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岡山の山羊飼育者の方々に

日本山羊登録協会 根津八朗

初めに

 ひつじの年の初めに関係深い山羊について皆様に申上げる機会を得た事を幸いに思います。
 昨年未偶然の機会で御地の総社市を御訪ねする機会に恵まれ,その際畜産課の小島技師におめにかかり,色々と県内の山羊事情を御ききいたしました。山羊が緬羊と共に,非常な勢で頭数もふえておると同時に,能力も改良されておる現状で,特に県の家畜保健所が種牡を繁養して,人工授精等も活発になさっておられる事は,新進地帯として,最も迅速確実な改良のコースだと考えます。
 この様な段階にあります御地の飼育者の方々の当面の課題という様な内容について2-3申上げて見たいと思います。

改良について

 農家が食生活を経済を考えて豊富にする場合の山羊の飼育,その乳の利用であります。このために山羊乳は年1人7斗位要します。1日平均2合位のみ,栄養の欠かんも,米の節約も出来るのです。そこで5-6名家族で4石位は必要です。この4石を2頭で搾ると年2石5斗位泌乳すれば,仔山羊哺乳も充分です。
 この程度の2頭ですと,粗飼料中心の飼料ですみ,種付期を調節して最低1升近い乳を1日もかかさず利用出来ます。
 この2石5斗級の山羊は御地でもたくさんおる筈ですし,又県辺りで指定し牡山羊を1回かけさえすれば,仔山羊はこり位の能力はもつ筈です。
 ですから一般の方々は改良については,県や其の他の団体のいう事をきいておるだけで問題ないわけです。
 現に総社市で拝見した山羊は5-6石級のもおりました。

飼い方の改善について

 2石5斗を300日間に搾るといえば,1日平均8合位です。盛乳期に1升8合位の山羊なら,2石5斗は泌乳します。
 ところが1升8合は出すが300日の間乳を搾れないのです。これより早く乳があがってしまいます。
 なぜでしょうか。飼い方がわるいのです。
 「山羊を可愛がる事」元来山羊は緬羊とちがい,飼う人のいかん,やり方で,おとなしくもなれば,あらくもなるものです。可愛がるという気持がなければ,おとなしくもならぬし,又管理もなおざりなります。飼い方では生後1ヶ月からの人工哺乳と毎日のブラシかけは山羊が人によくなつき,おとなしくなれます。広島市の伊東医学博士は熱心な山羊飼いですが,山羊を可愛がるのではなくて山羊に可愛がられる人になれといっておられ,又山羊を改良するのではなくて,人が山羊に改良されるのが本筋だといっておられますが至言です。
 「飼料」1年中蛋白質の多い粗飼料を計画的に準備し,之をたくさん与える事です。山羊は御存知の様に何でも食べますが,山羊の好む,しかも栄養ある粗飼料が色々あります。春夏は只の野草,冬は稲わらだけではなく,飼料作物を作りたい地区もありましょう。
 特に冬は山羊は大切な時期です。飼料は種類も少く,栄養がなくなりますが,一方春からの泌乳で体もやせておるが,未だ乳も出しており,又妊娠もしております。
 交尾のときより分娩のときには,少くとも4-5貫匁位は体重がふえる様にしないと,生れる仔山羊も弱く,乳も出ず,又寿命も短くなります。日本の山羊は4-5才でもうすっかりおばあさんになってしまいます。7-8才迄は丈夫な仔山羊も生み,又乳も相当出します。
 それが4-5才で廃用になるのは,当才種付をして,毎年1回分娩させ乍ら,冬に栄養失調をさせておるからです。
 「仔山羊哺乳」繁殖に残す仔山羊の哺乳は乳を充分に飲ますべきです。今迄一部を除いて哺乳量と期間が短いです。せめて4-50日間はその時の体重の20%位,最初は4合,最後には8合―1升位をのませ,その後約1ヶ月位で離乳する様にします。この間だんだん乳を減らして一般の飼料に馴らします。離乳後の育成は良質の粗飼料の多給,運動,寄生虫の予防と駆虫です。そして秋迄に少くとも8貫匁以上にして種付すべきで,多乳系統の山羊をうまく育成すれば種付期12貫位には容易に生長します。
 「搾乳」搾乳も単に搾るだけなら容易ですが,之は山羊が乳を降すという精神作用が協同しませんと搾りきれるものでありません。
 之には山羊が人になついておらねば駄目です。
 搾乳の技術としては楽ですが,出来るだけ手早く搾る事を1日2回,最後の終乳,たとえ2-3合迄もつづける事が大切です。農繁期に1日1回にしたり,秋9月頃になったというて,1回にするなど,乳が早くあがってしまう原因となります。
 「病気」腰麻痺は予防と治療で100%迄防げ,又は治療出来る様になりました。金はかかるが,防虫金網で小舎をかこえば完全で,種牡等には必要です。
 御地には,植物中毒例,あせび等にやられる例がある様ですが,之は害物を皆がよく知り,食べさせぬ様にすべきです。
 他の病気も大体飼い方の注意で予防出来るもの許りですから,よく獣医さんの指導を受けて下さい。

終りに

 ごくかんたんに岡山新進地の山羊飼育者の方々に,必要な飼育上の改善の課題を申上げ,御参考に供したわけです。
 日本山羊登録協会の支部は県畜産課内にあり,登録事業をやっておりますし,日本山羊協会の支部はありませんが,県畜産課の小島技師に御願いしてありますから,入会され,雑誌「山羊」を改良と飼育に,乳利用等の面に御利用願います。
 尚何なりと私で役立つ事は御申越願います。

(筆者住所 群馬県館林市大字木戸)