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岡山県種畜場講座

副業養鶏(九)
育雛(3)

岡山種畜場 川崎技師

六.育雛の実際

1. 給餌

(1)餌付迄の取扱

 雛が到着すると予め用意の育雛器の中に羽数を調べて移し,育雛器内を薄暗くして安静にし,一時十分休養させてやります。若し育雛器の温度が適温でない場合は輸送箱のまま暖い部屋に置き休ませます。此の際時々蓋を開けて雛の状態を点検する必要があります。雛が箱内に一面に拡がって休んで居れば良し,若しかたまって寒そうにして居たり,暑苦しそうに口を開いて居る場合は夫々直ちに処置してやる事が大切であります。寒いと思って毛布等で包み過ぎて換気不良と高温により熱射病に犯される事がありますから雛箱のままで置く場合は十分注意をする事が肝要であります。

(2)餌付

(イ)餌付の時

 餌付の時期は雛の腹部の卵黄が八分程度吸収され,主翼が二,三分延びた頃即ち孵化後48時間内外が適期とされて居ります。
 餌付の時期については孵卵場に於て示してくれますから之を守ってやればよろしい。孵化後24時間以前は消化消害を起し,70時間以降になると雛が衰弱します。

(ロ)餌付の要領

 餌付前には前記した様に一度休ませて,その後雛の入らない様にした給水器を以って水を与え,(給水器の中に雛が入る様になって居ると体を濡して思わぬ失敗をします。)その後茹でた卵黄を100羽につき5個の割合で半日与え,次に水浸した小米等を与えます。餌付を行うに当っては前に記した餌を厚手の紙の上に,全部の雛が一斉に食べられる様に与えます。此の際ボンヤリして居る雛や,食べ方を知らぬ雛はその前方に餌を振り落したり,口先につけてやったりして皆の雛が食べる様に仕向けてやる事が必要であります。餌付当日は過食にならぬ様に腹八文目程度与える様にします。

(3)給餌上の注意

 初期一回の給餌時間は約30分内外として約一週間は過食して食滞しない様に腹八文目に給与する事が大切であります。その後は飽食させてよろしい。青菜は3,4日後より細切にして与えます。
 若し朝第1回の給与に際して雛の嗉嚢に触って見て未だ餌が残って居り,食滞気味である場合は給与時間を遅らせて,又量も少な目に給与する事が必要であります。前夜からの餌を持ち越して居る様であれば之は夜の温度が不足して消化不良の為食滞が起って居ると考えられ,夜の給温に注意を要します。
 給餌器は全部の雛がゆっくりと一斉に食べる事が出来る様に余裕を持って居る様にします。
 雛の摂食状態及び,餌の摂取量は雛の健康状態,雛の発育に密接な関係がありますから餌の摂取状態をよく観察し,又摂取量を標準給与量と比較し,更に体重を標準体重と比べて見る事は大切な事であります。
 給与回数は餌付当日は大体1日4回としその後約一ヵ月間は出来れば5回,その後は4回給与とします。

2. 廃温

 廃温とは給温育雛に於ける温度の供給を廃止する事を言います。

(1)廃温の時期

 雛は発育につれて外気温に対する抵抗力が強くなり,又自体より発散する体温により室内の温度も上昇し,温度を要しなくなります。その廃温の時期は発育の程度,健康状態により一概に決定し兼ねますが普通の育雛器に於ては次の基準を以って廃温します。
 即ち酷寒期50―60日,早春40-50日春及び秋30-35日,夏30日

(2)廃温の要領

 廃温は急激に行うことなく,初め昼間に廃温し後に夜間廃温する様にします。廃温後は雛が密集しない様にすることと床の乾燥に十分注意し夜寝冷えをしない様にする事が必要であります。廃温時はそのまま育雛器を使用するか、別室に収容する場合は保温枠等を使用し次第に外気に馴致して行きます。寝冷え等により胃腸カタールを発し,之が誘因となり雛の恐しいコクシジューム症が発生することがありますから注意が大切であります。

3. 中雛,大雛の管理上の注意事項

 幼雛時代は周到な管理は行われ,順調に育つものでありますが,その後廃温し割に心配の要らなくなった時に農繁期に出遭い,又梅雨に遭い油断と手の不行屈と環境の不良により思わぬ失敗をするものであります。責任者を定め周到な管理を致しましょう。
 特に注意を要する事項としては

(一)飼料に於て,前述した様に含有蛋白質を十分考慮して中雛以降は%の高過ぎぬ様に注意します。特に100日以降注意しないと蛋白質含有量が多すぎると体躯の充実をまたず発情して産卵開始し初め小卵を産み,その後休産する事がありますから,体躯の充実後,即ち,発生後白レグ約5ヵ月半後,体重400匁以上で初産さす様にします。
(二)収容羽数は発育に応じて羽数を減じ,密飼にならぬ様に注意しましょう。密飼になると悪癖等いろいろな支障が発生します。
(三)50-60日頃より止木に寝かせますがこの止木は約5㎝程度の角を取ったものを使用し,角のある余り幅の狭いものを使用しない様にします。
(四)中雛,大雛時代に蛔虫の寄生する危険があります。特にコクシジューム症と合併すると大きな障害となり発育不良,斃死の原因となりますから駆虫を行う様にします。即ち発生後約80日間,140日頃に行います。
(五)後述のコクシジューム症に犯される危険が大でありますから前述した様に廃温時の管理に特に注意し,若し発生の場合は早期に発見と同時に早期に徹底的な治療を行う事が必要であります。

七.雛の病気

1.悪癖

 雛の悪癖は飼料成分の不足,管理の不良等によって起る所の一種の病気であります。その中で最も影響の大きいのは食羽癖であります。食羽癖の原因としては密集飼育即ち密飼換気不良、高温の持続、偏性栄養失調(即ち蛋白質,ビタミン,無機物の不足)給与飼料の不足,繊維素の不足等が挙げらます。之等原因を排除する事が心要であります。

2.疾病

 雛は体が小であり抵抗性が非常に弱いものでありまして一旦病気に犯されると治療が困難であり,斃死率も高く回復にも長期を要し若し回復しても著しく発育が遅れ、将来の産卵にも著しく影響しますから他動物に於ても同様でありますが雛に於ては特に予防衛生が非常に重要でありまして,消毒を十分にし,飼養管理を周到にし,病気を未然に防ぐ事が肝要であります。
 良く雛の状態を観察し,元気なく食欲減退し,眼が潤み,或いは下痢,血便をして居る病雛は早期に発見し,別飼とし早期に徹底して治療する事が大切であります。
 雛に特に多い疾病として次のものが挙げられます。 

(1)コクシジューム症

 孵化後1-2ヵ月の雛が罹り易く,病雛は元気を失い,食欲なく忙然とし,羽毛は光沢を失い,だらりと下げ,下痢便をし,後に血便を排出します。急性のものと慢性のものとあり慢性経過のものは蛔虫との合併症になり易く特に注意を要します。解剖して見ると小腸,盲腸は充血,出血し,赤褐色の内容を有して居ります。
 原因はコクシジューム原虫の寄生によるのであって,此の原虫は顕微鏡により2-300倍拡大を以って認めることが出来ます。
 治療は発生の発見を早くし,早期に定められた薬用量を使用する事が必要であって姑息的な治療をしない事が大切であります。薬としては各種のズルフォン剤が販売されて居りますから之を使用されるとよろしい。予防薬としてはフラシン系の薬が用いられて居ます。

(2)蛔虫症

 蛔虫が寄生すると食欲が割にあるにもかかわらず痩削し体重は減少し,貧血を起し,前述した様にコクシジューム症と合併すると大なる障害となります。
 治療としてはフエノチアジン系の薬を飼料に混合して与えます。投薬に対しては,昼を一食絶食させて晩に薬を混合した飼料を与えます。此の際給与した飼料を全部食ってしまうことが大切であります。

(3)佝僂病

 佝僂病に因って生ずる症状としては雛の羽が光沢を失い,食欲は減り,中には異嗜を呈し,悪癖を生ずるものがあり,関節の腫脹,骨の変形を伴い起立不安定となり,胃腸障害を発し,更に症状が進むと起立不充分となり著しく痩削します。
 従来雛の胸骨の変曲は雛を止木に止らせる時期の過早に依ると言われて居ますが,此の大きな原因は佝僂病に依るのであって,佝僂病にかかった雛は骨格が軟く弱くなり彎曲し,又体重の重みにより陥凹彎曲するものと考えられます。
 佝僂病発生の原因として次の事項が挙げられます。

(一)カルシウムの給与不足及び給与カルシウムと燐の比率の不適
(二)ビタミンA,Dの給与不足
(三)日光光線(紫外線)の不足
(四)蛋白質の給与不足
(五)運動の不足
(六)マンガン,マグネシウム,仏素の給与過不足

 治療法としては之等の原因を排除すると共に比較的広い場所に収容し十分な運動と日光浴を行わせ,緑菜を飽食させ,更に要すればビタミンA,D剤の投薬を行います。