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冷蔵設備のあるところでは1年中何時でもつくることが出来るが,農家でつくる場合は,12月半ば過ぎから翌年2月頃迄の気温の低い季節が適する。
生体重鶩は1.8㎏程度以上のもの,鶏は1.7㎏程度のものが,好ましい。勿論この目方より大きいものでも,小さいものでも支障ない。
一昼夜絶食させて屠殺する。屠殺方法は,鶩,鶏共に頸部側部の動静脈をナイフで切断し放血して屠殺する。頭部に近い頸部(鶏は耳朶の直後)中央にナイフの先を思い切って挿し頸下部に向けて皮膚もろ共に切断すればよい。
一般的には湯抜き法で行う。鶏の場合は,摂氏65℃の湯の中に投入し,羽毛の根に湯をよく浸透さすために手でゆり動かしながら30-60秒浸漬すれば大体よい。親羽を2,3本手で引張って見て,容易く抜けるようになったら引き上げ背,腹,尻,翼,頸部の順で羽毛を素早くこするようにして抜いて行けば良い。
鶩の場合は,御承知の通り中の羽毛が抜き難く鶏のように簡単に行かない。摂氏65℃の湯の中に5分-10分間又は70℃の湯の中に3分-5分漬ける必要がある。要するに鶩の場合は毛根部に湯が浸透し難いからそれだけ時間をかける訳である。当場において鶩の羽毛抜きの難易を,湯の温度と浸漬時間を色々と変えて行った成績であるが,参考迄に記載すれば次表の通りである。
下の表によればやはり65℃,10分,70℃5分が1番抜羽毛の状態がよいことになる。只70℃5分の場合は多少皮膚が煮えたかの感があったから少し時間を短縮した方が良いかと考える。
70℃5分以上になれば所謂煮えて抜羽毛,皮膚の状態共に悪化するし,又60℃の場合は何れも温度不足のために抜羽毛困難と思われた。抜羽毛が大体出来たならば充分体表を水洗して頭部のみを切除しておく。
浸漬時間 | 5 分 | 10 分 | 15 分 | |
湯温 | ||||
A 組 | 60℃ | ○ | ○ | ○ |
B 組 | 65℃ | ◎ | ・ | ※ |
C 組 | 70℃ | ・ | ● | ● |
備考 放血直後3羽宛3組に分け各組別にそれぞれ60℃,65℃,70℃の湯の中に同時に投入,
頻繁に撹拌して,5分,10分,15分経過毎に1羽宛引揚げて抜羽毛した。
・抜羽毛,皮膚共に良好
◎抜羽毛稍困難
※抜羽毛稍困難,皮膚稍不良
○抜羽毛困難
●抜羽,皮膚共に不良
肛門の周囲を丸く切り抜き,なお内容物が出ぬように直腸末端部を紐でしばる。この場合腸等を破らないように特に注意する。次に頸部の皮膚のみを頸根部迄充分にむぎ,露出した,気管,食道を指先で遊離して胸腔内に突込んでおく。鶏の場合は砂囊を皮膚より遊離しておくが皮膚を傷つけないように注意して剥がないとあとで製品のこの部分だけが,どす黒く変色する。次に肛門部より,右手を挿入して,指先で内臓と体壁の連結部分を切放して内臓を遊離し,筋胃を,指間にはさみ,腸その他を掌に掌握して,徐々に引き出せば,内臓を一括抜き取ることができる。但し肺臓だけは肋骨の間にめり込んでいるため残り易いから予め頸部の方から指先を以って剥脱しておけばよい。鶏も鶩も同様にして行えばよい。腸抜きが出来たら内腔を充分水洗する。
血絞りの目的は鶏,鶩の燻製の場合主に,残留血液の排除,防腐,味付け,発色等である。方法としては,材料の目方の3%の食塩と0.15%の硝石(硝酸加里)を混合したものをよく擦り込んで24時間前後桶等に重石を乗せて漬け込むのである。桶の底部はにじみ出た液体が溜まらないようなことにしておけばよい。この間の食塩の脱水作用による残留血液の絞りと,同時に,適当に食塩が肉中に入り込んで味も付き防腐力も出来る。ちなみに食肉の我々の嗜好に適する塩味は大体3%前後である。
硝石は発色に効果がある。一般に食品の色沢は味,臭と共に重要な要素であって,如何に味や香り等が良くても色沢が悪ければ,食味を落とすものである。獣肉類は鮮紅色を貴しとし,その燻製品は茶褐色,所謂燻煙色が出て初めて我々の食欲をそそるのである。ところが食塩は脱色作用があって,食肉の色沢を悪変する。日本的な食肉貯蔵液に塩漬肉,粕漬,味噌漬等あるが,食塩の脱色作用により,全て本来の色沢を失って了う欠陥がある。ハム,ベーコン等の光沢ある燻煙色は如何にも食欲をそそるものである。あの光沢は硝石を加えて初めて発現する。鶏,鶩の燻製の場合も,製品の色沢を良好にするために,血絞りの際に硝石を少量加えておくのである。只注意として,硝石は毒物であって,使用を法律によって制限されているから,使用する場合には多すぎないように注意しなければならない。前記の程度ならば支障ない。
味を充分つけるために次のような配合割合の液(ピックル液)に1週間前後低温度(10℃以下)で漬込む。
ピックル液の調整法(水は肉の目方の70%程度でよい)
水 100
食塩 20
砂糖 3.0
香辛料 0.8
硝石 1.0
砂糖は加えなくてもよい。香辛料はコショウを主体にし,その他香辛料を1,2種類配合すると好ましい。例えばニクズク,丁字等,諸材料を水に溶解したならば1度煮沸殺菌し10℃以下に冷却して桶等にうつし,血絞りの終わった鶏,鶩を重しを置いて漬込む。大体漬込期間は肉の目方1㎏について3日迄の割合であるが鶏,鶩ならば1週間漬込めば良い。
塩漬けが終わったならば,冷水中に10-20分浸して水戻しを行う。水戻しは肉内外の食塩濃度大体を均一にするのが目的である。
整形の目的は,翼,脚,頸部を胴部に接着させて外形を整えるためであって,方法としては,タコ糸等でしばりつける。なおこの際別に頸部をタコ糸を通して輪状の吊手をつくっておき,後ほど燻煙する場合の吊にする。
大体殺菌が目的であるから,適温殺菌を行うが,要は肉の最中深部が,63℃に30分前後加熱されたことになればよい。そのためには肉は御承知の通り熱の不良導体であるから温度と時間を少し高く又長くかける必要がある。当場の成績からすれば70℃で70-80分が最も良い。必要以上に温度を高くしたり,時間を長くすれば,それだけ,風味と栄養価を損する事になる。大体中心部迄温度が充分通れば,湯上に浮き上がって来るものである。膨張して浮き上がって来たものはボイル以前のものとは見違える位見事な外観を呈して来る。ボイルが終われば冷水中に10分程度,投入して冷却した後,次の乾燥燻煙に移る。
この段階のものは蛋白が凝固して,整形された形の通りに固定されておるから紐を取り除いても変形はしない。
燻煙に移る前に炭火等で先ず乾燥を行う。50-60℃で1時間位乾燥すれば大体よい。鶏,鶩の体表面は,ボイル後のものは湿潤であって,この湿潤の状態では,如何に燻煙しても煙が肉の内部に侵入しないから先ず肉の外表面を乾燥多孔質煙の入り易い状態にしてやるのがねらいである。或程度乾燥したならば燻煙に移る。
鶏,鶩の燻煙は,温燻の稍高いもの,即ち煙燻室温を50-60℃に保ち10時間前後燻煙を行えば,風味発色共によく,又保存性の相当あるものが出来る。燻煙剤としては堅木の薪又は鋸屑を使用すれば勿論よい。燻煙が終了したならば塵埃が附着せぬように,セロファン又は新聞紙等に直ちに包装して通風のよい冷所に貯蔵しておけばよい。
以上紙面の都合で大まかに製法を記述しましたが機会があれば逐次詳細に記述致したいと考えます。なお最後に当場における製法並びに製造成績の一例を記載してご参考に供する。
例1.鶩の燻煙(昭和29年7月)
材料-鶩15羽,生体重1羽平均1.944㎏
屠殺-1昼夜絶食させたものを頸動静脈切断,放血,放血量1羽平均123.3g
羽毛抜-65℃の湯に10分間,羽毛の抜け具合皮膚の状態共に良好
羽毛重1羽平均80g
湯抜-常法にて行う。頭部,内臓重1羽平均486.6g
血絞り-肉重に対して食塩3%,硝石0.15%,1昼夜,血絞り後重量1羽平均1.2226㎏
塩漬-ピックル液
水 15リットル
食塩 3㎏
砂糖 0.450㎏
香辛料 0.100㎏(コショウ50g,ニクズク25g,丁字25g)
硝石 0.135㎏
塩漬室温度 8-10℃
塩漬期間 8日 3回漬替えて行う。
水戻し-冷水中に10分間
整形-常法にて行う。
ボイル-70℃ 80分間
乾燥-60℃,1時間
燻煙-50-60℃,10時間
燻材は樫,燻煙後の1羽平均重量748.7g
生体重に対する歩留率38.5%
備考
1.ボイル後冷水を行わず直ちに乾燥したが外観良好
2.7月中で蝿の止まる恐れがあるから燻煙終了後直ちにセロファンで包装貯蔵した。蝿は絶体に禁物である。
3.この程度乾燥燻煙を行っておけば盛夏でも相当期間貯蔵出来る。ちなみに,当場冷蔵庫予備室(15℃)に4週間貯蔵後試食したが,外観,風味共に良好であった。
例2.鶏の燻煙(昭和29年9月)
材料-三河種(雄)2羽,ロック(雄)3羽,ロード(雄)3羽 計8羽
製法-例1の場合と大体同様
成績-風味,発色,保存性共に良好であったが,その製造工程中における重量変化の状態を示せば下表の通りである。
番号 | 品 種 | 生体重 | 血 重 | 放血後 重 量 |
羽毛重 | 抜羽毛後 重 量 |
内ぞう+ 頭部重量 |
腸抜後 重 量 |
血絞後 重 量 |
ピックル 引揚後重量 |
ボイル後 重 量 |
燻煙後 重 量 |
k | g | k | g | k | g | k | k | k | K | k | ||
1号 | 三 河 | 2,200 | 100 | 2,100 | 100 | 2,000 | 350 | 1,650 | 1,650 | 1,820 | 1,700 | 1,200 |
2号 | ロック | 2,300 | 90 | 2,210 | 110 | 2,100 | 260 | 1,840 | 1,770 | 1,960 | 1,850 | 1,400 |
3号 | ロック | 1,700 | 100 | 1,600 | 60 | 1,540 | 260 | 1,280 | 1,220 | 1,380 | 1,300 | 900 |
4号 | ロック | 2,300 | 100 | 2,200 | 100 | 2,100 | 380 | 1,720 | 1,700 | 1,840 | 1,750 | 1,300 |
5号 | ロード | 2,200 | 110 | 2,090 | 110 | 1,980 | 380 | 1,600 | 1,600 | 1,700 | 1,600 | 1,200 |
6号 | ロード | 2,000 | 100 | 1,900 | 80 | 1,820 | 360 | 1,460 | 1,400 | 1,500 | - | - |
7号 | 三 河 | 2,100 | 90 | 2,010 | 100 | 1,910 | 300 | 1,610 | 1,600 | 1,750 | 1,600 | 1,200 |
8号 | ロード | 2,200 | 100 | 2,100 | 100 | 2,000 | 380 | 1,620 | 1,590 | 1,830 | 1,700 | 1,200 |
合計 | 17,000 | 790 | 16,210 | 760 | 15,450 | 2,670 | 12,780 | 12,530 | 14,380 | 11,700 | 8,400 | |
平均 | 2,125 | 98.75 | 2,031.25 | 95 | 1,931.25 | 338.25 | 1,597.50 | 1,566.25 | 1,797.50 | 1,671.43 | 1,200 |
備考 6号はピックル引揚後試食したので其の後の重量は記入出来ず。