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編集室より

 ◎湯原ダムも遂に貯水を開始した。青い稲を刈り,学校の運動場に乾燥していのを見ると全く感慨深いものがある。科学の進歩と共に山の奥迄その犠牲になって行くのであるが,
そのため機械文明の受ける恩恵は大きなものである。それに反して,山中で発電された電力が地元には大した恩恵を与えないで都会にのみ集中されることは,地元の犠牲が大きいだけに何か割り切れない感じがする。
 ダムの奥にも人家はあり,村も町もあるので,交通の不便なこの村々に電力の恩恵による交通機関が発達したら奥地の人々はどんなに喜ぶか知らんと思うと,総合開発事業も掛声ばかりでなしに地についた計画であってほしい。

 ◎湯原ダムで問題になったのは稲の刈り取りの時期であって,もう10日貯水を待って貰えば……と言うのが農民の声であった。工事が遅れるかも知れないということを一縷の望みに作付をしたのであるが,工事のほうは210日の台風期を目標に突貫工事をやったのである。此処にも天佑を頼む農民と科学的に計算をしての工事との差が出て来るのである。世は既に科学する時代になって来ているのである。科学に立脚し,然もその上に天佑を望み,自然の理に合致する様な農業であってほしいものである。

 ◎12号台風は暴風のみに終わったが,南部地区は又々稲の被害である。米食に依存する以上,毎年毎年この災害は甘受しなければならないのである。と言って急速に草地農業が発達するわけにもいかないが,折角これ迄発達して来た酪農も乳価で一頓挫を来しそうである。然し台風が来ても乳牛は乳を出してくれるし,白くなった稲は乳の原料になってくれるのである。昔から大風が吹けば桶屋が儲かると言うが,大風の度に農民が畜産を考えてくれれば日本は自然に畜産国になって行くのであると思うのは畜産人の夢か。

 ◎乳価問題は日に日に喧しくなって来た。表面を流れる声と,底を流れる動きとは相反するものがある。酪農振興法の成立を前に地盤の獲得に狂奔して乳価を引き上げ,法が施行されると低乳価で契約を結ぶために急激な値下げを行い,然も消費者の価格は据置きにして,一体誰が利益を得ているのか知らん,酪農民ももっと真相を知り協同組合の力を発揮して乳価問題を解決してほしいものである。

 ◎種鶏場,孵卵場の登録が実施されようとしている。任意登録制となる予定だが,この様な制度に対しても賛否両論であってなかなかむつかしいものである。対外的には信用を得ることになるし,良心的に運営されれば確かに岡山県の種鶏は改良されるし,一般の能力も向上して来る筈である。要は運営の如何にあるので関係者の御協力を願いたい。(9.14)