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岡山種畜場講座

飼料作物講座
夏作青刈飼料作物について

渡辺技師

 4月5月は夏作青刈飼料作物の播種期であって,出来るだけその地方の適作物を選んで,主として6-8月の3ヶ月間に優良な青刈飼料を豊富に使用するだけでなく,エンシレージとして冬季間の粗飼料を貯蔵するだけの余裕を持ちたいものである。牛乳の生産費を低減すると言うことが焦眉の急務である酪農のきびしい現実に直面しているだけに,尤もこれは見方によっては酪農本来の姿ではあるが青刈飼料作物の集約栽培は特に野草に恵まれない本県南部地帯に於ては格別に考えられねばならないことである。
 最近3-4ヶ所で開催された酪農座談会に出席して特に興味のある事実は乳価安の為乳牛に無理をさしてまで搾乳しない即ち飼料費節減の為濃厚飼料の給与を押え粗飼料を可及的に使用していることであって,搾乳量は減少したが受胎率の向上が顕著になったと言うことである。この受胎率の向上は誠に結構なこととではあるが搾乳の減少と言うことは経営と言うことから考えると,相当莫大な乳牛資本を充分に働かしていないことになって,経営の合理化とは申されない。泌乳量,受胎率の両者相俟って向上することによって始めて合理化と言うことが言われる。玆に優良な粗飼料の給与が大きく呼ばれ,青刈飼料作物の集約栽培の意義が厳存していることを銘記せねばならないと思う。と言う次第で,この夏作飼料栽培は1ヶ年を通じての酪農経営に於て最も重要な行事であるから,これらの作物に関する一層知識を深め真剣にこれと取りくまねばならない。
 さて夏作青刈飼料作物としては数多くのものが照会されていて禾本科のものとしては玉蜀黍,ソルゴ,パールミレツト,スーダングラス,稗,ハトムギ等があり,荳科のものとして大豆,カウピー,大葉ツル豆,マングビーン,ケンタッキーワンダー,ベルベットビーン,ヤハズソウ,クロタラリヤ等で其の他のものとしてはヒマワリ,菊芋,ポンキン,家畜ビート,家畜用人参等がある。しかし乍ら反当栄養収量の点から亦家畜の嗜好の点から亦後作,前作の関係から考えて見るとこれらの内から栽培の価値のあるものは自から限定されている。事実当場でこれらのものを栽培して見て御すすめ出来るものとしては,何んと申しても玉蜀黍と大豆を先ず第一に挙げねばならない。従ってこの2つの作物については可成りつき進んだ調査試験をやり,その結果は本誌を通じて除々御連絡しているが,まだまだこの2つの作物については調査研究せねばならないものが数多く残されている。たとえば南部地帯においては栽培期間を通じて一般に降水量が少く生育に大きな影響を与えているが特に6月下旬以降の第2回播きの場合に於て一層この傾向が強いから適応品種の固定造成と言うことが大きな問題となってくる。また旱害に対する栽培技術の改善と言うことも当然大きく取り上げねばならないと思う。尚これと関連することであるが,玉蜀黍は御承知の通り吸肥性が旺盛で地力を消耗させると同時に,これが単作の場合には土壌の流失がはげしいからこれらの防止についても深く考えねばならない。
 さて夏作青刈飼料作物としては前述の様に誠に多数のものがあるが西南暖地に於て一般に栽培されているものを取り上げて,その栽培概要を一表にとりまとめこの内主なるのについて若干説明を補足して行きたい。

主要夏作青刈飼料作物の栽培概要

種   類 播 種 期 畦 巾 反当播種量 反  当  施  肥  量 収 穫 期 反当収量
硫 安 過 石 塩 加 堆 肥
 
大豆 3月7日 2-3.0 5月7日 6 3 300 7月11日 800
カウピー 4月6日 2-3.0 2月3日 6 3 300 8月11日 800
玉蜀黍 3月7日 3-3.5 6月9日 6 4 3 400 7月11日 1,200
ソルゴー 4月6日 3-3.5 2月4日 6 5 3 400 8月11日 計2,000
スーダングラス 4月6日 3-3.5 2月3日 4 3 2 500 7.9.11 計1,500
パールミレット 4月5日 3-3.5 3月4日 6 4 2 400 8及10 計1,500
4月5日 3-3.5 4月6日 4 3 2 300 8及10 計1,000
向日葵 3月6日 3-3.5 5月8日 5 4 2 300 7月9日 1,200

青刈大豆

 これは夏作の荳科のものとして最も主要なもので,これが代表的なものとしては黒千石,茶千石,いざり,操,等であって当場で栽培していた三度刈大豆を農研で二型に分離され(白色花と紫色花)大変良好な成績を挙げている。単作の場合にはコガネムシの被害を受け易いので生育時期が略一致している玉蜀黍との間混作が望ましい。この場合は単作に比較して被害が少いことを経験している。従って青刈大豆といえば青刈玉蜀黍と言う相言葉が生れてくる。尤もこれは単にコガネ虫の被害防止云々と言うことのみでなく,主な原因は大豆と玉蜀黍を一緒に給与して飼料成分の向上を期待し得ること,(大豆を単独に給与すると牛は余り喜んで食べないし,これを甘味のある玉蜀黍と一緒に給与すると非常に嗜好性を増すだけでなく蛋白質と炭水化物の均合いも良くなり,両者相おぎなって,優秀な青刈飼料となる)玉蜀黍単作の場合は前述の様に土壌流失防止と言うことを考えねばならないので深根性のこの大豆を間混作することが必要となってくること,等である。然しながら間混作の場合でも間作が良いか,混作が良いかと言うことは,仲々結論づけられないが私達の経験では間作の方が色々の点ですぐれている様に思われる。即ち混作の場合は大豆の生育が玉蜀黍に押され勝ちであること,亦実際牛に給与の場合刈取期の関係で玉蜀黍の根元が硬化しすぎて,この部分を切り棄てる場合に,貴重な大豆も同様根元を相当損耗しがちとなること等を挙げ得る。亦反当栄養生産量の点から見ても間作の方が多くなる傾向を認められる。ただ間作の場合は跡地の耕起が混作に比して若干困難であること,播種の際若干煩雑であることが強いて言えば欠点とも言えるが,これ等はたいした問題ではないだろう。最後に反当栄養生産量が多い理由を申上げると,これは大豆の生育と玉蜀黍の生育は略一致しているが,どうしても玉蜀黍の方が早いから間作の場合は大豆を20日前に播種して頂くと大豆の生育がより良好となる許りでなく,両者の刈取適期が一致するからと私達は考えている。

青刈玉蜀黍

 これについては本誌第5巻第3号並びに第5巻第6号及び第7巻第1号で詳細に御連絡してあるので割愛させて頂くことにする。

カウピー

 これはササゲの青刈用品種であって,大豆に比較してすぐれている点は,旱害,虫害に強いこと,再生力が強くて二度刈が可能であることである。蔓性であるから玉蜀黍やソルゴとの混播に適している。玉蜀黍との混作については本誌第5巻第6号登載の当場の調査成績を参照されたい。中国農試畜産部ではソルゴとの混作で大変良好な成績を挙げているがこれは両者とも二度刈可能と言う特性を巧く捕えて栽培した結果である。従って大豆と玉蜀黍の切っても切れない関係にあると同様に,ソルゴとカウピーの組合せは夏作飼料作物栽培上注目すべき存在である。

ソルゴ

 これは別名ロビク,亦は砂糖モロコシ,ソルガム,ナツキビとも言われるもので高梁の甘味種である。前述の様に再生力が強くて二度刈が出来るだけでなく,玉蜀黍に比較して旱害,虫害(ズキムシ)に対しても強く,本県南部地帯に博く栽培をおすすめ出来るのである。しかしながら初期の生育が遅いので除草管理に相当な労力を要することが欠点で,しかもこの除草期が農繁期と合致するので,ともすれば除草不充分で雑草に抑えられることがあるので十分御注意願いたい。この意味から苗床で健苗を育成して移植することを宮崎大学の神崎氏が奨励している。

其の他

 スーダングラス,パールミレット,稗は何れも再生力が強くて二度刈が出来る。スーダングラスは御承知の通り刈取後の芽立ちが早く数回刈取りが出来るが固くなりやすい。パールミレットも同様早く固くなるし家畜の嗜好も良好とは言い難い。ただひかげに強いことが特長であるから,玉蜀黍を播種して1ヶ月後はその間作として栽培することを奨励している人もある。稗は湿気に対して大変強いし前二者に比較して固くならないこと,家畜の嗜好も良好であるから排水,良好でない所では将来大きく取上げられるべきものと思う。
 スーダングラス,パールミレットの栽培に当っては,これらのものは何れも初期生育がおそいから苗を生育して移植栽培をすることがすすめられている。