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ニュージーランドの印象(六)

藏知技師

八.牧草試験場

 パーマストンノースの共進会を見に行ったので時間をさいて牧草試験場を見学した。この試験場見学は最初から計画していたことで是非行きたいと思っていた処であったが,幸い共進会と一緒に見ることが出来て幸い共進会と一緒に見ることが出来て幸いであった。今回の旅行で最初計画したのはルアグラの畜産試験場とワーレスビルの衛生試験場と,コリデール種作成のリテル牧場とパーマストンノースの牧草試験場であったが,日程の関係や各種の事情に制約されて,結局見学できたのはこの牧草試験場だけであった。それも時間的に余裕がなく,全く駆歩で見学したのであるが,参考になった点が多いので少し書いてみたいと思う。


国立牧草試験場

 この試験場は1926年現在地に設立されたもので,北島に1ヵ所,南島に2ヵ所の支所を持って研究を行っているのである。
 面積は50エーカー,人員は全部で90人でその内30人が専門技術員である。緬羊250頭,乳牛16頭を飼育して各種の試験を行っている。
 試験の主目的は牧草の品種改良と季節的に草が切れることなく年間を通じて草の生産があるようにするために各種の牧草の組合せや改良に主力を注いでいる様であった。その他雑草,権木に対する薬剤試験や施肥の試験,火入れの試験,反芻獣の鼓脹症による死亡率が高いのでこれに対する試験等を行っていた。
 放牧場の試験は1試験区2エーカーを10のバドックに分け,これに16頭の緬羊を使って試験を行っているのであるが,大体毎年1パドック宛更新して牧草を改良して行き10年に1回は休むようにしている。即ちこの形式がすぐ農家へ持って出てそのまま使える様に考えられているのである。休む年は9月(日本の3月)に耕起して1月から3月(日本の7月から9月)頃迄の間にレープ,ケール,馬鈴薯,小麦等を作り,3月の末に再耕起してライグラスとクローバーを播種するのである。普通の農家の牧草地もこの様にして10年目には1回耕起して牧草の種を新らしく播いて草の改良を行っているのである。前にも書いた様に牧草地に雑草や雑木が入って来てもこれを取除く人夫が無いので次の更新期が来る迄はそのままにして置いて,更新期が来ると火入れを行い,耕起して又新らしく種を播くのである。従って手入れをしない牧区は所によると雑草や雑木で殆んど使用出来ない様な処も出来るわけであるし,甚しい処はこれ等の雑木で牧場が全滅に瀕することも起り得るわけである。長途の旅行をするとよくこんな牧場を見かけて驚いた次第である。こんな関係からも10年に1回の更新は必要になって来るわけである。試験場でもこの様なことを相当考慮しての試験が行われているわけである。この方式は牛の場合も緬羊の場合も同じであって,牛と緬羊とで特に牧草の区別はしていない様である。


牧草試験地

 この国では1880年から1890年に亘って各種の牧草について綜合的に試験をした結果ライグラスが一番適していることが判ったので,専らライグラスについて試験を行い,このライグラスを主体にして如何なる種類の牧草をこれに附加するかと言った様な試験が主であって他の牧草についてはあまり試験はやっていない様である。
 今迄の成績ではペレニアルライグラスとイタリアンライグラスの交配したもの(ショートローテーションライグラス)が最も良い成績をあげているようである。ペレニアルライグラスは春から夏に強く,イタリアンライグラスは冬に強い性質があるが,交配したものはこの両方の性質を持って居り,葉も広く,収量も多いのでこれを使う様にしている。これ等の草は他の草より早く発育するし,7,8,9月(日本の1,2,3月)頃の仔牛の生産時期に最適である。
 播種量と種子の配合はその土地の状況によって異るが,試験場で発表しているものは大体別表の様である。(別表)

牧   草   の   播   種   量   と   配   合   割   合(1エーカー当たり播種量)単位ポンド
番 号 播種適用の土地の種類 ショートローテーションライグラス ペレニアルライグラス オーチャードグラス チモシー クレステッドドッグステール モントゴメリーレッドクロバー ホワイトクロバー ブラウントップ ロータスメジョアー サブタレニアンクロバー ブロードレッドクロバー イタリアンライグラス ケンタッキーブルーグラス ダンソニアピローザ ウェスターンウォルスライグラス エンバク又は小麦 合計(ポンド)
1 容易に耕すことの出来る土地の一般的に用いられる永久牧草地又は長期輪換牧草地 10 15 5 3 2 3 2 40
2 標準より少し湿った土地 10 15 5 4 3 2 39
3 降雨によって泥土の転がっている土地 10 15 5 3 3 2 38
4 耕すことの出来る急坂で芝草の混ざった草地 8 12 6 3 2 2 1 1/2 34
5 降雨量の少ない砂地又は砂利を含む土壌の型の土地 10 10 8 3 2 4 37
6 特別な夏又は冬の牧草地の型 20 10 3 3 3 39
7 3~4年間の短期輪換牧草地 15 15 3 2 3 38
15 3 2 3 15 38
15 15 4 4 2 40
15 15 6 4 2 42
8 1~2,3年間の一時的牧草地 6 30 36
15 6 15 36
9 1~1.5年間の一時的な冬の牧草地 6 25 1~2
(ブッシェル)
31
10 乾燥地帯の開発のための特別な目的のための牧草地に対して 10 20 2 6 38
25 10 35
11 森林を焼いた最初の所には 8 12 6 3 2 2 多雨地帯には増量 1 1 3 38
12 焼いた所の第二次の栽培 a.多雨地帯 10 4 2 2 1 3 22
b.雨量の少い地帯 15 4 2 1 3 3 28

 各配合にクロバー類が取り入れられているがこれは蛋白質の補給と肥料の目的を兼ねているのであって,播種の場合には必ず根瘤菌を付けて播く様にしている。
 夏向けの牧草としてはオーチヤードグラスとチモシーとレッドクロバーを混合したものが可成の成績を上げている様である。
 ライグラスは寒さを嫌うので冬は無くなるが春早く7月(1月)には雨が来ると芽が出て来るので放牧場に使われるわけである。
 ブラウン,トップ,ダンソニア,ルサーンは南島に多く,特にルサーンは殆んどカンタベリー地方のみで,飼料作物として別に作っているが,ニュージーランド全体としてはまだ一般化していないようである。帰りの船の中の飼料としてルーサンの乾草を大分積込んで来たが,質はまちまちで良質の乾草は良く食べたが圧搾してあるのを解すと葉が落ちて茎ばかりになり,食いも悪かった様に思ったのである。
 面白いと思ったことは飼料作物の試験を全然やっていないことである。米国に留学して牧草や飼料作物を研究して帰った技師の人が案内してくれたので,「何故ニュージーランドでは飼料作物を作らないか」と質問してみたところその答が又ふるっている。
 「飼料作物等はニュージーランドは考えられない。なるほど飼料作物は一時的に沢山の飼料は得られるかも知れないが,土地は荒れるし,肥料はいるし,人夫賃が掛るので,それよりか牧草で行った方が得である。」とのことであった。従って飼料作物の勉強を目的に研究に行った吾々にはいささか物足らないことではあったが,然し牧草に重点を置いた点では教えられる処が多かった様に思うのである。こんな国であるから牧草に対する国民の関心は強く子供の内から教育されているのである。吾々が見学に行っていると丁度小学校の生徒が見学に来て熱心に所員から説明を聞きノートしているのを見かけたが,なるほど畜産の国だけのことはあると感心した次第である。
 これだけ教育された国であるのと道路と牧草地が完備しているので人家に近い所では雑草等は殆んど見ることが出来ない様なことである。道路は全部舗装してあるし,両側の牧場は全部牧草が播種してあるので道路の側や家の周囲も全部牧草であると言っても過言ではないのであって,こんな処にも畜産国の特徴が出ていて面白いと思った次第である。
 牧草地の肥料には炭カル,過燐酸等を使用するのであるが,一般的にはあまり使用していないとのことであった。然し農家では3-4年目に1回散布して,その年にはこの土地の草を刈り取って乾草やエンシレージにするとのことであった。試験場の話ではクロバーを混播しておけば別に肥料を与える必要は無いとのことであった。然し自動車で旅行していると動力噴霧器で肥料散布をしているのを見かけたのと,吾々の明和丸が行きがけには船倉1杯にトーマス燐肥を積込んで行ったのであるから,牧草の肥料は相当使用されていることは明らかである。尤も考え様によれば放牧中の家畜の糞尿と,クロバーの肥料があれば特別に肥料を散布しなくてもやれるのかも知れないので,肥料不用論も一応は成立するのかも知れない。
 ここらで日本の牧野と比較して種々な質問を試みたのでその様子をお知らせする。
 日本の様な火山灰土及花崗岩地帯の酸度の改善には炭カル使用が効果があり,導入植物としてはバーヅフッドトレフオイルがよいとのことであった。前表のロータス・メジョアーと言うのは大型のバーヅフッドトレフオイルのことである。
 わらびについての質問に対しては焼くとすぐなくなるとのことであったが,日本では火入れをするとわらびが出て困ると言う話をしたが,この点は判って貰えなかった様である。又大黄はこちらでも駆除に困って居り,種々薬品を使って試験をしているが今の処まだよい駆除法は無いとのことであった。
 ニュージーランドでは何処の農家へ行って見ても牧草が皆短かいので,何故長くして使わないのかと質問してみたところ,ライグラスは伸ばすと栄養価値が下るし,長くすると生長期間が長く,茎は硬くなるので家畜は軟かい草を探して歩き廻ってエネルギーを消耗するし,悪い草ばかり残って結局損であるので短かい内に利用するとのことであった。
 又教えられたことは「放牧のコツと言うのは,柔かい栄養価の高い草を,如何にまんべんに喰わせるかにある。」と言うことであった。日本の牧野の現状と比較して見て牛の喰わない長い草を生やしているのとよい対照であると思った次第である。
 雑草,雑木の駆除に対しては或る程度薬品も使用するが火入れが一番であって10年に1度火入れをして耕起すれば雑木も雑草もあまり生えなくなるとのことであった。
 最後に「今迄見た牧草は殆んど全部ライグラスとクロバーの混播であったがこれで良いか,将来どんな牧草を入れる考えか?」との質問に対して「ライグラス イズ ベスト」との答であった。これ程ニュージーランドではライグラスが適した国である。


飼料試験室

 この他場内には消化試験をしている処や,鼓脹症の研究をしている処があったが,クロバーを使用していると鼓脹症が多いので,この原因と治療法を研究中であるとのことであった。牛の治療法としてパームオイル150㏄を下剤として使用すると効果があるとのことであった。
 パドックの中には緬羊の第1胃に穴をあけたのが沢山遊んでいるし,牛の方には一卵性双生牛が5組位遊んでいた。これ等は何れも試験動物であって,消化試験その他に使用されるのである。
 時間の都合でゆっくり見学出来なかったのが残念であった。
 この牧草試験場のすぐ前にはマーシー農科大学があり,うっそうとした樹木に包まれた静かな処であるが,此処も見学出来なかったのは残念であった。何しろ往復180マイルの処をバスで走り朝8時出発11時到着,それから夕方の6時迄共進会を見たり,試験場へ行ったりで全く忙しい1日であった。夜ウエリントンへ帰ったのは9時過ぎであった。