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乳牛の飼い方(二)

岡山種畜場 渡辺技師

C.乳牛の休養期

 乳牛は分娩前適度の休養期間を与えることによって,次期の泌乳期にその乳量を増加することができる。これには2つの理由がある。即ち一つには充分な休養によって体の栄養がよくなり,体内に養分を蓄積することができ,他の一つは乳腺細胞の機能回復に効果があるからである。
 乳牛の管理者は,その休養期間は何日が最も合理的であるかについて考えねばならない。概して休養期が長ければ長いほど,次期の乳量は大きいといわれる。然し乳牛の飼養期間中における飼料費の経済的なことを考慮に入れる時は,そこには自から限度というものがある。あまり長い休養期間を与えると飼料費に無駄があるばかりでなく,分娩が遅れて一生を通じその産犢の頭数が減少することになる。
 一般に若牛においては,老牛よりもその休養期間を長くするが良い。これは若牛時代は発育中であるので,その間充分発育を促進し得るからである。米国のサンダースの研究によれば,若牛での場合休養期間を45日にすると,全くこれを欠ぐ場合に比較して32.2%の乳量が多く,老牛では18.5%の増加を示している。そして更に休養期間を115日に延長した時は,休養期の全然与えられない場合に比較して,前者は52.2%,後者は30.2%の牛乳生産の増加を見た。
 一般に休養期間は45日であるが,これを75日に延ばすことによって,若牛の場合は8.1%,老牛の時に3.8%の増加を示すものである。更に休養期を115日に延長する時は,45日の場合には14.2%を増したのに対し,後者では6.0%の増加となった。故に最高の休養期間は若牛では70〜75日,又老牛では40−45日を与えるのがよい。然し能力の貧弱な乳牛では牛乳生産が僅少であるから,休養期間はさほど長い間必要としないが,発育の不充分な若牛より長い休養期を与えなければならない。
 一般に乳牛は妊娠5ヵ月に入ると,泌乳能力は急に減退するが,これは妊娠の進むにつれて脳下垂体前葉からの催乳ホルモンが減少し,黄体ホルモンの分泌が盛んになって,これが前葉ホルモンの分泌を抑制するからだと考えられている。乳牛が乾乳期間に入ることによって体の栄養は回復し,肥えてくる。又カルシウムや燐の蓄積も行われるようになる。
 元来泌乳盛期の頃は充分に栄養に注意してこれを補給しても,その代謝均衡はプラスになるものではなく,特にカルシウムや燐は常にマイナスである。故に多量の牛乳生産のために,体の骨骼中から引出されるこれらの成分は,是非とも休養期にその給与を忘れてはならない。
 なお休養期間中は,適当の運動を課するようにして,次期分娩によって起り易い後産停滞を防ぐことが大切である。然し寒気の厳しい時や,烈風時は,戸外に出すことは控えるがよい。妊娠が進むにつれて肥えてき,また動作は温順となるが,温暖な候には常に放牧に出すことを忘れてはならない。その間取扱いは丁寧にして,乱暴にしないように,また犬等に追われたりすることのないよう注意が大切である。

D.分娩時の管理

 母牛をして安全なお産をするか否かは分娩前後の注意の如何による。この時代に放任又は無用心であっては,思わぬ失敗をすることがある。即ち難産によって母子共に斃れたり,また後産停滞によって母牛の健康が損ぜられのみでなく,泌乳量は減少し受胎困難の原因となる。その他乳房障害,消化器障害,乳熱等を起すことがある。然しこれは何れも注意深く取扱うことによって避けることができる。
 先ず分娩の予定日は,種付日から285日を算えて知ることができる。又雌牛の外貌によっても,分娩間近くなったかが伺われる。即ち外陰部が腫張して,尾根の薦坐靭帯は弛緩して陥没し,又乳房は,腫張してくる。一般に産室に移すのは,分娩予定日の7−10日前でよい。気候のよい時は小区域の放牧地に放つのも一つの方法である。
 産室はリゾール液で消毒して,新鮮な敷藁を敷いてやる,飼料は緩下剤的なものを選び便秘性のものは避ける。それは麩,引割燕麦,亜麻仁粕等の等量混合飼料を3−4封度与えるとよい。
 産気づいたら注意深く静かに母牛を見守り,仔牛が前肢を先にしてその上に頭を乗せているかを見る。その位置が変っていたならば,獣医の手を借りて正しく処置する。
 生れた仔牛は,鼻孔に膜を被たり体表面が粘液で被われているので速やかに布切れで取除くか母牛になめさせてやる。(母牛がなめない場合は麩,糠などを僅かふりかけてやると効果がある。)乾いたならば母仔分離し,人工補乳を行うのであるが仔牛が弱くて哺乳しない時は,分娩後なる可く早く初乳を飲ますように助けてやる。大体分娩後30分でこれを行う。初乳は仔牛の病気に対する抵抗力をつけ各種の免疫体を含むものであり,又胎便を排泄するための一種の下剤を含んでいる。

E.分娩による母体の体重減少

 乳牛が常によく管理されていれば,分娩直前迄は次第に増体し,栄養状態が良好となるが,この妊娠中の増体の原因は3つある。即ち第一は胎児の発育,第二は胎膜の増大,第三は母体自身の脂肪蓄積によるものである。然し分娩と同時に母牛は,体重の減少を来すことはいう迄もないが,その原因は胎児の分娩及び胎盤及び羊水の排出である。なお分娩後4−5日頃から僅かではあるが,母体の重量が減少してくる。これは飼料中に体維持と牛乳生産に必要とするだけの栄養を充分に取り得ぬためである。

F.分娩に伴い発生しやすい疾病故障に対する管理

 分娩に伴って思わぬ故障が起ることがある。これは一般には生殖器と,乳房に起るものが多い。即ち分娩に伴う疲労と生殖器の充血した状態のために膣と子宮が損傷を被る場合,その傷から細菌が侵入して故障の原因となる。その他子宮脱,後産停滞,充血乳房,乳熱,産後起立不能等がある。
 1.後産停滞 流産或いは分娩前の栄養不良,栄養不足等によって後産の停滞する場合もあるが,正常の時は分娩終了と同時か或は5,6時間以内に強い子宮の収縮作用によって後産は,自然に排出せられるが,これが完全に除去されぬ時は,その有毒分解産物が組織の中に吸着せられて,食欲は減退し,生体量と共に牛乳生産量も著しく減少するのみでなく,後日子宮内膜炎或は蓄膿症等にかかり発情は停止し,不妊の原因となるのでこのような現象が起ったならば,獣医師の手を借りて後産を排除してやらねばならない。
 2.充血乳房 能力のよい乳牛は一般に分娩後乳房の充血腫張に悩まされるものであるが中には,この充血腫張が細菌による場合がある。大部分の場合は乳腺の急激な発達によって起る。即ち乳腺組織の中の淋巴液の蓄積によるので,この腋張の程度は分娩前特に飼料を豊富に与えて栄養を極度に良好にした場合に起る現象である。即ちその為に搾乳の困難を来し,乳頭は短かく腫張し,痛みを覚えるようになるので,この時は一時に搾乳することを避け,乳房は時々マッサージし,飼料は一時減らすのもよい方法である。
 3.乳熱 この故障は多くの場合泌乳量のよいもの或は軽産牛に伴うもので,通常分娩後間もなく起る。この病気の初めの徴候は,身体の安定を失ってよろつき,特に後肢に甚だしい。次いで麻痺を起し,遂に斃れる。そして昏睡状態に陥る。頭は胸の反対の方に廻し眼はガラス様になり,ピンを刺しても知覚の反応がなくなる。そして体温は低下し,凡そ乳熱という言葉と反対の現象を伴う。
 この病気は塩化カルシウムの静脈注射によってこれを回復さすことができる。血液内カルシウムの低下は,多量の泌乳によるものであるが,牛乳中のカルシウム含量は、血液中のカルシウムの15倍にも上るから,その可能性は一層大きいことになる。乳熱の治療法として知られている方法は,所謂乳房送風である。送風することによって圧力のために,牛乳の分泌が停止し,かくて血液からのカルシウムの排出が停止するために,体組織や血液中にあるカルシウムの分量が次第に増加する為に回復するわけである。乳房に空気を送る場合は,乳導管カテーテルを乳頭にはめてポンプによって送風するが,消毒を厳重にし無菌的に取扱い,細菌の侵入を防ぐようにするが良い。