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岡山県獣医畜産学会 研究発表特集

(8)初生仔牛の脳水腫の臨床剖検例

美甘家畜保健衛生所 横見瀬広徳 影山大二

 昭和23−24年田島(1950)木全(1950)等の研究調査に依り,視神経系機能の消失,及び舌下神経機能鈍麻,並に脳炎中和抗体反応とは凝関係なる,初生仔牛の脳水腫が報告された。当保健衛生所に於ても昨年11月より今年3月初旬にかけて,黒毛和種より5例の発生をみたので,其の臨床症状及び一部の解剖所見を報告する。

T 臨休症状

[例T]

 禀告 昭和29年11月11日生,牝5産仔牛,妊娠期間289日,栄養良好,格別の異常を認め得ずも哺乳力なく来診を乞う。

 症状 鼻汁多重で透明,口腔内粘液量舌左半鈍麻,歯牙発生異常,右斜頚を呈し,視力微弱,腫孔散大し角膜乾燥並に角膜反射稍々認めらる。又舎内慢歩痴鈍

 転帰 8日目死亡

[例U]

 禀告 昭和29年12月3日生,牡3産仔牛,妊娠期間291日,栄養稍々良好,正常分娩するも哺乳意思なし

 症状 口腔内に粘膜を含む泡沫を貯め,咀嚼運動を繰返す,舌麻痺はなく歯牙発生極不良,視力稍々有り,頭部左右振盪し起立不能,腹式二段呼吸,胃腸蠕動殆んどなく,時に結腸部の逆蠕動を認め排便なく軽度の疝痛を見る。

転帰 2日目死亡

[例V]

 禀告 昭和30年1月15日生,牡2産仔牛,栄養不良,妊娠期間262日早産,飲思全然なくも元気稍々有り,人工哺乳稍々可能

 症状 口腔内に粘液多量入れ,前頭部異常に隆起し,起立不能

[例W]

 禀告 昭和30年2月21日生,牡9産,仔牛,妊娠期間292日,栄養良好哺乳力微弱の為め診察を乞う。

 症状 栄養良好,元気なく直立し頭部下垂,歩様不確実,口腔内に泡沫性唾液充満し,舌背隆起なく,微紅色,視力減弱眼窩萎縮,(25×16mm)前頭骨中央特に隆起し飛節下稍々浄腫

転帰 4日目死亡

[例X]

 禀告 昭和30年3月3日生,牡,初産仔牛,妊娠期間286日,栄養良好,飲思欠除,人工哺乳稍可能

 症状 右斜頚右旋回運動を呈し視力稍々鈍麻 Cheyne-Stokes(シャイン・ストーク)呼吸,鼻汁及び口腔内に粘液多量を認める。又舌麻痺,左横臥嗜眠,頭部畸型及び歯牙発生異常,時々反芻様症状を発現し,皮膚刺激に対し殆んど反応を認められない,心臓機能障害

 転帰 4日め死亡

U 解剖所見

 脳水腫仔牛3例に就いて剖検を実施したが,病理診断の結果を総括すると,大脳従裂欠除 1例,大脳内水腫(黄色透明液16−260a)3例,眼球萎縮3例,肝脾萎縮3例,Lymph(リンパ)球増多症 3例,誤蒸性肺炎 1例,胃内毛球 1例,歯牙発生異常3例が認められた。

V 総括

 吾々は昨年11月より今年3月初旬の5ヵ月間に於て5例の脳水腫仔牛に相遭したので,其の臨床及び剖検に就いて記述した。臨床所見に就ては特に視力減弱,舌神経鈍麻及び歯牙発生異常が認められ,剖検3例に就いては脳水腫,眼球萎縮,肝脾萎縮Lymph(リンパ)球増多等が認められ,1例に於ては胃内毛球が見られた。

 要するに初生仔牛の脳水腫は近年各地方に於て季節的に多発しているが特殊な処置法もなし,所謂難病として取扱われ,人工哺乳に依る看護のみが最良の方法として実施するも,舌神経鈍麻の状態に於ては誤蒸を未然に防止する事も不可能であって,殆ど無処置のままに終っている。