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落穂

濁り酒

  暮れゆけば浅間も見えず
     歌かなし佐久の草笛
  千曲川いざよう波の
     岸近き宿にのぼりつ
  濁り酒にごれるのみて
     草枕しばしなぐさむ
 この詩は余りにも有名な,藤村の「千曲川旅情」の一節である。今でこそ一かけらの詩情すらを失った私にも,多感な中学生時代には,月下の湖畔をこの詩を低唱しつつ逍遙し,感傷的な陶酔に耽けたこともある。
 子どもと言っても,私より2−3寸上脊の長男が時折この詩を口ずさんでいるのを聞くと,知らず知らずに「小諸なる古城のほとり」云々と,第一節からたどたどしく胸内で歌っている自分自身を見出して,中年男の現実に凝り固まった,老朽汚染された血液の中にも未だこの詩に感応共鳴する一個の血球が残存していることを知り驚いたことがあった。
 この詩に書かれている濁り酒とは外ならず,愛称ドブと呼ばれているもので,その名称から受ける感じは藤村の詩に関連して何んだか牧歌的な,しかもほんのりした温みすらを覚える。事実しんしんと底冷えのする冬の夜,媒ばんだ納戸の囲炉裏を囲み親しい友人等とこのドブをくみかわしつつ話に花を咲かせた田舎住いを回顧すると,一入このドブに対し断ち切れない愛着と親近感を覚える。
 この濁り酒によく似たものに乳酒と言うものがある。これは蒙古の草原民族によって限りなく親まれているもので,牛乳をアルコール醗酵させた乳製品である。学生時代よく牛乳加工実習としてこれを造り試飲に試飲を重さね,豊頬紅顔(?)を一入鮮にしたものである。
 酪農の現状或はその前途は益々多難を予想される。しかしながら酪農はともあれ日本農業の現段階に於ては最も進歩的な営農型態であることは自他共に許されている。とすれば酪農家は濁り酒ならぬ,この乳酒を食卓におき,粋な盛花で飾った楽しい晩餐後の一刻を,家族と共に嘗月の庭先で民謡を合唱し,スケアーダンスに打ち興じ,そうして明日への希望を胸に夢路を辿り得る詩情豊な,明るい,平和な文化生活を一日も早く実現させる為に,きびしい現実に男々しく立ち向い,徹底的に経営諸条件の合理化に努めねばならない。(8月10日)

人の動き

 8月1日附を以って岡技師を農業改良課に送り,同日附を以って畜産加工係の佐藤技師が当場兼務を解かれて本務となり指導係主任として,愈よ本腰を入れて健闘して頂くことになった。思い起すと一昨年の庁内野球試合では,当場は佐藤技師を中心としてチームを組織し好守,好打,優勝候補の一として自認していた所,第3回戦で農業改良課チーム(自他ともに優勝候補として認められていた。)と対戦することになったが,佐藤技師の身柄は農業改良課の方が本務であった関係から,改良課チームとして出場しなければならない羽目となった。その結果チームの中心を失った当場チームは善戦これ努めたが6対5で惜敗した。今回の異動で佐藤技師は名実共に当場勤務となったから,往年の名チーム(??)再現の可能性が強くなった訳である。更に今回中国農業試験場畜産部より新進気鋭の梶並助手を割愛して頂いたので益々その可能性は強くなった。
 尚最近の当場に於ける人の動きも,今回の異動で一応落着いたから,業務担当の現状を御紹介致し,併わせて各方面に対し御後援の程心から御願いする。

ラジノクローバー

鶏の飼料用に成果
 鶏の飼料としてラジノ・クローバーを作れば年中緑餌がまかなえるというので,最近養鶏界の話題となっているが,岡山県養鶏農協の種鶏場では鶏舎の運動場にラジノ・クローバーをまいて草生改良を行い好成績をあげている。同種鶏場一帯はヨシの生えた干拓地であったが,一昨年県の草生改良指導地に指定され,レッド・クローバー,ラジノクローバーがまきつけられたが,鶏舎内で5部屋に1つの割合で設けられたダブル・ヤード(二重運動場)のラジノ・クローバーは放飼用として珍重され,産卵率,ふ化率の向上に一役買っている。


(写真は同種鶏場の放飼場内に生えたラジノ・クローバー。)