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岡山県獣医畜産学会 研究発表特集

(7)山羊の消火器寄生虫の被害と其の方策

総社市真壁 開業 土屋碩夫

 一.緒言

 最近乳用山羊の飼育熱が段々と盛んになり農山村の食生活の改善に多大の貢献をなしつつある事は同慶に耐えない処であります。一方年々県畜産課等の斡旋により先進地より優良種畜が導入せられ品種の改良面に着々成果を収めつつありますが反面ザーネン種の血度が増加するに連れて加速度的に腰麻痺と消火器寄生虫に対する抵抗力の減弱が認められ折角の改良種も充分その天賦の能力を発揮する事が出来ない傾向にあります事は山羊普及の最大の隘路を形成して居ります。本日は腰麻痺問題は暫く置き消火器寄生虫の被害と其の対策に就て過去10年間の体験を発表し皆様の御批判を仰ぎ度いと存じます。

二.被害の状況

 山羊の寄生虫には胃虫,腸結節虫,毛様線虫,肝てつ,双口吸虫,条虫類等数種ありますが感染率と言い実害と言い最多なるものは胃虫と腸結節虫です,感受性の差異は品種による相異が判然として居り在来種及びその雑種は比較的少く累進交配によりザーネン純粋種に近づくに連れて大となります,ザーネン種飼育の牧場や山羊改良組合を結成し雄々しく出発した地区の人々が寄生虫に因る被害が余りにも著しい為に数年を出でずして其の飼育を断念した実例は決して少くありません,又舎飼のものに比較的被害少く繋牧或は放牧するものに多く処女地に少く連年飼育地のものに多い事は其の感染経路より首肯く事が出来ます,又牛族との交流感染が肯定されますので其の繋放牧される地域内の繋放や採草は甚だ危険であります,現在総社市附近の可成りザーネン種の血度が進んで居りますが無処置にて堤防,河川敷,空地等に繋放されあるものは100%の胃虫か腸結節虫或はその混合感染を示し殆んどの山羊が栄養不良で天賦の能力を発揮して居るもの皆無の実状です,被害の最大なるものは離乳直後の仔山羊で少数寄生にても発育が停退します。早きは青草採食後2週間で症状が現れ被毛は光沢を失い捲縮逆立し栄養衰え発育停退し甚しきは軟便を排泄し遂には悪液質に陥り可惜良質仔牛山羊を代なしにして居る実例は珍しくありません,成山羊は仔山羊に比し抵抗力強きも被毛の捲縮,逆立,痩削,貧血,食欲不振の他乳量の減少,乳汁の稀薄,使用年限の短縮等その経済的に及ぼす実害は多大であります。熟練家によれば皮膚の色や皮毛の状態等外貌を一見したのみにて寄生虫感染の有無や程度を察知する事が出来,糞便検査の成績と概ね一致して居ります,又明2才の未経産山羊や良質の飼料を豊富に給与しあるものでは例へ感染あるも被害の程度は軽微であります,之に反し飼料の粗悪である場合や妊娠,分娩,泌乳,疾病,輸送等山羊の体力を消耗する様な場合に於ては急速に症状が悪化します。

三.対策

一.繋放を排し総て舎飼とし清浄な青草,青刈飼料,乾草,サイレージ等を給与し感染を未然に防ぐ事 二.山羊糞は藁と共に堆積し醗酵熱により虫卵を死滅せしめる事唯堆肥の周囲の部では予期の高熱がなく,虫卵の死滅が行われないので時々積み換えてやる必要があります 三.山羊の栄養状態を常に良好に保たしむる事は寄生虫の感染率を低下させます 四.虫卵の孵化には一定の温度を必要とするので冬季の感染は先ず実際問題として心配なく夏季の感染が普通であるので夏季及び秋の終りに検便,駆虫を励行する事 五.検便にはスライドグラス上にマッチの頭大の糞便を乗せ生理食塩水を1−2滴落し薄く塗抹し,80倍位の弱拡大で鏡検さする程度の簡便法でも実用には差支えありません 六.駆虫法には色々ありますが実害の最大なる胃虫,腸結節虫の駆除に私の好んで用いる方法は硫酸銅液とフエノチアヂンの同時使用です,即ち約18時間絶食後1%硫酸銅液を体格の大小により25cc−60cc位投与しその直後フエノチアヂンを約5倍に麩等に混じ採食させる方法です,之は一見薬量が過少の様に感じられますが先ず硫酸銅液により食道溝を形成せしめ爾後の薬物として直接第四胃に流入する如くし,然も両薬の相乗作用と中毒量の半減を狙ったもので薬物の巧みな用法だと信じて居ります,尚本法によれば対胃虫硫酸銅習慣性を排除し得又薬価もフエノチアヂン単味使用の半額で済む利点があります,本法は今迄数百例に使用し著効を収めて居りますが,唯重症で食欲の減退して居るものにはフエノチアヂンを麩に混与しても採食しませんので少量の小麦粉をフエノチアヂンに混じ水剤として投与して居ります。

四.結言

 以上申し上げました通り年々山羊飼育頭数の増加とザーネン種々畜導入による品種改良の結果は反面消火器寄生虫による被害を加速度的に増加して居る現状であるます故,之が適切なる予防対策を講ずるに非ざれば山羊の改良普及事業は足踏み状態に陥るのではないかと憂慮されます,又乳量の減少,乳質の低下,使用年限の短縮,仔山羊の発育不良等経済上に及ぼす損失は少からざるものがあります故畜産に職を奉ずる様皆様の適切なる指導によりましてその被害を最少限に喰い止めて頂き山羊改良普及事業の順調なる発展に期し度いと存じます。