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岡山種畜場講座

飼料作物講座(五)

渡辺技師

甘藷の話

 今更改まって申し上げる必要もないことであるが,今後の酪農経営の在り方から見ても,また将来の養鶏を考えて見ても,まず第一に考慮せねばならないことは,消費者に喜ばれる酪農であり養鶏であらねばならないことである。端的に申上げると国民の生活水準に適応した価格で,これを提供し消費層を拡げ大きくして行くことである。
 その為に牛乳並に鶏卵生産者の立場としては生産費の内で一番大きな部分を占めている飼料費を,可及的に節減して行くことを当面の問題とせねばならない。
 本県に於ては甘藷の栽培は割合に活発であるが,案外これを飼料化していない様に見受けられる。ご承知の通り甘藷は飼料的に見て反当栄養生産量は非常に高く,しかも風害,干害の心配が余りなく収量が安定している。其の上に品種の選定,栽培技術の向上によっては飛躍的な増収を確実に期待ができる作物であるから,本月号は9月号で御連絡している様に甘藷の飼料としての特性,及びその利用方法を御知らせして,今後甘藷の資料化を押し進めて行きたい。

一.甘藷及び甘藷蔓の飼料としての特性

 如何なる飼料でも飼料として利用する場合は,その長所と短所とを充分知悉して頂かねばならない。

(イ)甘藷の長所と短所

長所
 一.消化率の高い炭水化物を多量に含む
 二.蛋白質はその含有量は少いがその栄養価値は割合に高い。
 三.動物の嗜好に適する。
 四.脂肪の生成力が高い。
短所
 一.蛋白質の含有量が少い。
 二.無機物特にカルシュームが欠乏している。
 三.貯蔵・加工に手数を要する。
 四.迅速に処理せねば腐敗の恐がある。

(ロ)甘藷蔓の長所と短所

長所
 一.蛋白質が比較的多く且澱粉価も亦高い。
 二.ヴィタミンAを多量に含み,動物の嗜好に適する。
短所
 一.水分が多くて醗酵生が強いので,生のままでは腐敗し易い。
 二.栄養価値の最も高い葉部が脱落し易い。

二.甘藷及甘藷蔓の飼料成分

(イ)甘藷
品  名 水  分 粗蛋白質 粗 脂 肪 可溶無窒素物 粗 繊 維 粗 灰 分 澱 粉 価
 
生甘藷 67.2 1.4 0.2 28.8 2.5 0.9 26
干甘藷 9.8 4.7 0.8 77.6 4.8 2.3 70
乾燥,床いも 7.8 2.2 1 75.4 4.6 9.1 60
大麦 14.3 12 2.4 63.7 5.9 2.6 70.7
玉蜀黍 12.6 10 4.4 69.7 2 1.3 80.4
(ロ)甘藷蔓
品  名 水  分 粗蛋白質 粗 脂 肪 可溶無窒素物 粗 繊 維 粗 灰 分 澱 粉 価
 
生甘藷蔓 88.5 1.4 0.4 5 3.3 1.4 4.8
干甘藷蔓 12.5 10.6 3.1 38.3 25.2 10.3 30
干葉 13.1 17.6 4.1 41 13.7 10.5 41
干茎 6.2 6.7 4.2 48.2 27.4 4.3 25
埋草,甘藷蔓 86.4 1.6 0.4 5.6 3.4 1.6 5.7
燕麦 12.4 11.6 4 57 12.3 2.7 58.5
野干草 12 8.6 2.8 39 28.4 9.2 26.8

 上の通り甘藷は炭水化物に富むが,蛋白質が少いことが判る。従って蛋白質を補足する意味で米糠を30%添加し,その上に無機物不足を補う為に炭酸石灰を3%添加すると概ね穀物の代用として利用が出来る訳である。
 甘藷蔓はこれを乾燥(事実乾燥の場合は葉は落ち易いから,この成分中蛋白質等は相当減少する)した場合は飼料価値は甚だ高くなるし,且ビタミンAが葉の中に100g中5,000単位も含まれているので,幼動物の発育に大きな効果がある。

三.甘藷及甘藷蔓の利用法

 甘藷と甘藷蔓の特性及び飼料成分から見てこれを飼料化する場合には,次の御注意をして頂きたい。

(イ)甘藷

 甘藷は収穫後速に貯蔵するか加工して頂きたい。実際問題として生芋を貯蔵することは手数を要し,且つ貯蔵中ともすれば腐敗させ易いこと,又飼料としてその都度生芋を取り出すことは煩雑でもあるし,その後の貯蔵にも悪い結果が生ずるから,根菜切断器(ルート・カッター)か磨砕機を利用してサイロに充填することを御勧めしたい。若しサイロの施設のない場合は乾燥する以外に方法はないが,出来れば磨砕器に掛けたものに米糠を30%添加し炭酸石灰3%を加えて混合撹拌して乾燥すると早く乾燥して所謂薯糠飼料として穀類の代用となる。最後に甘藷のサイロ詰込みについて簡単に御知らせしたい。

 一.薯糠エンシレージ

 これは前述の薯糠飼料と同じ割合に生甘藷と米糠と無機物を混合してサイロに充填する訳であるが,草の場合と異なって特に清潔に取扱う必要があるから,踏込みの際は足を奇麗に洗ってサイロに這入る様にして頂きたい。2人で充分特に周囲をよく踏み固める。
 最後に麦糠か麩を一寸厚みに掛けてムシロで覆い,其の上押蓋をして重石を250s程かける。この製品を給与する場合には鶏と仔豚は煮熟してやることを御勧めする。理論的には煮てやっても,生のままでも消化には大差のない結果になっているのが,事実鶏と仔豚の場合は前者の方が遥かに効果のあることを特記しておく。

 二.薯藁エンシレージ

 これは矢張り生芋の過剰水分調節の為に切藁の生芋の0.6%程度混合して作ったエンシレージである。これは牛馬専用と考えて頂きたい。踏込みその他の要領は薯糠エンシレージの場合と同様である。

 三.蒸薯エンシレージ

 このエンシレージは煮熟するか蒸煮した薯をサイロに充填するものである。釜から取上げて直ぐサイロに投入する。熱いから足で踏み込む訳に行かないので「タコツキ」を一寸軽くしたもので上から突き堅める。最後に木ゴテで上部をならして,麩か米糠等で2寸程度覆い50s〜100s程度の軽い重石を平均にかける。サイロの無い方は4斗樽を利用しても結構である。これは鶏や仔豚の育成に最適なもので長期の保存にも耐えるから,一応是非作って頂いてみたいものである。

(ロ)甘藷蔓

 甘藷蔓の乾燥は葉が脱落し易いので御勧め出来ない。これも必ずサイロにつめこむことを御願いしたいのであるが,何にしろ水分が過剰で収穫直に充填すると結果に於て不良な製品が出来るので,刈取後1日間位そのまま放置してからつめ込んで頂きたい。若し時間的な関係から刈取後直に充填する場合は切藁を1割程度混合しつつつめ込んで頂きたい。
 この甘藷蔓と紫雲英のエンシレージは詰込みの際の一寸の不注意で不良な製品となるから2−3人で充分踏み堅め最後にむしろで覆い,土を2寸位かけて其の上に藁を薄く敷き押蓋を乗せて重石は300s程度とすれば,立派な製品が出来上がる。
 サイロの無い方は次の方法で乾燥することが望しい。
 一.三脚乾燥法
 竹又は木で三脚を作り夫に蔓を投掛け厚掛けとして葉の脱落を防ぎ上より藁帽子を覆い日乾と風乾とで乾燥する。
 二.稲架法
 運搬の労力を節減する為に耕地の現場に稲架を利用し季節の通風に沿って造り乾燥を助長させる。
 三.立木利用
 並木や防風林の松の木等を利用して之に蔓を約1尺厚み位に巻きつけ,自然乾燥する。1寸元を止めてグルグル巻きにして最後再び縄等で止める。上部を藁帽子で覆う。

四.甘藷及甘藷蔓の給与量

(イ)甘藷

 別段特に注意する程のことではないが濃厚飼料の配合については1種類でその全量の40%以上を配合することは栄養の綜合的な面から見て避けねばならない。甘藷特に煮熟したものは全ての家畜が非常に好むからと言っても無暗に給与することは慎まねばならない。従って生甘藷の場合は乾燥甘藷に換算して最大限度配合飼料の40%を超えない様にして給与せねばならないが,各動物の消化機能等の特性と,実際の経験から見て次の通りの基準を御勧めしたい。

 一.搾乳牛 30%
 二.成豚  35%
 三.仔豚  20%
 四.産卵鶏 20%

 尚この場合は略等量の米糠を配合することと炭酸石灰を稍多目に給与することを考えねばならない。例えて具体的に説明すると,搾乳牛に対し日量5sの濃厚飼料を給与するとしたならば,生甘藷なれば4.5s,米糠1.5sで他の飼料が2sと言うことになる。若し薯糠エンシレージの場合であれば,これを6sと他の飼料を2s給与することになる。薯藁エンシレージ及蒸薯エンシレージの場合は略生甘藷と同様に考えて差支えがない。

(ロ)甘藷蔓

 牛でも馬でも鼓腸症が多発する時季は春の紫雲英と秋の甘藷蔓の給与期である。即ちこの2つのものは牛馬とも非常に喜んで食べ,しかも草としては蛋白質の含有量が非常に豊であるから,栄養も良好となり,泌乳量も多くなる。
 従って稍々もすれば多給し勝ちになる。所がこの紫雲英,甘藷は蛋白質が多いことと,水分が多過ぎることで,非常に発酵し易く且つ腐敗し易いものであるから,給与に当ってはその鮮度と其の量を考えねばならない。例えば乳牛の場合1日6sを給与することは,多分に鼓腸症を起し易いので,これが6割程度即ち35s程度として,不足分は稲藁4−5s程度を給与することにしたい。

五.総括

 以上甘藷及甘藷蔓について記載したが,紙数の関係上まだまだ御知らせねばならないことが訳山あるが,要するに今後の酪農経営上,特に本県中南部地帯の如く野草地に恵まれない立地にある酪農経営に於ても飼料作物としてこの甘藷は今後益々取り入れねばならない重要作物であることを強調しておきたい。尚養鶏に於ても新潟県を始め各府県でもこの甘藷を養鶏と結びつけて,所謂甘藷養鶏と言う経営上の命題の下で養鶏をぐんぐん伸ばしていることに思いを致すと,本県農村養鶏の伸展にこの甘藷を大きく寄与させることは早きに失することはあるまい。幸い本県農業改良課の甘藷の専門技術員である角谷技師は甘藷の飼料化に対し我々以上に深い関心を持たれている事は望外の幸いであるといわねばならない。