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伝書鳩による 精液輸送に成功

 去る昭和29年11月21日千屋,刑部間の伝書鳩に依る精液輸送訓練を完成し,開通式を揚げたのでありますがその間の訓練の模様なり鳩の概要を此処に延べ御参考に供します。

伝書鳩について

 先ず伝書鳩の概要について述べますと要は鳩の帰巣性を利用し訓練するのですが,鳩は元来,性質温順で怜悧な鳥で特に人に馴れ易い反面非常に敏感で恐怖心の強い点は良く注意すべきです。
 鳩の選定に当りましては帰巣性の確実で飛翔力強く速力の速い優秀な鳩を得ることですが之は鳩の血統,飼養,管理及び訓練に依って得られます。
 之を用途別に分けて見ますと次の4種類に大することが出来ます。
一. 固定鳩 繁殖及片道通信に使用
二. 移動鳩 移動性を有し昼間片道通信に使用
三. 往復鳩 固定又は移動鳩に特殊訓練をし往復通信に使用
四. 夜間鳩 固定又は移動鳩に特殊訓練を行い夜間通信に使用
 上の通りですが次に体型についてもうしますと中等度で体重は雄で450-460g,雌420-430gが輸送には適当の様です。
 通常餌は白豌豆,玉蜀黍,麻実,玄米その他青菜,塩土小砂利,石灰が良いのですが青菜,塩土等は放鳩翔上鳩舎以外には絶対止らせない為にも是非必要です。

訓練の状況

 この度の訓練は往復訓練に依る精液輸送を目的としたもので千屋種畜場を棲息鳩舎とし,刑部家畜保健所を食事鳩舎として訓練を行いました。
 その状況を申しますと9月1日岡山種畜場より若鳩10羽を受けて開始しました。最初舎内訓致は3日間位ですが刑部の鳩舎建築が遅れた為1週間舎内訓致を行い次に5日間到着台上の訓致網内の訓練を行って到着台よりの入舎を自由ならしめ愈々9月13日より舎外飛翔訓練にかかりました。刑部の食事鳩舎の建築が少し遅れ9月26日まで之を実施しましたが,普通はこの間の訓練は精々5日乃至6日間位で結構です。その間種々難関に当りました。先ず最初に遭遇したのが鳶群に驚かされたことです。平時余り気付かなかった鳶が放鳩すると一度に周囲の山より表われ飛翔中の鳩を威し掛りましたが幸い10羽の大群だった為か初日のみにて反って飛翔力の速い鳩に押された形になりました。
 以上で千屋での訓練を終り9月27日食事鳩舎予定の刑部家畜保健衛生所に移しました。
 形部では9月29日まで3日間舎内飼育を行い9月30日から10日2日まで3日間飛翔網内訓練を行い10月3日より10月8日迄舎外飛翔を行って愈々最後の往復訓練に掛りました。
 先ず千屋附近での訓練中刑部向け予定コース2里程度まで行って居り刑部では9日より千屋に向けて1日平均2㎞乃至3㎞の予定でしたが山岳や渓谷があったため相当日数を掛け慎重に後退放鳩を行って来ました。
 幸い天候に恵まれ朝千屋側から放鳩すべき予定コースは10月27日に完成しましたが刑部より千屋向放鳩は遅れ途中オートバイで鳩を載せ夕方山上に登り放鳩するなど相当の苦難をなめました。
 時には鳩を背負ってごそごそ草を分けて登って居る時地方のお百姓につかまり不審尋問された時のエピソードもあって筆舌には表わせない苦労もありました。
 然し両者の細心の注意と鳩に対する周到な管理に11月3日刑部側千屋向けコースも終り両鳩舎よりの放鳩可能となり此処に伝書鳩により精液の輸送は完成しました。

(図)千屋刑部間期日別訓練実施表

精液輸送完成の要因

 この度の計画が成功した要因としては,猛鳥に対する害を未然に防ぎ得たことを第一にあげ得ると思います。少くとも10羽程度を一群として飛ばす場合はこれらの害を防ぐことができます。
 千屋,刑部間は途中2高山(海抜1,000程度)があって,猛鳥の棲息は当然ありますが未だ之が為失踪したことはない様です。
 併し不幸にしてこの間1羽の失踪鳩を見たことは遺憾ですが之も雨天の日だった為と思われます。
 以上が伝書鳩による訓練状況の大要ですが,期日別訓練実施表と訓練コースを参考のため示しますと(別表1)及び別図のとおりです。

(別表1)千屋刑部間期日別訓練実施表

9.1 9.2-9.7 9.8-9.12 9.13-9.23 9.24-9.26 9.27-9.29 9.30-10.2 10.3-10.8 10.9-10.17 10.18-11.2 11.3
千屋入舎 千  屋  千  屋 千  屋 千屋付近 刑  部 刑  部 刑  部 刑部付近 千屋-刑部 完 成
舎内訓練 飛翔網内
訓  練
舎外訓練 予定コース
訓   練
舍内訓練 飛翔網内
訓  練
舎外訓練 予定コース
訓   練
間往復訓練
  6日 5日 11日 3日 3日 3日 6日 9日 16日  
64 日 間

 その後の往復に依る精液の輸送状況に付いて申しますと前記の訓練コースは上刑部村大井野経由の約23㎞の処を行いましたが,完成2,3日前には千屋,刑部間の最短距離(略図赤線)の現コース13㎞の往復に変わって居り如何に怜悧な鳥であるかが,伺われます。昨年12月末迄に1羽の失踪を見ましたが現在8羽の伝書鳩に依り毎日雨の日も風の日も猛吹雪の日も大体平均10分乃至12分位の飛翔に依り往復して居ります。
 精液も毎朝2及至4㏄(大体10頭分)を背中のビニロン製ランドセルに背負って行って居ります。
 開通当時の鳩に依る精液輸送と影響について見ますと(別表2)の通りで輸送中には殆んど感差を認めない現状です。
 之に依り刑部は元より之が各地に完成すれば全県下はもとより相当広い範囲に優良種雄牛の配合が出来家畜改良増殖は可弱い鳩の背を借り一大躍進が可能と考えます。
 近い内阿哲郡本郷村,草間家畜保健衛生所,新郷畜産普及所,菅生町へも実施する予定です。

千屋種畜場 々長 梶並久雄
技師 嘉寿頼栄
助手 杉山哲也
牧手長 山上米雄
刑部家畜保健衛生所長 狩野理美

(別表2)種雄牛別精液の状況

第  六  清  国  号 第  四  下  前  号 第  二  入  江  号
月日 時間 +++ ++ ± 月日 時間 +++ ++ ± 月日 時間 +++ ++ ±
11.1
千 屋
(採取)
10 70 10 10 10   11.9
千 屋
(採)
10.3 60 20 10 10 11.8
千 屋
(採)
11 40 30 10 10 10
刑 部
9.15 70 10 10 10   11.10
刑 部
10 60 20 10 10 11.9
刑 部
8.1 30 30 20 10 10
16 70 10 10 10   16 50 30 10 10 20 10 30 30 20 10
11.12 8 60 20 10 10   11.11 8.3 40 30 20 10 11.1 10   30 30 20 20
16 50 20 20 10   16 30 30 20 20 16   20 30 30 20
11.12 9.3 40 30 10 10 10 11.12 8 20 40 20 10 10 11.11 8.3   10 30 50 20
16 30 20 20 20 10 16 10 40 20 20 10 16     20 50 30
11.14 10 30 20 20 20 10 11.13 9.3   40 30 20 10 11.12 8     10 60 30
16 20 20 20 20 20 16   30 40 20 10 16     10 50 40
11.15 8 10 30 20 20 20 11.14 10   20 40 20 20 11.13 9.3       50 50
16   30 20 20 20 16   20 30 30 20 16       30 70
11.16 8    20 20 30 30 11.15 8   10 30 30 30 11.14 10       20 80
16.3   20 20 30 30 16   10 20 30 40 16       10 90
11.17 8   10 30 30 30 11.16 8     30 30 40 11.15 8         100
  14.3     30 30 40            
11.17 8     20 30 50

(冷蔵庫3℃~4℃保存)