利な点の1つであって,中南部地帯では11月上旬から12月中旬まで経済的に見て何時でも播種可能であるが,耐寒性及び銹病抵抗性のことを考慮すると遅くとも12月上旬までに播種することが望ましい。
 畑作の場合は前作との関係もあるが当然2−3回刈を実施して欲しい。この場合の播種適期は反当栄養生産量の点から見て相当限定されて本県農業試験場の石橋技師及び当場での試験調査の結果から9月中旬を適期とすべきだと思われる。詳細については本誌7月号の「青刈燕麦の早播2回刈栽培について」によって御研究願いたい。
 次に播種量のことであるが,播種期が遅くなるにつれて若干増加せねばならないし,亦刈取回数によっても,或は寒地暖地にあっても当然異ってくるが,本県の場合では南部地帯を100とすれば中部地帯は10%,北部一般地帯は15%程度増量播種すべきであると思われる。当場では反当6升を基準としている。2回刈以上の場合は年内に比較的多量の生草を必要とする場合には相当多量の種子(反当8−10升)を必要とするが,絶体収量を多量にしたい場合は1回刈の場合と同様反当6升程度でよいと思う。次表は宮崎大学の神崎氏の発表したもので,年4回刈の場合の成績である。

(表)青刈燕麦の播種量と生草収量

刈 取 期 反   当   収   量 (s)
6 升 播 8 升 播 10 升 播 12 升 播
12 月 5 日 134.7 192 336 422.4
2 月 2 日 1,376.10 1,026.00 1,008.00 921.9
3 月 29 日 1,173.90 1,140.90 1,124.10 939.9
5 月 7 日 2,439.90 2,169.90 1,880.10 1,689.90
合   計 5,124.60 4,527.90 4,348.20 3,974.10

三.刈取時期

 青刈燕麦の飼料成分含有量の変化は次表の通り熟期が進むに連れて蛋白質は減少し,粗繊維は増加し硬化して可食分量が減量してくることは,他の作物と同様である。逆に出穂前は柔軟で蛋白質に富み採食分量も多いが,収量は比較的に少い。従って刈取適期は乳牛の採食状態(可及的に残食量がないこと)を考え,しかも反当栄養生産量の最も高い時を適期とすべきである。既往各種の試験調査の結果及び各飼料成分の消化率の変化を併せ考えて見ると,開花から乳熟期の間を以って適期とすべきである。

(表)青刈燕麦の飼料成分の変化

刈 取 期 水  分 灰  分 蛋 白 質 脂  肪 粗 繊 維 炭水化物
 
開花中 8.3 5.3 8.4 1.8 31.6 44.6
乳熟期 9.3 5.7 6.6 2.5 34.3 41.6
軟糊熟期 10 3.7 6.1 2.5 29.7 48
成熟期 8 5.3 5.7 1.9 33.4 45.7

 次に2回刈以上の場合についての刈取適期は刈取後の再生力と言うことが一番大きな問題となってくる。これについては次表と本誌7月号の当場試験成績を御参照願いたい。
 本表では合計収量が非常に少いこと,刈取時期が不明であること,節間伸長期以後の刈取高さが考慮されていないこと,等幾多再検討せねばならないことはあるが,本県南部地帯では9月中旬播種の場合は第1回刈取は11月中旬,刈取高さは7−9種程度とし,第2回刈取は生長点を残して4月中旬に行い,第3回は5月中下旬乳熟期までに刈取ることを御勧めしたい。

四.混播

 青刈燕麦に最も良く調和するものにはコンモンベッチ(一般にザートウィッケンと呼ばれる)である。この荳科作物を混播すると反当栄養生産量は増加し,地力の維持(青刈燕麦は吸肥性が強く跡地の地力減退を考えねばならない)上有利であるだけなく雑草の抑制,跡地の耕起,整地に良い結果が得られるので,1回刈の場合でも,亦2回刈以上の場合でも是非この混播を御勧めしたい。次表は農林省畜産試験場で調査したものであるから,これを御参考に供したい。

(表)青刈燕麦とザートウィッケンの混播に関する試験

刈取の
高 さ
ブラックターター タータリアン ド イ ツ 黒
1番刈 2番刈 3番刈 合計 1番刈 2番刈 3番刈 合計 1番刈 2番刈 3番刈 合計
0.p 142.8 33.9 41.1 217.8 135.3 46.8 67.8 249.9 154.8 4.2 159
5p 114.3 74.7 78.3 267.8 84.3 81.6 50.4 216.3 123.3 27.2 37.2 187.7
15p 109.5 100.5 319.8 319.8 64.5 73.2 111.3 249 145.2 52.5 37.8 235.5

(表)刈取りの高さによる各刈取期の生草量

混   播   量 反   当   生   草   量
ザートウィッケン 青 刈 燕 麦 ザートウィッケン 青 刈 燕 麦 合     計
   
2 1.5 373 274 647
2 2 412 279 691
2 2.5 360 369 729
2 3 420 407 827
2 3.5 463 360 823
2 4 386 420 806

五.むすび

 酪農経営において青刈飼料作物を栽培する場合には耕地の生産力と,労働の生産性を充分検討せねばならない。栄養的に如何に優秀なものであってもその生産費が甚だ高い場合には,尤もこれは主として原料牛乳の販売価格によって相対的に考えねばならないことではあるが,到底栽培することは出来ない。即ち端的に言うと乳牛の飼育は資本構成の高い経営部門であるだけに,これに関連した全ての労力は高い労賃を以って裏付けとせねばならない。
 従って青刈飼料作物の栽培に当っては労働1日当りの純収益がより高いものを求めねばならないことは当然のことであって,この意味において青刈燕麦の栽培は特にザートウィッケンの混播栽培は他の如何なる青刈飼料作物の栽培よりも優秀であることは早くから松岡博士によって指摘されている。擱筆するに当って酪農家諸賢に敢えて次の言葉を提唱したい。
 一枚の燕麦の葉は10粒の麦なり
 貴下の乳牛をより生産的な家畜たらしめる。