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本紙1月号に「ジャージー」種の導入までのことを書きましたが,私達の念願通り只今迄のところこの「ジャージー」の娘はすくすくと大きくなりつつあります。彼地で妊娠して来たもの20頭は4月13日までに何れも分娩を終り,その他のものも順調に育成せられ適当の発育に達したものはこの1月から30頭ばかり順次種付を行いました。導入されてから丁度6ヵ月経ちまして困難な冬期の飼育も一応切抜け,これから紫雲英その他の美味しい青刈飼料をうんと食べて一層良くなることでありましょう。この冬期間飼育管理,分娩,育仔について相当手を尽くして世話を致しましたが農家も皆熱心に努力して貰いました結果今日の状態となったのであります。ここに導入後今日迄の概況を御知らせして皆様の一層の御指導と御教示を仰ぎたいと思うのであります。
現在の「ジャージー」種飼育農家は導入前は和牛は永年飼育した人ばかりでありますが,乳牛の飼育については全然経験なく,講習その他は出来る丈致しましたがなおほんとに頭には入り兼ね,且乳牛といえば従来「ホルスタイン」種についてのみ見聞していました関係上、導入について非常に懸念していたことは疑えません。然し実際現畜がは入って見ると思うより生むが易しとかこれらの不安は一掃された様であります。これは主として次の理由によるものと思われます。
(一)体格が比較的小さくおとなしくて扱い易いこと。
(二)何でも良く食べて物食いが良く濃厚飼料が少くて済み飼い易いこと。
(三)愛嬌のある顔をしていて可愛らしく感ずること。
(四)産れた仔牛が大変可愛らしくて「ジャージー」種に対する愛情を一層深めたこと。
か様な状況で私達指導の任に当る者と致しましても安心すると共に将来に対し大いに意を強くした次第であります。
導入当初は未だ牛も慣れず又農家としましても飼養管理に慣れませんので,三日隔位には各戸を巡回して状況を見指導することに致しまして次の通り指導班を編成して万全を期しました。
区 分 | 講 習 所 | 市 役 所 | 北部酪農 | 地区指導員 | 担当地区 |
総務班 | 馬渡所長 早瀬技師 |
− | − | − | 全地区 |
第1班 | 上原技師 | 安藤技師 | − | 坂根指導員 仁木指導員 |
大田地区 |
第2班 | 石原技師 | − | 渡辺技師 | 児玉指導員 中村指導員 |
野辺地区 |
第3班 | 竹原技師 沖 技師 |
− | − | 未定指導員 福田指導員 |
上横野地区 大 篠地区 |
なお毎日の飼養管理の記録をとり将来の改善に資すると共に指導に便ならしめるため日誌を作製して牛舎の前に備付け天候,温度,飼料の給与量,運動の状況,搾乳時間及び数量等必要事項を記載する様に致しました。これは経済能力検定の場合にも必要になりますので正確に記載して居ります。か様にして各農家を巡回し夫々の指導を与え又患畜については夫々の手当を施しました。
又飼料作物の栽培,牧野改良等の飼料対策についてもその都度農家と協議して進めました。
導入当時は長途の輸送と環境の急変のため相当栄養の不良のものがあり,又疾病に罹っているものがありましたので巡回指導の際夫々の手当を講ずると共に概ね一ヵ月に一回当場に集合させて各牛について衛生検査を行うと共に測尺,秤量を行い育成の万全を期しました。
(一)導入当時禿性匐行疹が相当見受けれましたので薬剤を配付し各農家で手当させましたところ現在では全部治癒しました。
(二)軽微な気管支炎等の呼吸器病が散見されましたので度々往診治療を行いました結果治癒しました。
(三)1月の衛生検査のとき背部に牛蝿の幼虫が発生しているのを発見,一同にその駆除法について指導し丹念に駆除しました結果除去されて居ります。このことについては農林省からも指示がありましてこの牛蝿の輸入には閉口しましたが目下のところ心配ありません。
(四)結核その他の伝染病及び寄生虫の検査を行いました。
この衛生検査は当分毎月続けたいと思っております。
津山地区に導入された「ジャージー」種は62頭の内20頭が彼地で妊娠して来ましたがこれは一応分娩を終わりました。その状況は次の通りであります。
(表)期日別分娩状況
分娩年月日 | 性別 | 飼 育 農 家 | 分娩年月日 | 性別 | 飼 育 農 家 |
S29年12月9日 | ♂ | 大 田 清 水 智 | S30年2月27日 | ♀ | 上横野 宮 岡 一 士 |
12.13 | ♀ | 〃 豊 田 嘉 之 | 3.13 | ♂ | 〃 高 山 敏 夫 |
30.1.13 | ♀ | 大 篠 藤 田 笑 夫 | 3.18 | ♂ | 野 辺 高 山 憲 一 |
2.8 | ♀ | 大 田 北 原 一 郎 | 3.29 | ♂ | 〃 児 玉 敏 美 |
2.9 | ♂ | 〃 北 原 岩 男 | 4.1 | ♀ | 大 田 坂 根 信 夫 |
〃 | ♂ (死産) |
野 辺 仁 木 上 | 4.7 | ♀ | 野 辺 児 玉 浄 子 |
2.19 | ♂ | 上横野 未 定 賢 義 | 4.8 | ♂ | 大 田 甲 本 博 |
2.21 | ♂ | 大 田 清 水 五 六 | 4.12 | ♂ | 〃 甲 本 公 一 |
〃 | ♂ | 野 辺 水 島 定 男 | 〃 | ♀ | 野 辺 松 村 数 雄 |
〃 | ♂ | 大 田 甲 本 辰 己 | 4.13 | ♀ | 大 篠 茂 渡 惣 市 |
(表)地区別分娩頭数(昭和30年4月15日現在)
地 区 | 導 入 頭 数 | 分 娩 頭 数 | ||
♀ | ♂ | 計 | ||
大田 | 20 | 3 | 6 | 9 |
野辺 | 21 | 2 | 4 | 6 |
上横野 | 10 | 1 | 2 | 3 |
大篠 | 11 | 2 | 0 | 2 |
計 | 62 | 8 | 12 | 20 |
産仔が雄が多いのは残念ですがやむを得ません。
未だ妊娠していないもので適当と認められるものから当場繋養の国有貸付「ジャージー」種牡をもって順次種付を行いました。その状況は次のとおりであります。
(表)種付状況(昭和30年4月15日現在)
月 別 | 大田 地区 |
野辺 地区 |
上横野 地区 |
大篠 地区 |
計 |
昭和30年 1 月 |
4 | 6 | 1 | 0 | 11 |
2 月 | 4 | 3 | 0 | 1 | 8 |
3 月 | 2 | 1 | 6 | 3 | 12 |
4 月 | 2 | 2 | 1 | 0 | 5 |
計 | 12 | 12 | 8 | 4 | 36 |
これで分娩したもの20頭,種付したもの36頭で未種付のものは6頭であります。
導入前搾乳の指導については当場において行いましたが,いよいよ自家の牛が分娩して搾乳を始めるとなると仲々うまくいきませんので一部婦人についても当場で実習を行って貰い,分娩したところには最初4−5日間当場から職員又は講習生を派遣して実地に行い疾病の誘発がない様にし,又牛乳取扱い及び哺乳等について指導しました結果概ね良好に推移しました。又北部酪農組合においては漸次生産し初める「ジャージー」牛乳の集乳について格別の御配意を願いました。
目下泌乳中のものは日量概ね5升2,3合から6升2,3合で乳脂率は4.5%から7.0%であります。今少し濃飼料を給与すれば更に一升程度は出るのですが最初のことではあり,この程度にして居ります。
生産した牛乳は北部酪農組合へ出荷して居りますが,その販売価格は県の指示に基き市役所,北部酪農及び当場の関係者が協議の結果次の通り暫定価格が決定され乳価も円滑に定められました。
基準価格 集乳所渡,脂肪率3.2%一升につき40円
脂肪率0.1%増加する毎に一升につき1円30銭増
搾乳を開始したものについては農林省の指示に基き経済能力検定を行って居ります。これは概ね一ヵ月に一回各農家の搾乳に立合い乳量,脂肪率等の検定を行い併せて飼料の給与その他の調査を行うもので,県の任命又は委嘱した検査員がこれに当ることになって居ります。検定員は本務の外にこれに従事する訳であり記録も仲々面倒ですが将来における「ジャージー」種飼育上の貴重な資料となるものでありますから一同熱心にやって貰って居ります。
畜舎及び厩肥舎等につきましては導入前既に大方準備して居りましたが一部準備の遅れていたものについては取急いで整備し概ね完了しました。「ジャージー」種の特性と将来の酪農経営上主として粗飼料によって飼育することが肝要なので牧野の造成整備を図るため各部落共鋭意努力して来ました。やがて青々とした広い牧場に可愛い「ジャージー」が悠々と草を喰んでいる豊かな風景が見られることでありましょう。
「ジャージー」種が導入された地区には従来「ホルスタイン」種は飼育されて居らず,又和牛は全戸に飼われて居りますがその乳は人の飲用としては全然利用されていませんでした。山羊を養ってその乳を利用していた人は相当ありましたが市乳を購入して飲んでいた人は極めて一部分に過ぎなかったと思います。然し「ジャージー」種の飼育によって各戸に牛乳を生産する様になりましてから各自家でその一部を利用する様になりましたことは生活の向上,栄養改善上から見て極めて慶ぶべきことであります。殊に子供が自ら喜んでこれを愛用する慣習が出来つつあることは将来のため心強い限りであります。これらの子供が大きくなるにつれ牛乳の消費が普及し,やがて吾国食糧問題の解決にも大いに役立つことでありましょう。
凡そ何の事業でも同業者が相寄って団体を結成し時々会合して協議,研究し又行政機関と連絡をとってその指導を受けたりすることはその事業を伸ばすうえにおいて最も必要なことであり,政府の指導方針としてもそのことが指示されてありますので、県及び市と協議の上導入4部落別に「ジャージー」酪農組合を結成し将来の発展に備えることになりました。その状況は次の通りであります。
(表)「ジャージー」酪農組合
地 区 | 名 称 | 創立年月日 | 組合員数 | 役 員 |
大田 | 大田ジャージー酪農組合 | S29年12月10日 | 20名 | 組 合 長 清 水 正 秋 |
副組合長 山 県 守 | ||||
理 事 仁 木 東 | ||||
〃 坂 根 信 夫 | ||||
〃 甲 本 公 一 | ||||
監 事 北 原 岩 男 | ||||
〃 中 山 操 | ||||
野辺 | 一宮ジャージー酪農組合 | S29年12月19日 | 21名 | 組 合 長 児 玉 律 |
副組合長 中 村 弘 | ||||
理 事 後 藤 正 一 | ||||
〃 仁 木 上 | ||||
〃 高 山 憲 一 | ||||
監 事 永 礼 正 美 | ||||
〃 太 田 正 男 | ||||
上横野 | 上横野ジャージー酪農組合 | S29年12月18日 | 10名 | 組 合 長 高 山 敏 夫 |
副組合長 田 口 瑞 穂 | ||||
理 事 宮 岡 一 士 | ||||
〃 中 井 義 夫 | ||||
〃 田 口 正 夫 | ||||
監 事 片 岡 善 策 | ||||
〃 宗 枝 貞 二 | ||||
大篠 | 高田ジャージー酪農組合 | S29年12月20日 | 11名 | 組 合 長 茂 渡 惣 市 |
副組合長 奥 田 吉 人 | ||||
理 事 福 田 薫 | ||||
〃 岸 本 竹 夫 | ||||
〃 藤 本 達 夫 | ||||
監 事 藤 田 笑 夫 | ||||
〃 目 瀬 重 夫 |
なお将来の発展に備え津山市における「ジャージー」飼育農家が一体となって斯業に努力するため,適当の機を見てこの4組合の連合会を組織したいという希望があり,市役所においてもこれらの組合育成のため出来る丈の努力を約束されて居りますので,何れ行政的の具体的施策が講ぜられるものと期待している次第であります。
「ジャージー」種の飼育管理,飼料対策その他事項について酪農組合の主催をもって毎月定例の研究会を行って居ります。これには当場の地区担当職員が出席してその時期に必要な飼養管理,衛生対策,自給飼料等のことについて説示を行い又農家の質問に応えます。皆熱心で夜遅くまで研究されて居りますことは感激に堪えません。
1月号にも述べました通り本県が集約酪農の指定を受け「ジャージー」種を迎える様になったのは挙県一致の努力の結果であり,殊に知事さんが陣頭に立って尽力された賜であるので知事さんは「ジャージー」種が到着した時の受入式には御覧になりましたが,農家に分配されてから如何な様子であろうかと案じられていた御模様でありますが,1月29日当場並びに附近農家を御巡回になり親しく農家の飼育状況を御視察になり激励していただきました。各農家は知事さんの御越しに恐縮し一同将来最善の努力をもって御期待に副いたい覚悟を新にした次第であります。
「ジャージー」種の飼育については以上の通り相当指導も行い又農家も熱心に飼育に当って来ましたが,この冬期間の飼育管理の状況を検討し将来の改善に資するため津山市の主催をもって5月15日に津山市に導入された牛を全部一堂に集め飼養管理共進会を開催することになりました。この状況についてはおって御知らせします。
「ジャージー」種の導入から今日までの経過については概ね以上の通りでありますが牛の順調な成育,妊娠,分娩,泌乳を図ると共に集約酪農の趣旨に鑑み可及的生産費の逓減を図り酪農経営の健実化を図りたいと存じます。本年度は再び約同数の導入を見ることであるし北部地方の酪農はいよいよ発展することでありましょう。現在は全国的に最も業界不況の秋でありますがこのときにこそ自給飼料の増産利用による経済的飼育を図るべきであります。而して平坦地帯の「ホルスタイン」種と相俟って本県の酪農を一層健実なものにしなければなりません。県当局初め関係方々の此上共の御指導御鞭撻をお願い致す次第であります。
(30.4.18記)