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有利で回転の早い 去勢牛短期肥育
成績をあげる三田の熊代さん

 昨年末の第5回岡山県肉牛共進会に去勢牛第1位に入賞した倉敷市三田の熊代哲夫さん(58)は従来メスを肥育して来たが昨年から去勢牛肥育に切替え,昨年中に6頭(共進会出品牛を含む)を肥育売却した。共進会に出品入賞したのは基牛64,000円,7ヶ月飼って12万6千円に売れた。田圃の荒引き,代かき等の労役を10,000円と見積り(労役に牛を借りた場合之れ位かかる),飼料に使った小麦15俵を30,000円に計算し,差引き42,000円のもうけ(肥育労賃に当る)となり,6頭全部では20万円近いものになったという。同氏が一番短期で売却したものには28日飼いで9,000円もうけたのもある。
 熊代氏は水田7反歩を耕作し,もう1反歩はイ草をつけるので6反歩に麦をつけるが反当6俵獲れる麦を1合も売らないばかりか自家産の上麦はできるだけ他の農家の中,下等麦と1俵対1俵半の割で交換して全部を飼料に当てている。昨年のオス1頭はバクロウもすすめるし自分でも1度は出して見てもという道楽気から共進会に出品したが共進会出品は望んで居らず,それよりも経営経済の上から「名誉よりトクを」「名より金を」と心掛け,間に売る牛に重点をおいている。それも①基牛の安い②去勢牛の③短期肥育が遥かに有利だとし,今年度としてはまず第1次として12月に1頭,1月に1頭,2月に1頭と1月違いに3頭を買入れ,90日飼いを目標に短期肥育を計画し,既に之を実行に移している。
 熊代氏は「米麦作よりも肉牛肥育の方が割がよいが,それかと言って人間のエサと牛のエサに米麦も作らなくてはなりません」と言い,又「牛では小使をもうけさせてくれ,米はよけいに獲れるのでこうした米麦地帯では肉牛肥育-それも去勢牛の短期肥育に限ります」と語っているが同氏は牛でもうけた外に稲作でも牛の飼育によってフンダンにできる堆厩肥の利用により購入肥料は世間並の半分も使わないで而も部落第1等の収穫をあげている。即ち昭和28年には反収8俵以上(イ草あとを含む)を得,大凶作の29年産も7俵が7升切れただけだという。稲作施肥は麦の刈りアトの引込み基肥として反当300貫とイ刈前後に追肥として200貫計500貫余の堆肥を用い,その代り購入肥料は基肥に化成1俵と(追肥に硫安1貫300匁1部に用いただけでせいぜい使わぬことにしている)程度を用いているに過ぎない。同地では普通チッ素肥15貫又は化成2俵(20貫)に追肥3-5貫(2回分施)位用いている。
 こう言った具合で熊代氏は収量の上から堆厩肥の効果に益々自信を深め「仮に牛の口銭が少いようなことがあっても肥で取って見せるんだ」との確信の下に牛と米麦作のよりよき成果を目ざして今年は一段と張切っている。熊代氏のこの行き方は米麦作農家ながら世間並よりもうんと肉牛肥育而も経済的に割がよく回転の早い去勢牛の短期肥育に比重をかけたもので農業経営のあり方として極めて示唆に富むものと言えよう。尚素牛の購入につき熊代氏は世間並の牛の選び方の外に特に1,000円や2,000円高くても初めから或程度肉のついた素牛を選んで肥育の効率をあげることを強調している。同氏が信用のある目キキのバクロウに恵まれていることも見のがせない。(光藤健次)