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岡山県種畜場講座

和牛講座〔二〕

千葉種畜場 嘉寿技師

 前回で和牛の3品種について述べましたが,次に之等の選び方について申します。

三.品種の選定

(1)自家の地方に多く飼われている品種を選ぶこと。繁殖の場合は勿論ですが肥育や使役の場合でも自家の地方に多く飼われている品種を選ぶべきです。種付,販売,購入にすべて便利な訳です。
(2)経営に合うような品種を選ぶこと。本県の一般農業経営殊に水田を主体とした地帯では黒毛和種は好適でしょう。経営面積が広くて使役日数が多く使役強度の高い地方殊に畑作地帯には褐毛和種でも良く,あまり使役をしないでしかも濃厚飼料など比較的多い地方では無角和種が向いていますが之は放牧には向きません。 
 以上本県では(1)の問題からして黒毛和種を選んだ方が無難と言うことになります。

四.経営方法の選定

 山野の草が豊富であるが濃厚飼料はあまりない地方,交通の不便で山奥の地方,放牧場などが設置出来る地方は繁殖に好適です。
 こんな地方でもその中に比較的濃厚飼料など自給出来るような農家は育成をやってもよろしい。しかし優良な繁殖牛を育成しようと思えばいわゆる育成技術を会得しておくことが肝要です。平坦部や都会近辺などで野草は少ないが自給により,或は購入によって濃厚飼料が充分入手出来るような地帯は肥育を行うか或は育成がよろしい。育成は地帯から言えば山間部と平坦地との中間地帯に一番適しているといえるでしょう。全く平坦地の都会に近い所などでは,仔牛の運動にともかく制限を受け易いでしょうから中間地帯がよいのです。しかし普通の牛を育成するということであれば平坦部でも島でも採用できる行き方です。平坦部の農家で繁殖をするには経営規模が大きくて粗飼料が相当豊富に自給できるような農家でなくてはいけません。それにしても肥育地帯の真中で1軒や2軒繁殖をすると,種付けにも仔牛の販売にも甚だ不便ですからやはりその地方のやり方に従った方が便宜が多く有利です。
 平坦地や島などの経営規模の小さい農家で濃厚飼料も粗飼料もともに少ないような農家では将来肥育素牛になる様な普通の牛の育成が良いでしょう。
 次に牝牡のいずれを飼うかについて申しますと次の様な条件下に於て相違すると思われます。
(1)牡を飼った方がよい場合(又は去勢牛)
 (イ)今迄和牛を飼った経験のない場合
 (ロ)周囲に繁殖の慣行のない場合
 (ハ)経営面積が小さく又採草地も殆んどない場合(以上仔牛去勢牛)
 (ニ)経営面積が非常に大で殆んど専門に役牛を必要とする場合
 (ホ)耕地が非常な重粘土で牝での耕起が困難であり,且つ牝牛2頭曳耕起も色々の事情で実行出来ない場合
 (ヘ)周囲が従来牡の育成地か肥育地である場合
(2)牝を飼った方がよい場合
 (イ)和牛を飼った経験がある場合
 (ロ)周囲が繁殖慣行地帯である場合
 (ハ)経営面積が大きいか或は経営面積は小さくとも放牧地,採草地がある場合
 (ニ)周囲が従来牝の育成地か肥育地である場合
 次にどんな年令の牛を選ぶべきかについて申しますと飼育の目的によって差が生じて来ます。その3つの場合を揚げれば次の様なことが考えられます。
A.繁殖に供する場合
 生後5-7ヵ月位いの離乳仔牛を買入れるのが普通である。少し金は張るが2才の若牝を買入れるのも割安な場合がある。3才になって登録審査に合格したようなものは高値だから買わないほうがよい。又10才或はそれ以上の老齢のものは爾後の繁殖供用期間が短いから一般的には買わない方がよろしい。
B.育成用のもの
 育成用の牛は将来繁殖に向けるにせよ,肥育より役用に向けるにせよ,仔牛のせり市で離乳直後の4-7ヵ月位いのものを買入れる。
C.肥育に供する場合
 牝牛で理想的な肉牛を作りあげようと思えば3-6才のものを買う。又並みの肉牛を短期肥育しようとすれば7,8才から10才迄位いの牝牛を求める。
 去勢牛や牡牛を肥育する為には2-4才のものを買えばよい。

 それでは耕作面積とこの3つの場合との関係を申しますと次の条件下にて経営が成立するものと思われます。
A.繁殖の場合
 山間部野草の豊富な地方では大体3反程度の耕作面積があれば1頭の繁殖牝牛を飼って毎年仔牛をとる事が出来ます。平坦部で野草の少ない場合には,少なくとも5-6反の田畑を持っていないと繁殖牝牛は飼えません。中間地帯では両者の中間程度と考えれば大体間違いありません。
B.育成の場合
 平坦地や島嶼部でも3反あれば並牛の仔牛1頭の育成は可能です。
 しかしこの程度の経営規模では濃厚飼料の自給は出来ませんので優良な仔牛を育てるとか,よく育てて大きく儲けることは出来ません。従って3反程度の農家でよく育てようと思えば或る程度濃厚飼料を購入せねばなりません。中間地帯では3反の農家なら1頭の育成は充分出来ます。
C.肥育の場合
 濃厚飼料の多くを購入すれば3反の農家でも1頭の肥育が容易です。大部分の濃厚飼料を自給しようとすれば5反は作ってないと無理なんです。

五.飼育施設

(1)牛舎の位置 牛舎位置は排水と日当りと通風がよく堆肥置場,母屋との関係が便利な所がよろしい。雪の深い地方では,母屋の内へ牛舎(内牛舎)が作られています。
 冬季の管理に便利な為と保温とが考えられるためでしょう。しかしこれは決して望ましいものでなくやはり納屋,堆肥舎等と連絡して母屋と別な位置に造るべきです。母屋の北側は陽当りが悪くまた冬の賊風侵入のため好ましくありません。
 広さは若干を飼うのでしたら8尺4方,繁殖牝牛とか肥育牛を飼うには9尺に12尺の広さが欲しいと思います。そして牛房の前面には少なくとも3・4尺の通路が入用です。天井の高さは7・8尺とします。2階が利用されておればそれでよし,さもない時は牛房の上へ角材を並べて藁や乾草を置くと冬の保温に便利です。夏にはそれを除いて置けば天井が高くなって涼しくなります。
 床はコンクリートまたはタタキにして,床面へ30分の1位の傾斜をつけ尿を牛房の外へ設けた貯尿槽へ導くようにします。寒冷な地方では深厩舎といって地面よりも牛房床面2・3尺深くしてあります。そして冬季間は汚れた敷藁を取出さないで,次々に藁を投げ込む様式になっています。保温と降雪による作業難のため止むを得ない様式ですが決して好ましいものではありません。
 深厩舎の場合でもせめて尿は外の貯尿槽へ導けるように工夫しましょう。
 牛舎の床の改造は肥料成分をうまく利用する上に非常に主要な問題です。
 厩舎から貴重な肥料成分を散逸させないようにすれば肥料代は随分助かるはずです。
 間栓棒―2つの牛房を隣合って造る場合その間は間栓棒で間にあいます。
 牛房の前方もそれで結構です。間栓棒は縦の棒がよろしい。横棒にすると若しその間へ牛が首を入れた時に急に後へ引く様な場合角が抜けることがあります。出入口は縦棒の間栓棒でこれを3本程抜いて牛を出し入れしてもよく,或はチョウツガイで取付けた開き扉もやはり縦棒を打ちつけたものがよろしい。
 飼槽の出し入れ口,扉を毎回開けて飼槽を出し入れするのはやっかいですから飼槽のみが出し入れ出来る程度の窓を明けて置きます。
 この場合飼槽の内へ邪魔棒を突込んである程度以上飼槽が牛舎の中へ這入らぬようにしておきます。そうすると引出するにも大変便利です。飼槽を外へ出してもこの邪魔棒のため飼槽が,この出入口を塞いでいるというふうにします。
(2)堆肥舎 在和牛飼育農家の大部分は厩肥を庭先へ野積みしています。野積みにしますと有効な肥料成分が散逸して効目の少ない堆肥になってしまいます。出来る限り,堆肥舎は作りたいものです。
 牛舎の裏側か(殊に北側)横に隣接して作ると非常に便利です。
 若し崖際等を利用して厩肥を切りかえる時に下へ落すような仕組みになれば一層結構です。床はコンクリートか三和土にして厩肥汁が中へ設けてある肥槽へ流れ込むようにします。周囲は地面から5尺程度は土塀で築き土の屋根を作ります。成牛1頭或いはこれに仔牛1頭位加わる程度ですと9尺か12尺の面積があれば結構です。
(3)運動場 は広いに越した事は有りませんが農家の庭先を牛が外へ出られないように囲って1日に2,3時間牛を出してやるような簡単なものでも結構です。哺乳中の仔牛等は庭へ出れば狭い処でも跳ね廻ってかなりよく運動します。川原や裏山に少し柵をして放ってやるようにすれば一層結構です。哺乳中の仔牛は別ですが仔牛でも1頭のみ出して置くと運動しないが2頭以上出すとよく運動をするものです。場所としては陽当りの良い排水の良い処がよろしい。
(4)放牧場 我が国の牧野は約140万町歩ありこの広大な原野の利用増進は畜産の発展上大きな問題です。和牛の主要生産地たる中国地方においては,その背陵をなしている中国山脈の中の牧野に放牧されています。放牧された牛は体質強健,性質温順で長年の使役や繁殖に堪えますので可能なところではぜひ放牧したいものです。
 和牛の放牧には昼夜放牧と昼間放牧との2つの様式が採られています。前者は山岳地帯で広大な牧野に採られている方法であり,後者は農家から近く比較的狭い放牧場で行われています。
(A)地勢面積 面積は広いに越したことはありませんが1年に5ヵ月間放牧するとしますと草生の多少にもよりますが大体1頭当り2町1反から2町3反ぐらい必要です。地勢は湿潤地35度以上の急傾斜地等を除けば大抵の処へ出せます。平坦な処よりも山あり川あり谷ありといった処で地盤の硬い処がかえって好ましいのです。北向きの傾斜地でなく南向き又は東向きの傾斜地の方が望ましい事はいうまでもありません。
(B)土質草生 土質は石灰岩地帯が最も望ましい。花崗岩,安山岩の地帯も結構です。わが国では火山が多いので火山灰地帯へも放牧されていますがこれは上に挙げたような土質の放牧場よりも劣ります。火山灰地帯の牛ではカルシュームの補充を忘れぬようにすることが必要です。わが国の牧野の草生はあまり良くありません。全然保護を加えないで奪略放牧をしていますから草生は年々悪くなります。外国では放牧地に対する施肥や悪草の除去等に全力を挙げています。各自が田畑に対すると同じような考えで牧野に接し放牧地の草質,草種を改良し草生を豊富にすることが大切です。 
 当千屋種畜場に於ては場内放牧場30町に対し毎年反当硫安なら2貫,過燐酸なら4貫,尿素なら1貫を放牧後に必ず施肥し同時に禾木科,荳科牧草の植栽も行い草生の改良に努めて居ります。
(C)牧柵 放牧場の管理上牧柵の改修は実に容易ならぬ経費と労力を要します。栗杭を5尺毎に打って,これへ有刺鉄線を中1本両側に普通鉄線2本を張るというのが普通のやり方ですが牧柵に沿って植樹をして数年の内に杭も横木もいらない様にするのが一番望ましい事だと思います。当場でも100年の計たる杭に杉檜,落葉松を1m置きに植樹を実施して居り23年後には之が代用も可能と思います。
(5)牛繋場 牛を外へ出した時には繋留する木が必要です。外へ繋いでおく時には育成牛とか牡牛などでは頭を下げないように正しい姿勢で立たせて置く事が大切ですから平らな地面をコンクリートで固めるか又は石を敷き詰めて固い地面を作って置きます。
 大体1坪か1坪半くらいで充分です。繋留用の杭は栗のような丈夫な木で頭の高さよりもやや高い所から枝の出ているようなのがよろしい。この枝の股に綱をかけて置けば牛の首が高く支えられますし綱が地面へ垂れて牛の足にもつれたり汚れないで済みます。
(6)サイロ 地下水位の低い処では半地下式がよろしい。地下水位が高ければ地上式にしなければなりません。飼養頭数にもよりますが普通の農家では丸型で直径5尺,深さ10尺のコンクリート造りのものが適当です。
(7)管理用具 藁や草類を切る藁切機又は押切り,手入れ道具として金櫛,毛櫛それに削蹄鎌,飼槽,バケツ、フォーク,箒,飼料箱等があればよろしい。飼槽は値段も高いが丸槽がよく成牛で直径1尺5寸前後深さ1尺-1尺2寸くらいが適当である。角槽では成牛で縦1尺3寸前後深さ1尺-1尺2寸くらいで底を幾分狭くしたものが宜敷い。