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和牛講座〔4〕

千屋種畜場 嘉寿技師

 前号までで一応仔牛の見方なり選定について述べましたので次に成牛について審査標準を基準として和牛の見方について記すことに致します。

九.審査標準

 和牛を審査するには審査標準によります。審査標準は,和牛として備えていなければならない特質とか,改良の目標を述べてあり,又牛の体を19ヵ所の部分に分けて,その部位の重要さと改良を要することの軽重に応じて配点をし,満点を100点としてあります。若し審査標準によらないで勝手に牛の良い悪いを見ようとしてもそれは当人のみ独り合点であって,一般の人には通用しないものです。

 なお審査標準には牛の大きさが述べてありますが,これは完全に成熟し切ったときの大きさ,即ち黒毛和牛では生後60ヵ月以上の場合の大きさです。普通共進会に出したり,登録審査を受けるような場合にはもっと年令が若いのでこの標準の大きさよりも小さいのが普通です。失格については和牛の特質に反するような大きな欠点であって,登録はされないしその子孫も登録されません。

 なお本審査標準も時代の要求に依り一部改正の予定で有りましたが未だ決定されて居らずその試案では部位が少く成り,配点も少し変る様です。現行の各部位の減率については紙面の都合で省略いたします。

 最近その減率に関しても昨年第1回は島根県安来市,本年第2回目は広島県庄原市で開催されました。和牛特別審査研究会に於て研究されたように優良な部位に付いては現行のものより良く見ると言った方法が試案中で,これが実施されることに成りますと今よりもっと得点の多い和牛が出ることに成ります。

一〇.牛の見方の順序

 牛を見るには一応のような順序によるのが便利です。先ず牛の真横に立って,体の高さの少くとも2倍以上の距離から牛の体全体を見ます。次いで後に廻って牛の斜後や真後ろから眺め,更に横に廻って初めて反対側の真横に立って牛の横側を見,必要があれば近づいて牛の体に触り,最後に前に廻って,前方から牛を眺めます。又必要あれば牛の口を開いて舌と歯を見,更に性質に不安があれば,角を握ってその反応をみる。このように牛の立姿で一巡見たのち,次には歩かして歩様をみる。歩様から後肢の運びと腰のゆれ工合とを見て前方から前肢のたくりと踏出し,後肢の踏込みや踏着等を見ます。

一一.優良なる繁殖用牛の体型

 愈々畜産共進会シーズンに入って牛を見る機会も多いのですが前述の通り審査標準に依ることは勿論ですがその各部について概要を説明致します。

(1)頭及び顔 頭部が体に比して大き過ぎないのが良く,頭が大き過ぎるのは骨の太い粗野な牛が多いです。又頭顔の長さ,巾,深みの釣合いがとれていることが大切です。巾が狭くて長過ぎたり,長くて深みが足りなかったりしないほうがよろしい。牝は牝らしい,しっかりした顔をしていなければなりません。牝で牡のような顔や,牡で牝の様なやさしい顔ではいけません。性の表現がはっきりしていることが繁殖用牛としては大切なことです。又牝でも牡でも顔がきりっとしていて,所謂輪郭の鮮明な顔で気品に富んだものでなければなりません。

 ぼぅーとした緊りのない顔はいけません。即ち額は平であっておでこや凹んでいないのがよく,額が凹んでいますと角が曲り,おでこだと後へ曲って和牛の品種としての特徴がなく成ります。又額は広くて而も角の根元へ向って狭くなっているようなのがよろしい。額が狭いことは,体の巾や深みのないことと関係が有り,又角の根元へ向って狭くなっていない所謂鉢緊りの悪い牛は,体の緊りが悪いからです。眼は大きく,ばっちりとして,温和相で,まぶたの薄いのがよろしい。まぶたが重く眼が小さく,底光りのするような眼を持った牛は性質がよくないし,余りきょろきょろと神経質に動く眼の牛は臆病であったり,神経質過ぎる牛です。頬はよく肉がついており,顎がよく張ったのがよろしい。顎の張りの悪い牛は物喰いが悪く,飼い難い牛と考えるべきです。鼻梁とは,両眼の内眦を結んだ線から鼻鏡迄の範囲をいいますが,曲ったりしていないようなのがよろしい。

 鼻鏡はなるべく広く,口は前から見て広く,横から見て上下に厚く,唇も大きく,口裂の深いのがよろしい。口を開いてみて門歯が8枚揃っており,年令相応の歯の脱換状態を示していることが望ましく,又舌は灰黒色がよろしいが,奥の方の白いのは接舌といって,一向差支えありません。舌が全部白色であったり,桃色であるのは失格といって登録も登記もされません。

 角は太さが適当で,長さも年令相当の適当な長さがよろしい。牝の角はむしろ細いのがよく,牝では或程度の太さが欲しいものです。又角の断面が丸いのが望ましく,平角といって横断面が楕円形を呈するようなのは好ましくありません。仔牛のときには角の表面に角上皮がついているため土色を呈しておりますが,年をとるに従って,その角上皮がとれて光沢のある角地が出てきます。角地の色は先の方が漆黒で,根元へ向って段々とれ青色に変っているようなのがよろしい。白い角や縞の角や黄色の角は一般は嫌われます。共に和牛改良当時交雑された外国種の影響の強い現れとして,その肉質も悪いという考え方から嫌われるのであります。角の向きは上方へ向って牝では「い」の字形,牡では逆に「ハ」の字形というのが喜ばれます。これは一つには品種の特品として,又一つには管理の面からそのような形がよいとされているのです。耳は大きさが中等であり,大き過ぎないものがよろしい。つまんでみて耳質が薄く,血管が浮かんでおり附根がきりっと緊っているようなのがよろしい。大きく厚く附根が緩いような耳を持った牛は骨の太い,鈍重,粗野な牛です。項の凹んでいないことも大切です。ここの凹んだ牛は肥り難いということです。

(2)頸 成牛では性相の表現の顕著な部分であります。牝牡共に長さ,厚さ,深みが適当で前上方へは頭,後下方へは肩へ向ってなだらかに移行しているのがよろしい。頸の上線は牝ではきこうの前で段がついて落ち,所謂落頸にならないように牡では適当に頸峯が発達していなければなりません。又胸重は頸重と共に,牝ではなるべく少なく牡では適度にこれがあったほうが見よいです。

(3)肩 肩はぴったりと体に附いて頸及び胸との境界がわからないようなのがよく,肩付が弛くて肩全体が浮上っていたり,きこうの処での肩胛骨の着き方が弛くて,三枚肩や二枚肩になっているようではいけません。又肩胛骨が峻立して肩が立っていないようによく傾斜しているのがよろしい。きこうは余り薄過ぎないように,適当の厚みがあり,肩後もよく肉に埋っているようなのがよろしい。

(4)胸 胸は広く,深いのがよく,肩の後から肘後にかけて絞ったように狭くなった牛が時々いますがそんなのはよくありません。前胸がよく発達しており,胸底が平らで,広いのがよろしい。又肘後もよく肉で埋っているようなのがよろしい。

(5)肋腹 中躯の伸びと深みと張りのあるのがよろしい。肋がよく張って,ビール樽のような感じのものは物喰いのよい飼いよい牛です。中躯が浅く,腹の巻上った感じの牛は飼い難くく,下廉部もよく充実しているようなのがよろしい。腹のよく張った大きいのがよろしいが,垂れ腹はよくありません。牛の肋骨は13対ありますが,最後の肋骨が中途で切れているのがあります。これを「株」といいます。又最後の肋骨が肉へ沈んでいるのがありますが,これは「沈み」といわれ,共に嫌われています。要するに肋骨が全部しっかりとしており,肋骨と肋骨との間が広く,肋骨の傾斜がよく起きておりよく張ったのがよろしい。

(6)背腰 牛を横から見た場合の体の上線殊に,肩の後から十字部迄の線を背線といいます。背線は真直ぐで長いのがよろしい。凹背といって背線が凹んだり,接背といって段がついていたり,上り背といって前が高くなっていたり,鯉背といって背線が上湾したりしていないようなのがよろしい。又後からみた場合背幅に富んであり,腰巾も広いのがよろしい。

 背腰は肉の面より「ロース」や「ヒレ」のような最上の肉を蔵した部位であり,役の面からは,前肢と後肢との力の伝導路に当り,又ここがしっかりとしている牛は繁殖に長く供しても,体が崩れず,大変大切な部位であります。

(7)十字部 腰角,十字部というのは左右の腰角を結ぶ線と体上の正中線とが交叉する部分をいい,ここが平らなのがよろしい。前後及び左右の関係においても共に平らなのがよろしい。腰背は体の大きさに釣合って広いのがよろしいが出張り過ぎているのはいけません。又狭いのは言うまでもなく勿論いけません。

(8)尻と● 尻は横から見て長く,傾斜が少ないのがよく,尻の下ったのはいけません。又せん骨が高かったり,でこぼこしていないのがよろしい。後からみた場合尻の巾が広く,左右の傾斜の少ないのがよろしい。●の巾が狭いと尻の巾が狭くなりますから●の巾が広くなければなりません。又●の位置が下過ぎると尻の左右への傾斜(側斜)がひどくなるので●の位置の高いのがよろしい。又●が後にあると,尻の前半の充実を欠くことになります。●の位置は役力と関係が深いのでここが低くなく,巾が有り,前後の関係においても大体腰角と座骨端から等距離位いにあるのが,力の発現上有利です。

(9)臀と尾 臀は巾が広くなければなりませんが,同時に緊りがなければなりなせん。臀の緊りというのはつまり,坐骨端がむやみに広いのでなくて,坐骨は広いが坐骨端が幾分狭まい加減であり,又尾枕といって臀先に脂肪が溜ったりなどしないで,きりっとした感じの臀をしていることなのです。臀にしまりのないのは全体の緊りがないといわれて嫌われます。又坐骨端が突出していたり,臀の肉付きがでこぼこしないで,なめらかに肉がついているのがよろしい。

 尾の切込みが深くなく,せん骨から尾が自然に移行しており,尾根部が粗大でなく,尾骨に細くまっ直ぐ垂れていて尾端の骨は,飛節の少し上位迄のがよろしい。そして尾房の質が柔らかく細いのが望ましいです。巻尾といって尾房がきりきり巻いているのは毛の質が柔らかく細いのが望ましいです。巻尾といって尾房がきりきり巻いているのは毛の質がよい徴しとして喜ばれます。

(10)腿 腿は横から見た場合巾が広いのがよろしい。下腿の巾の狭い牛が多いですが,このようなものはよくありません。後からみた場合,厚みが厚く,外腿がよく肉が埋まっており,内腿も余りそげておらず,程よく肉がついているようなのがよろしい。

(11)乳徴 性器,乳房は前後左右均等によく発達して大きくならなければなりません。これは未経産の牛と経産の牛,又哺乳中と然ざるときで随分大きさが違います。泌乳牛でない場合には,乳房全体を摑んで引張ってみて,充分ゆとりがあり,同時に4本の乳頭の間隔の広いようなのが大きい乳房です。大きさのみでなく,質が柔らかく弾力性に富んでおり,乳頭も大きく柔らかく,よく離れてまくばりのよいのがよろしい。又乳脈も太く長いのが望ましいです。牡の場合でも,乳頭が大きくて,而もよく離れて位置しているのがよく,又乳頭が4本あるべきものが2本とか3本しかないものは登録も登記もされません。併し副乳頭といって4本以外に小さい乳頭のあるのは差支えありません。副乳頭のあるのは大抵泌乳量の多い乳房です。牝の外陰部は正常に発達していなければなりませんが,妊娠でも発情でもないのに牝陰の大きくたるんだものには,内部生殖器に故障のある牛があります。牡では睾丸がよく発達しておらなければなりません。

(12)肢蹄 肢の長さが長過ぎたり,短か過ぎないで,肢勢が正しくなければなりません。肢勢は前肢でおうおうにして膝が寄ってそこから下が外向のものが多いですが,そういう風でなく,まっすぐに立っていなければなりません。

 後肢については横からみた場合に坐骨端から垂直に降した線が飛節の後端を通って蹄の直後へ落ちるようになっていて,前踏みにならないよう又後からみた場合飛節が寄ってX状肢勢にならないように真直ぐ立っていることが大切です。食節は力を現すうえで大切な所ですが飛端が鋭角で飛節が大きく,而も強く緊っており,直飛や曲飛にならなくて飛節の高いのがよろしい。又管がなるべく細く,それでいて筋腱がよく発達して,所謂,骨緊り骨味のよい乾燥した肢が望ましいです。繋は強く,弾力がありたいものです。又余りに短くて立っていたり余りに長くて臥ていないのがよろしい。蹄は大きく厚く内蹄と外蹄との大きさが揃い且つ開かずにぴったりとくっついており,色が漆黒で質の緻容なのがよろしい。

(13)被毛 皮膚,毛色は黒毛和種では黒で,少し褐色味を帯びたのがよろしい。真黒いのは毛の質が粗いのでよくありません。又余り褐色が強過ぎたり,灰色がかったりしないのがよろしい。額や内腿や背線などの色の淡いものの好ましくありません。すだれとか,それの程度の軽い底すだれとかいって黒い地色に褐毛がかかった縦縞の入っているのがありますが,これもよくありません。白斑が牝の乳房部,牡の恥骨部即ち陰嚢附着部の直ぐ前とかに見られることがありますが,これは差支えありません。又乳房部などから更に前の方へ白斑が出ていたり,臍の部分とか漆襞裏など小さい白斑のあることがありますが,これは決して望ましいのもではありませんが失格とはなりません。従って乳房部から外れて白斑があっても,目立たない処は小さくある場合には,登録牛や登記牛として採っても差支えありません。併し乳房部や牡の恥骨部以外に大きな白斑が目立つ場合には登録,登記をされません。

 毛質は細く柔らかく絡糸のような感じがよろしい。殊に冬毛では綿毛が多くて硬毛が少なく,ビロードのような柔らかい感触のものがよろしい。これはよく触ってみるべきです。夏毛は冬毛と違って,綿毛がなく,短い毛が密生していますがこの場合にも細かい柔かい毛が生えているべきです。皮膚は摑んでみて柔らかく引張ってみてゆとりがあり,弾力があるのがよろしい。厚さは適度なのがよく,厚く,硬くゆとりのないのは最も良くありません。薄いのはむしろよろしいがゆとりの薄い皮膚はいけません。

(14)均称 体積,体の深みと肢の長さとの釣合いがよく,高さと伸びとの釣合いもよく,頭,頸,胴体の釣合いがよく,更に前躯,中躯,後躯の釣合いのよいのが好ましいです。胴伸びのよいのがよろしいが長過ぎるのはいけません。深みに富むことは望ましいですが短脚になっても困ります。前勝ちで後躯が負けるのもいけません。体上線は真直のがよく,発育のよいことも大切です。主要な部分について測定をして,別に示してある大きさと比べてみれば具体的に発育の良否がわかります。又体積が豊かでなければなりません。体積が豊かということは体の巾が広く,深みに富み,伸びも十分なもののことで,いくらか体高のみが高くても体積豊かとは言えません。

(15)品位 性質,繁殖用牛は牝牡夫々特有の性相を備えていなければなりません。性相は体の総てに現われていますが特に頸,頭部,角,前勝ちか否かの釣合,毛色,皮膚,腰角,腿,その他後躯の形,体格の大小,骨骼の太さ等によく現われています。又種牛として気品に富んでいることが大切です。気品は輪郭のはっきりした緊った体形のよい顔,優れた資質等から生じて来るものです。性質のよいことも大切ですが,性質をみるには前に掲げた牛を見る順序に従って一通り見たり触ったりすれば,その間に大体わかるものです。殊に,角とか,耳とか,体側,乳房,陰嚢,下腹部等に触ってみれば,性質の悪い牛は頭を振ったり,後肢を挙げて蹴ろうとしたり,体をそらしたり,ばたばたしたりしてよく解るものです。均称,体積,品位,性質という部分は,種牛を総体的に見て最も大切な処です。

(16)歩様 牛を使役する場合,歩様は力の発揮の上に非常に深い関係があります。歩様のよいものは力が強く,又体の構造の良否が,牛を歩かせてみると実にはっきりとします。牛の歩き方を後方から眺め,後肢が真直ぐに出されているのがよろしい。左右の肢の間が広過ぎたり,狭過ぎたり飛節が揺れていたり左右の肢が交錯するようなものもよくありません。更に側方から見て,前肢のたくりと踏み出しがよく,踏着が確実であり,後肢の踏込みがよくて,前蹄を踏み越す位であり踏着が確実で,運歩軽快,歩巾の濶大なのがよろしい。

(17)失格

(A)異毛色,黒毛和種から生まれる褐毛とか,灰色毛とか,全身の刺毛で糟毛と称すべきものとか,ひどい簾毛等を指しています。

(B)乳房部(我)恥骨(牡)以外の顕著な白斑,被毛,皮膚の項でも申した通り,乳房部恥骨部から外れていても余り目立たない処にある小白斑は失格になりませんが,目につく処にある相当大きい白斑とは該部毛も皮膚も白いものをいい,皮膚は白くないが,毛が白や褐色のものは,痣といわれます。

(C)白舌,舌にいくらかでも黒い処があれば失格にはなりませんが,全部白か桃色の失格となります。