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水田酪農の最高線をゆく合理的経営と成果

光藤健次

 岡山大学農学部長永友教授や県農業改良課専門技術係田中技師から県南部水田酪農の典型だとして最大級の称賛を受け,その研究的,計画的,合理的な行き方において正に県下の最高線を示す西大寺市豊地区門前の太田生一郎さんの経営を紹介しよう。

経営の概要

 太田さん(37)は現在水田7反(2毛作田),畑6畝,搾乳牛2頭,鶏約40羽を以て農業を営んでいるが,家族は5人で家族労働力は本人(労働力1人歩),妻(0.8人歩),及び75才の老父(0.5人歩)の3人である。

計画実施

(一)昭和23年4月,11ヵ年の軍隊生活から負傷のアトを残して復員した同氏は米軍単作地帯の労働偏重農業に堪え得ないため,「体を使うより考える農業を」と志し,年間労働平均化のためまず乳牛1頭を昭和25年9月に導入した。
(二)之と共に飼料確保のため水田裏作の作付転換を始め遂に100%の転換を達成した。即ちその約3分の1は実取り麦,あとの3分の2は所謂飼料作物でレンゲ3反3畝(2反分はサイレージに当て,あとを乾草と青刈用),青刈燕麦1反,レープ5畝,葉菜類7畝,甘ラン6畝(極早生,早生,中生),青刈ソラ豆2畝,青刈大豆5畝等を輸換栽培する。(三)次は労働のピークを崩すため裏作を4毛化して水田を5毛作とし,藩種及び収穫期を年間に配分して労働の平均化を計画実施した。即ち藩種は10月上旬レンゲ3反3畝,同20日頃青刈麦1反(稲の中),11月中旬実取り麦2反7畝,12月上旬葉菜類―体菜,レープ,甘ラン等の定植(2回目は直播),4月上旬青刈大豆(麦と葉菜類の間)の如くし,又収穫は12~5月青刈麦4回刈取,2~3月葉菜類,4~5月レンゲ,4月下旬~6月上旬甘ラン,6月青刈大豆,実取り麦の如くした。(この外に麦作水稲の播種,田植,収穫がある。)(四)こうした労働平均化の計画実施と共に労働の能率化及び資材や生産の効率化のため ①生活改善―簡易水道(28年),電気洗濯機(29年)の設置 ②牛舎の改造(繋留式及び糞尿分離式) ③堆肥舎,ワラ積場の建設(自宅と耕地との中間) ④交換分合(1反5畝)により耕地の集団化(自宅より約150m─27年) ⑤牛乳等運搬のため軽2輪車購入 ⑥サイロ設置(9.5×5.5尺―27年) ⑦台バカリ備付(合理的給与のため飼料計量) ⑧風呂カマド,炊事カマド改善により燃料ワラを節約し牛舎敷ワラに転換 ⑨肥溜槽設置(肥効と労力の関係上) ⑩暗渠排水(交換湿田1反5畝―28~30年継続事業 ⑪牛舎にラジオ設置等を行った。この牛舎ラジオの効果について太田氏は乳量増加とか搾乳作業容易とかの点はハッキリわからない。然し「早起鳥」その他ぜひ聞き度いと思う事項を本宅まで帰ることなく,聞きながら作業ができる点で大変よい。
と言う。

成果

 以上実施の成果について見ると(一)昨年の水田裏作飼料作物の収量では

(表1)飼料作物収量

レンゲ(2.3畝) 2,030貫
青刈燕麦(0.8) 295
体菜(0.8) 260
青刈大豆(0.5) 170
レープ(0.3) 160
甘ラン(0.2) 80

を得,こうして飼料の自給率は栄養価(タン白質は大豆系数,全栄養は小麦系数による)において年間平均77%,価格において66%となった。(二)堆肥は乳牛2頭で6,000貫が得られ,水田7反に反当900貫を施すことが出来た。米麦作のみの場合は作付転換期即ち年2回入れる所を飼料作物の栽培により年間4~5回に分施できる。このため表2,表3の如く購入金肥は年々節減ができ而も米麦は年毎に増収という結果を得ている。(三)最後に水田農業に乳牛を取入れた同氏の経営の経済的内訳を見ると

(収入総計 607,681円)
現金収入  413,017
(支出総計 467,118円)
農業経営費 159,867
農外出費  1,750
租税公課  20,757
家計費   112,587
支出計   272,454
差引余剰  140,563
となり,その内乳牛関係を抜出して見ると
支出    203,095円
収入    265,827
差引余剰  62,732

で,支出の内訳は購入飼料費44,940円,自給飼料費100,955円,敷ワラ費17,520円その他衛生費,保険料,成牛・酪農大農具・畜舎の償却費等である。又収入の内訳は牛乳代(販売20.06石,自家消費2.87石)12万9,000余円,飼料作物・尿・堆厩肥等酪農圃場生産物及び副産物12万8,000余円,子牛処分収入及び役利用8,400円等である。

(表2)米麦施肥量(反当)

年 次 堆肥の
施肥量
金肥購入施用量
金額 水 稲
石 灰 石 灰
              
24 450 3,171 12 5 10 10 4 10
28 780 2,656 9 4 10 9 9 3
29 900 2,330 6 3 3 15 8 8 3

(表3)米麦収穫量(反当)

年     次 水     稲
収     量 地区平均より
増収量
収     量
24 3.28石 2.27石
28 3.61 0.60石 2.54
29 2.95 0.8 2.76
(3表備考)29年産水稲は全県的凶作のため絶対量は減っているが地区平均との比較では2俵の増収となっている。

経営合理化の基礎としての簿記記帳

 而して如上同氏のこうした合理的経営の指針となり営農設計の基礎となっているのは簿記記帳であって24年,当時の県指導連の「農家経済簿」の記帳から始め現在(一)京大―目計式農家経済簿(二)乳牛経済簿―飼料購入日記,飼料給与日記,作業日記,牛乳生産及び販売日記(三)飼料作物投下物財及び飼料作物収穫簿等の各種記帳を行いこれらを基礎として計画を立て酪農経営の合理化,効率化を図っている。今年更に新しい試みとして太田氏が計画しその準備を進めているのは水田2畝歩を裏作だけでなく表作まで飼料作物を栽培し,表作を水稲とする場合とどちらが有利であるかを検討して見ようと言うことである。この試みについては西大寺地区農業改良普及所でも力を入れて居り,その結果が期待されている。

太田氏所感

 太田氏が乳牛を取入れての自己の経営について次の如く語る。「一般には牛を飼うと忙がしい,エラいと言うけれど私の場合,牛を飼っているために労働が年間平均化してやりよくなっている。それに労働面ばかりでなく現金収入も平均化し,総合所得もあがって経済面もラクになった。殊に昨年の如きは牛ゆえ,堆肥ゆえに健全稲となり危険の緩和ともなった。牛の乳ゆえに家族も健康になった。」