ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和30年1月号 > 異国から可愛いいジャージー種を迎えて 娘よ,すくすくと大きくなれ!!

異国から可愛いいジャージー種を迎えて
娘よ,すくすくと大きくなれ!!

万輪田里生

△客年10月末過去1カ年に亘って待ち望んだジャージー種が作州の地に到着した。津山市の分は幸い1回に62頭全部導入されたが蒜山の分はまだ全部は到着しない。

△一昨年以来知事さんを初めとして関係者一丸となって国策たる集約酪農地域として本県が指定されるべく凡ゆる努力を傾注されたが幸いに西日本においてただ一箇所本県が指定の恩典にあずかり指定決定後昨年7月から導入農家の講習その他色々の準備に没頭して来た私としては津山駅についたあのジャージー種の可愛いい姿を見た時は感慨胸に迫る思いがした。津山市においては昨年11月1日県より各農協への引渡式が挙行されたがこの時は知事さんが御臨席になり牛の体を撫でて大変喜ばれた。知事さんとしても今迄の御努力が実現したのを眼の当り御覧になってさぞ嬉しくあられたことと思う。式の時には導入農家の人々をほろりとさせる様な御挨拶があり出席者一同も洵に感無量で祝宴の時には期せずして知事さん万才が叫ばれた。

△然しこの集約農家の事業はまだ単に初年度の導入牛が入ったというばかりでこれからが一層大切である。来年度には本年度と略同数導入される予定であり,この牛を適切に飼育管理して大きく育て仔を産ませ乳を沢山出させて農家の経営及び栄養改善に資すると共に国家目的に副うべく成績を挙げてこそ初めて目的を達するものであり又色々と御骨折を下さった方々に対し酬いることが出来る訳である。導入牛を迎えたこれから集約酪農の第一歩を踏出す時の新年に当り色々と準備に奔走した思出の跡を振返り併せて将来へ力強く前進することを誓いたいと思う。

△年度当初愈々本県が集約酪農地域に指定されることが本決まりとなり9月下旬頃から蒜山と津山市に約260頭の現畜が導入されることとなったが御承知の如くこの種類は吾国には極めて少数しか飼育されていないものであり又今般の導入地域は古来和牛の産地として知られ和牛の飼育には経験が深いが乳牛は初めての人ばかりであるので先ず導入農家に対しジャージー種の飼育に関する知識技術を会得して貰い且飼育に必要な畜舎,厩肥舎,サイロ等の設備を整備し飼料作物の栽培,牧野改良等についての方法等を指導して現畜が入るまでに大略の準備を整えることが必要であるので7月18日中国酪農講習所に県,市役所,北部酪農,関係農協等の人々に御参集を願いこれからの進め方について協議した。

△而して先ず導入農家に対し学科講習を行うべく市役所,北酪,講習所三者共催をもって7月26,7の両日講習所に津山市の導入農家全員を招集して県庁の蔵知,加本両技師を初め関係機関の職員が講師となり集約酪農の趣旨及び計画,ジャージー種の飼育管理,衛生対策,飼料牧野関係について講習を行った。次いで導入農家が60余戸に達するのでこれを三班に分ち8月4日から13日まで乳牛舎において飼料給与,牛体手入,運動,搾乳その他につき各2日宛の現場講習を行った。次で各導入地区より10戸に1人の割合で指導員の選定を願い,この人々は自家にジャージー種を飼育しつつ最寄の飼育者を指導して貰う人々であるから8月14日から23日まで2名宛各5日間一層詳細に学科及び現場講習をしてもらった。丁度夏季土用の最中であり水田の手入れで急がいし時ではあったが皆んな熱心に講習を受けられたことは感謝に堪えないところであった。

△技術指導陣としては,市役所,北部酪農及び当所を一丸として総務班(馬渡,早瀬)太田班(上原,安藤)野辺班(竹原,沖)及び高田班(石原,渡辺)を編成し8月1日から10日迄の間に各農家を訪問し現在の家屋,畜舎の状態から勘案し最も利用に便利な如く畜舎の改新築,サイロの設置等を指導設計し且希望の向に対しては各農家毎に設計図面を作製して工事施工に便ならしめた。これと同時に冬期の飼育に供えて乾草の刈取調整,飼料畑の整地植付等の指導を行った。かくして各農家では夫々の計画に従って鋭意準備を急いだのである。

△導入牛が健康にそして順調に生育するためには疫病の予防が最も大切であるので県,市,北酪の応援を得て8月中旬現に導入地区に飼育されている全部の和牛を当所と高田の二箇所に集めて衛生検査を行い既存の疾病を調査すると共に夫々の手当を講じ又畜舎の一斉消毒を行った。

△10月2日関係者の集合を願って現畜導入についての打合を行い分配順位を決定したが愈々10月27日横浜検疫所において62頭引渡の旨連絡に接したので25日当所石原技師を隊長として市役所より安藤,瀬島両技師,導入地区より安東,水島,福田の三氏を横浜に出発せしめた。その間各導入農家を当所,一宮,高田の三ヵ所に招集して到着当時の飼育管理を今一度復習し遺憾なきを期した。27日横浜出発,29日午後津山に到着したので一宮家畜市場に運搬しここにおいて再評価を行い一応の検査をなした上各農家に引渡した。かくて11月1日知事さんの御臨席を願って引渡式を挙行した次第である。


貨車輸送中のジャージー

△到着した現畜は長途の輸送,環境の変化等のため栄養は余り良くなかったが皆元気であり物食いが良好で一同ほっとした。その後は指導班において毎週2回宛巡回して牛の様子を見指導を行っているが目下のところ1頭の事故も無く順調に生育しつつあることは同慶に存ずるところである。妊娠牛も10数頭居る様であるから初春の候には仔牛が可愛いい啼声をあげることであろう。

△次に蒜山方面への導入についてであるが県北のこの地方は蒜山原野約6,000町歩を有し土地宏大,草資源に恵まれ古来和牛の産地として令名あるところであるが米,山林,和牛,煙草の外は収入源に恵まれず又中国山脈の真中で行政中心地より遥か遠く従来兎角取残されたるやの感がないでもなくこの地方の開発振興は県政上の最重要課題として従来共研究はされて来たのであるが未だ着手の域に達せずして今日に到ったのである。知事さんにおかれてはこのことについて常に御考えになっておられたのであるが幸い本県において集約酪農の事業を計画するに当りこの酪農を採り入れこれによって蒜山農村の開発振興を図るのが最も適切であるとの御見地から計画され地元関係者及び農家の人々が挙ってこの計画に賛同し充分の努力を払う旨決意され本年度200頭の導入が決定した訳である。

△この地方は土地宏大で山坂多く交通の便悪く且地元農家は乳牛に対しては全然無経験である等又県北の関係上冬が早く来て寒中が永く速かに準備を要するので県におかれてはこの地区の中心にある農畜保健衛生所を中心とする外特に酪農講習所及び岡山種畜場から夫々のエキスパートである浅羽,三秋両技師を蒜山地区ジャージー種の専任指導者として派遣されたのである。両技師共未だ年若く元気発らつとして指導力に富んだ人々であるが何しろ土地が土地丈にその後苦労は想像に余りあるものがある。三伏の夏又これからは吹雪すさぶ中を山を越えて遠く導入農家を訪問戸別指導されることを思えば洵に感謝の念に堪えないものがある。両氏並びに永井保健所長の御健闘を切に御祈りする次第である。

△8月3日湯原町に蒜山関係の人々の御参集を願って津山市で行ったと同様導入農家の講習計画,今後の準備指導方法等について打合いを行い8月4日から6日迄湯原町及び川上村において学科講習を行った。而してこの地方には現場講習を行うところが無いので30名の指導員を選び9月1日から17日まで酪農講習所において10名,5日間宛の学科及び現場講習を行った。

△この地方は一町四カ村に亘っているので各町村および関係機関の連絡を図り集約酪農を強力に推進するため推進協議会を組織せられ龜山川上村長を会長として推進せられることとなったことは心強い限りである。

△その後各農家を戸別に巡回指導し畜舎の改新築,厩肥舎,サイロの設置,乾草の調整等を指導し着々準備を進めた。而して現畜はニュージーランドより10月上旬神戸に入港,所定の検疫を終えて29日93頭積出し28日午前久世駅に到着し各町村に分配された。かくして10月31日秋色薫る蒜山原頭川上中学校校庭において藤本農地経済部長初め関係方面多数臨席の上盛大な引渡式が挙行された。然し今回の分は未だ半数でありこれから更に2回に分れて残余の分が導入される予定であるが寒中のことではあり一層の御苦労が察せられる。又この地方としては産乳の処理販売の面について研究着手しなければならない重要事項がある。

△以上は現在までの経過の概要であるが集約酪農の現実はこれからであり関係者一同大いに頑張らなければならない。導入されたジャージー種が大きくなって種付をし仔を産んで乳を沢山出して総べての方面に良い成果を収めることが即ちこの計画の当初から最大の御尽力を下さった県当局を初め関係者の方々の御骨折に酬いる所以であることを思うとき幸い目下のところ順調に生育しつつあるので必ずやこの期待に副うことが出来ることと思うがこの年頭に当り更に一層の努力を心に深く誓う次第である。

 ジャージーの娘よ!! すくすくと大きくなれ。


ジャージーを愛撫する三木知事