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岡山県獣医畜産学会 研究発表特集

(12)蒜山地区に発生した牛の貧血病

中福田家畜保健衛生所 永井 仁

 最近蒜山地区の放牧牛を主体に相当多数の貧血病が発生特に輸入ジャージー牛に被害が大きく1頭の斃死牛を発生しましたので,農林省家畜衛生試験場,県畜産課の来援の下にその原因の解明を致して居りますがこの機会に現在迄の発生概況並に病例に就きまして中間の報告を申上げます。

一.発生の概要

 図表に示します如く7月1日を初発と致し現在までに8頭のものを処置致しました。何れも発生地には古くからの牧野があり何れも放牧若くは附近の繋放を行い牧野と何等かの関連性のあるものを思わせます。

 次にその発生は表の如く散発的でありまして牛から牛へと流行するとは思われません。これを種類別に見ますとジャージー牛5頭これは何れも3才で和牛3頭で2才2頭4才1頭で何れも今年度初めて放牧致したものばかりであります。先般表があります地区の検査を行いましたが(その頭数は85頭)脈膊に於ては著変が見られませんが体温40度以上のものは赤血球300万以下と概ね一致し血色も40%以下と言う如く関連性が見られますがこれ等はジャージー若くは和牛の若年令で今年度初めて放牧したものばかりであります。当時の気象条件は過去2年間と大差がありませんが降水量が著しく少い点が何等かの関連があるのを思わせます。

 放牧期間潜伏期等も不同でありますが Ixodes. Japonesis(マダニ),Ixodesricinus(タネガタマダニ),Haemophysolis  lispinasa(フタトゲマダニ)等が何れも寄生して居るのを見ました。

二.症候

 何れも元気沈衰を主訴と致します。今回の検査に於きましても歩行の不活発なもの例外なく赤血球数300万以下であると申しても言い過ぎではありません。

 食欲は不振若くは廃絶し両飢凹部は極度に陥没し,腹より腰巾の方が広く恰も障子を畳んだかの感が致します。好んで軟い土或は壁土を食します。この症例の特徴的なものに結膜口腔粘膜膣粘膜に貧血と共に黄疸色が見られます。体温は初期は40℃以上を以て初り脈膊も100以上となり多きは150以上を算します。心音は溷濁著明な貧血性雑音を聴取し,体全体何処でも心音が聴かれます。

 糞は暗黒色,硬固小形で少量宛排泄,尿はビール様色を呈し血色毒尿を見た例もあります。

三.血液所見

 血液は極めて薄く赤インキを垂した様な感が致します。赤血球はジャージー牛に於きましては平均670万でありますが処置致したもののうちの,1頭を除き何れも4分の1の200万以下で最低斃死致しましたもので若くは10分の1,68万と言った少いものであり白血球は普通9,000でありますがこれも4,000−6,000血色素はザーリーで測定致しましたが普通71のものが40%以下11%迄であり低血色素性の貧血と申せましょう。

 血液像は赤血球は極めて大小不同で不定型のものを多く,有核赤血球多染性赤血球が見られ白血球像は淋巴球62.5%(73%)好中球29.5%「19%」単球1.5%「3.37%」好酸球6.5%「2.70%」で好酸球の多いのが注目されます。処置した牛は勿論でありますが大半の放牧牛に於ては赤血球中に「小型ピロプラズマ」原虫を証明致しました。なお検疫所での検疫に於きましてはニュージーランド産ジャージーに原虫は1頭も見られて居りませんが和牛に於きましては昨年の導入前の衛生検査の際に若干の原虫を証明致して居ります。

四.経過

 血球数の増加は極めて徐々でありまして第一例では1ヵ月後の今日漸つと200万で食欲も未だ充分とは申せませんが第四例に於きましては食欲不振を訴えると同時に処置致しました為5日後よりは殆んど発病前と同様に採食する様になり血球数240万に増加致して居ります。面白いことは血色素量が20%以上に達すると食欲が急速に増加するのを見たことであります「重症例の場合」

五.処置

 診断が確立致しませんので対象療法を行いましたが何れの療法よりも早期発見に勝るものはありません。即畜主の発見致しますのは既に赤血球数200万以下に減少してからでありますので検査を反覆して未然に防ぐことが第一義であります。薬品と致しましてはアクリフラビン注ブドウ糖の大量投与が効果的であったと思います。

六.剖検所見

 剖検所見を簡単に述べますと貧血以外に脾臓「1kg」肝臓黄疸カタール性腸炎と言った程度でした。

 以上要約致しますと若令初回放牧牛,特に環境の急変したジャージーに多発すること糞便検査の(一)ダニの寄生血液所見臨床所見によりますればある程度の結論が出来ると思いますが,農林省家畜衛生試験場中国支場の明確なる診断を俟ちこれで中間報告を終ります。