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岡山県種畜場講座

農家・自家用向け畜産加工(八)
鶏(爪雄)肉を主体にしたドメスチックソーセージのつくり方(2)

岡山種畜場 佐藤技師

六.乾燥及び燻煙

 今回の製品は長期間の保存を期待しない所謂ドメスチックソーセージでありますので,従って乾燥を50℃1時間,燻煙を50℃2時間程度行いました。燻煙方法も色々あって,製品の種類や利用目的等によって異って来る訳ですが,上記のような温度と時間で行うものを一般に温燻法と言っております。
 燻煙材料は乾燥した桜を使用しました。─燻煙材としてはヤニ分の少い堅木(カシ・ナラ・クヌギ・サクラ・ケヤキ等)の薪又は鋸屑は普通使用されますが中でも桜は特に良好です。この外にも乾燥籾殻や,玉蜀黍の芯なども用いられますが,松材等は不適当です。─
 燻煙の結果は製品の表面,内部共に発色は良好であったが,稍煙の入り具合が少な目の感があり,従って燻臭に乏しかった。尤も燻煙時間をもう1時間でも延長すれば可也りの燻臭を得られたものと考えますが後作業の関係もあって2時間で切り上げました。一般にこのように燻臭不足の場合は,最後にもう一度軽く再燻煙を行ってもよろしい。次に燻煙に就ては疑問の点もあると考えますので次の点に就て少し説明して御参考に致します。

 一.燻煙の目的,効果に就て。
 二.燻煙方法の種類に就て。
 三.燻煙室の構造に就て。
 四.燻煙前の乾燥に就て。
 五.燻煙の実施に就て。

 先ず第一の燻煙の目的に就ては,燻煙臭の着くことによる風味の向上,防腐力の向上と発色等が上げられます。
 燻煙臭は皆さん方が市販のハムを食べられた時に感ずるあの独特の渋い臭のことです。食肉類は食べ慣れない年寄の方の中には反って燻臭を忌む人も居るようですが,食肉類は一般にこの燻臭を着ける事により食味は向上します。防腐力に就ては煙の中には殺菌力を有する成分が多く含有されておりまして,これらの成分が製品の表面部のみならず,肉内部迄も侵入して行きますので,従って防腐力が出て来ます。但し保存力は単に煙の成分のみによって発現するものでは決してなく,むしろ燻煙中の加湿による水分の蒸発即ち製品の水分含有量の低下に主因するのであって,煙の成分による作用はむしろ二義的に考えるべきだと考えます。如何に濃厚な煙りで燻しても製品の水分含量が50%以上であるような場合には保存性は大して期待は出来ません。
 発色に就ては,煙中のタール成分が先ず表面部に附着して,表面部を淡黄褐色を呈せしむると共に,侵入した煙の成分はなお肉内部における硝石の発色作用をも促進してくれるものです。
 第2の燻煙法の種類に就ては,次表を参照して下さい。要するに燻煙することは,又乾燥することでもある訳で,従って低温度で長時間行ったもの程保存力に富むものになります。但しこの場合には歩留りが悪くなります。
 最近は一般に燻煙温度を稍高目にして極く短時間燻煙を行う場合が多いようです。

種 類 燻煙温度 燻煙時間 製品の種類 備     考
低燻法 15℃~30℃ 2日~10日 ベーコン
ドライソーセージ類
長期間の保存に耐える。
温燻法 30℃~50℃ 5時間~1日 ハム,ドメスチックソーセージ,鶏類の燻製類 長期の保存には耐えないが風味は良好。
50℃~80℃ 2時間~5時間
熱燻法 100℃前後 1時間以内 焙肉に近いもの 余り行われていない。
 ※この外に速燻方法として燻煙液法,液漬法,電気燻煙法等がある。

 第3に燻煙室の構造に就ては,製造規模によって大,小様々なものがあり構造も異なって参りますが,考え方としてはセメント・レンガ・其の他の不燃性の材料によって床,周囲の壁,天井を築き,一方の壁に出入口を設け,それには下部に調節の出来る空気出入口を開けた戸をはめ,底部の床には炭火を起し,燻煙材を燻し得るような深さ1尺,巾1尺,長さ適度(部屋の大きさによって異る)の炉を築き,又天井の中央には直径3~4寸の開閉弁の付いた煙突を装置すれば事足ります。要は煙りは洩れない事と,室内の温度が或程度調節出来るようになっておれば結構です。燻煙室の巾,奥行は2~3尺程度のものでもよろしいが高さだけは,6,7尺,少くとも炭火と吊り下げた燻肉材料との距離が4尺位はないと温度の調節が困難のように思われます。当場の燻煙室を示しますとA図のとおりです。又農家等で簡単に行う場合はB図のようなものを工夫して行えばよろしい。但しこの場合は温度が上下変動し易いから注意しなければなりません。
 第4の燻煙前の乾燥に就ては,結局肉材料をいきなり燻煙しても煙は肉中に入らないので,燻煙を行う前処置としてこの乾燥を行う訳です。50℃前後の温度で1時間程度炭火等で乾燥を行うと肉表面の水分は或程度蒸発乾燥し,表面の蛋白は収縮凝固して多孔質になって来ます。こう言う状態になって煙が内部に入り得るのです。

(A図)

(B図)

 第5の燻煙の実施に就ては,先ず燻煙室の炉に炭火をおこします。一度に火が起きてしまうと所定の温度と時間とが保て無いことになりますから,予め炉に炭を適当量線状に配列し,その1側(入口側)から炭を起して行けば大体希望温度に所定時間室温を保つことが出来ます。若し温度を高めにする場合には炭の量を増やして,巾広く配列し,低温を希望する場合は逆に炭の量を減ずるか,灰を充分被せておくとよろしい。燻材は炭火の両側にくっつけて薪ならば1本ずつ配列しておけば,炭火がおこって行くに従って薪も燻って行く訳になります。
 燻煙室の温度が可也り昇り,準備が終りましたら充填した材料を室内に適当な間隔を置いて吊します。最初1時間前後乾燥しますから,煙突孔及び扉の空気孔は開けておきますが,燻煙開始と共にこれらを閉めて室内の煙濃度を高めてやればよろしい。乾燥から燻煙に移る時期はソーセージの表面を手で触れて見てざらざらした薄い蛋白のフィルターが出来たようになった時です。煙等の具合を監察する必要があります。

(以下次号)