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宇治便り

宇治家畜保健衛生所

一. 寸てつ(肝てつ)牛を倒す

 去る3月末川上郡中村,大福義雄氏所有の牛が相次いで2頭も死んだ実例にぶつかった。之を検査したところ全国でも珍しい寄生虫のしわざだと言うことが判明したので御参考の為に御知らせしたい。
 1頭の牛は1年半程の年令で生前に診た時は非常に元気なく殊に顎の下には浮腫があった。下痢もひどく既に往診した時に息を引きとったと言う状態だった。
 解剖してみると腹水が7-8リットルもたまって居り腸はカタールを生じていた。而も変状の甚しいのは肝臓で約2倍大に腫れて居りデコボコになり硬変していた。色は黄、褐,赤黒色等のモザイク様になり割面又灰白色あり黒褐色の部分があり汚い多様の変色が認められた。そして胆管に沿って肝てつと言う寄生虫が200-300匹も寄生していた。
 そして肉眼的にみて肝臓そのものはすっかりその虫によって食い荒されてる観があった。その他の臓器には特に取上げる程の変状はない点からして正しくこの肝てつが牛を倒したものと診断された。
 今1頭の牛も同居牛である。之は生前によく検診することが出来たが前牛と同様栄養不良で浮腫も生じていた。腹部(肝臓部)に圧痛があり軟便を出していた。血液は非常に貧血して居り赤血球は大小不同を生じ幼若球も認められた。糞便検査をしたところ肝てつの虫卵はものすごく又双口吸虫も混っていた。検診した時には元気なく心臓衰弱して居り既に駆虫薬を以って救うには余りに重症だったので対策療法を行ってはみたが予後不良だと判
断した。案定翌日死んだのである。
 之も解剖した結果前牛同様の変化で肝臓には約500匹余りの肝てつが寄生していたのである。
 検診前にはまさか肝てつのしわざとは考えなかったがこうして生前診断より解剖の結果はっきり肝てつ症だと判定したわけである。
 2頭もが同様の症状で而も死んだと言う例は恐らく珍しい事だろうし又如何に肝てつも馬鹿にならない事がおわかりだと思う。
 畜生の方には殊に気の毒だったが実は当所で本年に入ってから肝てつの検診の為糞便検査
をしたが同氏は受検しなかった為検査もれになっていたことがわかった。
 正に寸てつ牛を倒すと言うところだろう。

二. 狐の横行に悲鳴

 宇治の地帯は深い山々に取りかこまれて居り時恰かも新緑の候とてさつき等が咲き乱れ,古語にある所謂万緑叢中紅一点,人を動かす春色多くを須いず。と言った景色で如何にも長閑そうであるが豈図らんや夜ともなれば今尚野獣の横行があると言う話がある。
 最近どうも部落に狐が出没し農家の鶏を失敬すると言う噂でアレヤコレヤと対策が練られているがこの間も100羽許りをバタリーで飼っている農家の方が保健所へ来られ白い15㎝位の毛の鑑定を頼まれた。話によれば昨晩鶏を三羽やられたがこの毛が鶏舎についていたと言うのである。当所でも狐の毛らしいがはっきり鑑定は出来かねているが狐は夜な夜な出没し而もどうも未明の頃らしく一ひねりで鶏を倒し絶対に鳴かせない程の鶏の強盗の名人だと言う。少々の「ワナ」では仲々つかまらないので始末に困ってると言うが何か名案はござらぬかと思案投げ首の態である。