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12月1月の飼料管理と飼料作物の栽培

乳牛

 この月に入ると急に寒さも厳しくなり,保温,敷藁の増給等により乳牛の取扱を寒気から防ぎ,乳量の低下を防止する。寒気が強くて空気は乾燥し呼吸器病にかかり易いので,早期発見治療と之が予防法を講じる必要がある。年末で兎角何んとなく忙しく,乳牛管理が怠り勝ちになるので注意が必要である。
 冬の乳牛の管理の第一は保温設備をすることである。
 寒いのを其の儘にしておくと乳牛は体を害さないまでも,寒さに耐えるために体内栄養分を盛んに燃焼して体温を維持し折角与えた高価な飼料を体温維持のために消耗し大きな損失となるのである。従って畜舎内の温度は出来るだけ温かくし温差を少くすることが必要である。保温設備は窓其の他開放してある所を閉め寒気の入らない様にし破損箇所は修理するのであるが余り寒さの厳しい時には硝子戸だけでは駄目でカーテン又は其の他で被覆する必要があろう。
 寒気のため乳頭のヒビ,アカギレ等が発生し易いので搾乳時における温罨包後乾布で清拭する必要がある。
 哺乳温がなかなか保てない時で搾りたてのものも直ぐ冷えてしまうので充分注意しなくてはならない。冷たいものを飲ませると呼吸器病と共に消化器病になる。
 兎角冬は日中が短く,雨雪寒風等で運動が怠り勝ちとなり良い天気の時は出来るだけ運動場に出して日光浴,運動を行い体躯の充実を寒気に対する抵抗力を附与する必要がある。運動の少ない場合には特に手入を充分行って牛体の血液の循環を良くして気分を爽快にするのである。
 分娩の際も注意して産れた仔牛の乾燥,保温に注意しないと感冒になる虞れがある。
 冬季は特に粗飼料に欠乏し,濃厚飼料に傾き体を害し乳質を悪くするから乾草,根菜類を充分に与えることを忘れてはならない。
 乾草等で黴の生えているものは天気の良い時に充分乾燥し棒でたたいて黴を落としてから与えること。冬期は無糖分即ちカルシウムが不足し易いので所要量を必ず補給してやらなければならない。

養鶏

 12月に入ると北風が勢を増しいよいよ寒い冬が訪れて来,戸外のざわめく木枯の音に聞き耳を立て鶏舎は如何にと思い愛鶏を馳せる時であります。
 防寒処置は充分実施されて居る事でありましょうが,兎に角,家禽化された小さい,又弱い個体の愛鶏を保護してやり,熱エネルギーの無駄な略奪から守り,ループ,ジフテリーを予防し,自己の有する能力を十二分に発揮さす様にしてやりましょう。
12月は冬至が待って居ります。日照時間の最も短い月であり,鶏の運動時間並びに採食時間の最も短く飼料の摂取量の減じ易い月であります。朝は出来るだけ早く起床し鶏を早く運動場に出してやり,給水,給餌し,飼料の摂取量をなるべく多くするように留意いたしましょう。
 鶏の飼料として甘藷を経済的に利用できる方に大いに活用する事をお奨め致します。之の給与は生のまま利用される場合は一度煮て与える方が消化吸収が良いとされて居ります。
 甘藷は収穫時期が一時的であり,給与期間が長期でありますから従って貯蔵と言う事が必要となって参ります。貯蔵には生の儘地中に穴を掘って貯蔵する方法もありますが甘藷の呼吸作用のたまに養分の損失があり,又病気のもの,傷のものは貯蔵中に腐敗する事がありますのでサイレージにするか乾燥藷糠飼料とするかが安全であります。
 サイレージを作る場合に大切な事は填充物が適度の水分を有する事と填充物が空気に触れぬ事であります。適度の水分(70-75%)を有し充分な圧縮により中に空気が入らぬ場合は乳酸醗酵を起し良質のサイレージが出来るが,水分が多過ぎる場合は養分の損失を招き,又中に空気が入って居ると高温の醗酵を起し醋酸菌,酪酸菌等の不良菌が繁殖します。
 甘藷を磨砕して詰込む場合は水分は多すぎるから甘藷に対して約25%の米糠を混じて詰め込むとよろしい。又米糠を混入しない場合はサイロの底に切藁を敷きその上に磨潰した甘藷を詰め込み,更にその上に藁を敷き余剰の水分を吸収させます。又甘藷を蒸して詰め込んでもよろしい。
 尚サイロの設置されて居らぬ方は藷糠飼料を作るのも1方法であります。之は藷磨砕機が藷糠飼料製造機にかけて藷を磨砕しながら之に米糠を約30%混じて之を莚,コンクリートの上に拡げて乾燥さすのであって之の飼料成分は大体大麦に近いものになります。
 「1年の計は元旦に在り」と言う諺がありますが,正月の時間を1年の養鶏計画樹立に有効に利用して頂き度いのであります。
 特に育雛は目前に迫っておることでありますから直ちに育雛計画を樹て,まだ初生雛の発注をして居ない方はさっそく,直接足を運ぶか文書を以て予約して置く事が必要であります。
 計画樹立と共に,実施続行して行きたい事は農業経営日誌の一片として養鶏日誌の記帳を励行する事をお奨め致します。毎日の出来事,実施した事,更に収支を記帳して置いて後日の参考に供して行く事は大切な事であります。

養豚

 秋の良い気候もお祭りだ,学校の運動会だといっている間に米の収穫に続いて息つく暇もなく麦まきとなります。全く目の廻るいそがしさです。これからは寒気が一層厳しくなってきます。豚舎の冬の準備は出来ているでしょうか成豚は寒さに対して真夏の暑さ程にはこたえないが仔豚は寒さに弱いものです。冬の病気として呼吸器をおかされ易いものです。感冒は主に冬期不潔,多湿,寒さの強い豚房,すき間風の入る処等で飼うためにかかるものですから県北部(勝田郡は特に飼育数が多いが)では速めに防寒が必要です。冬の風は西北風が強いですから西北側を防いで賊風は入らぬよう,かこってやりましょう。
(曾つて筆者が北支にいた当時レンガ造りの立派な豚舎でヨークシャーとバークシャーを飼っていたがこれから生れた仔豚を寒さで凍え死なしたので,これではいけないと思い,ストーブを豚房に入れてやってから発育もよくなり凍死もなくなった経験をもっています。)
 豚房内の敷藁は人間の蒲団と同様なものですから糞や尿によごれたものをそのままにせず取り替えてやらねばなりません。前にもいったように豚は決して不潔な所がすきではありません。常に室内を清潔に乾いた室にしてやり敷藁も乾いたものを出来るだけ多く入れてやることです。
 豚房の防寒も南側はよく日光が差し込むようにあけてやり冬でも日光浴をかかさぬようにします。日中は運動場に出して運動と日光浴をさせなければなりません。運動場は雨でも降ると日光光線が弱い季節ですからなかなかかわきませんので出来るだけ整地と排水をよくしておかねばなりません。運動場内の糞も毎日取り除いて場内を不潔にならないように心がけましょう。寄生虫の発生は不潔からです。豚は特に蛔虫にかかり易いもので糞の中の卵が場内にちらばり他の豚にもうつってゆき,そして場内が常在地化してしまいます。蛔虫を駆除することと運動場内の土をとりかえることが望ましいことです。土をかえるのが手数と経費がかかりますので砂を入れて掘りかえし,石灰滷汁をふりかけてやることも一方法です。
 豚は一見非常に丈夫なように見えますがえさの与え方と管理に注意しなければ僅かのことで病気にかかります。特に幼い間は注意が肝要です。若し万一寒さのため感冒におかされると食欲がなくなり鼻汁をもらし又せきをし敷藁の中にもぐり込むものです。手当は寒い風が入らないようにしてやり清潔に乾燥した敷藁にねかし消化のよい暖かいえさを与えることです。この際肺炎にならないように早く直してやらねばなりません。
 冬のえさは青物がきれがちです。大根の葉,蕪菁等を利用いたしましょう。冬のえさとしてさつまいも,馬鈴薯も貯えておきましょう。最近は鶏のえさにもいも飼料でそだてることがいわれているようです。豚は鶏以上に澱粉質飼料で飼うことが最も適しているのです。農家の作る作物の中でこの2つを豚にうまく利用せねばなりません。これに蛋白質,カルシウム,ビタミン飼料を補えば好適のえさといえます。
 冬期の給水は寒冷なもの,薄氷の張っている川水,堀池の水等を与えないようにしないと胃腸障害を起し又流産しますからそんなことのないように注意しなければなりません。
 本来秋の豚の価格は良いようです。12月頃になると春仔が肉豚として市場又は肉屋に出せる様になります。肉値と睨み合わせて売却することです。暮れには価格が安くなりがちです。
 豚の飼育は購入飼料にたより過ぎる傾きがありますので1年の自給飼料計画をたてねばなりません。特に冬期飼料の自給を考えておくことです。千葉県和田村では村内各戸にサイロをこしらえて,これにさつまいも蔓サイレージを作り利用しています。又冬の青物として麦まき播種後畦の一側にあらかじめ育てておいて菜種とか,京菜の苗を定植するとか間作として小松菜を植えることもよいでしょう。

飼料作物の栽培

 12月の行事として9月上旬に播種した燕麦は12月末には第1回の刈取りが出来ます。然し刈取後の再生力を考慮して,成長点は必ず残すようにして刈って下さい。なお刈取の後は追肥として牛尿を反当100貫程度施用して頂きたい。何等かの都合で未だ燕麦を蒔付けしない方は,来年5月中下旬1回刈を目標とすれば本月中に播種して頂ければ,相当の収量が期待出来ますから,一日早く播種して下さい。種類は晩生種の前進等御勧め致します。酪農家の方々で裏作をやっておられない方も相当見受けます。
 これには労力とか,排水関係とか種々の事由もおありのことと思いますが,本年は是が非でも麦刈燕麦を作って頂いて,酪農家の一毛作田と言う汚名を解消したいものです。草一本も食べられない乳牛程可愛想なものはありません。冬期乾燥が与えられない乳牛に対して,優良な繁殖成績を,豊富な泌乳を期待することは不可能であります。
 この意味で青刈燕麦の肥培管理には特に留意致しましょう,蕪菁はめっきり大きくなったことと思いますが,まだまだ根部は旺盛な発育をしておりますので,これが収穫は1月に這入ってから,ぼつぼつ始めて下さい。但しこれが多給は下痢を誘発しますので良く注意して下さい。冬季間の中耕は土壌の物理的性質を改良します。草は土が作ってくれます。耕地を例え1坪でも非生産的なものとして残すほど,酪農経営の現状は穏やかなものではありません。