ホーム > 岡山畜産便り > 復刻版 岡山畜産便り昭和30年7月号 > パラチオン禍を未然に防ごう

パラチオン禍を未然に防ごう
昨年の県下被害状況

 昨年から本格的にパラチオン系有機燐剤の農薬が使われるようになり,その反面又,人畜の被害も全国的にみると相当の数字を示しております。今年も又これらパラチオンの薬剤散布の時期がやって参りましたが,今年はこの薬剤による被害を最少限度にとどめて頂きたいと思います。
 そこで昨年の被害状況をお知らせして,本年のパラチオン禍を未然に防ぐ一助にして頂きたいと思います。

一.被害の内訳

 パラチオンによる被害の内で,まず人についてみますと,散布時の被災が男14人,女1人,計25人でそのうち男1人が死亡しています。過失使用の被災では男7人,女5人,計12人でそのうち男1人,女1人が死亡しています。自殺に使用したものは,男2人,女2人でそのうち男2人,女1人が死亡しております。このほか他殺に使用したものもありましたが,事前に発見されたため中毒症を出すまでに至りませんでした。
 次に本論の家畜の被害ですが,和牛9頭被災の内2頭死亡,乳牛5頭被災で全部全快,山羊3頭被災で全部死亡,めん羊2頭被災で全部治癒,鶏20件で2783羽被災のうち452羽が死亡しました。

二.被害の時期

 第1回目の散布による被害は7月10日から7月23日の間に起っておりますが,何んといっても一番弱いのは鶏です。被害の状況は一概には申されませんが粉剤より乳剤の方がはげしいように見受けられます。

三.被害状況

 まず和牛についてみますと,2才の去勢牛は乳剤を7月14日散布した水田より2mの畦畔の草を翌日約1時間採食し翌日症状が現われ7月19日に死亡,1頭は7月23日に粉剤散布直後10m離れた草を食べ,翌日症状が現われ7月31日死亡しています。散布水田から20m-50m離れた草を食べた和牛は散布後4日経過していても発病しています。しかしその全部が全快しています。
 乳牛も距離が15m以上離れていたことと,採食が散布後数日たっているため治癒しています。
 山羊は,散布水田から20m-100m離れた所につないで死亡しています。
 鶏は100m以上離れていても死亡し,特に被害の多いのは,散布田に鶏舎の窓が面している場合で,散布田の方向に窓が面していない方が被害が少い様です。

四.中毒症状

 牛では瞳孔縮少し,涎を流し,食欲減退、被毛光沢減少,食滞或は下痢,頻尿,呼吸は促迫し,歩様フラフラし,肺炎症状を呈し,ついには起立困難となり死亡します。
 鶏では瞬膜を露出し,涙を流し,嗉嚢は食滞を示し,食欲はだんだんと減り,ついに死亡します。肉冠の色はあせ,萎縮し,水潟下痢又は緑色を帯びた下痢をし,羽毛は逆立し産卵中止又は減退して呼吸は早くなり仮睡状態を経て死亡します。

五.処置と予防

 牛,山羊,めん羊では散布水田の附近の野草の給与は散布後20日間位は止め,降雨のあった場合はその程度に応じて3-5日短縮するよう心掛け,被災の場合は直ぐに獣医師の診察を受けましょう。
 鶏では散布時,事前に通知を求め,ムシロかカーテン等で窓を覆いましょう。被災鶏には硫酸アトロピン錠を30羽に対し2錠程度を水剤として応用又は同量の注射によって初期のものは或程度効果はありますが,処置のおくれたものは効果がありません。このほかテラマイシン,にんにく等も或程度効力があります。
 以上大要を記しましたが,なかなか治療しにくいものですが,これを未然に防ぐことは人為的に完全にできますから,使用上の注意を厳守しましょう。

六.今年の被害第1号

 今年も水稲病害虫の発生防除の薬剤散布が始まったが,総社市内某氏所有のオス牛が6月16日の夕方BHCとホリドールを散布した苗代の水を飲んで死亡,早くも農薬による犠牲を出した。