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時報

風知生

一.種畜場ニュース

 岡山種畜場の4月はうぶ毛に包まれた様な柔らかい新緑と,その緑に中に点々として燃える様な赤いつつじの花で粧われる。5月ともなれば,薫風は木の間を縫い,緩に南の花が花房を重たげに垂れ静にゆれている。時折り聞えてくるうぐいすの鳴き声は,この静かな清々しい雰囲気を牧歌的な詩情の境地にする。
 眼の下の畑!! それは5-6ヵ年の長い歳月の間,営々として培われてきた畑であるが,濃緑の燕麦で一面を覆われている。これらの畑を縁どっている堤にはクローバーの毛せんが敷かれ、かすかに白と赤色の小さな花が数限りなく,その毛せんの中に浮かんでいるのが見える。
 4月と5月の種畜場は全く希望に満ちた緑一色に包まれている。この美しい山影に限りない楽しい明日の夢を見つつ,はぐまれてきた。この種畜場を愈々防衛庁に移譲決定し,既に4月の始めから作業部隊が移駐して,旧牧石中学校の校庭はテントで埋まれ,朝から晩まで,逞しいブルドーザー,重圧を感ずる貨物自動車の騒音,その騒音の中を鳥の如く飛び交うジープ!! 建設の突貫工事が繰り返されている。
 山腹には昨年,また一昨年と同様相変わらず美しいつつじ,ふじの花が咲き乱れ梢は初夏の訪れを喜ぶが如くみもだえしているが,環境は一変し豊かな詩情が織りなされていた雰囲気はこわされ、現実的な無機的な相貌に変転して仕舞った。
 しかし吾々場員は新しい感覚で近代化された施設を持つ種畜場が他に建設されるまでは,たとえ自衛隊補給廠の合世帯の為に事業の施行その他について多少たりとも不便であるとしても,それを償い克服して,今日も,また明日も絶ゆまない努力を家畜の為に捧げねばならないと一層奮起せざるを得ない。
 何かと関係者各位に対し御不便を,特に御来場の際には入場許可について煩わしさを御掛けせねばなりませんが,何卒御寛容下さって,より一層御支援の程をお願いして己まない。
 次に本講座で馴染み深い花尾技師は愈々予定通り本県畜産課に帰られた。在任期間は僅に10ヵ月であったが,職員間の精神的な紐帯を強固にして頂き,和の力で仕事を愉快に能率的に運ぶ傾向をより一層強めて頂いた御努力に対しては,心より感謝申上げねばならない。それだけに,特に移転を控え,多年多難な種畜場の現況からして,花尾技師を失ったことは,替けがえのない大黒柱を取り去られた家見た様に,あぶなくもありまた淋しい限りである。尚本年度新人として入場した上野副手(岡山大農学部)は種鶏係として石田助手(広島大学水畜産部)は種畜係に勤務し夫々業務に新鮮さを加えている。

二.試験調査

 先般御連絡した試験設計の中で,酵母の種鶏に対する給与試験は漸く終了したから,その成績は来月号で御知らせする。乳用種雄牛に対する試験の方は目下順調に継続中で,その成績は7月号で御報告できると思う。飼料作物に関する試験調査では,蕪菁の跡策としての青刈イタリアンライグラスの播種期及び刈取回数についての調査を行っているが相当興味のある成績が挙がりつつあるから,これについては来月号で御知らせ出来ると思う。又青刈玉蜀黍と青刈大豆の間作に関する試験は相当の面積の試験圃場と労力を掛けて目下実施中である。最後の播種が6月中旬になるから恐らくその成績全部纏まるのは9月下旬であるから7月号で中間報告でも掲載させて頂くことにする。

三.産卵能力集合検定成績

 目下検定実施中の検定鶏について検定開始後の3ヵ月の産卵成績については,4月号で前年のものと対比して御報告したが,その後雑用に追い廻わされて遂々その経過を御知らせ出来なかったことについて,読者の1-2の方から御注文なり,御叱言を頂いたので,当然のことではあるが今回元気を出して筆を取ることにした。何にしろ4月早々から前述の種畜場ニュースで御知らせした如く,場内はむしろ狂騒音に包まれたと,申しても過言でない程の環境に変わったから,最も鋭敏な検定鶏にはその影響がすぐ表われるだろうと,実はこの点について部隊移駐前から惣津課長と共に随分心配したし,亦出来る限り環境に次第に馴応させる為には自衛隊の幹部の方と相談し鶏舎附近に於ては自動車の速度を制限し,またその通行を迂回する等の措置を講じた。と言う結果からして予想される程の減産を見せなかったことは,何をおいても喜ばしいことである。しかし何んと申しても,あれだけビリビリした末梢神経を持っている検定鶏であるから,或る程度の悪影響は認め得られた。と言う訳で検定依頼者の方には全く申訳も有りませんが,全般的に見て全国的な水準以上の産卵を見せていることと,前年に対比して相当の好成績を示していることをせめての申訳と致したい。即ちその比較した成績は次の如くである。
 ともあれ昭和30年度における産卵能力集合検定は新しい土地で,そして新しい建物と清新な気概で開始される予定であるが,その成績を今から楽しみとして,目下御預りしている検定鶏についてはより一層その飼養管理に万全を尽くして御期待に副いたいと検鶏役員一同頑張っている。

(表)検定成績比較表(自11月1日至4月30日産卵率85%以上のもの)

年 度 別 種  類  別 検定開始羽数 85%以上産卵鶏羽数 同左開始羽数
に対する割合
昭和28年度 単冠白色レグホーン種 180羽 45羽 25.00%
横斑プリマスロック種 20 6 30.0
昭和29年度 単冠白色レグホーン種 250 131 52.4
横斑プリマスロック種 40 14 35.0