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岡山県種畜場講座

緬羊の薬浴と離乳

津山畜産農場 沖 技師

薬浴

 緬羊の体には時としてダニ,シラミ等の外寄生虫が居り而皮膚病も発生するものである。これ等外寄生虫を受けた緬羊は日夜羊毛を咬んだり,或は角張った木材に皮膚を擦りつけて掻いたりしている。この寄生虫は緬羊の血液を多量に皮膚から吸収して生命を支えている為に緬羊の栄養低下を見る事は必至であり,又脱毛等によって毛質を著しく低下し母体,生産物両面に甚大な悪影響を受けるものである。緬羊は一年中多量の羊毛を被っている為にこれ等寄生虫,皮膚病が発生した場合でも駆除はなかなか困難であるが幸いに現在は剪毛直後で最も毛の短い時で,この時期こそ駆除の最適時と言えよう。薬浴は外寄生虫の駆除及び予防の目的のみならず皮膚の健康増進及び羊毛の発育促進の為に頗る有効なものであるから緬羊飼育者は外寄生虫が居ると居ないとに拘らず年一回の薬浴を励行したいものである。
 最適の時期としては剪毛後20日位経過した頃行うのがよく,大体5月から6月の始めになるものである。薬浴剤としては「クーパー薬浴剤」がありこの使用法は1ポンドを先ず少量の水で濃い糊状に練り漸次水の量を増しよく撹拌しながら小塊のない液とし後,これを3斗の水に溶かして使用するがこれで緬羊の毛長体躯の大きさによって多少異るが,大体20頭位を1回薬浴する事が出来るので集団的に飼育されている地帯では共同購入によって行うと経費も少くてすむ。少数の緬羊の薬浴を行うにはこの液を4斗樽に入れて2人で緬羊の前後肢を別々に保持して羊体を樽の中に入れ体の液から出ている個所特に頭部等は均等で流し全体が完全に皮膚まで浸る様にし,浸ったならば引き上げて羊毛中にある薬液を絞り取って放し,羊毛を乾す。この際絞り取った薬液は樽の中に返る様にすればよい。薬浴は成緬羊のみでなく,仔緬羊にも行わなければならない。
 これは成緬羊が剪毛されて,外寄生虫が新しい棲家を仔緬羊の皮膚に求める為で,この時期には仔緬羊は寄生虫にとって最もよい棲家となるので,総ての寄生虫は,成緬羊の剪毛後10日位で,仔緬羊に移行するものであるから,この時期に当り,寄生虫の駆除の外に種々な目的があるので,出来得る限り成仔を一時に行う事が最も望ましい。薬浴に際して注意する事項を述べると,
一.雨天の日を避け,晴天の日を選び,午前中に行って,夕方迄には羊毛及び皮膚が完全に乾く様にする。
二.薬浴する緬羊には過度の運動や,渇を感じしめることは禁物であるから,薬浴の前には緬羊を追い廻す事は是非避けなければならない。
三.薬浴は性急に行わず,薬液が充分皮膚まで浸み込む様にする。
四.薬浴剤は充分水に溶かし,薬浴中樽内に浮いた糞は充分除去する。
五.薬浴後羊体が完全に乾燥しない間は飼付けを避けた方が安全である。
 以上薬浴について簡単に述べたが,言わば緬羊の薬風呂で1年1回の薬浴によって寄生虫に禍いされるのがなくなる事は,健全な成育と良質の羊毛をより多く生産出来るから,まだの緬羊には早急に行う必要がある。

離乳

 仔緬羊は生後3~4ヵ月経過すれば飼料のみで発育が出来る様になるから,母羊から離さなければならないが,この離乳は仔緬羊の発育状態母羊の栄養状態などによって決定しなければならない。一に飼育者は離乳について無関心の様であるが,哺乳期間の長いことは仔緬羊にとっては栄養上誠に望ましいことであるが,母羊にとっては泌乳の為に衰弱し,次期の種付期までに栄養が回復せず,繁殖に支障を来す事があるから相当な時期には離乳して次の繁殖期に備えなければならない。離乳は仔緬羊の発育が極めて良好な場合は早目に又不良のものは0.5~1ヵ月遅らせる様にする。
 又母羊の栄養悪く,母乳が涸渇した場合には仔緬羊の発育如何に拘らず離乳しなければならない。普通離乳は仔緬羊の体重が23㎏以上になって行えば適当と考える。離乳の方法には種々あるが,昼間か又は夜間のみ親仔別居させ4~5日目から全く隔離する方法がよい。
 離乳の当座は親仔相慕って鳴くが,数日経てば両者共忘れてしまうものであるが,出来得れば最初から遠く離して置くのがよい。離乳後母羊には乳を涸す為に飼料を幾分減らし,一週間位は乳房をよく検査し,乳の出るものは1日1回又は2回搾って乳房炎を未然に防ぐことが大切である。又仔緬羊は離乳によって栄養に富んだ母乳を失い,これがため発育が一時鈍ったり,停止したりするのが常であるから,離乳による衝撃を最小限に止める様に,良質の飼料,即ち出来るだけ発育を促進する蛋白質の多いクロバーをはじめ禾本科牧草,畦畔の軟い草を1日2㎏と大麦100g,麩70g,米糠30g,大豆粕30g,合計230g位は給与する必要がある。緬羊は草のみでも生育出来るが,現在の緬羊飼育形態では仔緬羊の育成には生草のみでは優秀な緬羊の育成は出来ず,濃厚飼料の補給なくしては不可能である。仔緬羊には運動を充分させる必要があり,この為には出来るだけ草生えのよい放牧繋牧地を選んでやらなければならないが,内寄生虫に仔緬羊は特に冒され易いから,内寄生虫の侵入の虞れのない新鮮な土地を選ぶ事も必要である。一般に緬羊の完熟は4才頃であるが,完熟迄を100%とすると其の中の75%は生後1ヵ年間に発育し,更に其の1年間内の発育の50%は生後3ヵ月間に発育すると言われる。即ち緬羊の一生にとって,発育の最も旺盛な時期は哺乳期間であり1ヵ月に約2貫匁増体し,甚だ旺盛であるが,離乳によって発育は鈍るものであるから,離乳迄に旺盛な発育をさせておく事が,離乳後の管理と共に仔緬羊の育成上最も大切である。