ホーム岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和30年6月号 > 岡山県種畜場講座 夏期の乳牛管理

岡山県種畜場講座

夏期の乳牛管理

松尾技師

 じめじめと降り続いた鬱陶しい梅雨が晴れ上ると次に来るものは暑い夏です。  備前で名高い蒸し暑い夕凪,備中の藺刈,蚊の群襲来ともなれば,炎暑もいよいよ本格的で欲も得もない,只々清涼を渇望するのみです。  人の世界は貧富階級の差はあるが,それぞれ団扇,扇風器,冷房装置等を使用し,簡単なものは真裸にぬれタオルをかたにして,暑さから免れていますが,牛舎の乳牛は如何にしているでしょうか。先ず夏期の畜舎を伺って乳牛の動静を見て,すみよい畜舎にして乳牛を守ってやりましょう。  薄暗い換気窓のない排糞が堆積して悪臭が鼻につく牛舎で与えられた青草も食い尽くさないで暑そうに口をあけ,舌を出し,流涎して起立しては居ないでしょうか。こんな牛舎につながれた乳牛は泌乳どころか,体温の調節,均衡,失調から食欲は減退し,疾病(熱射病)に罹ります。  又夜に至るも電燈をつけたままにし,体に蚊が蝟集してはいませんか。こんな牛舎の乳牛は充分な休息が得られないために神経衰弱脳炎にかかります。御承知の如く乳牛舎は肥料製造工場ではなく,食料品製造工場であるので衛生第一義です。よい牛乳を生産するために又乳牛の保健と管理の能率化のために次の事項を実施しましょう。 一.牛舎には寒暖計を必ずかけること。  適温は摂氏10度~17,8度であるので20度以上,殊に25度以上を指示した場合には,その牛舎に1時間以上牛と共に起居を同じくして,一切の動作を見ながら身をもって暑さを体験すること。 二.通風,換気を良好にするため昼間は防虫金網を取りはずし,新鮮なよい空気を舎内に導入すること。 三.衛生と清潔を旨とするため,敷藁の交換,排糞の搬出を励行し悪臭瓦斯の発生,牛体汚染の防止に努めること。 四.給水回数を増加し,ことに昼間は冷たい汲みたての水を欲しいだけ飲ますこと。 五.昼間は時々蝿打ちを持って牛体,飼槽に蝟集している蝿を打ち捕り,又夜間は天井に泊っている処を捕ること。殺虫剤(D・D・T)を天井壁腰板等に散布する場合は牛を舎外に引出し,如何に人畜無害の保証があっても牛体に附着することのないようにすること。 六.夜間蚊の襲来を防ぐため,金網を張りすぎ換気不良や,蒸熱が鬱滞することのないようにすること。 七.暑さのため食欲が減退し,飼料を残すことが多いので,濃厚飼料の給与については質と量をよく勘案して無駄のないようにすること。ことに発酵し易い豆腐粕,米糠等の給与については気をつけること。 良い新鮮な多汁性の青草を色々取り合せて無駄なく,味よく採食さすこと。 八.舌を口外に涎出し泡沫を流している時は舎外の涼しい木蔭の下に出してやること。落ち付いてから水浴又は,冷たい水(びっくりするような泉や,井戸水はよくない)を静かに牛体に注ぎ清涼と洗滌を加味して行うと効果的であります。 九.手入は必ず舎外に牽出して。夜間蚊に吸血されて痒がっている処や,皮垢を刷毛か,ぬれた布で拭ってやること。  夏は被毛が短く薄くなっているので,金櫛で皮膚をこすらないようにすること。  洗房,乳頭が蚊や蝿に侵されやすく,又これを牛が防ぐためによく局部が傷つきやすいので,蹄の手入をよく励行して事故防止につとめること。 十.運動は静かに朝夕の清涼時に野生草を採食させながら牽運動を行うこと。浅い砂底の清流に入水してやると,蹄洗が加味されより効果的であります。 十一.種付,泌乳中のもの,未経産牛により,発情の強弱が夫々あり,ことに泌乳中のものは,其の発見が困難でありますが,朝夕よく監視して時期を失うことのないように種付を実施して来春の最優良時期の分娩を図ること。