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牧野改良共進会
蒜山地区で開催

 蒜山地区酪農推進協議会主催,県及び真庭郡農業振興協議会後援で,蒜山地区において第1回蒜山地区牧野改良共進会が開催された。その結果次のとおり1等から3等まで入賞し,1125日真庭郡八束村役場において褒賞授与式が行われた。

 この共進会では最初地区協議会が審査し,ついで最終審査を花尾県畜産課経営係長,審査長で11月7日から同11日まて5日間審査されたが,集約酪農地域の自給飼料増産上,酪農民に対して多大の感銘を与え,その効果は大きかった。

 なお1125日は授与式に引続いて牧野改良に関する講習会が行われた。

授賞目録

集団牧野の部

   1等賞 二川村 長谷牧野

   2等賞 八束村 野田原牧野

          〃  槇の野牧野

   3等賞 川上村 熊谷牧野

        中和村 常藤牧野

        八束村 中蒜山牧野

個人牧野の部

   1等賞 八束村 池田孝二

   2等賞 二川村 渋谷泰治

        湯原町 美甘三武郎

   3等賞 二川村 山下忠光

        湯原町 渡辺 守

        八束村 三牧暉一

牧野改良共進会審査報告

 蒜山地区牧野改良共進会の実地審査を11月7日から1111日までの5日間,実施いたしましたので,その概要を御報告申上げます。

審査方針

 審査は別に規定しております審査基準により実施しましたが,今回は高度集約牧野改良事業の初年目であり,且つ事業実施後僅かに半ヵ年を経過しているにすぎない実情からしまして次の点に主眼をおいて審査いたしました。

 即ち単位面積当り牧草生産量の比較は一応取りやめ牧草が明年度において,ようやく成果をあげるにふさわしい生育程度を最低基準線とし,これに牧野内における牧草の生育状態の均一性或は齊一性の状態を加味しました。

 次に農家一戸当りの改良事業面積の広狭に単位牧野面積が収容する乳牛頭数の多少を加味して,第2の審査項目として特に集団牧野について牧野改良事業が共同の力を要することから,作業の共同態勢の程度を第三の審査項目としました。更に肥培管理の状況及び作業の巧拙を第4,第5の審査項目としたのであります。なお最後に附言しておきますが当蒜山地区5ヵ町村におきましては地勢の関係から概して川上,八束,中和村の牧野は平坦乃至緩傾斜地で,二川村,湯原町のそれは急傾斜地でありますが,審査は同一基準で実施いたしました。

出品区分

 この審査に,参加し得る牧野は,牧野法に基き,昭和29年度において,高度集約牧野に指定された改良事業実施部落単位の集団,或は団体牧野と今一つは,集団牧野内で各個人が分轄利用している個人牧野であります。最終の実地審査をうけた牧野を町村別にみますと集団牧野の部では,川上村1,八束村4,中和村1,二川村1,計7ヵ所,個人牧野の部では八束村8,二川村4,湯原町3,計15ヵ所であります。

審査概要

 各出品牧野共に牧草の生育は良好で,明年の成果が大いに期待されていますが,肥培管理,牧草の生育状況の齊一性及び作業の巧拙,刈取利用等については可成りの優劣がみとめられます。

細部所見

 細部に亘ってみますと耕起は平坦乃至緩傾斜牧野は,7−8馬力のロータリー式,或はクランク式自動耕耘機により2回程度耕起し,その状況は,この機械の性能上,他に望む何物もありませんが,2−3ヵ所の牧野において,機械の粗雑な使用により砕土不充分で耕土の浅い乱暴な耕起跡がみうけられました。自動耕耘機による耕起の跡は特に砕土,整地,野草根の除去等を徹底すべきでありますが,これが完全でなく,その結果牧草の発芽不良,野草の繁茂による牧草の圧迫等好ましからざる事態が発生しています。

 急傾斜牧野はその傾斜度が25度以上40度に及んでおり,特に耕起後の土壌侵蝕即ち,エロージョンの程度を注目いたしましたが林木伐採跡地や一部の軽鬆な土質の牧野を除いてその心配は殆んどみとめられませんでした。

 特に,急傾斜牧野の耕起作業に反当り,延19人歩の労働力を投下し,苦難の事業を克服し,すばらしい牧野を完成したことについては,驚異の観と敬服の念に満たされるのであります。

 次に播種は,すべての牧野が条播を行っておりますが,この場合の畦巾,播種床巾に改善の必要があります。即ち,畦巾は狭く1尺3寸−5寸とし,播種床巾は8寸−1尺に広くして出来る限り牧草の生育面積を拡張するよう工夫すべきであります。

 播種技術は良好でありますが,全般に播種量が多く,厚播の傾向があります。また2−3ヵ所の牧野では,局部的に発芽不良がありましたが,これは耕起後の碎土及び整地を厳重に行い,播種床を深くせず播種後は充分沈圧し,或は又,肥料,特に石灰窒素と種子が直接触れ合わないようにする等,一層の研究が必要であります。

 肥料施用の問題につきましては当地の牧野土壌は酸性が強く,燐酸成分の欠乏は甚しく劣悪な火山灰土壌でありますが,この土壌の改良なくしては牧草の生育は望まれないという認識が広く普及し,石灰,燐酸質肥料を多用し,又,使用する肥料が中性乃至アルカリ性肥料である等については敬服の至りであります。

 その施肥量をみますと,基肥として反当り最低炭カル66貫,石灰窒素5貫,熔性燐肥8貫が施用されておりますが,今回の禾本科を主体とした牧草には充分でありますけれども,追肥の施用をおろそかにすることは許されません。事実2−3ヵ所の牧野では窒素質肥料の肥切れがみられました。従って肥料の施用においては,土壌の肥沃程度を充分把握することが肝要であります。牧草に対する肥培管理は概して良好でありますが,牧草の生育していない空地,即ち畦間の中耕除草は殆んどの牧野にわたって不充分でネザサ,ワラビ,シバ,或はイバラの類がその程度に多少はあれ,生育し,この管理の充分行われた牧野は個人牧野で2ヵ所みられるのみでありました。

 野草の生育を放任しておきますと短時日の間に牧草を圧迫し,再び野草地に復元するおそれがありますから今後この管理に弛まざる努力を願いたいと思います。

 最後に刈取利用の面について申上げますと,概して刈取適期を失して刈取利用している牧野或は全然刈取利用していない牧野が多く,又刈取の高さについてみますと極めて低く,地際刈であります。適期を失した刈取は生産牧草の量質を低下させ,亦適時の刈取りは牧草の生育を刺激し株張りをよくするものでありますが,特に刈取りの部位が低いと刈取後の再生力を弱め,本年初回の利用としては明年の生育をおさえる結果となります。更に刈取後の追肥は必ず実行すべきであります。

短評

 次に上位入賞の牧野について概評を試みますと,集団牧野において,第1位入賞の二川村長谷牧野は2035度内外の急傾斜地という悪条件のもとに,改良事業実施農家10戸が強固な団結力により草地造成の鍬をふるい,作業の巧拙,肥培管理に多少の不備はみとめられますけれども全牧野に亘って牧草の生育状況は良好であります。

 八束村野田原牧野は牧草の生育状況,その他について第1位の長谷牧野と優劣の差が殆んどなく兄たりがたく弟たりがたしの実状でありますが,農家1戸当改良面積,単位牧野面積当乳牛頭数において,前者より劣り第2位といたしました。

 個人牧野につきましては優劣の判定に困却したのでありますが,八束村庄頭牧野所属の池田好二氏所有牧野が多少の肥切れの点がみとめられましたが,生育は優秀で,肥培管理に意をつくし,且つ改良面積は出品牧野中最大でありますので首位といたしました。

 二川村湯奥牧野所属の渋谷泰治氏所有の牧野は肥培管理の点において極めて優秀でありましたが,作業の巧拙において多少劣り,又刈取りについてその時期を失していると考えられますので,第2位ていたしました。

今後の問題点

 以上審査の細部所見を申上げたわけでありますが,今後における当地区の牧野改良技術,或はその経営の問題点を申しのべて各位の御参考に供したいと思います。

 第1に耕起作業について申上げますと,県においては牧野改良事業の重要性にかんがみ昭和30年度においては,大型トラクターを購入し,これによって安価に且つ迅速に牧野の耕起整地等,播種前の作業を実施することにしておりますが小面積を自動耕耘機により耕起する場合は,耕起の深さは普通3寸程度でありますから笹地におきましては,耕起後も笹の生育が旺盛で牧草の生育が圧迫されるおそれがありますから耕起前,盛夏の候にクロレートソーダ等の如き殺草剤を使用することが望ましいことであります。勿論,この殺草剤の効果は次に申上げます急傾斜牧野の場合においても同様で,大いに使用すべきであります。

 次に急傾斜地の耕起は現在行っておりますように,帯状等高線状に2尺5寸前後の間隔で,播種床を作るか,或は25度以下の傾斜地であれば,全面耕起3尺から6尺,不耕起3尺から6尺の巾を交互に等高線状に,帯状に設けるのも一策であります。

 第2の問題点は石灰及び燐酸質肥料の多用とクローバー類の導入であります。即ち,今回の播種牧草は禾本科牧草を主体にいたしましたが,この結果は単位面積当りの蛋白質生産量が少く,又土地利用上からもクローバー類の導入が必要であります。従って禾本科牧草の生育する条間に石灰及び燐酸質肥料を多用して,明年早春にクローバー類を播種すべきであります。又新規に牧野を改良し播種する場合は,少くとも反当り2ポンド以上のクローバーを禾本科と混播することが必要であります。

 第3は傾斜地における土壌侵蝕,即ちエロージョン防止策の問題であります。このエロージョンによる被害は平坦地においても認められるものでありますが特に傾斜地において耕起しますと,雨水のために土壌が流亡し,土地はやせ,草地が蓄積用地としての価値を失するのみならず,大洪水の発生等,国土保全の面からこの防止策は特に重要事であります。この防止策は色々とありますが前にも申上げましたように耕起と不耕起地を帯状に交互に等高線状に設け,更に降雨量の多い春6月及び秋9月の時期には播種した牧草が相当程度生育して根を張り,且つ茎葉が土壌を被覆するように播種時期及び耕起時期を決定すべきであります。肥飼料木は土壌の肥培,庇蔭の効果を有しておりますが,エロージョン防止にも有効で必ず植栽すべきであります。

 第4の問題点は刈取り利用で,従来我々は野草を掠奪的に利用し草地の肥培は毛頭考えることなく,その結果地力は減退し,草地の利用価値は次第に消失しつつありますが,この慣習は牧草化された牧野の利用において厳に慎しむべきことであります。このためには牧野土壌により相違はありますが刈取後毎回反当り窒素質肥料を硫安換算で1貫,燐酸質肥料を過燐酸石灰換算で2貫,加里質肥料は塩化加里を0.5貫程度に追肥すべきであります。又牧草の刈取りの高さは,前にも申上げましたように,低きにすぎると再生力が低下しますから地上1寸5分以上は残すべきで,特に晩秋の刈取時期においては高刈りの必要があります。なお火山灰土壌の改良と改良牧野の草生の維持の観点から堆厩肥の施用の必要性は申すまでもないことでありますが,現在の段階においては云うべくして行い難い実情であります。従ってこのためには肥料三要素の施用,緑肥栽培とこれが鋤込み等,更には現地における野草の速成堆肥の製造等の手段を講ずることが肝要であります。以上技術面での問題点について申上げたわけでありますが,最後に高度集約牧野の利用方式について附言する前に,かかる牧野改良事業は決して容易な事業でなく,特に資金面においては個人の資力をもっておそらく事業の完成をもとめるに無理で,又労力面においても可成りの投下量が必要でありますから共同の力で,改良事業にあたらねばならないということと今一つ牧野に通ずる道路の整備が改良事業実施上において,或は将来の牧野経営上において,その基盤となるものでありますからこの面での事業を合せて実施されるよう特に申上げます。

 さて高度集約牧野の利用上の問題に関しましては即ち,この地域に横たわる広大な面積の草地をお互の営農の内に取り入れ,この経済価値を向上せしめるためにはその立地条件からして,利用農家から遠距離であることが生産牧草を青刈採草目的にのみ利用することは,決して合理的,効率的と申されません。

 幸に昭和29年度から経済性の高いジャージー種乳牛の導入が実現されている現状からしまして,この牛の飼養密度の高まるにつれ,共同放牧地として利用し,更に他の家畜までにその範囲を拡大し,余剰牧草は乾草用或はサイレージ用として利用することによって始めてこの集約牧野が農業経営組織と円滑に結びつき,その経済価値が最大限に発揮されるものと考えられます。これを要しますに昭和29年度に実施されました高度集約牧野の改良事業は,当地区農家にとって初めての事業であり,技術的経験は乏しく,多額の資本と多大の労力を必要とし,更に不慣れな共同作業態勢が要求されましたにもかかわらず,すべての困難と障害を克服されここに本県におきまして極めて優秀な牧野の造成に御尽力された関係各位に衷心から感謝し,今後一層の御活躍を希うものであります。

 最後に出品者並びに関係各位の絶大なる御協力に対して感謝し,私の審査報告を終ります。

 以上審査の成績により,集団牧野においては

1等  1点

2等  2点

3等  3点

 個人牧野におきましては同じく

1等  1点

2等  2点

3等  3点

を擬賞しました。

 褒賞授与せられますよう謹んで申請いたします。

昭和301125日 蒜山地区牧野改良共進会 審査長 花尾省二