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巻頭言

荊の道

惣津律士

 梅雨期が近づくにつれ,ぐずついた天気と蒸暑い気温の日々に見舞われている昨今では,からっと晴れた空を恋しがるのは人の常である。
 我が畜産界も依然として重ぐるしい空気にあえいでいるが,この中にあって真剣に打開に努力せられている関係者を我々は見逃す事は出来ない。
 とてもこれ以上は堪えられないと断念して愛牛を手離される農家も多いし又こんな事では日本農業の再建は出来るものかと嘆き,政策の貧困と社会機構の欠陥を指摘する人士も少くない。世界経済の中にあえぎながら身を守る日本経済の姿は実にいたいたしいものがある。げに苦しい時代である。而し我等日本人としては各自夫々の立場に於て今こそ国を愛する精神を高揚して奮起しなければならない。
 常に苦しい立場に置かれる農家は自らの協同の力と正しい知識の獲得によって明日への希望をもって是非とももっと,耐え忍んで戴きたいのである。
 今日の畜産の不況の原因は第一にデフレ政策の強い影響であり其他各種の事項が挙げられるが,徒らに姑息的な方途のみでは解決出来ないものがある。私は前号で和牛政策を強力に打出すには全国組織の必要な事を申上げた。既に新聞紙上で御承知の如く,中国地方が主体となって全国和牛農業共同組合連合会(仮称)の設立が準備せられ,全国各府県の協力を得て近く成立せんとしている事は,和牛政策の貧弱性が全国を通じて強く批判されている今日に於て,国,県及び民間の協同の力の結集の結論として,明日への和牛の振興の為め誠によろこばしい事である。
 勿論本県としても先般来沖縄への妊牛の移出,他県への販路拡張に懸命の努力が関係者によってなされているが,本年秋の県共進会への期待もけだし大きいものがある。
 今年は新見市で開催せられる事と決定せられ,而も和牛のみに限定されて各種の付帯事業が花々しく行われる予定であって,和牛界に思い切った斬新性と活気を与えたい念願で一杯である。各郡の出品者は種々困難な事情を振り切って,本県和牛の名誉のために出品に格段の奮起をして戴き度く,紙上を借りて御願いする次第である。