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ニュージーランドの印象(八)

藏知技師

(4)緬羊飼育の形態

 緬羊牧場の形態は種々雑多で羊毛専業牧場から,羊肉の生産にその主力を置くものまで実に千差万別である。ニュージーランドは北島から南島の端までは約1,000哩,南北に長い島であるから自然気候も地域的に可成り変化がある。更に南北に走る大山脈があって東西両海岸に分け,東海岸は雨量も少なく,緬羊の飼育に適するが,西海岸,特に南島の西海岸は雨量も多く,湿潤であるので緬羊の飼育には不適地であるので大きな牧場は無い。この山脈のために東海岸と西海岸では全く違った地勢的特質を与えるばかりでなく,牧場経営から見ても地味が豊かであるか,痩せているかで非常な相違が生れて来ている。然し乍ら一応大別すると次の5つになる。

(a)高地牧場
(b)低地牧場
(c)羊肉牧場
(d)中間牧場
(e)種羊牧場

(a)高地牧場

 正確には山岳高地牧場というべきもので,この種の牧場は南島の高地に多く,広大な地域に亘っているが,緬羊頭数は比較的少く,大体4エーカーに1頭の割と言われている。その理由はこの種の牧場は南アルプス山脈の東側に沿って細長く帯状に走る山側を占め,元来土地が非常に痩せているため,自然生のオーチャード等の牧草に依存し,良質の牧草等の栽培ができないばかりでなく,地形が又嶮岨なためでもある。この種の高地牧場では冬期は苛烈な寒波に見舞われるので,それによく耐えるメリノが主として飼育されている。他の羊種では冬期に殆んど斃死するために高地には不向であると言われている。
 牧場の収入は殆んど羊毛によるから,その品質の向上を計る上からは自然種牡羊の選択と改良が重要となり,又その刈毛の格付に意を用いている。又肉用の仔牛の繁殖を計る必要がないので繁殖牝羊は不要であり,むしろ去勢羊の方が体質が強健であると共に毛が多量にとれるので,自然去勢羊が多くなっておる。
 繁殖用牝羊は緬羊の更新用に必要なだけの少数に止めている。高地牧場でも比較的土地の平坦な処で低い場所ではリンカーンとメリノ又はレスターとメリノのハーフブレッドを飼育している例もある高地牧場は他の形態に比し特殊の性格を持って居り,北島では気候は温暖で雨量が比較的多く,高地が少いため,この種の牧場は少く,僅かに中央山岳地帯とホークスベイ地区の一部高地にこの例が見られる位のものである。

(b)低地牧場

 ニュージーランドの牧場の主要なものと言うと大部分がこの低地牧場で,南島,北島を問わず最も重要なものとされている。この種の牧場と次の羊肉牧場の区分は必ずしも明瞭ではなく,又個々の牧場面積はなかなか判り難いが,両者を併せて大体200万エーカー位と言われている。低地牧場でも比較的高所では気候,地勢,地味に可成り相違があるが,大体平均して1エーカーに羊2頭位と言われ,高地牧場より可成率が良くなっている。
 先ず北島についてみると,この種の牧場は森林を伐採し,焼却して開拓したものであるから樹木の切株や焼ボックリが永年残存していたが,元来地味が肥えている上に,地面に灰をかぶったために牧草の繁茂は却って良好であったと言われる。然し乍らこれも開拓当初の話で,時日の経過と共に地味が次第に低下したばかりでなく,地域によっては雑木,羊歯その他焼却樹木のひこばえ等の侵入を蒙り,粗放化して来たため,最近は雑木の伐採と施肥により,地味の恢復を計っている。
 羊種は殆んどが雑種かロムニーの雑種で,肥沃な地域には繁殖用の牝羊を飼育し,一般には去勢羊,不妊羊を沢山放牧している。
 この種の牧場は羊毛に主力があり,この所得割は全体の50パーセントで,その他は肉用の仔羊と肉用の去勢羊である。繁殖用の種牡羊は勿論であるが,牝羊でもその選択淘汰は相当厳重に実行されており,生後1年目にその毛質によって先ず淘汰し,18ヵ月目には繁殖力によって更に淘汰し,不適格羊には絶対に種付を行わないで,全部肉用に向けている。
 南島は北島とは可成り事情が異り,牧場も森林を開墾したのではなく,主に叢林地帯を牧場に作り上げたものである。雨量も北島程多くない関係上羊種はハーフブレッドとコリデールが比較的多く,ロムニーももとより飼育されているが4分の3ブレッドの方が多い。

(c)羊肉牧場

 毛より肉を重点に置く牧場であるから,緬羊の肥育を図る上に充分な牧草が必要であるので,天然にしろ,人工を加えものにしろ,最も肥沃な土地が使用されている。この様な牧場は酪農にも,牛の肥育にも適しているので,その何れをとるかは牧場主が経営の規模や,その他収入面を考慮して決定しているようである。牧場は最も低い平地にあり,場合によっては多少起伏のある丘原も利用している。気候上から北島の比較的湿潤温暖の地から,南島の乾燥寒冷地まで可成の変化が見られ,これに対応して牧草も若干異り,北島が英国種牧草及びクロバーを輸入して栽培しているのに対し,南島は特に肥育用にルサーン等の特種飼料を作っている。牧場の飼育能力は平均1エーカーにつき3−6頭の割で他の牧場に比し著しく高率である。
 緬羊は北島についてみるとロムニー及びその雑種が多く,特にサフオーク,ボーダーレスター,レイランド.ドーゼットホーン等も試験的に飼育されたことがある由であるが,これ等はサウスダウンの牡と交配したと言われている。
 仔羊は大部分母乳で育てるのが普通であるが,時に人工哺乳や特殊飼料が用いられているようである。仔羊の出産率は120%と言われている。
 南島に於ては地方により旱魃が長期間続くところがあるから灌漑の設備が必要であるし,冬期飼料としてルサーン等の栽培も必要である。飼育緬羊も北島程単純でなく,ロムニー雑種はもとより,コリデール,4分の3ブレッドの他時にはハーフフレッドもある。種付用の牡羊も北島とは一寸変り,英国産レスターが多く,この交配種は古来カンタベリー産仔牛羊といわれて有名であったが,現在ではサウスダウン,時にはサウスダウンとボーダーレスター又はサフォークのダウン系に変り,特に太番手の毛の牝羊には専らこれを交配して毛の品質の向上に努めている。南島の南端インバカーギル市一帯では専らサウスダウンの牡を用い,ロムニー牝に配合しているので毛も自然ダウン系のものが多くなっている一般には南島は北島に比し,肥育用緬羊には向かないため,仔羊の出産率も北島程高率ではない。

(d)中間牧場

 高地牧場,低地牧場及び羊肉牧場の中間に位する折衷的な牧場で実際には低地牧場と羊肉牧場とを兼ねたものが多く,補充用緬羊等も自己の牧場で作り,自給自足の経営を行っている。時に乳牛牧場で緬羊を飼育することもあるが,これは仔羊を買入れ,牧牛の合い間に行うものである。

(e)種羊牧場

 種羊牧場とは種付け用の牡羊の飼育を専門とする牧場である。ニュージーランドではその面積や所有頭数はさして大きなものではないが,他の牧場に種羊を供給すると共に緬羊の改良を計る上から相当重要視されるべきものである。種羊牧場は専門的な技術と経験を必要とするので,誰でも簡単に出来るものではなく,従ってその数も少いわけである。大体指導的な種羊場が2−3あり,これらが他の種羊場に良品質の種羊を供給し,更にこの牧場でこれを基礎にして同じく種羊の繁殖を図る仕組の様である。


(写真説明)ロムニー種の放牧風景

(5)緬羊の種類

 ニュージーランドの緬羊は一般的に言って英国と異り,羊種が比較的単一化されており主要なものは僅か10種類位のものである。英国では種々の地理的条件に応じ,これに適応出来る羊種を長期に亘り改良し,現在40種ばかりの羊種を持っているがニュージーランドではこの事情は可成り異っている。その良し悪しは別として,北島では主要なものはロムニー及びサウスダウンとその雑種とされているが,就中ロムニーは気候地勢を問わず広汎に分布している。従って同じロムニーであっても地方と環境により多少その色合が異るのは当然であるが,全体として見る場合元来英国ケント種をその原型とするものとはいえ,既にその祖先から多分に分岐している現状である。現在ニュージーランドロムニーは英国種に比し脊丈低く,その割に骨格が柔軟であり,毛質も可成改良されている由である。両者の主要な相違として,脚部が短かく安定していること,毛が深く重量に富んでいることが挙げられる。然し乍ら反面英本国の範に習い,気候の特質に応じ逆に羊種を増し,特殊条件に適応させようという傾向がボツボツ現われているそうである。その一例としてチエビオット種を広く採用し,ロムニーと交配して雑種を作り,ロムニーでは耐え得られない地区に振り向けようとしてる。チェビオット種は英国山岳種であり,その交配により高地低地両用の緬羊を得ることがその狙いのようである。
 南島は高地のメリノを別として他の主要羊種はサウスダウン,コリデール,リンカーンであって,概ね毛,肉両用で前二者の羊毛は中番手用,リンカーン及びロムニーは太番手用のものとされている。