ホーム > 岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和29年11・12月号 > 岡山種畜場講座 乳牛の飼い方(六) |
分娩後1週間は初乳を与えて育てるがそれからは全乳で育てる。どんな元気な仔牛でも最初の2週間は全乳を与える。そして其の後次第に脱脂乳に置き換えて行くのである。仔牛が弱かったり発育が思わしくない時は全乳を3-4週間与えるようにする。そして其の給与回数は最初の2週間は少量宛1日に3-4回分に分けてやるのであるが其の後は1日2-3回の給与がよろしい。与える全乳の量は仔牛の大きさや健康状態によって異なるが発育を良くしようとして最初から多量に与えると却って消化不良を起し下痢するようになる。仔牛は一度下痢すると回復が困難であるから常に控え目にした方が成績が良い。
普通仔牛の生体重の8%以上の全乳を1日に与えてはいけないことになっている。(例えば分娩当時ホルスタインの仔牛であれば平均生体重43㎏であるからこれに対して8%即ち1日に3.5㎏以上の乳をやってはいけない)小さい弱い仔牛であれば更に量を減じてやるのである。消化不良と下痢を防ぐには哺乳時間を規則正しく守ること時間をあまり不規則にして腹を空かすと仔牛は乳をガブ飲みするために急性の消化不良を起す虞がある。
牛乳の量を制限し回数を多くする理由は仔牛の第4胃は生後のものは約3立位の容積で過剰に飲ますと胃の中に残り醗酵する。
全乳は最初の10日間は1日に平均4.5㎏次の10日間は5.4㎏,次の10日間は6.4㎏位を与えるようにする。通常脱脂乳は3-4週間目に入ってから与え始める。そして1日0.5㎏位宛を全乳に置き換え10日間位かかって脱脂乳に全部換えてしまう。生後1箇月を過ぎ2箇月目に入ったならば脱脂乳は1日7.2㎏与えてよろしい。なお脱脂乳が豊富にあれば3箇月位から5箇月位は9㎏位飲ましても差支えない。一般に生後五箇月にもなったならば次第に脱脂乳の量を減じ6箇月で全然給与しないようにし所謂離乳を完了するのである。
脱脂乳が不足の時は1日5.6-4.5㎏を与え3-4箇月で離乳しても良いが其の代り乾燥した品質の良い濃厚飼料を1日に1㎏位は与えねばならない。粗飼料は濃厚飼料と同様に生後3週間目位から少量食い始めるものである。そして其れは良質の牧草や良質の乾草が良い。粗飼料は自由に食べるだけ食うようにする。
脱脂乳は温度を一定にして温めてやるのであるが生後2-3箇月を経た仔牛であれば冷たいもののままで注意して連続して給与すれば大抵の場合はこれに慣れて害はないものである。然し冷たい乳と温い乳とを或いは新鮮なものと腐敗乳を不規則に与えると消化不良や下痢を起すから注意せねばならない。
生後3-4週間以下の仔牛には最近米国あたりでは全乳に0.2㎏位の石灰水を加えてやると結果が良いということである。人口哺乳の仔牛は兎角自然哺乳のものに比べると乳を非常に早く飲み込み消化不良の原因となるのでこれを防ぐために石灰水を加えるのである。石灰水は消石灰60㎏位をバケツ1杯の水によくかきまぜてとかし其の上澄液を使うのである。
全乳は最良の仔牛育成飼料ではあるが経済面から脱脂乳が通常使用せられるのである。仔牛が脱脂乳で育成せられたものは,全乳で育ったものより発育は遥かに劣るが離乳後の飼養の如何によってはその増体は著しくこれに要する飼養費も全体として安価につくものである。仔牛育成期の中で一番注意を必要とするのは全乳から脱脂乳に置き換える時である。前述のように健康で元気な仔牛は既に生後2週間後にはそろそろその転換に移るのであるが4.5㎏の牛乳を飲ましていたものは毎日約0.5㎏位宛脱脂乳で置き換え丁度10日間で脱脂乳に全部代えるようにするが良い。脱脂乳と全乳とはその成分が異なり脂肪が少ないがその栄養比は幾分増加している。全乳との成分を比較すると次の通りである。
乾 物 量 | 蛋 白 質 | 脂 肪 | 乳 糖 | 鉱 物 質 | 全可消化養分 | 栄 養 比 | |
全乳 | 12.8 | 3.5 | 3.7 | 4.9 | 0.7 | 16.2 | 1:3.9 |
脱脂乳 | 9.6 | 3.7 | 0.1 | 5 | 0.8 | 8.6 | 1:1.9 |
上表の様に脱脂乳の全可消化養分は,全乳の約半分であるから全乳が脱脂乳に置き換えられる時は仔牛に与えられる飼料エネルギーは少量とはなるが,蛋白質は全乳を与えられる時と同一か或は幾分多くなっているので,不足するエネルギー源として品質の良い,炭水化物の多い穀類を与えるのが良い。一般に粉砕玉蜀黍だけでも十分である。然し出来れば他の数種の穀物の混合があれば申分がない。多くの仔牛は生後2週間を過ぎると少量の穀類を食い始めるものである。全乳から脱脂乳に完全に代る迄はこれ等穀類の摂取は幾分困難が伴うが脱脂乳だけとなったならばその給与量を増加して行く。脱脂乳の給与量は生体重の10%以上にならぬように注意し,乾草や穀類の摂取量が次第に増加するにつれて脱脂乳の量を減少して行くようにする。一般に脱脂乳の1日給与量は10㎏を限度とするが良い。
脱脂乳の中には脂肪分が少ないから全乳が全く与えられなくなる時から出来るだけ早く穀類や乾草にならすことが大切である。
乾草は清潔で然し良質のものが良く硬くて黴の生えたようなものはいけない。出来れば2番牧草の良質のものが望ましい。そして其の乾草もクローバ・ルーサンの様な荳科の牧草が望ましい。乾草の給与は仔牛時代においては大切で普通は仔牛が食べるだけ与える。1日に食べる量は個体や発育期によって異なるが生後2箇月位のものは0.5㎏或はそれよりも少し多く,3箇月では1.2-1.5㎏,6箇月では2-2.6㎏位である。
エンシレージは生後4箇月になる迄はやらない方が良い。生後4箇月になれば1日に1-1.5㎏5箇月では2-2.5㎏やっても差支えない。一般に生後6箇月間は全乳50-90㎏脱脂乳は1,000-1,400㎏穀類は70㎏乾草は220㎏位である。多くの穀類の混合は出来るだけ多種類のものを用いる方が良い。一般に用いられる穀物は燕麦,大麦,玉蜀黍,麬,亜麻仁粕或は大豆粕のようなものが適当である。一般に麬と亜麻仁粕とは仔牛の育成には蛋白質の多い点ばかりでなく消化も良く又燐の給源として良好なものである。穀類配合に含ます蛋白質の割合は一緒にやる飼料全体の性質によって異なるもので,脱脂乳や,バターミルクの適当量と共に良質の乾草を与えている間は穀類は普通農産物の燕麦であるとか玉蜀黍の様なものだけで充分である。脱脂乳又はバターミルクの量を制限し良質の乾草と共にやる時は蛋白質の含有量は14-16%になるように穀類の配合が必要である。又乾草と共に乳漿(ホエー)が与えられる時或いは乳汁の代用としての穀類が与えられる時はその中の蛋白質は18-20%になるように穀類の配合が望ましい。
穀物は何れも挽割にして与え生後2週間位の仔牛はこれ等の摂取量は極めて少量であるが4週間になると0.2㎏6週間では0.4㎏8週間では0.7㎏10週間では0.9㎏位である。そして脱脂乳の量が減少するにつれて次第に穀類は増給せられ6箇月にもなれば1.8-2.0㎏になる。ホルスタイン種の雌及び雄の仔牛哺乳時代の毎日の飼料表を示すと次の通りである。
年 令 | 全 乳(雌) | 脱脂乳(雌) | 全 乳(雄) | 脱脂乳(雄) | 濃厚飼料 |
1週 | 初乳5.4 | - | 初乳 6.4 | - | - |
2週 | 6.4 | - | 7.2 | - | - |
3週 | 7.2 | - | 7.2 | - | 0.1 |
4週 | 6.4 | 1.8 | 8.1 | - | 0.1 |
5週 | 5.4 | 2.7 | 7.2 | 1.8 | 0.1 |
6週 | 3.6 | 4.5 | 5.4 | 3.6 | 0.1 |
7週 | 3.8 | 6.4 | 3.6 | 5.4 | 0.2 |
8週 | - | 8.1 | 1.8 | 7.2 | 0.3 |
9週 | - | 9 | 0.9 | 8.1 | 0.4 |
10 週 | - | 9 | - | 9 | 0.7 |
2.5 ~3ヶ月 | - | 9 | - | 10.8 | 1 |
3.0 ~3.5ヶ月 | - | 8.1 | - | 9 | 1.4 |
3.5 ~4.0ヶ月 | - | 7.2 | - | 8.1 | 1.7 |
4.0 ~4.5ヶ月 | - | 5.4 | - | 7.2 | 2 |
4.5 ~5.0ヶ月 | - | 3.6 | - | 5.4 | 2 |
5.0 ~6.0ヶ月 | - | 1.8 | - | 2.2 | 2 |
仔牛は哺乳時代においては全乳或は脱脂乳が与えられるから,初めの頃は飲水を必要とはしないが,後期からは規則正しく清水を与えてこれを自由に飲むようにすることが大切である。即ち乳を飲んで後で水を飲みたい時に同じ容器からこれを飲むことを教え込む。普通の方法で仔牛を育成する場合仔牛の飲水量について米国アイダホ農事試験場で行った研究結果を見ると脱脂乳を通常給与している時は生後3週間で1日平均約0.3㎏2箇月で1㎏4箇月では5.5㎏6箇月では11㎏である。然し脱脂乳の給与を生後2箇月で中止しそれ以後は固形穀物の配合に移った時仔牛の飲水量は3週間で0.4㎏2箇月で4㎏4箇月で13㎏6箇月で18㎏に増加したといわれている。仔牛で特に暑気の厳しい時は水分が欠乏すれば不安に陥り食欲を減じ従ってその発育が遅れるから充分注意が大切である。なお飲料水を充分与えられた仔牛は脱脂乳だけで水を給与せられないものに比較して乾草の消費量は約2倍又穀類は約1.3倍に増すものである。であるから間接に飲料水の給与が如何にその発育に重大になる影響があるか伺われるのだろう。(以下次号)