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乳牛の飼養

 岡山種畜場 渡辺技師

一.乳牛の可食量と粗飼料給与の標準

  乳牛に給与する1日分の飼料は,総体の嵩,換言すれば乾物量が適当でなければならならい。養分計算から求めた1日分飼料が,たとえ熱量的にも蛋白質の量は量的に充分であっても,粗飼料の量が少なく,乳牛の有する大きな消化器を略々満たすものでなければ,満腹感を与えることが出来ないのみならず,消化の上にも良い影響がなく,充分な能力をあげることは望めない。又机上計算で計画した給与量が,乳牛の食欲以上の量では,所定の養分を摂取せしめ得ない結果となる。従って乳牛の飼可食量の標準を心得て置くことが肝要である。勿論個体により,体の割合に食い込みのよいもの悪いものの差はあるが,大体の可食乾物量は体重の2.53.0%と見積ればよい。

  ハンソン標準によれば,体重及び能力に応じた給与乾物量の範囲が示されており,牛乳25kg以上生産の乳牛に対しては,体重の3%以上の乾物給与量になることが,あり得るが,これは味のよい飼料を配合する等の工夫により強飼の道を講じなければならない。

  N・R・C標準により舎飼期においては粗飼料で大体維持要求分をまかない,その給与量は腹6−7分目を満たす程度とし,残り不足養分(生産用養分)を濃厚飼料で充当するのである。尚濃厚飼料の給与量は,生産牛乳重量の3分の1−4分の1量というのが大体の標準であるから,例えば体重550kg乳量25kgの乳牛に給与する飼料の量(水分10%の飼料)は,維持分8.5kg(N・R・C標準により)生産分8kg16.5kgである。これを乾物量に換算すれば約15kgである。550kgの乳牛の可食乾物量を体重の3%と見做せば16.5kgで,前記給与飼料は食欲の範囲内である。

  さてN・R・C標準に示された維持飼料給与量と体重との関係を検討すると,体重100kg当り10%水分飼料1.51.7kgである。一般に飼養される,乾牧草,藁稈類の水分含量は1213%であるから,これに換算すると維持飼料としての食欲の6−7割を満たす乾草藁稈類の給与量は、体重100kg当り2kgと見做せばよい。即ち体重の2%である。

  尚青刈飼料及びエンシンレージ類の乾物量及び熱量は,およそ乾草類の4分の1と見做され,根菜類は5分の1−7分の1であるから,乳牛の粗飼料給与基準は次の様である。

 (一)乾牧草及び藁稈類のみ給与する際は,体重100kg毎に2kgを与える。

 (二)青草及び青刈類を給与する場合は以上の約4倍、即ち体重100kg毎に8kgを与える。

 (三)乾牧草,藁稈類とエンシレージ又は根類菜を給与する際は,体重100kg毎に乾牧草1kgとエンシレージ4kg又は根菜類5−7kgとする。

  以上は粗飼料給与の大体の基準であって,品質良好の荳科乾草や青草類を充分に給与して、濃厚飼料の節約をはかる際には,体重100kg毎に乾牧草2.5kg或いは青草類1215kg位給与するのが普通である。

二.飼料配合選択上留意すべき事項

 (1)飼料の味

  如何に栄養上満足すべき飼料の配合を考えたとしても,実際に乳牛が喜んできれいに食べ尽くす様な味のよい,乳牛の嗜好に合ったものでなければならない。牛は人間と同様に飼料に対し好き嫌いがあり,又個体によっても幾分嗜好が異るが,よく乾し上った香りの高い乾草,青刈飼料,甘酸っぱい芳香を持つサイレージ,燕麦,玉蜀黍穀物の挽割類、亜麻仁粕,大豆粕,湯で浸漬したビートパルプ等は一般に良く好む処の飼料である。

  牛は嗅覚,味覚が鋭敏で,日頃食べ馴れない飼料を与えると,往々嫌って見向きもしないことがある。然しこれを他の嗜好の高い飼料と混合して少量から馴らして行けば,やがてその飼料に対する嗜好が増進して来るものであるから,かかる点は管理者の工夫に待つ処が大である。例えばコプラミール、澱粉粕,アルコール粕,魚粉,品質の悪い屑穀物,醗酵した米糠,尿素,雨露に曝された不出来の乾草や熟し過ぎた粗剛な乾草等は,概して牛のとりつきがよくない。味の点では粗飼料の方が濃厚飼料より変動が大きく,刈取期における熟度,調製の方法,貯蔵法等がかなり粗飼料の味を支配するから,味の良い粗飼料を調製する様心掛けねばならない。若し味の悪い飼料を使用しなければならない場合はその飼料の給与時を工夫するとか、或いは嗜好の高い飼料と共に混合して給与するとか,食塩を加えて味をよくする方法,或は多少調理に手を加える等の工夫が必要である。

  濃厚飼料を煮熟すれば嗜好を増し消化も良いが,養分の損失を招くから成る可く生のままで給与する方が良い、但し澱粉質飼料例えば麦類,藷類等は煮熟することにより,澱粉が糊状となり消化吸収が良いようである。

 (2)飼料の嵩

  乳牛を満腹せしめる乾物量に就いては前述の通りであるが,濃厚飼料についても,なるべく容積が大となる様な配合が望ましい。例えば大豆粕1kgと挽割玉蜀黍3kg,計4kgを給与する場合の容積は4升に過ぎないが,これと略等しい養分量を供飼するのに,大豆粕0.8kg,麩1.5kg,玉蜀黍1.0kg,乾燥ビートパルプ0.8kg,計4.1kgを与えればよく,この際両者は重量的に差はないが,後者の容積は6升であり,前者の1倍半の嵩を摂食せしめ得て頗る有効である。

 (3)給与飼料の種類を豊富にすること

  給与する飼料の種類を多く配合し変化を持たせることは,要するに栄養的に偏食させないこととなり,乳牛の健康を保ち且つよりよい生産を挙げる重要な要件の一つである。飼料の種類により含有する蛋白質のアミノ酸組成のみならず,脂肪,鉱物質の性質が異なり,単飼では栄養上万全を期し得ないばかりでなく,或る飼料の乳質に及ぼす影響を緩和する上にも大切である。又飼料の種類を種々豊富にすることは食欲を増進する上にも有効である。例えば冬季飼料として乾草のみを,或いはサイレージのみを与えるよりも,両者を併用し,更に根菜類も折りまぜれば,一層効果的である。濃厚飼料に就ても麩の手持のある時には,こればかりを与え,大豆粕を購入すればこれを単味で与えるような方法は適当でなく,出来るだけ多種類のものを配合して給与するのが望ましい。

 (4)健康に及ぼす飼料の影響を考慮して配合すること

  飼料はそれぞれ牛体に及ぼす影響が異るから,下痢的なものと便秘的なものとを組合せて,適宜両性質の緩和を計るとか,或いは醗酵性の粗飼料を与える時には,醗酵を促進する様な澱粉質の濃厚飼料を減ずる如く調整しなければならない。乳牛飼料は緩下剤なものの方が生理的によく,特に分娩後は然りである。飼料を下痢性のものと便秘性のものとに分類すると次のようである。

  下痢性の飼料

 濃厚飼料……亜麻仁,亜麻仁粕,大豆,大豆粕,小麦麩,麦類,廃糖蜜

 粗飼料……玉蜀黍サイレージ,青草,青刈類,根菜類,荳科乾草及び荳科牧草のサイレージ

 便秘性の飼料

 濃厚飼料……豌豆,綿実粕

 粗飼料…乾草玉蜀黍茎稈,禾本科乾草,葉稈類

 (5)多汁質飼料と適宜混用すること

  乳牛飼料として乾燥品のみを使用することは種々の点で不利益である。第1には食欲が減退して飼料の摂食量が減少する。乾草のみをもって飼養する時よりも,乾草と共にサイレージや根菜の如き多汁飼料を併用する場合の方が食欲が促進せられ,摂食する乾物の絶対量は多くなる。第2は摂取水分量の点が考えられる。乳牛が牛乳を有利に生産するためには,生産乳量の3−4倍の水分を摂取する必要がある。

  冬季舎飼時に於ては,自然飲水量が少なくなるが,根菜類,サイレージ類を充分給与する時は,飼料と共に水を飲ませる効果を挙げて有利である。但し所謂どぶ飼は,採食時において唾液の混入を少なくするため,生理的に見て推奨出来ない給飼法である。

 (6)乳質に及ぼす飼料の影響を考慮すること

  飼料は乳質特に乳脂肪の性質に及ぼす影響が大であるから,バター生産地帯においては,飼料の配合上この点に特に注意を払わなければならない。バターの硬度に及ぼす影響上から飼料を分類すると次の通りである。

  バターを軟質にする飼料

   亜麻仁粕,大豆粕,菜種油粕,米糠,大豆,玉蜀黍,魚粕

  バターを硬質にする飼料

   綿実油粕,コプラミール,豌豆,大麦,ライ麦,馬鈴薯

  以上の外飼料によっては,牛乳の風味或いは臭いを著しく阻害するものがある。

  搾乳前に大量に与えると乳に好ましくない風味を移行せしめる飼料は,エンシレージ、ルーサン乾草,蕪菁,ルタバカ,レープ,キャベツ,青刈ライ麦,魚粉等でこれ等の臭気が強く牛乳に移行する。一般にこれ等の成分は揮発性のものであるから搾乳直後に与えることが望ましい。即ちこれらの臭気物質は血液から乳汁に移行し易いが,肺及び腎臓を通じて比較的迅速に排泄せられるから,排泄により血液中の量が減少すると,逆に乳汁から血液へ移行し,臭いがなくなると考えられている。

 (7)飼料の価格

  乳生産コストの中約半分或いはそれ以上を飼料費が占めるから,乳牛の飼料給与を決定する上には,飼料の価格は非常に重要な要素であり,飼料の選択,組合せの適否が,乳生産コストに大きく影響してくる。飼料含有栄養分上から価格を吟味し最も格安のものを選択購入することが肝要である。