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五.飼料の調理
(イ)濃厚飼料の調理・穀類は原形のままで与えますと,粒が小さくて硬いために,そのままで排泄されるものがあって不経済です。それで煮熟か碾割か水浸かの方法があります。
穀類は澱粉に富んでいまして,そのために煮ると大変味がよくなって,採食も消化もよくなります。もし碾割らないならば煮てやるべきでしよう。一般的には粉碎又は碾割ったのがよろしい。原形のままに比べて遥かに消化吸収がよくなります。煮熟すると蛋白質がかえって消化率が減ずるという事もあるので大豆のようなものは,水浸して軟らかくして与えるのがよく,この場合水浸した水も同時に牛へ与えたのが得策です。
(ロ)粗飼料の調理・藁は1寸か1.5寸位に切って与えます。藁等の長さは長さが一定の方が量は多く食べますし牛は馬より長目の方が消化もよい様です。乾燥藁よりも石灰藁とか熱湯を注加した藁を与えるのが望ましいと思います。乾草も濃厚飼料と混与する時は藁と同じ位に切って与えます。生草は乾草と同様に扱います。夏には,山間部地方では毎日山草を刈って来て,これを牛小舎へ投げ込んでよい部分は食わせ,他は敷料にする方法をとっています。決して良い方法では有りませんが生草の一給与形態です。
サイレージはすでに切ってありますから,そのままで与えます。濃厚飼料と混与するのがよいと思います。
(ハ)根菜類の調理・前にも述べたように薄く切って与えます。丸のままで投与する事は危険を生ずる事がありますから,薄く切って切藁や濃厚飼料に混ぜて与えましょう。
六.飼料の与え方
(イ)濃厚飼料と粗飼料との混与・濃厚飼料はそれだけを粉状のままで与え粗飼料は粗飼料だけで別に与えるという方法は乳牛等ではよく採られている与え方です。これは濃厚飼料の給与量が多く,粗飼料も牧乾草とか,飼料作物の青刈等の時にはよい方法です。和牛では与える粗飼料が稲藁その他質の悪いものでしかも濃厚飼料の給与量は極めて少ないのですから,粗飼料と濃厚飼料とを混与した方が牛がおいしく多く食います。
乾草,生草,埋草,根菜等と濃厚飼料とを混与する時は,所定量を混ぜて,少量の水を加えて,手で揉むようにしてよく撹拌して与えます。
(ロ)練り飼いか,ドブ飼いか・ところに依ってはお茶漬けのように水を沢山入れて食わせる処があります。これは牛に必要以上の水を与える事になります。濃厚飼料と粗飼料とが良いぐあいに混ぜられる程度の練り飼いをお進めします。
(ハ)煮飼いか,生飼いか・原則的には生飼いでよいと思います。ただ肥育牛とか,これに準ずるようなものでは,煮飼いの方が牛の食いがよいので,そのために多くの増体を期待出来ます。こんな場合に燃料費が安ければ煮飼いがよいでしょう。
(ニ)水の与え方・仕事の手順のよい時に1日2回程度与えます。朝飼いと夕飼い後に飲ませるというようなのもよいでしょう。慣れば1日1回でもよろしい。しかし寒い時期には少し温かい水を与えるべきです。食前でも食後でも食間でも結構ですから,毎日同じ時に同じ回数を与える事が大切です。また暑い時に使役する場合には作業の前後に充分水を飲ませるようにしましょう。よく水を飲む牛は発育も太りもよろしい。
(ホ)飼料の給与回数・1日3回給与が普通です。肥育牛とか,発育中の牛とかには,寝る前に夜飼いをやって,1日4回与えます。もっとも肥育牛以外に夜飼いをやるには生草か乾草を投与すればよろしい。
一三.和牛の買い方
一.仔牛の育成
(A)哺乳中の仔牛の飼い方
仔牛は生れてから20分乃至40分位の間に立上って哺乳を始める。1回母乳を飲めば,それ以後は母牛に預けっ放しにしておいても大丈夫です。生後4,5日経てば母牛と一緒に運動場や近くの放牧場へ放牧しても差支えありません。生後20日位いしますと母牛の餌をなめるようになりますが,母牛の飼料をなめ初めてから1,2ヵ月の間によく下痢を起すことがあります。慢性にならない内に早く治療しなければなりません。
母牛の泌乳量の多くない牛では仔牛の生後60日−70日位い,泌乳量の中等以上のものでは生後90日位いから仔牛に別飼いをします。この時期には仔牛の第一胃はまだ成牛のように胃全体の大部分を占めている訳でないですから量の多い粗飼料を余り多く与えない方がよろしい。濃厚飼料の割合いを多くし,而も濃厚飼料の配合は蛋白質を多く含むようなものであり,消化し易いものでなければなりません。粗飼料も質のよい蛋白質に富むようなものでなければなりません。又無機物殊にカルシウム分の補給が必要であり,ビタミンAの含量の多いものを考えることも必要です。哺乳中の仔牛に対する濃厚飼料の配合割合を当場での例をとり申しますと,(生後3ヵ月−6ヵ月)
大麦(碾割)30%,麩50%,大豆粕20%,炭石2%,食塩1%
粗飼料は良質のものを5分−1寸に切って,1回に1−2握り与えればよろしい。
牝の仔牛及び将来種牛用に育成するようなよい牡の仔牛は生後6ヵ月で離乳します。普通の牡は4−5ヵ月で離乳します。
(B)当才の仔牛の飼い方
大体6ヵ月から12ヵ月迄の仔牛です。離乳直後の仔牛は今迄と違って母乳を飲まなくなり,飼育者が変る為に飼料が変り,飼い方と管理が変り,ことによると気候風土の変った処へ連れて行かれます。このように一度に非常に大きな改変が起り,而もまだ仔牛は総てに抵抗力が出来ていませんから離乳直後の仔牛を買った場合は,その当座はよほど注意して飼養管理せねばなりません。将来繁殖に供用する目的ならば,牡牝に拘らず固く育成することが大切です。骨骼を作ることに主眼を置き,むやみに太らせてはいけません。しっかりと緊りがよくて正しく立った肢と蹄を作らねば,それに支えられる胴体の骨骼も正しくなりません。どうかといえば痩せてみえる程度に緊りよく育てます。併し発育不良になってはいけませんからカサだけは大きく発育させます。
それには次の様なことに特に注意して下さい。
(イ)蛋白質とカルシウム分とビタミンAとの豊富な飼料で飼うこと。
(ロ)運動を充分にすること。
(ハ)削蹄を年に3−4回位いすること。
(ニ)腹を大きく,肋の張りのよい牛にすること。
(ホ)発育が順調か否かを見ながら飼料の給与量を加減すること。
当才牛に於ける当場での濃厚飼料の配合を申しますと
大麦(碾割)20%.麩30%,大豆粕20%,米糠30%,炭石2%,食塩1.5%
粗飼料としては野草と稲藁を主体として飼育する場合,その粗飼料は夏飼期に舎飼いをする場合は野生草を牡牝共に1日12−17kg与えます。昼間のみ放牧をする場合には夜飼いとして牡牝共に野生草を4−6kg投草として与えます。
冬飼期には切藁と乾草とを合せて3−4.3kg与えますが,この場合両者の比は乾草の質がよろしければ,それの割合が多い方が好ましいです。又出来ればサイレージ又は根菜を少量でも併せて与えるようにしたいものです。
立派に仔牛を仕立るにはよい飼料がいりますが,悪い飼料を少ししか与えなくても何とか育って行く処に和牛の強みがあります。発育が遅れることを承知の上ですと,連日放牧し続けても又野草を充分に与え,それに稲藁やほんの僅かの糠類,屑麦類を与えても育っていくものです。
二.明2才の若牛の飼い方
明2才とは生後12ヵ月から24ヵ月迄のもので,育成における仕上げの時期です。
当才の間に幾分痩せ気味に固く,骨骼を作った素牛の上に肉を被せて,体型を仕上げ,調教と,手入れによって種牛としての品位をもたせて立派な種牛に仕上げます。そして生後18ヵ月以後になれば登録審査を受けたり,非常に優秀なものは共進会に出品したりします。
この時期に特に実施し注意すべき事項は,
(イ)放牧は14−15ヵ月迄で打切り,以後は一定の時間正しい姿勢を取るべく繋留し,1日1回又は2回曳運動を行います。
(ロ)飼料も可成り与え幾分蛋白質含量の少ない飼料でもよろしい。余り脂肪量の多いものをやると時に脂肪瘤が出ることが有ります。濃厚飼料を増せば増す丈石灰分,ビタミンAの含有の多いものを与えることは当前です。
(ハ)出来れば毎日川入を行い,削蹄も年3−4回は必要です。
(ニ)調教も行い,角磨もして品位をつけるようにします。
(ホ)候補種牡牛等で腹が特に大きい牛では多少腹を締めるように飼います。
(ヘ)常に発育曲線に照し注意します。
当場での2才の牛の濃厚飼料配合割合を申しますと,
大麦(碾割)25%,麩30%,大豆粕15%,米糠30%,炭石2%,食塩1%
粗飼料としては野草と稲藁を主体として飼育する場合,夏飼期に舎飼する時は野生草で1日18−25kg位,昼間のみ放牧する場合,夜飼いとして牝牡共に野生草7kg投草して与えます。冬飼期には切藁と乾草を合わせて4.6−6kg位です。この場合も勿論サイレージ又は根菜類を少量でも併与することは望ましいことです。
三.繁殖牝牛の飼い方
繁殖牝牛の飼い方は妊娠中、哺乳中或は空き腹のときでも又若牝牛と2−3産以後の成牝牛の場合とでも多少違います。
当場での濃厚飼料配合割合を申しますと,大麦(碾割)20%,麩40%,大豆粕10%,米糠30%,炭石1%,食塩1.5%
濃厚飼料の給与量も妊娠前半,後半,哺乳中とで違って来ます。
粗飼料については夏飼期,野生草を飽食させます。1日30kg位いで大体充分です。
冬飼期には切藁1日3kg,野乾草6−8kgを与えます。又出来れば根菜又はサイレージを6−8kg程度与えますと猶結構です。猶考え方一つで良質の粗飼料であれば之丈を多量に給与することに依って最高泌乳期の如く,繁殖牛としては最も多くの栄養分を要するときでさえも濃厚飼料無給与で飼うことが出来ます。
繁殖牝牛の種付期ですが生後18−20ヵ月で初種付をすることが望ましいですが,発育の悪いときは20−24ヵ月迄遅らせなければならない場合もあります。
それと又春秋の農繁使役期とお産との関係を考えて,その時期には分娩させないように,又出来れば使役期が妊娠末期にならないように調節することが大切です。
又繁殖牛についてえてして飼料成分に無頓着になり易いですから,この点特に注意が必要です。仔牛を胎内で育て,更に牛乳を分泌して生れた仔牛を育てるのですから繁殖牝牛の体の消耗は実に甚だしく,即ち蛋白質,カルシューム・ビタミンAの欠乏が顕著となります。その為に発情が来なかったり,微弱であったり,10年以上経つか経たないのに体が崩て了ったり,早老で早くから仔がとれなくなってしまいます。即ち右に掲げた3つの成分を充分に補給することが,連年生産し且つ長命でよい仔を生ませる為の必要事項です。
削蹄は少くとも年2回,出来れば3回削蹄します。運動も碌々させず,蹄を伸ばしておきますと早く肢勢が崩れ,延いては体型が崩れて来,使役の際にも力が出なくなります。農繁の使役期には少くとも10日−20日前に必ず削蹄しておくことが大切です。
生 後 3 - 4月 |
4 - 5月 | 5 - 6月 | 6 - 7月 | 7 - 8月 | 8 - 9月 | 9 - 10月 | 10 - 11月 | 11 - 12月 | 12 - 13月 | |
牝 | s 0.8 |
1 | 1.2 | 1.5 | 1.8 | 2 | 2.2 | 2.3 | 2.4 | 2.5 |
雄 | 0.9 | 1.1 | 1.4 | 1.8 | 2.1 | 2.4 | 2.6 | 2.8 | 3 | 3.3 |
生 後 13 - 14月 |
14 - 15月 | 15 - 16月 | 16 - 17月 | 17 - 18月 | 18 - 20月 | 20 - 24月 | 妊 娠 前 半 |
妊 娠 後 半 |
哺乳牛 | |
牝 | 2.6 | 2.7 | 2.8 | 2.9 | 3 | 3.0 - 3.2 | 3.2 - 3.5 | 2.5 - 3 | 3.5 - 4.0 | 2.5 - 4.5 - 3.5 |
雄 | 3.5 | 3.7 | 4 | 4.3 | 4.6 | 4.9 - 5.1 | 5.2 - 5.5 | − | − | − |
以上の濃厚飼料の給与平均量を月,年令別に参考までに上表に記します。
なお種牡牛24ヵ月以上では次のとおりが適当です。
24−30ヵ月,5.5kg,36−48ヵ月,4.5−3.5kg,48ヵ月以上,2.5−3.5kg