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(1)一腹の産仔の数と生れた時の体重
一腹の産れる仔の数はお産の数を重ねるに従って増すもので3産から6産頃が最も多いようです。それからは次第に下ってゆく傾向があります。
(2)生れた時の体重
生れた時の仔豚の重さは個体とか生れた仔豚の数,母豚の年令等によって一定していませんが畜産試験場(現農技研)及び当場の調査から見ますと1.101s程度であります。ヨークシャ種はバークシャ種に較らべて幾分軽いし,おすはめすより,栄養のよい母豚から生た仔は栄養の悪いものから生れたものよりも僅かに重いものです。
調査成績
ヨークシャ種 | 産 仔 数 | |
分 娩 頭 数 (死産を含む) |
生 産 頭 数 | |
畜産試験場 | 9.98 (506)頭 | 8.97 (490)頭 |
岡山種畜場 | 9.94 ( 31)頭 | 9.42 ( 31)頭 |
備考 ( )内は調査腹数 |
種 類 | 生時仔豚体重 | 一腹仔豚体重 | 生時仔豚体長 |
ヨークシャ種 | 1.105s | 9.457s | 32.5p |
バークシャ種 | 1.29 | 7.791 | 33.6 |
備考 立川養豚場の調査による |
(3)めす,おすの生れる割合は殆んど同数に生れると見てよいのですが畜産試験場の調査によりますとおすの産れる百分率は50.47%となっており,おすが僅かに多い数字を示しております。当場での分娩頭数(死産を含む)308頭ではめすおす同数となっており生産頭数は292頭でめす143に対しておす149でおすが多い数字を示しております。
(4)立川養豚調査では母親の体の大きさと生れた時の仔豚の体の大きさとの比が他の家畜に較べて最も小さいものとなっております。例えは羊は母羊60sに対して仔羊は4.0sで15分の1に当っておるのに豚では母豚の体重160sと仮定すると生れた時の仔豚の体重は1.5sで100分の1に足らぬことになっております。これは豚が他の家畜よりも安産し易い状態にあることを示していることです。
寒い時分とか気候の不順な時には豚舎内に隙間風の入らぬよう特に注意し又舎内がじめじめせぬよう常に清潔に乾燥さすことです。
産後仔豚は取り上げ箱に入れ親豚を静かにおちつかせ休養を与えてやります。又夏の暑い時分は蠅とかあぶ蚊等が多いですから出来るだけ室内を涼しく虫類を防ぐことに努めてやりましょう。
生れた豚に不揃が出来ないように育てねばなりません。冬生れた場合は寒い時ですから保温した箱に入れてやることです。県北部では3月上旬でも保温の必要があります。仔豚箱の蓋に電球を下げる穴をあけてこれから電球をたらします。更に湯タンポを入れておくと仔豚はスヤスヤとよく休みます。箱の一方に仔豚が出入り出来る口をつくり蓋が出来るようにこしらえておきます。哺乳の時にはこの口から出て乳を吸わせます。仔豚がなれてくると口を開いておけば自由に出入りして乳を吸うようになります。この口に布をたらしておくとなお結構です。
母豚が一応おちついたら仔豚を箱から取り出して乳につけてやります。仔豚がうろうろして乳につかぬときは乳頭をおすようにして搾ると乳が出ますから仔豚の口を乳のついている乳頭にもっていくとすぐ吸いつくものです。このようにして全部の仔を乳まめにつけてやります。仔豚が乳につくと母豚は安心して乳をどんどん出すものです。この際身体の小さいものとか弱そうな分を胸の方の乳まめに吸いつかしてやることです。前の方の乳房は乳が飲み易いばかりでなく量も多く出すからです。
分娩後間もない仔豚は肢が丈夫でありませんから母豚に圧し殺される事のないように注意せねばなりません。
仔豚の1日の哺乳回数は生れた当分は20−30回位ですが日がたつに従って減るものです。人工哺乳ではとてもこんなに飲ますことは出来ません。豚の人工哺乳のむつかしさも哺乳回数が1つの原因だとも言われます。
『乳を出す時間と泌乳量』
仔豚が乳まめに口をつけて終るまでの時間(哺乳時間)は5−6分とされております。この間にほんとうに母豚が乳を出し続ける泌乳時間は20−30秒(分娩当時は長い)の短かい時間です。全部の仔豚が乳についた頃母豚は一生懸命うんうんうなって乳を出すものです。
乳量は個体によって違いがあるものです。ですから泌乳のよい系統を選ぶことです。仔を産んだ当分は多くありませんが日がたつに従って次第に増し20日目頃が最も多くなります。立川養豚場の調査ではヨークシャ種20日目に5,473g(1日の最大量)を出しており,平均1日の分泌量は3,000g余りとなっております。
(1) 豚乳の成分
生れた仔豚には乳位いよい食べものはないのです。特に最初の4−5日間の乳は初乳といって常乳と違って大切な栄養分を多くさん含んでいます。中でも蛋白質と灰分が多いのです。又グロブリンとかビタミンAも沢山入っています。その他初乳は下剤の作用があって仔豚の胎内の便を早く出してくれますし,免疫体をも含んでいて病気に罹らぬようにしてくれます。
豚乳の成分は乳を出している期間中いつも同じではありません。仔豚が発育するに従って又必要によって乳の中の成分と量が変るものです。蛋白質とか灰分は仔豚がだんだん大きくなるに従って多く含まれてくるのです。
(表)豚乳の組織(畜試調査)
水 分 | 全固形分 | 脂 肪 | 全蛋白質 | 乳 糖 | 灰 分 | 比 重 | |
% | % | % | % | % | % | ||
初乳 | 77.79 | 22.21 | 6.23 | 13.34 | 1.97 | 0.68 | 1.0541 |
常乳 | 79.68 | 20.32 | 9.97 | 5.26 | 4.18 | 0.91 | 1.0391 |
牛 乳(常 乳) | 88.24 | 11.76 | 3.54 | 3.1 | 4.38 | 0.74 | 1.0305 |
豚乳の成分を常乳と初乳に分け又牛乳(常乳)と比較したもの
ヨークシャ種が産む仔の数は大体9−10頭程度が普通ですが時に14−15頭も産むものです。一腹につける仔の数は一概には言われませんが母豚の栄養状態,乳の出の良し悪し,お産の度数(初産とか三産とか)母豚の乳頭の数等からにらみ合わせてきめねばなりません。
一般には初産の場合は7−8頭にし,弱いものや,しまりのないものの特に小さいものを淘汰します。二産以上ですと10頭までにとどめることです。しかし仔豚の値段のよい時は出来るだけ育てれば得策となります。他に大体同じ時分にお産している母豚がいますと,里子に出します。仮りに7頭しかその母豚に仔がいないとしますと3頭を里子としてつけ10頭育てさすとか,又手間がかかりむつかしい事ですが人工哺乳で余分の仔豚を育てる手もあります。特に乳をよく出す母豚ですと14頭仔が出来たとしますと7頭宛の2組に分けて初め7頭に乳を飲まし取上箱に入れ,次に7頭を出して母豚につけ,こうした具合に交互に乳を飲ます方法を行うことも出来ます。
生れた仔の数が多い場合とか母豚が病気になった場合,乳房炎等で乳の出が非常に悪い時などで仔豚を育てられない場合にこの方法で育てるとよろしい。前に述べましたように数日違ってお産した母豚で仔の数の少ないものに限ります。里親の糞尿を仔豚に塗って臭をつけてやりますと自分の仔と里子との臭いで別ることが出来ないので自分の仔だと錯覚を起しわが仔同様,乳を飲し育ててゆきます。この際分娩日数が余り違っていますと乳の量とか質が違いますのと小さいとはねのけられるのでうまく育ちにくいものです。
人工哺乳は手間のかかる事と細かい注意がないとうまくゆかないものです。母豚が何かの故障ができて乳を飲すことが出来なくなったとき,他に里子にする適当な母豚がいない時又一腹の仔の数が非常に多い場合,年間の繁殖を多くするときに行います。
この方法は早期離乳飼料とか牛乳,山羊乳で出来るだけ自然哺乳になるべく近い状態にして飲ますことが望しいことです。仔豚の早期離乳飼料(人工乳)は農研の森本博士が研究されました配合割合によって日本科学飼料協会がこしらえて出しているものです。これは農研で試験を重ねましたし又当場でも試験いたしました。
人工乳の試験結果注意せねばならない点をお知らせしますと,生後2日目で仔豚を母豚から完全に離して人工乳で育てることも出来ますが,これは相当の経験がいりますので最初は20日位で母豚から離し人工乳で育てる技術をおぼえ経験を積んでから離乳期間を次第に早めるようにすることが安全です。
仔豚を生後1週間で母豚から離すとしますと(別表)
(1)給与の調理は湯で溶かしてよく練り合せて与えます。湯の代りに脱脂乳又は全乳を用いてもよろしい。
(2)給与の温度はなるべく38−40度に温めることを忘れてはなりません。
(3)常に糞に注意して与え特に20日以後は給与日量に余りこだわらないことです。
(4)離乳後の給与量は少くして下痢の発生を防ぐことが後の発育によろしい。
(5)人工乳をつかった場合初めは母豚についた仔豚に較べると劣るようですがあわてたことをせず続けていますと生後60−70日位になりますと母豚についていた仔よりよくなってきます。
(6)人工乳の切り換の場合は4−7日位で切り換えを終るようにし,糞の状態を見てゆきます。
(7)ビタミンA・D剤を1頭当り2日に1−2滴を人工乳を給与する時添加してやると結果がよろしい。
(8)下痢をさせぬこと。下痢は早期発見,早期治療することです。
牛乳,山羊乳の場合でも同様の注意が肝要です。
給与量と給与回数(1頭当)農研試験給与量
生後日数 | 生後7−14日 | 15−20日 | 21−30日 | 31−40日 | 41−50日 | 51−60日 |
人工乳原料の 給与日量 |
15−30g | 30−90g | 90−225g | 225−300g | 300−500g | 500−800g |
一日の 給与回数 |
7 − 6 回 | 6 − 5 回 |
生後20日位で母豚から離して育てる場合
生後(日) | 16−20 | 21−25 | 26−30 | 31−35 | 36−40 | 41−45 | 46−50 | 51−55 | 56−60 | 61−65 | 66−70 | 計 |
人工乳A | 90−135 | 180 | 90 | − | − | − | − | − | − | − | − | 1s |
人工乳B | − | − | 90 | 200 | 250 | 300 | 350 | 400 | 150 | − | − | 8s |
育成飼料 | − | − | − | − | − | − | − | − | 250 | 500 | 500 | − |
母 乳 | − | − | − | − | − | − | − | − | − | − | − | − |
温湯(水) | 人工乳Aの3倍量 | 人工乳Bの4倍量 |