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11月の飼養管理と飼料作物の栽培

乳牛

 11月になると麦播き等で中々忙しいので,乳牛の管理が怠り勝ちとなる,気温が急変して降霜あり末期になれば県北部では相当に寒気が増して来るので畜舎の防寒,換気,牛体の手入れ,日光浴,運動等冬篭りに対処して事前の準備を必要とする。青草は全く枯れて冬飼料の自給態勢に入る訳であるが周到なる自給計画を樹立し万全を期したいものである。

一.飼料

 飼料特に粗飼料はエンシレージ,甘藷甘藷蔓,蕪菁等を与える頃であるがエンシレージは一般に妊娠しているものや,幼いものには与え過ぎないようにする。又これだけ単味で与えないで乾草,根菜類と混与する必要がある。其の体重に対する給与割合は次の通りである。
 一.乾草(1%)+エンシレージ(4%)
 二.乾草(1%)+エンシレージ(2%)+蕪菁(3%)又は甘藷(0.8%)或は乾草(1%)+エンシレージ(3%)+蕪菁(1.5%)又は甘藷(0.4%)
 甘藷は乾燥したものは蛋白質含量が13−16%となり,米糠,麩に近くなるこれを飼料として利用するには生の儘又はサイレージ或いは乾燥して貯蔵しておいて必要な時利用すれば良いが,特に生の儘で貯蔵した場合黒斑病で腐敗することがある,斯様なものを食わせることにより猛烈な中毒症状を惹き起し斃死する場合が屡々見受けられるので腐敗甘藷は絶対に給与せぬこと,又この様なものは煮熟しても毒素は消失しない。
 一般に甘藷は煮てやることにより澱粉質が糊状となり消化吸収が良くなるので煮て与えた方が良いが煮た汁の中にも栄養分が残っているから汁も全部給与するように心がけること。甘藷蔓の生は多く与えると障害を起し易いから初めは少なく徐々に多く与えるようにする。最高1日に40s程度とし,それ以上与えてはいけない。生のものは消化管内で発酵し易く鼓張症を起す場合があるので過給してはいけない。
 蕪菁は品種が多いが一般に水分が多く家畜が好み乳牛の冬の多汁質飼料として与えれば泌乳量を増加するが脂肪率は或程度低下させる。多量に給与すると下痢を起すので補助飼料として与えるべきで前述の如く乾草,エンシレージと混給する必要がある。
 斯様な根菜類は其の侭給与すると食道梗塞を起す場合があるから必ず裁断して食い易いようにして与えること。

二.管理

(1)日光浴

 日光浴を充分に行うことは体中にビタミンDを作り乳牛の化骨を図り骨軟症の予防となる,特に仔牛においては充分に励行する必要がある。

(2)運動

 野外に運動場を設けしょうよう運動を行うのが良い。運動も速歩,駆歩等の急激なる運動は激して効なきものであるから乳牛の意に委せしょうようさせる必要がある。

(3)手入

 乳牛は清潔なることが必須条件であるから牛体の手入,殊に後躯の手入を充分に行うことと手入をすることにより皮膚の機能を良くし皮膚病の予防乃至牛体に抵抗力を付与する,血液の循環を良くし栄養を増進し又人畜の親和を図るので努めて毎日励行することが必要である。

(4)畜舎

 畜舎内の気温の整一,換気,通風清潔等は乳牛の健康上特に重要なことであるから充分注意する要があり,又防寒については特に賊風の侵入をなくすることに留意しなければならない。

養鶏

 11月に入ると気温がずっと下降し降霜を見るようになります。
 御存じの様に鶏には汗腺が無い為に暑さに対しては非常に弱いのでありますが寒冷に対しては比較的抵抗性があります。しかし鶏は家禽化されたものであり限定された所に閉ぢ込められて居り自由を束縛されて居るのであります,又反面自然感作に対する抵抗力が弱っておりますから管理者は外界の急な変化に対しては保護してやる事が必要であり又これは管理者の義務であります。
 寒冷に対する処置としては北,西側の窓は閉鎖し,特に隙間風の入らぬようにする事が必要であります。「岡山地方に於ては温暖な地方に属するから特に防寒設備は必要ない」と言う行過ぎた考えを持ち北西の窓を閉鎖せずに放置する事は考えものであって,通り抜けの寒風(特に朝方の)は想像以上鶏の体感温度は低く従って奪い去られるエネルギーも多くそれが誘因となりループヂフテリを発生さすことが往々あります。又隙間風は賊風と言われて居り体温を著しく奪い去るのでありまして,圧縮された空気が拡散する時に鶏体に当る場合は此の時の空気は熱を吸収する事が大であって鶏体には前記の通り抜け風以上に大きい影響を与えるものであります。
 反面余り防寒に拘泥し過ぎて来ると舎内を暖くし,日当りを悪くし,特に換気の度を失して鶏体には却って害があります。11月には特別の場合を除き南の窓は開放し,天候の良い日は日中出来るだけ全面開放し寧ろ寒さに対する抵抗力を強くするように心掛ける事が必要であります。
 特殊の風に当らなくとも寒さが続くと,産卵に向けられて居た養分がまず体温補給に向けられて産卵の低下を来たします。尚更に不足すると体内の養分が之に向けられます。そこで寒い季節にもよく産卵させるには此の寒さによって消耗される養分を極力最少限度に止める事が必要になって来ます。此の意味に於ても防寒は経済的な面に於ても非常に重要な事であります。
 しかし防寒の完全な鶏舎は副業養鶏に於ては望む事は不可能であり,産卵を維持さす為には寒さによる養分の消耗を飼料の増給により補足する事が必要になってきます。即ち鶏の防寒本能に副って多食させる事であり,新鮮な水を給与し食欲を増進させ,鶏の好む物を与え,又日照時間が益々短かくなるから早朝より給餌して飼料摂取時間を長くし摂取量を多くする事が必要であります。

養豚

 11月上旬は晴天が続き室はよく澄み菊が薫り,行く秋をおしむ季節です。朝夕はじっと冷え込んできます。農家の皆さんは黄金の波に今までの心苦のあとをふりかえって収穫の喜びを感じられていることと思います。これから多忙な稲刈りが始まることでしょう。
 今月の豚の飼い方についてお話しますと9月分娩豚の離乳時期でありますし,離乳したあとの種付けもしなければなりません。豚はいたって子ぼんのうといいますか,あのずう体でよくたくさんの仔を育てます。秋仔も爽やかな秋の空気と日光を浴びて食欲も出てぐんぐんと丈夫に発育していると思います。10月生まれの仔は丁度30日目位になっています。生後20日頃からえさを拾い始め,軟らかい,うまいえさによって次第に胃や腸が鍛錬せられてきます。しかしこの頃が管理のむつかしい時で下痢をし易いものですから特に細かい注意が必要であります。又抗生物質(例えばオーロファック)をえさにそえてやると発育をはやめ下痢を防ぐことにもなります。
 親から仔豚を離すときは成るべく60日位たった時に行うことがよろしい,乳を離す時期をあやまってあまり早くすることは,えさを満足にくいこむことができないし又えさだけで十分に育つだけの力ができていないから栄養不良になったり,蛔虫におかされたりして順調に発育できないでこぶれてしまいます。あとからこれを取りかえそうとしても,おっつきません結局不経済となります。哺乳を50−60日して仔のめかたが約3貫位となってから乳を離してやることです。
 離乳するには,1週間位前から母親のえさを少しずつへらし仔を別けた時親が乳房炎を起さぬようにし,一方仔豚は親から別ける2〜3日前,昼の間は親とわけ夜だけ一緒に入れてねかせ,別ける準備ができてから離乳します。又発育のよいものから順に2〜3頭宛離することもします。離乳してからは当分乳房炎に気をつけ少しでも母親の乳房にそのけがある時は初めのうちに治療して下さい。
 離乳すると1週間位で発情があります11月は種付け時期です離乳後の発情をのがさず種付けをしましょう。そうすると3月に仔が生まれることになるので入梅前に離乳することができます。
 種付け方法は普通人が手だすけしてやる補助種付けと人工授精の2つの方法でやっています。種付けについての知識は本号養豚講座を御覧願います。
 離乳前後の育成について種にしない雄の仔豚は去勢をしなければなりません。去勢すると肉のくさみがぬけ,肉の歩留味もよくなります。これは生後5〜6週目頃に行います。他所から離乳豚を買われた方は先方で与えていたものと同じようなものをやり次第に飼料をかえていかなければなりません。えさも少量ずつ4〜5回に分けて与えた方がよろしい。又離乳後に1回虫くだしをしてやりましょう。
 一般に豚は他の家畜にくらべてきたないもののように思われています。よく「豚小屋」のようにといいますが,きたならしいものの代名詞となっています。これは豚にとっては甚だ迷惑なことで豚としてはきれいにしてもらいたいのです。いろいろな病気のもとは不潔からです。豚の発育にもこたえるので豚舎は,日頃清潔に掃除し,昼間は室外で運動させ日光浴も十分させます。体も根櫛でこすり垢をとり血のめぐりをよくしてやることが大切です。
 11月も末になりますと一層気温が下がってきます。特に夜間は寒くなりますから冷腹,気管支等をおかされぬよう室内に敷藁を入れ又房のまわりをかこってやります。しかし昼間は日光がよくあたるように心がけねばなりません。
 11月は畠地帯の農家はいも(甘藷)の多い時期です。いもはえさとして上等のもので離乳豚のえさにもいも(7)に麩(2)大豆粕(1)の割合で与えるとよろしい。又肥育豚にいもをつかうと肉のしまりがよく純白のあぶらがつきます。
 多くの人は豚のえさは購入飼料にたよりすぎるものです。できるだけ自分の畑からとれたえさで豚を飼うようにいたしましょう。
 秋作飼料としてれんげ,くろうばの水田裏作をするとか蕪菁とか馬鈴薯をうえて冬のえさにそなえるようにいたしましょう。

飼料作物栽培と利用 

 今月は飼料作物の立場から見ても農繁期とでも云い得る程多忙である。甘藷の収穫,処理,稲の取入れに続いて麦類の播種等々一般耕種作業も中々大変である。今月播種せねばならない飼料作物は,燕麦,ザート,イタリアンライグラス(何れも主として5月上旬刈取予定のもの)を始めとして青刈菜種の移植等がある燕麦ザートの播種については前月号で詳細に御知らせしたから割愛する。
 青刈菜種は移植より直播の方が労力の面から見ると,むしろ直播を取るべきであるが,耕地の利用から見るとどうしても移植によらねばならない方が多いと思う。この作物は酸性土壌にもまた湿度に対しても強い作物であるから,水田裏作として至る所に栽培されている。移植の場合は収実用の場合に比較して相当密植(50%程度)し窒素を相当多量に施用せねばならない。飼料作物としては反当少なくとも2,500sを目標とせねば折角の耕地利用の目的が達せられない。これは来月の話であるがこの青刈菜種より昨年当場で試験して見たC・O・Oを栽培することを御勧めしたい。
 次に9月上旬か8月下旬に播いた蕪菁は今月上旬前後の中耕除草をして,間作として燕麦,ザートを播種することは畑の利用度増加の意味で是非御願いしたいものである。