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岡山県種畜場講座

農家・自家用向け畜産加工(七)
鶏(爪雄)肉を主体にしたドメスチックソーセージのつくり方(1)

岡山種畜場 佐藤技師

一.まえがき

 廃鶏の利用法として,燻製鶏の製法を前回11,12月号合併号に掲載したが,今回は同じく廃鶏肉の利用法として,「ドメスチックソーセージ」の製法を,当場において,前後2回試作した折の成績を中心にして簡単に申述べて皆様の御参考に供したいと考えます。

二.材料肉に就て

 一般にソーセージの材料肉としては,豚赤肉(ハム、ベーコン等を取った残肉)を中心に,馬肉,牛肉,緬山羊肉,兎肉,其の他が配合せられるのが普通で,鶏肉は殆んど利用されておりません。元来,寄ハム,ソーセージの材料肉としてしばしば兎肉類を一部配合されておる理由としては,御承知と思いますが,兎肉には非常に結着力が有るからでありまして,その意味で今回も鶏肉に果たしてどの程度の結着力があるものか全々未知でありましたので,安全をきするため兎肉を2割程度加えて見ました。勿論原料肉は総て新鮮な程良いのでありますが又この鮮度が結着力と非常に関係があるのでして,この点良く認識してもらいたいのであります。新鮮なもの程結着力は優れておりますが,又肉種類によっても結着力は異るもので,大体兎肉,緬山羊肉,牛肉,豚,馬肉の順となっております。然し今度の試作の結果よりみて鶏肉にも非常に結着力の有ると言うことが分かりましたが,これに就ては後述致します。今回当場で行った材料肉の配合割合を参考迄に示しますと次の通りです。

  爪雄肉 81.000㎏ 100%
  兎 肉 18.400㎏ 22

三.血絞り

 血液が肉中に多量に残存すると,製品の色合いとか食味を害するばかりでなく,引いては製品の悪変の原因ともなりますから,血絞を必ず行う必要があります。
 血絞りを行うことにより同時に,食塩による適当な塩味がつき,又硝石による発色の効果が出る訳です。これは常法により,次の通り行います。
肉1㎏に対し

  食塩 25.0g 2.5%
             )一昼夜
  硝石 1.25g 0.125%

 ここで血絞りに何故硝石を加えるかに就ては前号でも説明しておりませんから参考迄に極く簡単に説明しておきたいと思います。
 食肉加工の場合には肉特有のあの鮮紅色を出さすために必ずと言って良い位硝石を使用します。即ち食塩の作用により脱色するのを硝石の発色作用により補う訳です。それでは硝石を加えると何故発色するかと申しますと,大体次のような理由による訳です。即ち,特有の鮮紅色を発現さす色素は肉中に,2,3種含まれておりますが,何れも極く微量でありまして大した影響力はありません。それでは一番肉食を左右しておるものは何であるかと申しますと,肉内部の毛細血管の中に残存しておる血液中に含まれておる「ヘモグロビン」と言う血色素であります。この「ヘモグロビン」を普通Hbと略称しますが,このHbは其の儘の状態で空気に触れますと,空気中の酸素と結合して,メトHbと言うものに変ります。このメトHbは暗赤色を呈する物質です。従って肉をそのまま空気中に長く露呈しておりますと,普通だんだんどす黒く変化して来るのはこれがためなのです。従って,皆さんが肉屋で食肉を求める場合には暗赤色がかったものは成可く買わない方が良いということになります。ところが,適当な時期にこれに極く少量の硝石を添加しますと,肉中のHbは次のような変化を起しまして遂にはニトロソHbと言うものに変っていきます。この最後に出来るニトロソHbは安定な鮮紅色を呈する物質でありますので,従って肉製品も安定な鮮紅色を呈することになる訳です。
 硝石を使用した場合には

備考 1.食肉には硝石を還元する作用のある細菌が必ず附着しておりますから(イ)のように変化する。
2.食肉中には乳酸が必ず生じて来るもので従って(ロ)のように変化する。

 次にこの硝石の使用量に就ての注意ですが,硝石は以上のように発色に大いに効果がありますが,一方毒物でもありますから使用量に就ては特に御注意願いたいのです。肉量10㎏に対して18g以下と言うことに法律によって使用量が決められておりますから,この点は特に注意して下さい。この程度で充分に発色は期待出来ます。

四.味付け及び材料肉のに就て

 一昼夜血絞りの終ったものを,ミンチに掛けて材料肉を全部挽肉にします。最初10㎜プレートで1回,次に3㎜プレートで1回,前後2回ミンチに掛ければ充分細かくなります。挽き終った材料は台上に均等に拡げ,次の調味,香辛料を添加し味をつけます。
 材料肉10㎏に対し

  砂糖   20~30g
  味の素  10g
  コショウ 50g
  玉ネギ  100g
          )おろして使用
  ショウガ 50g
  紅粉   少量

 調味が一応終ったならば次にサイレントカッターに掛けます。この機械に掛ける目的は,諸材料肉と調味,香辛料の充分な混合と同時に結着力を充分に出さすために行います。サイレントカッターと言うのは簡単に言えば大きな鉄製の回転する皿の上に転廻式の鋭利な刃が取り付けてあって,皿の上に材料肉を乗せると,皿が自ら回転して,猛烈なスピードで回転している刃の直下に材料肉を運んで行きここで鋭利なナイフで猛烈なスピードをもって細切されるようになっております。元来肉類は,このように鋭利な刃物でスピードをもって切断されて細切されると急遽にねばり即ち結着力が出て来るものです。ソーセージの製品を薄く切断する場合に,ここで充分にねばりを出しておかないと弾力がソーセージが無くて切口が割れ易くなります。従って材料肉の結着力の大小はソーセージを造る場合の生命とでも言えましょう。それ位重要な事です。普通この機械に掛けて充分結着力が出たならば,次に充填を行います。若し農家でカッターの無い場合はミンチで細切された挽肉を台上に乗せ,包丁等で一層細かに切り込むか又はすり鉢等に材料肉を適当に入れて相当におねばりが出て来る迄摺りつぶせば良いと考えます。若し材料肉の種類又は取扱方法が悪くて,カッターに掛けてもねばりが出ない場合には別に結着力を増大するような材料を適当に添加してやらなければなりません。例えば小麦粉,澱粉,ゼラチンのようなものを混入してやればよろしい。但しこうした充填料を加える場合には,量が余り多過ぎれば全体の風味を反って損じますから,その量は適当に加減しなければなりません。普通小麦や澱粉等では材料肉の15%以上は加えない方が安全でしょう。
 次に後廻しになりましたが,今回の鶏肉を主体にした材料肉の結着力の状態はどうであったかに就て少々申し上げて見ますと,実は当初鶏肉の結着力に就ては,果してどの程度のものであるか甚だ疑問でした。従って兎に角安全のため,結着力の強い兎肉を2割程度配合して見た訳です。然し結果的に考えますと,鶏肉には相当強い結着力の出る事が分かりました。今回は厳密に比較はして見なかったが,恐らく鶏肉には兎肉と同程度の結着力が有るものと考えられます。従って兎肉を配合せず,又別に充填,結着料を加えなくても鶏肉のみで結着力充分ある可成の製品が出来ることが今度の試作ではっきりしました。特に瓜雄は肉繊維が粗く,又結締織が良く発達しておりますから,コラーゲン蛋白を多く含んでおり,従って一層この傾向は大であると考えらます。

五.充填に就て

 カッターで充分にねばりの出た材料は次に充填します。普通にはスタッファーと言う特に充填用に造られた機械によって,ケーシング(獣腸)に詰めるのでありますが,当場では,ミンチに特製のラッパ状の筒を取り付けて,これにケーシングの代用として,セロファン紙を巻きつけて充填しました。
 今回の材料肉は先程も申上げたように,鶏肉の予想外の結着力により十二分に粘りが出,これを,次のような要領によって充填しました。先ず,ミンチの刃とプレートを取り除き,その代りに口のところに直径1.5寸,長さ1.2尺の真ちゅう製の円筒を取り付け,次にこの円筒に上質のセロファン紙を一巻半程度の大きさに切ったものを巻かぶせ,その上をレテナと証する金網製のケースで覆い,内部より圧力がかかっても,セロファン紙が容易に破れないように補強します。
 次に材料肉をミンチに詰めて廻転を行いますと,材料は真鍮製の円筒内部を押し出されて,円筒にかぶせてある。セロファン紙の中に円柱状にうまく詰って出て来ます。セロファン紙の中に充分詰ったならば機械を止めます。大体以上のようにして充填しますが,この時の注意としては,セロファン中に材料を一様な圧力で詰めること,材料内の温度を上げないように注意する事が肝要です。
 切角の結着力も温度が高くなればなる程失われて行くもので,この事はひとり充填の時のみに限らず,肉製品を製造する場合には常に注意を払わねばならぬことで,既に屠殺の時から兎に角温度を出来るだけ低く保って材料肉を取扱う事が必要です。この事が良い製品を造る必須の事でもあります。
 充填の終ったものはレテナに入れたまま又はレテナを取除いて糸でロールし補強した後,燻煙に移る訳です。

(以下次号)